・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
キュイーーーンと金属と金属が超高速で摩擦する音が轟く。その音に目を移すと、シズがボウルと泡だて器を手に持ち、白い液体を目にも止まらぬ速さで攪拌させており、あちらこちらに液体が飛び散っていた。
「シズ先輩!やりすぎです!レシピによると〝バターと砂糖を加え白っぽくなるまで泡立てる〟とあります。もうなんか白を通り越して黄色くなってますし、半分固まってますし、大丈夫ですかこれ?」
「…………むっ。手加減。難しい。」
現在シズとネイアは魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)のキッチンで二人ともエプロンをかけ三角巾を被り、聖地巡礼でネイアが【シズの友人への土産】として貰った菓子作りのレシピ、その中でも簡単な部類に入る〝クッキー〟を作成していた。というのも、ネイアはシズ先輩よりアインズ様が〝以前わたしは焼き菓子を口にして国の盛衰を見定めたことがある〟というお話を伺ったためだ。
焼き菓子の一つで国の盛衰を見定めるご慧眼と叡知には脱帽するばかりであり、考えを深めれば確かに料理や菓子とは国の基盤がしっかりとしており、有能な統治者の元で民が安定した暮らしをしていなければ発展しない技術であろう。アインズ様はアンデッドであり飲食が不要な存在でありながら、やはり多方面より俯瞰し事象を見通す偉大な御方であると敬意が募った。
思えばローブル聖王国も復興が進むにつれ料理や菓子の品質は増している。……では今、自分たちの焼き菓子を口にしたならばアインズ様はどのようなご判断をされるだろうというのがネイアに浮かんだ疑問だ。とはいえ、まさか本当にアインズ様へ焼き菓子を献上し採択を仰いでいただくなどという不敬な真似はできない。なので自分たちで作ってみてアインズ様であればどのように判断するだろうか、話し合ってみようとシズ先輩と決めた経緯がある。
……尤もシズが調理に加わってしまえば意味がないのではないかとネイアは思ったのだが、自分が聖地より賜った菓子作りのレシピを基に調理をするときいて、自分もエプロンをかけ始め、
そしてシズ先輩は【料理】の【スキル】がないらしく、先ほどのかき混ぜ然り、混ぜる・泡立てるといった簡単な作業も危なっかしい。とはいえ〝卵から卵黄だけをとる〟というレシピの欄では割れた卵がボールに落ちる前に卵黄だけを見事ナイフで抜き取ったので、ネイアからすれば何が出来て何が出来ないのか全く判断がつかない。
「次に〝らっぷ〟?なるもので挟んで冷所で保存すれば生地の完成らしいですが、我々では〝らっぷ〟なるものの正体が未だわからないため、不敬ながら羊皮紙で代用させていただきます。」
「…………古代のクッキングシート。こんな使い方もあるとは興味深い。」
シズはほんのりと冷気を宿した魔道具に生地が入れられるのを興味深そうに見ている。生地を寝かせている30分間、ネイアはシズ先輩からアインズ様の神話を数多く聞きその偉業に酔いしれていた。
「さて、では次は生地を薄く均一に延ばして型取りをします。」
「…………星型にハートマーク。ただの丸だけじゃない。」
「ええ、賜ったレシピにありましたので
「…………ん。結構面白い。」
シズはそう言って生地の端っこからどんどんと型を抜いてクッキーの原型を作っていった。ぽんぽんと型抜きしていくシズ先輩は見た目のように子供のようで、ネイアは思わず笑みを浮かべてしまう。
「では最後に〝おーぶん〟。我々で造らせていただきました熱の魔道具で焼いていきます。」
「…………ん。いい匂いがしてきた。」
そして焼きあがったクッキーを皿に盛りつけ、ネイアの淹れた紅茶をお供として二人のお茶会が始まる。
「う~ん。以前のローブル聖王国で作られた品に比べれば勿論格段に味と柔らかさは飛躍しておりますが、聖地で召し上がらせていただいた品には遠く及びません。いえ、当然ですね。比較することそのものが不敬です。」
「…………それはそう。でも食べられなくはない。でも改善はまだまだ可能。原材料の品質向上もそうだけれど、制作過程においてグリアジンとグルテニンが水分と結びつきすぎている。グルテンはクッキーを固くさせる。」
「ぐ、ぐりあじ……?」
「…………まだまだ改善は可能。それだけ覚えていれば十分。」
「そうですか。もしアインズ様がこのクッキーを召し上がられた際はなんと我が国を例えますでしょう。」
「…………ネイアの頑張りを褒められるかもしれない。でもまだまだ向上の余地が沢山ある。そう仰られるかもしれない。ダメ。アインズ様の偉大なるお考えには及ばない。」
「それもそうですね。ですがシズ先輩からまだまだ我々には改善点も向上の余地もあると知れただけ、クッキーを作ってみた甲斐があります!」
「…………お茶会で出てくるクッキーもいい。でも自分で作るクッキー。悪くない。」
シズの無表情に浮かんでいたのは嬉しさの感情であり、ネイアも笑顔で二人っきりのお茶会を楽しんでいた。