・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
〝蘇生の信託も黄金の重さ次第〟という諺がある。
敬愛すべき魔導国からの潤沢なる支援物資を賜ることで復興もいち段落が――もちろん飢餓や病に苦しむ人がいなくなった程度で、民たちの職の安定・国としての完全な復興には年単位が必要だろうが――つき、以前ほどまではいかないが商人の影も盛んになってきたローブル聖王国。
ネイア・バラハが旗手となる〝魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)〟は、20万人以上の会員から上納される潤沢な資金力や信用から他国から訪れる商人たちの窓口として大きな機能を果たしている。また、貧困から足元をみるような悪徳な商人に対しては毅然とした態度で接し、武力行使も
「はぁ……。」
ローブル聖王国首都ホバンスに構えられた【魔導王陛下に感謝を送る会(仮)】総本部。その執務室に、ネイア・バラハの盛大な溜息が響いた。机の上には、山のように積まれた帳簿と、周辺国家との貿易収支を示す報告書。ヤルダバオトの侵略によって荒廃した国土の復興は、アインズ様のご慈悲を賜るおかげでどうにか形になってきた。城壁の復興にも着手が始まり、人々の生活も戻りつつある。
だが、問題は〝お金〟――いや、正確には〝他国からいかにして外貨を稼ぎ出すか〟だった。こればかりは魔導国……ひいてはアインズ様に頼りきりになるわけにはいかない。聖王国自体の経済を回さなければ、本当の意味での自立とは言えないのだ。
「国内向けの干し魚や小麦だけじゃ、周辺国との交易で儲けが出ないし……。かといって、アインズ様から賜った
グルグルと頭を抱えるネイアの背後から、コツ、と軽やかな足音が聞こえた。そこにいたのは
「シズ先輩!?」
「…………久しぶり、後輩。悩み中?」
「は、はい。恥ずかしながら……。聖王国の外貨獲得手段に行き詰まっておりまして。周辺国から金を回収するには、何かこう……一発で相手の財布の紐を緩ませるような、強力な〝名産〟が必要なんですけど……。
その言葉を聞いたシズは少しだけ思索し、机に積み上げていたひとつの羊皮紙を指さした。
「…………カジノ。」
「はい?」
「…………エ・ランテルにもある。人間やドワーフたちが、一攫千金を夢見て全財産を溶かす場所。あそこは外貨回収の効率が一番いい。」
シズの提案にネイアは思わず絶句する。ローブル聖王国はかつて厳格な信仰を重んじる国であり、賭博などはどちらかといえば取り締まる対象だった。同時にネイアに冷徹な計算も働く、確かにカジノを創設すれば儲けた他国の商人から外貨を回収できるだけでなく、(仮)とコネクションをとろうとする他国の重鎮や富豪からも合法的に金をとることができる。また、働き口の少ないローブル聖王国においては(仮)が正式に従業員として雇うことで雇用も安定するメリットがある。
ネイアの脳裏で一瞬にしてカジノ開設のメリットと、それによって潤う聖王国の未来図が計算された。厳格な宗教的戒律という過去の遺物に囚われている暇はない。アインズ様が統べる魔導国だって、エ・ランテルで経済を大いに回しているのだ。
「確かに、一理ありますね!!富豪や他国の商人から一網打尽に外貨を回収しつつ、我が国に雇用を生み出す。おまけに(仮)の資金源としても……。ですがシズ先輩、そんな大規模な施設、すぐに人を惹きつける目玉がないと、ただの寂れた賭博場になってしまいます。ディーラーの育成だって一朝一夕には……。」
ネイアが腕を組んで唸ると、シズは無表情のまま虚空から1冊の分厚い冊子を取り出し、机の上にドンと置いた。
「…………これ。」
「〝高級娯楽施設経営マニュアル〟?」
「…………エ・ランテルでカジノを運営する際わたしたちにも配られた。デミ……魔導国の要人が書いたものでアインズ様もお喜びになった。門外不出だけれどもネイアは既に門の中にいる。なら渡しても大丈夫。」
「アインズ様が!?」
自ら崇拝する神が太鼓判を押したほどの重要機密。新たな聖典ともいえる書物を前に震える手で表紙を開いたネイアは、ページをめくった瞬間に目を疑った。そこには、完璧に計算されたフロアマップ・客の心理を誘導する導線・チップの配分・そして射幸心を煽る高価な景品カタログまでが緻密に記されていた。しかも、文字の端々には高度な魔導技術やアンデッドを使った不正防止システムまで組み込まれている。
「シズ先輩、これ……ローブル聖王国では実現できない技術も書かれているのですが。」
「…………そこはネイアの腕次第。」
「そ、それもそうですね!寂れた賭場にせず運用するためには……まず手先の器用な同志を選別して訓練をつませて、高価な酒や嗜好品は他国の商人から仕入れる必要がありますね。場所はかつて協会だった場所を利用すればいくらでも融通は利く。聖王陛下の許可は恐らく下りる、問題は宣伝能力と何かローブル聖王国でしか得られない特別な華……。」
ネイアが頭を悩ませると、シズは静かに思索し、虚空から一つの包みを取り出して机の上に広げた。中から出てきたのは、黒光りする艶やかな謎の生地が1着、もう一つは同じ形状で赤く艶やかに色づいている。そしてフワフワとした白い尻尾、そして頭につけるのであろうピンと立った耳が2つ。
「…………これ。」
「は……?え?」
ネイアは目を点にした。シズは無表情のまま、そのうちの1着である赤い生地を自分の体に当てて見せる。
「…………華。エ・ランテルでも大人気。」
「いやいやいやいや! ちょっと待ってくださいシズ先輩!?」
ネイアは慌てて椅子から立ち上がり、両手を激しく横に振った。
「カジノに女性がつきものだという話は聞いたことがありますけど、これ露出度がすごすぎませんか!? 太もも丸出しですし、背中も……うわっ、こんなの恥ずかしくて着られるわけがありません!」
ネイアの顔は真っ赤に染まり、自分がこの衣装を着た想像を膨らませ思わず両手で自分の体を必死に隠した。こんな衣装は精神的な拷問に等しい。しかし、シズは微動だにせず、冷徹かつ真剣な瞳でネイアを見据えた。
「…………似合う。ネイアは意外とスタイルが良い。」
「なんで私が着る前提なんですか!?」
「…………ネイアがバニーガールで演説すれば一瞬でカジノの宣伝は終了する。ネイアにはその力がある。」
「本気ですか!?先輩!?」
「…………大真面目。」
シズ先輩は、すでに残されたもう1着の精神的拷問衣装を自分にあてがい、微動だにせずポーズを確認している。無表情のまま完璧に着こなすシズ先輩の姿は、なぜか恐ろしく様になっていた。
「…………ナーベみたいに魔法の同時発動による変身はできないけれど、博士はしっかり遺してくださっていた。」
そう呟くシズ先輩はどこか誇らしげで、そして同時に寂し気だった。そんな先輩をみれば〝失礼な衣装〟なんて口にもできず、先輩の提案を無碍にもできない。しかしこの衣装を着て壇上に立つなど精神的拷問以外のなにものでもない。
「…………何をしている。後輩。早く着る。着せてほしい?」
「いえ!自分で着ますから!」
「…………自分で着るのは意外と大変。大丈夫。わたしにお任せ。」
「先輩!まだ心の準備ができてないんですよ!ちょっと服を脱がせないでください!先輩!ねぇえええええ!」
こうして、ローブル聖王国初の公認カジノ計画は、シズの圧倒的な?プロデュース力と、ネイアの断末魔のような悲鳴を伴いながら、着々と動き出すことになった。