音フェチが百合作品を描きたかっただけ。

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音百合

スマホが通知音を鳴らし、起動する。

 

『明日は宜しくお願い致します』

 

画面を見ると丁寧な、しかし簡素な一文のメッセージが来ていた。スマホのロックを解除するとただ一文だけ。彼女との今までのやり取りで余計な言葉、余計な絵文字、余計な内容は一切なかった。

どうやら随分、生真面目な人らしい。彼女の声を聞いた限りでは、様々な声色を使い分けられる洒落が好きな女性、という印象だったのだが。

 

『こちらこそ、宜しくお願い致します』

 

少し悩んだ末に出した返信は、堅苦しい文章だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日の朝。私は身支度を整え、待ち合わせの場所に向かう。

いつもより、気持ち濃いめのメイク。同性だから大丈夫、と思っていても身支度は普段より時間が掛かってしまった。

 

今日は雨。生憎な天気に外出しているのはスーツを着ているサラリーマン、制服を着ている中学生。休日はいつも主婦でごった返しているスーパーも大雨の今日ばかりは閑古鳥が鳴いている。

私のすぐ横の水溜りを車が踏みつけると、水飛沫がこちらに飛んできた。咄嗟に躱すことも出来ず、履いて着たタイツが湿ってしまう。脚が濡れてしまっては部屋に上がれない。

 

――ああもう。

 

濡れたタイツは私の体温を奪う。ヒヤリとした感触に私は鳥肌を立てながら歩いた。濃藍のハイカットシューズが濡れた地面と交わる。

 

音がする。

 

雨が地面を叩く音。傘が雨を弾く音。靴が地面を踏みしめる音。車が通り過ぎる音。信号が変わった音。

友達と話す中学生のはしゃいだ声。憂鬱そうなサラリーマンの溜息。

 

ああ。

 

聞こえる。

音が聞こえる。私の耳に音が入り込んでいく。

耳から脳に伝わって、全身に音が巡る。血と一緒に音が巡る。

 

「〜〜ッ!」

 

私は無言で歩く。追い越したサラリーマンの溜息が背後からまた聞こえた。私の後ろを再び車が横切る。信号の音は聞こえない。

私は、ただ歩いていた。

 

彼女に会う前に買わないと。替えのタイツ、そして――

 

それだけを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせの場所に着いた。

閑散とした無人駅。ラジオで言っていた通りだ。少しでも静かな所、自然の豊かな所を求めた結果、彼女は田舎に住んでいるらしい。私好みだ。

 

途中、デパートで濡れてしまった物の替えを買いに行ったが、ついでにチョコレートも買ってみた。メッセージの文面のせいか朝は気にならなかったが――よく考えたら今日は女子会みたいなもの。コミュニケーションを円滑にする材料として用いるのにお菓子は良いアイテムだ。

可愛い動物型のビスケットと迷ったが、彼女のプロフィール欄に「チョコレートが好き」と書いてあったためチョコレートにした。

 

替えに着替えて、チョコレートも持ってる。準備万端だ。しかし、如何せん早く来すぎた。

 

――あと1時間近くあることだし、どこかお店にでも入っていようか。

 

そう思い、スマホで地図アプリを開く。

適当に『喫茶店』とでも入力して――

 

「――アキさんですか?」

 

――と、思っていたところで声を掛けられた。スマホから目を離し、声を掛けてきた人物へと目を向ける。

 

「お早いんですね、びっくりしちゃいました」

 

目の前に居たのは想像よりずっと若い女性。それに、メッセージでの印象と比べてとても明るい。パーマのかかったロングのサイドダウンがあどけない顔と相反する色香を出していて、そのギャップのせいか、面妖な雰囲気を醸し出している。

 

「...アキさん、で合ってますよねっ?」

「は、はい。アキです」

 

思わずジッと観察してしまった。失礼だったかもしれない。慌てて、不審がられないよう返事を返す。

 

「あ、良かった。私、ミカです!宜しくお願いしますっ」

 

そう言って彼女は微笑んで、私に向けて手を差し出した。

 

「宜しくお願いします」

 

私も手を出し挨拶をする。すると、私の差し出した手は彼女の両手に包まれた。

とても綺麗な手だ。短く切り揃えられた血色の良い桃色の爪。細いのに柔らかい指。私の無骨な手とは全然違う。

 

私は気恥ずかしくなり、思わず手を引っ込めてしまった。

 

「あ...」

 

彼女は私の行動に声を漏らす。やはり失礼だっただろうか。弁明をしておこう、そう思い口を開き掛けたが、その前に彼女は私と目を合わせて笑顔で口を開いた。

 

「――素敵な手ですねっ」

 

顔が熱を帯びてくるのを感じる。お世辞だとわかっていても嫌味には感じない。本心で私の手を素敵だと言っているような、無邪気な笑顔だった。彼女の笑顔を疑うことができない。

 

「ミカさんこそ、とても綺麗な手でしたよ」

 

恥ずかしかったが、なんとか口にした。会ってまだ一分程だが、彼女が人に好かれるタイプの人間であることはすぐにわかった。本質的に人に好かれる性質なのだろう。羨ましい限りだ。

 

「ありがとうございますっ」

 

彼女は照れ臭そうにそう言うと、照れ隠しのように別の話題を振る。

 

「そうだ。私、アキさんと仲良くなりたいなって思ってて...もし良かったら、タメ口で話しませんか?」

 

敬語に不慣れな私にとって、非常にありがたい申し出を言う彼女。しかし、彼女は私より年上...気がする。彼女がSNSで発信する内容は古臭い事柄ばかりで、恐らくは――20代後半だろう。良いのだろうか。

 

「いいんですか?私年下ですよ」

「大丈夫だよ〜、私そんなの気にしないから!」

 

どうやら心配しなくて良いらしい。遠慮なく、喋らせてもらうことにする。

 

「ありがとう、じゃあ...ミカさん、今日はありがとう」

「いーえ!こちらこそ急に声掛けてごめんね!」

「いや、声掛けてもらえて凄く有り難かった」

「ほんと?よかった〜っ」

 

本当に、とても快活な性格だ。ほんの少しだけ感じていた不安も消し飛んだ。買っておいたお菓子はただの差し入れになりそうだ。

 

「よく私のことわかったね」

 

そういえばふと疑問に思い、何故私が待ち合わせ相手だとわかったのか聞いてみた。

 

「うん。声で大体どんな感じの人か想像してたし...それに、その傘」

 

彼女はそう言って人差し指をピンと伸ばした。

 

「いつも使うお気に入りの傘なんでしょ?この間ブログで言ってたから」

 

私はいつも、薄紫色の大きい傘を使っている。手に持つ部分がウネウネしてる面白い形状の傘で、私のお気に入りだ。知られているだけでも気恥ずかしいが、覚えて貰えていることに歓喜した。

 

「とりあえず、今日は私の家で録るよ。大丈夫?」

「大丈夫」

 

女子らしく雑談に花を咲かせ、10分程。ようやく本題に入った。

 

「アキさんって年齢制限ありは初めてなんだよね?」

「うん。経験ないの」

 

今日は作品の収録日だ。私は彼女が主催するサークルの音声作品に出させて貰えることになった。彼女のサークルはとても人気のあるサークルで、私は只の声投稿者。声が気に入った、という理由で私を呼んでくれたらしい。R-18指定の大人向け作品ということで少し抵抗はあったが、私自身彼女のサークルのファンであったため出演を決めた。

 

「初めてなのに、ベテランに教えて頂けて嬉しい」

「え〜っ私ベテランじゃないよ!」

 

褒められ慣れてないような、照れた様子で手を振る。こんなに可愛らしい女性がいるのか、と感心する。

 

「謙遜しなくていいってば」

「あははっ。まあ台本もあるし最初は私が演技するから、私の真似すればオッケー!」

「ありがとう。迷惑掛けちゃうかもしれないけど、宜しくね」

「だから気にしないでっ。じゃあ私の家行こっか!」

 

そう言って、彼女はゆっくりと雨の中を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

「どうぞ、上がって上がって!」

 

彼女の部屋に上がる。一人暮らしの狭い部屋だが、整理整頓がきちんとされて清潔感がある。何処からか、癒される優しい香りがして、思わず深呼吸してしまう。

 

「もう、恥ずかしい〜っ!」

「あ、ごめんなさい」

「良いケド...男の子みたいだったよっ」

「申し訳ない...」

 

すっかり打ち解けて話しやすくなった。

明るくて、嫌味一つ感じさせない。そんな彼女に、初対面で喋る内容でないことをつい口にしてしまうのだ。聞き上手、話し上手――というより近づき上手、だろうか。一気に距離を詰めて、パーソナルスペースを強引に突破するのだ。私の堅牢な壁はもはや存在しないかのように、いとも簡単に壊されていた。

このまま良い関係を築けそうだ。

 

「あ、アキさん...タイツ濡れてるね」

 

彼女に言われて足元を見ると、地面から跳ねた水が掛かっていたのか少しだけ濡れていた。

 

「ほんと。申し訳ないけどタイツ脱ぐね。タオル借りてもいい?」

 

本日2度目の着替えになるのだが、濡れたまま上がる訳にはいかない。そう思っての発言なのだが、しばらく黙っていた彼女は口を開くと――

 

「風邪ひいちゃうから、お風呂入っていいよ」

「え?」

 

と言った。

――一瞬聞き間違えを疑うも、彼女は満面の笑みで「おっふろ〜おっふろ〜」と口ずさんでいた。何がそんなに楽しいのか分からないが、それは別にいい。流石に初対面の人の家でお風呂というのは抵抗がある。そう言って丁寧に断ろうとするが――

 

「大丈夫、ついでにお風呂でも録音しよっか」

「え、うん...?」

「じゃあ先に入っててっ。準備してくるから!」

 

強引に私を脱衣所へと連れてきた彼女は蠱惑的なまなざしをしていた。瞳に閉じ込められた私がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ〜...」

 

何だかんだ、少し疲れた。仲良くなったとは言っても気は遣うため、気疲れしてしまった。一旦落ち着く意味でも、お風呂に入れたのは僥倖かもしれない。申し訳なさで一杯だが。

 

「準備できた〜!」

 

のんびりしていると、彼女が現れた。

 

「どうやって録るの?」

 

純粋に疑問に思って言ったのだが、彼女は風呂場のドアを開け、私の前に姿を出して言った。

 

「ん?普通にここで録るよ!」

 

裸だった。

バスタオルを巻いて隠しているが、程よく肉のついた太腿やお尻が丸見えで、バスタオルから零れそうな乳房からはピンク色の乳輪が眼に入る。

 

「えちょっと!!」

「?...どうしたの?」

 

彼女は沢山の人に好かれる性格だが、それは多分彼女も沢山の人を好きになるからではないだろうか。だからこそこんな無防備に、初対面の相手の前に現れて――

 

「...大丈夫?顔真っ赤だけど」

「の、のぼせるから出るね」

「え、録らないの?」

 

何を言っているのかわからない、とでも言うようにキョトンとした顔で言われた。私の顔の火照りを見たら察せられるはずだ。少なくとも、なんか異常きたしてることはわかるはず。

 

「ごめんなさい、今は一旦上がらせて」

「...いいけど」

 

懇願に落ち、許可をくれた彼女の声は明らかにテンションの落ちた声色だった。

 

一目散に風呂場を出て着替える。

 

「服はそこにおいてあるの着てね」

 

彼女はそう言って、録音機材を片付け始めた。

 

「いや、さっきまで来てた服着るから大丈夫だよ」

「え?もう洗濯しちゃったよ?」

 

脱衣所を見ると、置いてあった筈の服が無く代わりに綺麗に畳まれた着替えが置いてあった。

彼女が置いてくれていた服はフリフリの多いメルヘンな服。お姫様にしか似合わないような――というか、これはドレスなのではないだろうか。まあ彼女なら似合うのかもしれないが、私には全く似合わない。

 

「そうなんだ、別に良かったのに」

「ごめんね。一度着た服だと嫌かなって。汗もかいてて気になったし」

「そっか、ありがとう」

 

実際、汗で汚れていてあまり気持ちの良いものではなかったため、有り難く思っておくことにする。

 

「下着...?」

 

何故か、着替えには下着も置いてあった。下着は濡れてないし別に着替えなくて良いのだけど。

 

「友達泊める用に置いてある新品だから、使って良いよ!」

「あ、そうなんだ」

 

友達が多そうな彼女のことだし、納得する理由だ。新品であっても一度洗濯してあるのだろう。少し皺がある。

 

「じゃあ遠慮なく使わせてもらうね」

「どうぞ〜」

 

取り敢えず着替えを――

 

「――ひゃッ!!?」

「うわっ!」

 

急に耳を触られて驚いてしまう。

 

「ま、まさかそんなに驚くとは思わなかった...」

「もう...やめてよね!」

「ごめんなさい!もういきなりしないから許して!」

 

ほんとにわかってるのか不明だけど、怒るのも嫌だし不問にしておく。驚きで身体が熱くなってきてしまった。

 

「...ふふ」

「...?どうしたの?」

「んーん。アキさん、可愛いなぁって」

「...ミカさんこそすっごい可愛いよ」

「えへへ、ありがとっ」

 

改めて服を着替える。焦ったせいか話していたせいか、拭きが甘く下着が湿ってしまい気持ち悪い。

 

「ドライヤー借りて良い?」

「いいよ〜!」

 

彼女はドライヤーのコンセントを刺し、私に手渡す。片手で受け取り、ドライヤーの冷たい風で涼みながら髪を乾かす。

篭った機械音。ノイズに近い音が気持ちがいい。ドライヤーの遠慮のない機械音と風の音が空間を支配する。火照った身体を冷ましているのに、熱くなってしまいそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ早速録っていこうか」

「うん...」

「...アキさん大丈夫?さっきからずっと顔赤いよ」

「だ、大丈夫よ」

 

目に焼き付いて離れない、彼女の身体。目の前にいる彼女の身体。勿論今は服を着ているけれど、ジッと見てると服が消えてその後ろに隠れされた肌が――

 

「始めるよ?」

「――う、うん!」

 

おかしい。

私は別に女の子に興奮したりしない筈。今までそんな経験一度もないし、ノーマルだ。

なんだか息をする度に身体の力が抜けていくような、そんな気さえする。

 

ピッ。

 

彼女がスイッチを入れると機械音と共に演技が始まる。

 

「ご主人様...何を、その...なさっていたのですか?」

 

彼女は先程までとは打って変わって、大人でクールな女性の声になる。

 

「...そう、ですか。.........その、いつも...わ、私の、下着...っ使っているのですか...?」

 

今回の作品は、メイドがご主人様に教育を施すという内容のようだ。オ◯ニーがバレたご主人様、不憫に思って奉仕してあげようとするメイドがだんだんSに目覚めていく話らしい。

一定層に需要がある話ではある。しかし、彼女のサークルでそのようなフェチ向けはどうなのだろうか。見たことがない。

 

「仕方ありません...わた、私が...っ...ご主人様の、おな、にー、手伝います...」

 

リアルさを極限まで追求し、高品質すぎる作品で有名になった彼女。流石の演技力に引き込まれてしまう。

 

「ふぉう、ですか...じゅるっじゅるるる〜ッチュ、ハム、レロレロ...」

 

上目遣いでフェラ、男なら興奮間違い無しだろう。

 

「...レロ、プハッ。気持ちいいでしょうか、お嬢様?」

 

挑発的な瞳がこちらを向いている。吸い込まれそうな黒眼が私を縛って身動きが出来なくなる。

 

――あれ。

 

「お嬢様、どうしたのですか」

 

――どうして、ミカさんは私の方を見ているの。

 

 

 

「ふふ、可愛いのですねお嬢様」

「ふぇあ...あ...あ」

「大丈夫、大丈夫ですよ。そのまま私に身体を委ねて」

 

――大丈夫、力を抜いて良いんですよ

 

動けない動けない動けない。

 

――怖いものなんてなにも有りません

 

怖い怖い怖い怖い。身体が動かない、声が出ない。怖いに決まってる。

 

――ほら、深呼吸してください

 

――吸って............ゆっくり、吐いてください

 

そんなことしてる場合じゃない、わかってるのに身体が声に従ってしまう。大きく息を吸うと、身体に力が戻っているように感じた。力と一緒に芳しい香りが胸いっぱいに広がる。

 

――良い香りがするでしょう

 

全身にクラクラする甘い匂いが染み渡って、身体からさらに力が無くなっていく。

 

――お嬢様の為に、アロマランプを暖めておきました

 

のうみそがはたらかない

 

――ほら、耳貸して?

 

たすけてだれかこわい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――お耳、弱いんでしょ♡


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