継ぎ接ぎだらけの中立区   作:緋寺

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一丸の治療

雷の正体がD事案によって生まれた元深海棲艦であることがわかった。飛鳥医師が施した治療により体内に入った深海棲艦のパーツが、偶然にも艦娘となる前のものと一致してしまったが故に、改装によりその深海棲艦のスペックが表側に出てきてしまったのである。

とはいえ、雷は持ち前のポジティブさから、そのことはまったく気にしておらず、むしろイロハ級の声が聞こえることを有利に考えている。深海棲艦が現れたらすぐに対処出来ることで、施設防衛により貢献出来ることを喜んだ。

 

その後、改装された者達全員の再検査は終了。雷と同様、異常無しと判断された。腕の色素が肩に侵食を始めている私、若葉も、検査の結果的には健康体として判定された。

他の者も念のため検査し、今施設にいる者に何かあるものはいないとして終わった。大事になりかけたが、何事もなくて何より。

 

「五三駆もイロモノ集団よねまったく」

 

自嘲気味に曙が呟く。その当事者である私が言うのも何だが、そもそもがそういう者しかいない。雷がこうなったからではなく、最初からである。

 

「一度死んだ曙が一番イロモノなんじゃない?」

「アンタも似たようなものでしょ。元深海棲艦だなんて」

 

コンビの二人が言い合っているが、これも仲がいい証拠。相部屋で生活しているため、なんだかんだ言いながらも相性のいいコンビである。むしろこんな風だからここまで言い合えるのだろう。

 

「仲いいですね……」

「ああ。あの2人はいいコンビだ」

 

見ていて楽しい。雷が崩れなくて本当に良かった。

 

 

 

翌日、予定通り風雲を治療するためのものが全て揃った。それをこちらに運んでもらいつつ、風雲も護送。こちらに来たらすぐに処置を開始する。

今回は2度やった処置とは違う、胸骨無しの施術。広くなった処置室のおかげで、人数はそれなりに入れる。施設の者総出で、風雲の命を救うことになる。

 

これを察知して来栖提督が海上で襲撃を受けるということもなく、無事施設に到着。あちらも襲撃により崩壊したという体があるからか、そこまで表立って攻撃してくることはないのだろうか。

 

「っし、連れてきたぜェ」

 

来栖提督が乗った大発動艇には、全身を拘束され、猿轡すら噛まされた風雲が荷物のように積み込まれていた。艤装も何も無いとはいえ、行動できる状態では、いきなり来栖提督に襲いかかってきてもおかしくないため、仕方なく処置したとのこと。

事が事だけに、護衛艦隊も戦闘をメインにしている編成。周囲警戒に鳳翔も据えた万全の態勢。さらには海中には伊168率いる潜水艦隊も、監視の目を張り巡らせているそうだ。

 

「んで、これが薬な。俺にゃどんなもんかもわかんねェから、とりあえず渡しとく」

「ああ、ありがとう。これがあれば風雲は処置出来る」

 

来栖提督の差し出す箱の中を確認して頷く飛鳥医師。これで全てが整った。

念のため来栖提督達は処置が終わるまでは施設に居てくれるとのこと。万が一のことが起きた場合、施設を守ってもらわなくてはいけない。1回深海棲艦が現れたのだから、また出てもおかしくないのだ。

 

「風雲さん……」

 

大発動艇から運び出された風雲を見て、悲しそうな目をする夕雲。今は禁断症状は出ていないようだが、いつ出てもおかしくないくらいに不安定にさせられていることだろう。

夕雲の陰にいる霰も少し震えている。施設にいるときに、風雲の下で働いたこともあるかもしれない。今後、家村鎮守府の姫を見るたびにこうなる可能性はある。

 

「貴女の治療は夕雲もお手伝いします。実の妹ですから」

 

拘束されている風雲は、治療されここで生きている2人を冷たい目で睨み付けていた。

以前まではクソのような(こころざし)を共にした仲間。襲撃していた時は失敗した口封じ対象。そして今はのうのうと生きている裏切り者。悪意しかこもっていないことが匂いからもわかる。猿轡が無かったら罵詈雑言も浴びせかけていたことだろう。

 

「あられも……てつだう」

「お願いします。妹の呪いを解いてあげてください」

 

呪い。そう、呪いだ。鎮守府の意向で本人の意思にそぐわぬ行為をさせられ、使えなくなったら命すら奪われる呪い。

その解呪は私達なら可能。今まで2度成功していたのだから、3度目だって大丈夫。手段は違えど、上手くいく。大丈夫、きっといい方向に行く。

 

「じゃあ、すぐに始めよう。皆、頼む」

「了解。出来ることを全てやる」

 

私は特に重要な位置にいる。麻薬と深海の匂いが失われたことを確認出来るのは、基本私だけ。あとはシロがわかるくらいか。

 

「今からやることは2つ。1つ、胸骨を修復し、増血機能の浄化。2つ、旗風が斬ったであろう壊れた自爆装置の摘出だ。透析は全て終えた後だ。まずは最重要な胸骨修復を最優先で行なう」

 

処置室に運び込み、風雲を昏睡させながら簡単に説明された。当然ながら、胸骨修復が最難関。

今までは胸骨を抜き、即座に用意しておいた胸骨を移植することで施術をスピーディーに終わらせることが出来た。だが今回は、抜き出した胸骨をその場で解体し中身を浄化、腸骨から骨髄を抜き取り、胸骨に移植。それをまた入れ直すという滅茶苦茶な施術となる。

僅かではあるが高速修復材はまだ残っている。それを的確に使えば、余計な手間はかからない。

 

「今から風雲の胸を開くことになる。当然、ここにいれば血も出るし、見るに堪えないものも見ることになる。いいな?」

 

全員が頷く。私や摩耶、雷は、処置に付き合ったこともあるため、初めてでは無い。他の者はこういう場は初めて。緊張感が高まる。耐性がないものは、その現場にいるだけでも体調を悪くしかねない。

 

「以前に若葉に頼んだときにも話したが、施術は僕の指示通りに動いてほしい。そうすれば、風雲は救えるはずだ」

「私達は素人も素人だもの。指示くらいバンバン寄越しなさいよ」

 

今だけは家主と居候という関係ではない。今だけは上司と部下、提督と艦娘の関係になる。三日月の時と同じだ。

 

「若葉は24時間働ける」

「私も頼ってよね。行けるわ」

「ああ、皆頼りにしてる」

 

初めてやった霰の処置が数時間程度。今回の処置がどれくらいかかるかはわからない。だが、長丁場は経験している。大丈夫だ、やり通すことくらいできる。

ここから先は失敗が許されない道だ。確実に、丁寧に、だが俊敏に、すべてをこなして風雲を救うのだ。

 

 

 

施術が完了したのは、それから数時間後。霰のときより時間はかかり、昼も大きく回っていた。

幸い、処置中に深海棲艦が発生するようなことも無く、家村鎮守府からの襲撃も無かった。来栖提督達はただ待つことになったが、外で何事も無かったのはありがたい。

 

飛鳥医師の編み出した移植用の胸骨無しの治療は大成功だった。現在は処置室から医務室へと移動させ、透析をしているところ。これが終われば風雲は回復。あとは霰や夕雲と同じように禁断症状に苛まれることになる。

 

「ありがとうございました。妹は救われたと思います」

 

ホッと一息ついた途端、崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまった夕雲。他のみんなも曙を除き疲労困憊だった。さすが持久力トップ。

 

風雲の体内に直接触れることが出来るのは、基本的には飛鳥医師だけ。処置中は私達手伝い全員が処置室を行ったり来たり。本当にスピード勝負となっているため、バタバタ走り回ることになってしまった。

特に胸を開いてからは総力戦だった。胸骨を抜き、それを加工していた摩耶と私。半分に割り、中身を洗浄して、完全に匂いが無くなったことを確認してからまた同じ形に戻す。たったそれだけが緊張感が半端無かった。艤装を弄れる私達でも当然初めてのこと。手が震えかけたほどだった。

 

「あんなこと、まだ何度もやるんだよな……面白ぇじゃねぇかよ」

「ああ、次はもっと手際良く出来るはずだ」

 

私と摩耶が骨を加工する間に、さらに開いて胸に仕込まれた火薬を摘出。さらには腸の合間に隠された起爆装置も摘出。結果的に、風雲はそれなりに大きな範囲を開かれることになった。

旗風が破壊した腹の起爆装置は、恐ろしく綺麗に真っ二つにされていた。そのため、破片が散らばっているとか、そういうことは一切無かった。故に、摘出自体はとても簡単だったという。

 

高速修復材は、加工した胸骨を体内に戻す時に使われた。骨同士の癒着にも使えるようで、体内だけに関して言えば、今は全て元通りと言ったところ。胸と腹にはまだ縫合痕が残ってしまっているが、これは私達の傷とは違い、時間経過で消えていく。少しの間は鎮痛剤を投与し、自然治癒を促す。

 

「皆、ありがとう。透析さえ終われば、風雲の身体は完治だ。ここからは皆で風雲を支えていかなくちゃいけない」

「夕雲がやらせていただきます。姉ですから」

「あられも……おなじところにいたし……ね」

 

同じ境遇の2人が風雲の側にいると話す。まだ2人とも禁断症状も抜けていないというのに、率先して協力してくれる。禁断症状の辛さを一番知っているのは、勿論、現在進行形でその症状に苛まれているこの2人だ。だからこそ、力になってあげられるというのもあるだろう。

特に夕雲は力が入っていた。実の妹であるということが大きい。手伝いも一番動いていた。出来ることは言われたものを持っていくことや、処置室を清潔に保ち、感染症を防ぐくらいしか出来なかったのだが、それでも一生懸命に動き続けていた。

 

「大丈夫か? 君達は自分のことだって」

「大丈夫です。()()()()()()が文句を言っていますが、これは夕雲がやらなければいけません」

 

無論、それは私達には見えていない者達。夕雲にしか見えていない亡霊。処置が終わったことで緊張感が抜けた瞬間に、禁断症状に襲われていた。霰も焦点の定まらない眼を塞ぎ、ブツブツと謝罪の言葉を呟き続けているため、シロクロがすぐに隣についた。

夕雲にしか見えない亡霊は、自分達を殺したのに風雲を助けたことに対して文句を言ってきているらしい。そしてそのまま、夕雲の死を望んでいると。

 

「ごめんなさい。貴女達を殺してしまったことは確かです。ごめんなさい。夕雲には謝ることしか出来ません。ですが、妹はこれで呪いが解かれ、夕雲と同じ苦しみを味わうことになってしまうんです。本当にごめんなさい」

 

謝りながらもしっかりとした意思。妹の側にいたいという意思を、亡霊達にずっと伝えていた。虚ろな目ではあるものの、壊れているものの、今の夕雲は自分を確かに持っている。

 

「きっと風雲さんは辛い思いをします。支えてあげるのは、姉の役目です」

「……そうか。なら、明日からは君に一任する。いいか?」

「はい、夕雲にお任せください」

 

ニコリと笑みを浮かべた。まだ幻覚が見えているだろうが、それを感じさせないほどにまで、夕雲は回復していた。

 

「さぁ、あとは透析が終わるのを待つだけだ。前例からして、ここから数時間はかかる。その間に休憩をしておいてくれ」

 

風雲の処置はこれにて終了。これでやっと、多くいる治療対象者のうちの1人目を治療することが出来た。

 

 

 

今回はこういう形になったが、残り42人の人形の治療をどうするかはここから検討していく。全員を搬送するのは無理だし、1人ずつでは時間がかかりすぎる。それに、施設にある処置用の薬も、42人分には流石に足りない。

治療法は確立出来たのだから、他の医療機関を使ったりすることも視野に入れている。ただし、信用のある機関に限るが。

 

「疲れました……」

「お疲れ様、三日月」

 

休憩は自室。私は三日月と寛いでいる。浮き輪は当然1体借り受け、三日月の癒しに。

 

「私の処置の時も……あんな感じだったんですか?」

「いや、正直、もっと大変だった。全身の皮膚の件があったし、人数がいなかったからな」

「あれよりも大変だったんですか……」

「若葉の処置が最長記録を保持しているらしいがな」

 

三日月も、夕雲と一緒に溢れ出す血を掃除したり、痕を清潔にしたりとバタバタしていた。私達は前半戦担当だったが、三日月は後半戦担当だったというイメージ。

 

「……改めて、命を維持するのが難しいと思いました」

「そうだな。だから尊い」

「はい。それを蔑ろにするあちら側への怒りも、少し増しました」

 

あまりいいことでは無いが、命を粗末にするような連中には覚悟してもらわなければならない。因果応報という言葉を、その身で味わってもらわなければ。

 




風雲への治療方法は架空のものです。艦娘相手だから普通ではない治療になります。ドックを使っても意味がないから、こういうことしなくちゃいけないっていう。

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