Pに自分勝手にブチギレた俺は、のこのこと寮に戻れるわけもなく実家に向かっていた。この道も久しぶりだ。つい数時間前に凛の家に行ったときは、道とか光景を気にする余裕もなかったもんな。
にしてもだ。あーあ、ありゃ俺はクビだろうなぁ。クビになってでも凛は守るみたいな啖呵切ってた気がするけど、普通に本社のちゃんとした社員の人に喧嘩売るような発言しておいて、俺ごときの立場の人間が無事でいられるはずがないしな。
346プロをクビになったら凛を守るもなにもって話になるのに、本当にアホの極み。感情に任せて好き勝手やるからあぁなるんだなぁ。ちゃんと人間考えて行動しなきゃだわ。別に後悔って言うほど後悔はしてないけど。仕事に未練はあるけどね。
「あれ、光。用事はもう終わったの?」
「あぁ……お疲れ様です。はい、用事は済ませてきました。無理言って入れて貰っちゃって申し訳ない」
「良いのよ。そもそも光だったら勝手に入って貰っても問題ないし。それに凛もちょっと様子が変だったしね。光が面倒見てあげるのが一番効くんだから」
「多分そんなことないっすけどね」
実家まであと数メートル、ってところで声をかけてきたのは、丁度店番をしていたエプロン姿の凛のお母さん。
凛のお母さんはマジでいい人だ。家がまんま隣ということもあり、文字通り家族ぐるみでの付き合いをしてきたというのもあり、もはや第二の母親みたいなレベル。
昔はバチバチにタメ口で話してたけど、いつの間にか敬語とタメ口が混ざったような感じで話すようになってたよね。あれってどのタイミングで切り替わるんだろうね。誰かに怒られた訳でもないのに。
「そうだ! ついでに頼まれて欲しいんだけど、凛の様子もう一回見に行ってくれないかしら? 店番は私がやっておくから、やらないで良いってついでによろしくね」
「あっ、了解」
なんというか、本当に他人って気がしないよな。あまりにも信頼されきってるわ。本当に良いのか凛のお母さん。いや、別に俺にとって不都合はないから全然いいんだけどさ。
「……お、ハナコ。お前もついてくっか? ご主人心配だもんな」
お言葉に甘えて、店の中から家の中に入ると早速忠犬ハナコさんが超絶ご機嫌でお迎えしてくれる。尻尾振りすぎて取れそうって毎回思うんだよな。
俺の問いかけに対しての返答なのか、単に昔はよく来てたのに最近来なかった男が急にきてテンションが上がってるからなのかは知らんが、ワンと返答が来たのでおそらく肯定の意味なんだろう。
お前は本当にかわいい奴だな。俺の足元をちょこちょこと付いてくる姿、どう見ても愛らしすぎんだろ。俺も犬飼いたい。ハナコがいるだけで十分だけど。
「起きてるじゃん」
「……さっき起きた」
「店番はお前の母さんがやるってよ」
ノックをしてドアを開けると、そこにはエプロン姿の凛。店番に行く気満々って感じだったな、これ。ナイスタイミングなのかどうかわかんねーや。
股からひょこっと飛び出たハナコが凛に駆け寄ってワンワンと鳴きながらくるくると周りを走り回る。そういえば、外はもう雨も上がっていたな。
「雨、止んだしさ。ハナコもこう言ってるから散歩行こうぜ」
「……まぁ、ハナコも行きたがってるし」
「決まりだな。よーし、ハナコ。散歩だぜ散歩」
凛は正直散歩なんて気分じゃないだろうな。ま、気分転換にはならないかもだけど、引きこもっているかはマシだよ。
雨も止んだし、外の空気を吸えば少しは頭の中もすっきりするぜ。少なくとも俺はPに対して吐いた発言を振り返ってやらかしたと自分で理解したし。
ハナコ、お前は本当に優秀だな。お前のおかげで凛を外に連れ出すことに成功しそうだよ。
雨上がりの夕方は肌寒い。上着一枚を上から羽織るだけでは少し心もとない無いな。これが一人だったらダッシュで無理やり体を温めたりとかしたんだろうけど、流石に凛と二人でいる時にやるほど馬鹿じゃない。ハナコはめちゃくちゃダッシュしたがってるけどな。
俺らの間に会話は無い。別に気まずいって訳ではないけど、心配にはなるわな。今の状況はそれだけ悪いし。
まずは本田が帰ってこなけりゃ話は始まらないし、帰ってきても元通りになるかと言えば難しい。
一回崩れたものを元に戻すという作業は、中々苦労するんだ。正直、一から別のものを作り直した方が早い。けど、それじゃあダメだって言うのは全員分かってるんだよな。
でも今のPさんが本田を連れて帰ってこれるかって聞かれると、俺が見る限り多分無理なんだよな。門前払いって相手にすらされてないからな。本当に何か一つ起爆剤があればいいんだけど、そう上手い事行かないよな。
俺が今できることは凛のフォローをすることだけ。CPに戻る戻らない以前の状態の凛に無理をさせるわけにはいかないし、させたくもない。
「電話鳴ってるけど」
「ん、あぁ。わり」
考え込み過ぎてスマホのバイブにすら気が付かなかった。どんだけ周りが見えてないんだ俺は。今横断歩道わたってたら確実に轢かれてるフラグだったな。
んで、電話をかけてきた相手って言うのは誰だろ。李衣菜かな。ブチギレながらプロジェクトルーム出てったのガッツリ見られてた気がするし。
「……すまん。先に公園行っててくれ」
「良いけど……なんかあったの?」
「ちょっとな。すぐ行くから公園で待っててくれ」
そう言うと、凛は少しだけ疑うような視線を向けてきたが、自分に対して悪気のある話じゃないと感じたのだろうか。あっさりとハナコに引かれるまま公園に向かっていった。
多分、勘ぐるエネルギーすら残ってないんだろうな。ごめんな、変なことして。でもこれは出なきゃならねえ電話なんだわ。
あっちから来るってことは、良いか悪いかは悪いがなんかあったってことだし。しかもメールじゃなくて電話だからな。
「……出るのに遅れてすいません。何でしたか、Pさん」
『突然の電話、申し訳ありません……どうしても、松井さんのお力をお貸しして、頂きたくて』
「俺の力?」
電話の相手はPだった。普段はゆっくりと喋る人だが、電話越しでもわかるくらい息を切らして、若干早口になってる。十中八九、なんかは有ったな。何かはわからんけど。
『渋谷さんが今、どこにいるか教えて頂けないでしょうか。松井さんなら、渋谷さんの居場所を知っていると……』
「……すみません。申し訳ないですけど、今の凛にはPさんを会わせられないです。あいつ、今かなりキてるんで。Pさんが来てもどうしようもないですよ」
凛は今家に居ないし、俺と一緒に散歩に行ったからどこにいるのか全く皆目見当もつかないって感じなんだろうな。
何があったのかは知らんが、申し訳ないけど今のPさんに凛を接触させるのは出来ない。ただでさえ今の凛がPに対して嫌悪感しか抱いていない状況で何かしらアクションを起こそうとした所で、状況が好転するとは思えない。
人間不信に陥りそうになってる原因がまた会いたいだなんて言って、はいそうですかと簡単に寄り会わせられるほど、俺はバカじゃない。
俺はこれ以上、凛を傷つかせるわけにはいかない。凛に会わせる前に門前払いを俺がするっていうのは変な話だが、今だけは話が別だ。
『P変わって! まっさん、私! 未央!』
「……はぁ!? 本田ぁ!? おま、大丈夫なのかよ!」
『心配かけて本っ当にごめん! 後でちゃんと謝るから! とにかく今は早くしぶりんに会わなきゃいけないの! お願い! 何処にいるか教えてッ!』
なんでPと一緒に本田がいるんだ? Pが本田を連れ戻すことに成功したのか? マジか、マジで言ってるのか。
そうとなったら話は別だ。俺がこんなバカみてえなことしてる場合じゃない。状況は一切理解できないが、本田が凛に会おうとしている。その事実があまりにも大きく、希望への道標になってるのは確かだ。
「凛は今、家の近くの公園にいる。そのまんまPさんに伝えろ。それで伝わるはずだ」
『家の近くの公園ね! P、場所わかる? ……うん、OK!』
「俺が来るまで公園にいる様に凛には伝えてある。だから暫くの間は大丈夫だ」
『わかった! 私たちもすぐに行けるからっ! ありがとうまっさん!』
……あぁ、こりゃあ本田とPさんが帰ってきたら謝らなきゃだな。完全に俺が足引っ張ってるわ。
とりあえず、俺も公園に向かうか。すぐに行けるとは言っていたから、そう時間はかからないだろう。あとは、凛と本田と、それにPさん次第か。これ以上は俺はなんも出来ないし。やっても無駄だろうな。
頼むぞ。本田。Pさん。
「……っはぁ、ぁあ。本当にいた」
凛の座っているベンチからは丁度死角の位置にある公衆トイレの裏。Pと本田からの電話を受け、俺は公園の正式な直通の道ではなく、凛からバレないように大回りして公園の裏から入っていた。
理由は単純、凛と本田とPさんの問題に俺がクビを突っ込む必要性は何一つないから。そのうえで、俺が最初に凛と合流してしまうと凛に逃げ道を与えかねない。凛にこれ以上ダメージ云々言ってなんだが、これは凛に乗り越えてもらうしかない。
「ごめんっ!」
若干どころかかなりの大回りにはなるが、そこは走れば問題はない。若干遅れた臭いが、一応予想通り、公園には本田とPさんが来ていた。
凛たちの位置からは見えないように裏から回りこんで、遊具の陰に隠れて様子を伺う。
Pさん、本当に本田を連れ戻してきたんだな。どうやったのかはわかんねーけど、あんな絶望的状況から一日でここまでひっくり返すって、すげぇよあんた。
「渋谷さん、あなたの言う通り私は逃げていたのかもしれません。貴方達と、正面から向き合うことから……貴方達を混乱させて、傷つけてしまいました」
逃げていた、訳じゃないんだろうけどな。多分、距離の詰め方が分かんなかったと思うんだよな。
凛に対しては最悪の札となった行動と発言も、正直、俺や凛みたいな多少我が強い人以外にやる分には、間違った選択肢じゃないと思うんだよな。間違いなく、俺が凛の立場だったら同じことを言ってたと思うけど。
「……嫌なんだよ。アイドルが何なのかよくわかんなくて、わかんないまま始めて、よくわかんないままここまで来て。でも、もうこのままは嫌。迷った時に誰を信じたらいいかわかんないなんて、あいつしか信じられないなんて。そういうのもう、嫌なんだよ」
「……努力します。もう一度、皆さんに信じてもらえるように」
そう言って手を差し出すPの手に向かって、おずおずと凛が手を伸ばす。一瞬、凛が手を引こうとする。
やっぱりまだ、信じられないよな。本当は出るべきじゃないんだろうけど、できることは全部やらなきゃ。
そう思って出て行こうとすると、横から本田が二人の手を取ってがっちり握らせた。
「しぶりんっ……!」
「もう一度、一緒に見つけに行きましょう。貴方が夢中になれる何かを」
「……っ」
Pの手に引かれ、凛が立ち上がる。遠目から眺めているだけだったが、あいつの目はもう曇ってなかった。
「明日からも、よろしくお願いします」
「…………ふぅ」
結局、俺の出番は無しって訳だ。本当に、一件落着してよかった。
俺としても凛がこの業界に入る後押しをしたような立場だったし、なにか凛が不利益を被るようなことがあれば全力で凛を守るって言うのは責務みたいなもんだからな。
だからこそ、俺がPと本田の足を引っ張るような真似をしたのが戦犯過ぎるんだけどさ。もっと大人しく裏方に回るべきだったかな。でも、あんなんになった凛を見て平常心で裏に回れって言うのも無理言うなって話だけど。なぁ、ハナコ。
……ん? ハナコ?
「来るのが遅いと思ったら。盗み聞きなんてするもんじゃないでしょ」
「俺の出る幕がなかったんだよ」
「そういう割にはガッツリ隠れてたじゃん」
「……まぁ、俺も凛がアイドルになる後押しを少しだけでもした責任があるしな」
おー、ハナコ撫でられてご機嫌なのはわかるけど、匂いをたどって一直線でハイドしている人に向かって爆進するのは許容できないぜ。やってること実質ブ〇ハだぜ。裏取りはバレたらハチの巣なんよ。
「松井さんも、ご心配をおかけして本当に申し訳ありませんでした」
「私もっ、心配かけてごめんなさい! Pがしぶりんとまっさんの事、話してくれて、それでまっさんがしぶりんの事は俺が何とかするって……それで!」
「あー、すまん。そこまでにしといてくれ。嘘偽りゃないが、本当に感情と勢いで言ったことなんだ……あと、Pさん。生意気な口を聞いて勝手なこと言って、本当にすみませんでした。本当なら、Pさん側に行くなり、どうとでも出来た立場だったと思うんですけど……」
「いえ、松井さんの言葉で私も気付かされた部分がありましたので……」
本当に、勢いで物事って言うもんじゃねぇな。絶対にあとで後悔するわ。学生とは言え社会に入ったんだし、俺も色々と学ぶべきだわ。今回の件もPさんに責任押し付けて足枷付けただけだったし、マジで反省しないと。
って言うか、タメ口で喧嘩売ったのもそうだけど、俺、中々ヤバいことを言ってた気がする。どうしよう、絶望的なまでに思い出したくない。
「光、Pに何言ったの」
「頼むからこれだけは聞かないで置いてくれ。墓場まで持っていくことにする」
俺の人生でも最大級の墓場まで持っていく秘密が出来てしまったな。なんつー業だよ。
後書きです☆ くぅ~疲ではないよ☆ 本編の裏話的な奴だけど、超長いから興味ない人は飛ばしてね☆
あまりにも長い(1800文字)ので活動報告にしようかと思ったので、これが本来の後書きやんと思ったのでここにするよ☆
デレアニの中でも一つの分岐点と言える回が終わりましたね。この回は本当に珍しく、この作品自体の構想段階から、導入とアニデレ7話だけはこうしようと、もう入りから最後まで全部決めていました。
そんなわけで今回はちょっと珍しくちゃんと後書きみたいなものを書いてみようかな、と思います。
前回と今回の光くん、滅茶苦茶暴走していましたね~(他人事)
というのも、先ほども言った通り、こうなるのは、この小説を始めた時から絶対にこれだけはこうしちゃると決めていたものなんです。気分を害した人はごめんね。
アニデレという作品、シリアス部分があまりにも強烈と批判的な意見を目にすることもあるんですけど、私はその理由の一つに「彼女たちの年齢ゆえの精神性」というのがあると解釈してます。ちゃんみおとしぶりんの離反とか、恐らくですけど、同じ人物でも20歳を越えた時に同じことが起こったら、7話みたいなことはそうそう起きないと思うんですよね。何故なら、中身は大人なので。
アニデレという作品は、アニメの作品でもありながら、人間の人間らしすぎるリアリティさが濃く描かれているのが、良い所でもあり悪い所でもあると私は思ってます。
そんなことも踏まえたうえで、この作品の主人公でもある、松井光という子の事を考えました。
この子の年齢、性格、周囲との関係性、状況を考えた時に、この子が大人しく「じゃあPが何とかするのを待つかー」なんて他人事みたいに出来る訳ないやん! となったんですね。この作品を通して、彼は凛ちゃんと普通ではない関係性の繋がりがあり、その凛ちゃんが目の前でボロ泣きしてましたからね。
大抵の男子高校生は、キレたくなったらブチギレます。仲が良い友達がボコられたら、大概はキレます。拳が出ます。大人の対応なんて無理なんですね。高校生ですから。
前回、光くんがPさんにキレていた時の、口から出る攻撃的な発言とは真逆に、自分の行為が無駄で意味がないと頭では理解しているけど、そこで抑えることが出来ていない様子。そして今回、前回に自分が一般論で見て間違った行動をしたにもかかわらず、一度した行動を訂正しないで引くに引けないプライド。
自分で言うのもなんですが、まだまだ精神面が未熟な、男子高校生らしいなぁという感じです。勿論、全ての男子高校生がこうじゃないけどね。
そういうところも再現したくて、どう考えても生産性は無いしメリットもクソもないけど、きっと松井光という人物はこう動くだろうから、作者がそれを邪魔しちゃダメだな。なんて思いまして。
だから、低評価が来るのは当たり前だし、彼の行動に否定的な意見が来るのも、本当に当たり前の事で、当たり前の感性なんですよね。彼自身も理解していましたが、あの行動は完全に悪手であり、Pに余計な心労をかけた一手でしたから。
本編書きながらワ〇トもそう思いますって感じだったので、何ならそう言った感想がもっと来るかと思ってました。絶対に低評価増えるけど、それでも作者としては、松井光くんという人物を否定したくないからね、仕方ないね。
逆に、彼のそう言った心情まで汲み取ってくれたような感想も多く頂いて、ビックリしておりました。彼も読者の皆様から少しでも愛されているようで、作者としては大変嬉しい限りです。
アニデレという作品が、等身大の女子高生をリアルに表すのなら、低評価が来ようと二次創作として、等身大の男子高校生のままにする。本家のそう言った特色を崩さないのが、ある種の敬意みたいなものになるのかなと。シリアス超苦手ですけどね!
そんなわけで、前回と今回はそういう裏がありましたってお話でした。完全な作者のエゴです。もっと楽しげなのを見たかったのに! シリアスなんて嫌い! って言う私とめちゃんこ価値観が近い読者の人はごめんね。これだけは譲れんかった(頑固)
また次回からはいつもの感じに戻りまして、暗いムードはすっ飛んだ感じになります。
前回と今回で合わせて一話、って感じなので前回の感想はまだ返信していませんが、来週投稿するときに、また全部再度読ませて頂いて、全部返信させて頂きます! 皆様、私に小説を書かせてくれて、本当にありがとうございます!
長々と失礼いたしました。今度こそ、閲覧ありがとうございました! 女子寮生活は難儀です。まだまだ続くよ!
読者層気になるので知りたいアンケ
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