息抜きで書いた▼戦闘描写の練習▼独自要素ややあります

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女王と狩人

それは偶然、ほんの偶然だった。

 

その少女は、たまたま家を抜け出して平原に出る事を思い付き。彼女の両親は偶然店番で忙しかった事は

 

たったと駆けて行った彼女が、ふといつもとは違う場所に行こうと考え、普段なら一瞥しただけで逃げ出してしまう虫達や小型の竜が、今日は何処かに消えていて。少女がどんどん奥に進んでしまった事も

 

丁度少し前平原に、恐ろしい飛竜が飛んできて、それを狩る依頼が今朝張り出されたことも。

 

 

だから、少女がこうして竜の前で震え、怯えている事も、ただの不幸な偶然だった。

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

 

 

「ひ…っ、ぃ、あ……ぁ、あ………」

 

 

ぼとり、とアオキノコやカラの実が詰まった籠を取り落として少女が後ずさった。歯の根が合わず、圧倒的な恐怖に腰を抜かしてへたり込む。その少女が、恐れながらも眼を逸らす事の出来ない存在が、そこにはいた。

 

若草色の甲殻と鱗に包まれた巨大な身体、鋭い爪に縁取られた翼が平原に吹く風を叩き、苛立たしげに脚元に転がる遺跡のかけらを蹴り飛ばす。ギラついた目線が縄張りに踏み込んだ少女(シンニュウシャ)を睨め付け、棘の生えた背中の向こうには刺々しいメイスのような尻尾が揺らめいていた。

 

雌火竜(リオレイア)』、それがこの竜の名。空を駆ける飛竜種でありながら『陸の女王』と恐れられ、まだ幼い少女ですら、その名を知る程有名なモンスター。

 

本来ならばただの人間など歯牙にもかけないが、不幸にもこの時のリオレイアは住処を移した直後で酷く気が立っていた。故に少女にも敵意を剥き出し、今にも飛び掛かり轢き潰さんという姿勢で地面を掻いているのだ。彼女が恐怖で動けなくなってしまうのも仕方の無い話と言える。

 

 

遂に一声小さく唸り、リオレイアが地を蹴った。距離にして数十メートル先の侵入者まで、まさに人外のスピードで突進していく。

 

逃げられない、僅かな間に少女はそう確信した。

自分でも知っている、雌火竜は走るのが速く力も強い。力自慢のお父さんでも全く全然敵わないのだ。逃げたい、怖い、死にたくない、でも。

 

コレはダメだ。そう、諦めて眼を瞑った

 

 

 

その時だった

 

 

 

 

 

「眼を塞いで蹲れッ!!!」

 

 

平原中に響き渡るような声、咄嗟に閉じた瞼を両手で塞ぎ言われた通り地面に額を付ける。

 

続いて

 

ばしゅん

 

 

と音が聞こえ、

 

ぎゃぉお

 

 

とあの竜の鳴き声と、

 

どしん、どすん

 

 

地面の揺れる音がした。

 

 

 

引き伸ばされたような一瞬。少女がおそろおそる顔を上げ眼を開けると、目の前には竜では無く、大きな人影が立っていた。

 

燃えるように真っ赤な鎧に、逆立った黒々とした棘が陽の光を鋭く反射している。そして何より眼を引くのは、背中に架けられた群青色の長大な剣だ。細身だが少女よりも遥かに大きく、眼前に立つ人影の背丈にも迫る長さを持っている。

 

そうして呆けていた少女に、背中越しの声が掛けられる。

 

 

「ゆっくりで良い、此処から離れろ」

 

 

状況にそぐわない落ち着いた、男とも女とも取れない声。ただ、それに込められた緊張感と有無を言わさない響きだけは、彼女にも感じられた。はっとして気付けば、いつの間にか脚にも力が戻っている。

少女は「あ…、ありがとう…っ、ございます…!」とだけ応え、未だに震える手で籠を拾い上げて駆け出していった。坂になった岩畳を走る姿が小さくなっていく。

 

 

 

___グォルルルルルル…

「…悪いな」

 

 

少女の足音が遠ざかっていくのを感じながら、鎧の狩人(ハンター)は視界が回復したらしい雌火竜と睨み合う。

 

狩人が先程叫ぶと同時に投げた閃光を発する手投げ弾、それがリオレイアの突進を中断させ、動きを止めていたのだ。リオレイアからしてみれば、縄張りを侵犯された挙句、一時的とは言え視界を潰されたのだから、怒り心頭というものだろう。

 

ハンターが腰を落とし、長大な剣___太刀を抜き放つのと、リオレイアが息を吸い、地を揺るがす咆哮を放つのは、ほぼ同時の事であった。

 

 

 

「ぐっ…」

 

 

太刀を抜いた状態のまま、咆哮に鼓膜はおろか頭蓋ごと揺らされ苦悶の声を漏らす。一方のリオレイアはそれを好機と見たか、地面を踏みしめ先程より数段速いスピードで走り出す。対するハンターも突っ立っている気は無い、硬直し掛けた身体に鞭打ち転がり込むように倒し突進を潜り抜けた。

手応えが無いと感じるや否やリオレイアが両足で急制動をかけてすぐさま振り向く、その無防備な一瞬を逃さず、半秒ほど早く反転していた狩人が太刀を突き出した。

 

ぎゃりん、と音が鳴る。

眼を狙っての刺突は鼻先の甲殻を削っただけに留まるが、怯ませるには充分だ。引き戻した切っ先を顎の下に滑り込ませ斬り上げ、僅かに鱗が裂け血滴が飛ぶのを見とめる。今度こそ眼を突かんと太刀を引き、構え直した所で奴の口の端に炎がちらつくのが見えた。

 

 

「ちぃ…ッ!」

 

 

攻撃を中断し身体ごと横に跳ぶ。次の瞬間奴の口が開き、間髪入れずに火球が吐き出された。飛び出したそれは十数メートル先の地面に着弾し、爆音と共に土塊を巻き上げる。

リオス種の火炎ブレス、もし予兆に気づかなかったら…、コゲ肉になった自分を想像して冷や汗が流れる。当のリオレイアは口内を燻らせながら悠々と距離を取って此方に向き直り、再度その顎門を開いた。

 

リオレイアが首を巡らせる、それが体内の可燃性の粉塵を汲み上げるブレスの予備動作である事を知った上で駆け出した。再び吐き出された火球が体側を掠めるのを感じながらもスピードは緩めない、横に逸れた自分を奴が捉える前に肉薄し、狙うは、翼が上がり伸び切った肩周り。狩人の身体に込められた力に呼応するかのように、刀身に雷光が這い回った。

 

 

「ッシャァ!!!」

 

 

土が捲り上がる程地面を踏み締め、浮いた筋繊維に向かって垂直になるように下段に下げた太刀を斜め上に振る。ぞぶり、と刃が張り詰めた外皮を突き破り肉に沈む感触がして、奴が驚いたように呻くがもう遅い、返り血を浴びるのも構わず全身の筋肉を総動員して太刀を振り抜いた。

 

 

 

___グォルルルゥオアアア!!?

 

 

 

 

初めてのダメージらしいダメージ、リオレイアは余程効いたのか大きく仰け反りたたらを踏み、ばちばちと光る雷撃が奴を苛む。

 

その隙を見逃す程、ハンターは甘くない。

 

破れかぶれの火球を半身に躱し、背中に爆風の余波を感じながら奴の足元に横薙ぎの一撃、先の攻撃ほどではなくとも鮮血が飛び散り地を赤く染める。柄を片手に持ち替えつつ完全に動きが止まった膝を踏み付けて奴の翼に手を掛け、続けて身体を屈め、そこに足を乗せると更に跳躍した。

 

奴の持ち上がった頭より高い位置、位置エネルギーが最大になる一瞬の静止状態の間に奴と目が合った。

 

 

思い切りリオレイアに向かい脚を振り、体幹を軸に身体が回転し始める。天に向けられた太刀が遠心力の働きで滑るも柄頭の辺りで右手を握り込んで保持、そのまま降り下ろす。

 

狙いは、奴の脳天___

 

 

 

「___ゼアァッッッ!!!!!」

 

 

 

抵抗は刹那。蒼い光と共に刀身が奴の身体を一直線に滑った。

ずだん!と音を立て太刀を振り切った状態で着地、すぐに身体を起こし構え直す。

 

そうして見上げたリオレイアは、弱々しい呻き声と共にハンターを見下ろしていた。片翼と膝、そして斬り裂かれた左眼や胴から止めどなく血が流れている。誰がどう見ても致命傷。ハンターが腰を落とした姿勢のまま、ゆっくりと背負った鞘を外し太刀を納める。

 

雌火竜の身体が崩れ落ちる、その瞬間

 

 

 

___グォルルルゥオアアア_ッ!!!!!

 

 

 

彼女は息を吹き返す様に翼を広げ、限界まで顎門を開き吼えた。夥しい量の血液が撒き散らされるが、ハンターは身構えのみで動こうとはしない。その喉と牙に豪炎が燃え盛り、血泡と共に吐き散らされながら眼前の敵を噛み砕かんと迫る。

 

その咆哮の中、チキリと確かな音が響いた。その発生源は鯉口切った狩人の手元。そして女王の顎門が間近に迫り、刃が閃く

 

 

 

果たしてその牙は、何かを噛み砕く事は無かった。代わりに閉じた口端から炎が爆ぜる。辺りを揺らす轟音、リオレイアの頭部が反動でかち上げられ、ハンターは吹き飛んで地を転がる。

 

持ち上がったリオレイアの頭部。そこに連なる喉に、一文字に赤い線が引かれていた。それはじきに赤い滝となり、どば、と血液が溢れ出す。次いで彼女の眼から光が喪われ、遂には崩れ落ちた。

 

血溜まりはもう増えない、陸の女王の、最期だった。

 

ハンターは太刀を納め、最後の迎撃としてそれを振るったのだろう。それは、ある意味狩人としての敬意だったのかも知れない。最後まで生きる事を諦めない、気高き竜への。

 

 

程無くして、地に這い蹲っていたハンターが立ち上がった。

火球ではなくただの噴き出す炎では、吹き飛ばしこそすれど鎧を突き破るには至らなかったのだ。それでも充分に堪えたようで、納めた太刀を杖にふらふらと立ち上がり、片足を引きずってリオレイアの元まで近づいていく。

 

 

「有難う。貴女の生命を、頂く」

 

 

そう言ってハンターは腰からナイフを抜き、亡骸から殻、棘、そして紅く煌めく玉を剥ぎ取った。兜のバイザーを跳ね上げてそれらを日に透かし、満足気に腰に付けたポーチに仕舞い込む。

 

入れ替わりに何かの袋を取り出して、中の真っ白い粉を頭から振りかけた。何か意味がある事なのだろう、太刀を背に担ぎ直し、ふらつきながらも幾らか軽くなった足取りで、狩人は歩いていった。

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

 

 

バルバレと呼ばれる大きな市場、その中にあるギルドの食堂で真っ赤な鎧の狩人は佇んでいた。リオレイア討伐の報酬金を受け取り、これで備品を新調しようかと黙考しているだけなのだが、厳しい鎧の所為で近寄りがたい雰囲気を纏っている。

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

そんなハンターに、まだ幼い声がかかった。見れば今日平原で助けた少女と、その両親らしき男女が立っている。

 

 

「助けていただいて、ありがとうございました…!これっ、お礼です!」

 

 

そう言って彼女が差し出したのは皮の袋、じゃらりという音から中身は容易に想像できる。

ハンターが両手を振って要らないと伝え、両親に目線を送るも、彼らも是非受け取って欲しいの一点張り。ある意味滑稽な状況に何だ何だと人集りができる。

それを気恥ずかしく思ったのか、少女がずいと踏み出し再度袋を差し出す。それに後ずさったハンターが脚を縺れさせ、派手にすっ転んだ。

 

 

がちゃん!と音が鳴り、腰を打った弾みにか兜が浮き、ずり落ちた。

そうして露わになった顔は

 

 

「いたたた…、…ん?あ、兜が…っ!」

 

 

銀髪の靡く隻眼の女性だったのだが、それは又、別のお話。

 

 

 

「お前!女だったのかよおぉぉおーッ!!!」と、誰かの叫びが響き渡った。

 




キャラクター設定

『ハンター』
男性用のレウスSに神雷斬破刀を持った女性ハンター、銀髪ロング隻眼は作者の趣味、普段は無口だが中性的な声で話す。

『少女』
バルバレのとある雑貨屋の娘、快活で時折親の目を盗んでは遺跡平原で木の実やキノコを取ってくる。見た目は考えてない。

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