シャドウランナー。第六世界の陰に生きるプロフェッショナル達。彼らは、企業、国家、そして時に――禁忌とされながらも、そうなってしまうことは少なくない――ドラゴンですら相手取り、犯罪行為を行う、というのが一般的な認識だろう。

 だが、大抵のシャドウランナーはそうではない。チンピラに毛の生えたようなランナー・ポーザー達。彼らは陰に自由を求め、陰に飲まれて果てる。

 シノは、そんなポーザー達をうまいこと食い物にして、スプロールを渡り歩いていた。だが、その日は何かが違ったのだ。


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 2019年9月29日、シャドウラン5th発売1周年の日に(偶然)行われた身内卓のセッション、その小説風リプレイとなります。裏切りを行う側の視点を書いてみようと思ったので、PCではなくNPCにスポットが当たっております。
 楽しんでい頂ければ幸いです。


よくある裏切り、よくある末路

 ギャング・ボスであるシノにとって、シャドウランナーとは使い捨てのコマだ。ハンバーガーショップが食器を洗う手間を省くために使い捨ての紙コップやワックスペーパーを使っているのを同じように、シャドウランナーは“事業”を円滑にするために使い捨てるものだ。シノの認識はそのようなものだった。

 

 もちろん、そうでないランナーが居ることも知っている。だが、幼少のころから、暴力とドラッグと利権が絡み合うストリートで生きてきたシノは経験則で知っていた。そのようなランナーはーートリッドで見るような、義に篤いサムライ、知性ととんでもない魔力を備えたメイジ、ペンタゴンのホストをクラックするようなハッカー、巧みな弁舌で軍隊すら動かすフェイスーーこのストリートにはそうそう存在しない。むしろ真逆の、食いっぱぐれた結果貧弱なピストルを懐に突っ込み、一発逆転を狙う浮浪者崩れか、あるいは自らの才能を過信し、それゆえに避けられる地雷を踏み抜いて死ぬマヌケ、そんなランナー気取りの方がはるかに多い。彼らは影の世界の自由さに憧れ、その自由さゆえに死ぬ。そういう奴らは往々にして御しやすく、“廃棄”するのも容易いものだった。

 

 その日もそんなつもりでランナーを雇った。ごくごくシンプルな護送(クーリエ)。荷を運ばせ、罠を仕掛けた倉庫に報酬がある、とおびき寄せて、数で圧倒して倒す。倒したあとは剥ぎ取れるモノ剥ぎ取って、故売屋に流す。こちらは本来の仕事を済ませ、さらに副収入まである。一石二鳥の美味い仕事だ。そう思っていた。

 

 

 

 

 

 今日のランナーは3人、一人は、トロール気取りか、あるいはシェイプシフター気取りの角の生えた剃刀野郎。一人は、ビスク・ドールのような、無口のヒューマン・ジレット。一人は、優柔不断そうな日系の男。顔合わせもそこそこに、今回の依頼の話をする。20丁のアサルトライフルを、3人で数キロ離れた新しい拠点に運び込む、それだけ。シンプルで、報酬が高い楽そうな(ミルキー)なラン、に見せかける。それこそががシノの仕事の一番の要だ。

 一通り話し終えた後、質問を求めた。角の男が口を開いた。

「話は分かった。だが、これだけの銃を俺たち3人で運べというのか?ふざけるなよ」

シノはたじろいだ。こんな風に反撃の一言が飛んでくるとは想定外だったからだ。いつも、大抵のランナーは報酬に目がくらんで一つ返事だった。

「わ、わかった。人手は出すさ。だけど、こっちだって他の仕事もある。余り人手を割けるわけじゃないぞ」

思わず譲歩したシノを、男は睨みつけながら、ふん、と鼻を鳴らした。そのまま後ろを振り返り、他の二人に目配せする。優男は頷き、人形女の方は反応が見られなかった。角の男はシノに向き直る。

「まあ、いいだろう。だが余り舐めた真似をするんじゃあ無いぞ。俺はな、サーリッシュ・シーでマフィアを束ねてたんだからな。覚えておけ、クソガキ」

 

 

 

 

 

 クソったれのトロッグ・ポーザーが。3人が退出してから、シノは思わず毒づいた。依頼人に手を上げようとするなんて、これだからランナーは。あの脅迫劇の後、3人はチームを判別するためのマークと(赤と黒のバンダナを渡した。女が嫌そうな顔をしていた)、詳細な移動ルートとタイムスケジュール、予想される敵対勢力、そして移送先の下見を要求してきた。ノー、というわけにも行かないので、全部OKと言ったが、俺の知るランナーはあそこまで神経質だっただろうか。と、浮かんでくる不安を振り払うように、彼は手癖で上着のポケットを漁り、ドラッグを吸い込んだ。すぐさまインスタントな全能感に包まれる。そうだ、俺たちが失敗するはずないだろう、という、現実逃避を始めた。

 

 連絡は2時間後だった。どうやら、ランナー達はルート上に、グールの群れを発見したらしい。最近このあたりを騒がせていたグール・ギャングだろう。夜な夜な現れては人間を襲い、むさぼり食う悪鬼ども。いずれケリを付けねばならないと思っていたシノにとっては渡りに船だった。対処は任せる、が、おそらく奴らが襲ってくる公算は高い、などと適当に言っておいた。その数時間後、朝になり、目を覚ましてソイカフを入れながら、送られてきたメッセを確認していると、ボスのヴァンパイアを殺害し、ギャングは散り散りに逃げ去った、という報告があった。想像以上に使えるじゃないか、一回で3度美味いとは、今回は当たりを引いたな。シノはほくそ笑んだ。

 

 一夜明け、日が落ちて、それからしばらくの22時30分。移送はつつがなく終わった。人手が足りない、という言葉に説得力を持たせるためにシノ自ら出張ってまで行われたビズは、途中他のギャングとかち合ったが、ランナーの活躍で即座に排除され、問題にもならなかった。優男がシャーマンで、精霊を召喚したのには驚いたが、それだけだとシノは思った。荷を置いて、報酬はアジトに戻ったら渡す、と3人に告げてから、シノはコムリンクで連絡を始めた。

「今晩ピザ(ランナー)を3枚お届けに上がる。受け取りの準備をされたし」

「パイナップル(手榴弾)も用意しておいてくれ」と、言おうとした瞬間。耳元でばちりとコムリンクが音を立てた。プラスティック製の筐体があまりの熱量に溶けだし、シノは反射的にコムリンクを落とす。

「やはり、そういうことでしたか」

人形女がぼそりと零す。次の瞬間、角の男がシノの胸倉を掴んだ。

「オイ、ガキぃ。舐めた真似はするんじゃねぇと言ったよな?」

違う、そんなつもりは。言い訳を繕う前に、シノのみぞおちに角の男の膝が叩き込まれて、彼は気を失った。

 

 

 

 

 

 シノが目を覚ました瞬間、目に飛び込んできたのは彼のギャングのアジトの玄関だった。助かったのか、と思ったのも束の間、彼は自分の体の違和感に気づく。彼の胴体には、業務用爆薬が括りつけられ、両腕も後ろ手に縛られていた。困惑する彼に、さらなる恐怖が襲い掛かった。目の前に火の精霊が顕現したのだ。精霊は玄関を指し示しながら

「行ケ」

と言った。シノの恐怖は絶頂となった。二度とその精霊を見なくても済むように、必死で駆け出し、ドアを体当たりで突き破る。同時に倒れこんだ彼は、そのまま這いつくばるように奥へ奥へと逃げようとした。そんな彼を取り囲んだ人影たち。彼らは金属パイプを握りしめ、シノに向かって振り下ろそうとする。

「ま、まて!俺だ!シノだ!」

振り下ろされかけたパイプは半ばで止まる。何故ボスがこんなボロボロで、這いつくばっているんだ?困惑が彼らを――シノのギャングの構成員たちが、その正体だーー覆いつくした次の瞬間、それは飛び込んできた。雄々しき鹿の如き角を持つ男。迎撃する間も無く、彼はギャング達の懐へ飛び込み、右脚を踏み込んだ。瞬間、仕込まれたショックハンドが電撃を放出する。電撃に巻き込まれたギャングどもは倒れ伏し、ショックの余波で身動きが取れなくなる。なんとか運よく逃れたギャングも、一瞬と置かずに脳幹をラプア・マグナムに撃ちぬかれて即死した。人形女のレミントンから、硝煙が立ち上る。

 

 一気に半数以上を掃討された彼らに勝ち目は残っていなかった。残ったギャングも角の男の蹴りで意識を失い、とても戦闘となんて言えない虐殺は終了した。恐怖の余り、股を生暖かい体液で濡らしながら、シノは命乞いをする。彼の脳内は後悔の一念であった。“本物の”シャドウランナーに、舐めた真似をしてしまったという後悔。そのみっともない姿に、優男のシャーマンは肩をすくめ傍観し、人形女は一瞥もくれずギャングの車を盗み取るために中枢CPUを弄りだした。判決は、角の男によって下されることになった。

「言ったよな?これがオマエの選択だ、ガキ」

あまりに単純な死刑宣告であった。

 

――昨夜、××地区でギャングが壊滅している事件が発生した。現場には、無数のピストルによる弾痕が残されており、それらは彼らのピストルと同じ口径であること、死体にはそれと同口径の銃創があること、また、金品の類が盗み去られていることから仲間割れによる突発的な銃撃戦であろうとナイトエラントは発表した。ナイトエラントによると、周辺地域ではHMHVV罹患者による暴動も確認されており、改めて、危険な地域には近寄らないように、との声明も上がっている。同地域は元々、治安の悪い地域として有名であり――

『2075年、9月30日、シアトル・マトリクス・タブロイド誌より抜粋』

 


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