紅き勇者   作:仙儒

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1話

 なんか知らない間にツェッペリンちゃん(仮)とプリンツ・オイゲンと名乗る銀髪の美少女サングラスがダサい。がいつの間にか俺の家に住み着いて居る件について。

 

 あやねるヴォイスの蠱惑的な言動をよくする不思議少女。こちらも軍艦由来の名を名乗っている。

 

 俺としてはあやねるヴォイスの軍艦と言えばちびっこ大好きビッグセブン姉妹のイメージが強い。

 特にこのプリンツと名乗る少女の言動はD(どーせ)M(みんな)M(陸奥になる)で有名な火遊びお姉さんそのものである。

 

 

 

「あなた、ご飯よ」

 

「ああ、すまない」

 

 あなたと言われたことは華麗にスルーを決め込む。

 

 返事をしながら洗面所に向かい、顔を洗ってからリビングに入る。

 

 ドイツ本場のソーセージ料理が並び、香ばしい香りが漂っている。

 

 それにしても、朝からジョッキにあふれんばかりに注がれたビールが置いてあるのはちょっとどうかと思う。俺、お子ちゃま味覚だからビールは余り好きではない。少し苦いし。

 

 どっちかと言えば、カクテルとかシャンパンの方が好きだ。殆どジュース飲んでるのと感覚は変わらない。

 

 どう見ても成人女性には見えないプリンツを見て、よく店の人はこいつに酒を売ったな。なんて思うのだが、考えてみればビールの本場ともいえるドイツ(鉄血)では、未成年でも16歳を超えていればビールは買えるし、店でも注文できるんだったな。あれ? 18歳からだっけ? まぁ、どっちでもいいわ。目の前にビールがある。これが全てで答えだろう。

 

 最初にこの家にこの2人が来て、いきなり同棲生活宣言をしだしたのを聞いて、親御さんの許可やその他諸々の事はどうしたと素で突っ込んだ。

 

 そもそも、恋人ですらないし。そう言ったら、「え? 普通じゃないの?」って返ってきたのに少し引いた。

 

 どうも、こちらの国では、恋人になるプロセスが違うらしい。

 

 日本では、好きになった人にアプローチをかけ、距離を縮めて告白をしてOKを貰って晴れて恋人になる。

 

 だが、こちらでは先ずは好きになった人にアプローチをかけ、互いの了承の元、体の相性や生活習慣、好みなどを確かめて、その上で話し合い恋人になる…らしい。

 

 

 その話を聞いてかなりのショックを受けた。ああ、お試しで合体までしちゃうんだ、と。童貞故の潔癖と変なプライドと女に抱く幻想的な何かが音を立てて壊れた。まぁ、だから今の今まで童貞なんだけどさ、俺。

 

 

 プリンツを見ながら今までの回想をして、自分で傷つき、その傷口に塩を塗る自虐思考をしていると、プリンツは何を思ったのか頬を少し染め、瞳を潤ませながらウインクを飛ばしてくる。かなり煽情的である。

 

 

 甲斐甲斐しく世話を焼こうとするプリンツに距離感を掴みかねている俺。アスランになる前の日本で童貞を殺すセーターと呼ばれた背中が無いのに、更に手を加えて脇もほぼなく、セーターのような物を上からかぶってるだけじゃね? っていうのをずっと着ている。

 

 更にブラのような物を付けていないらしく、男のロマンと夢の詰まった大きな胸のふくらみが横からこれでもかというぐらいに主張している。何か運動させたらポロリとしてしまいそうな感じ。

 

 流石に小さい子もいるのにその服装どうなんだ? と指摘したら、いつの間にか来ていたツェッペリンちゃんが外出時以外、仕事中もこんな感じの服装だと言っていた。それを聞いた俺は深く考えるのを止めた。ただ、漠然とウ=ス異本が厚くなるなと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄血ではプリンツ・オイゲン、並びにグラーフ・ツェッペリンちゃんがいなくなったことで大騒ぎである。

 

 グラーフ・ツェッペリンちゃんの方はよくわからないが、プリンツ・オイゲンの方は退役届けのような物を残して姿を消している。おそらくだが、グラーフ・ツェッペリンちゃんも一緒にいると思われが、さて…。

 

 追跡調査もされていて、既に銀行で貯金を全て引き出している映像を確認している。

 既に現地まで乗っていったと思われる車は駐車場に止められていて、未だに乗り手は戻ってきていない。状況が状況だけに、乗り捨てだろう。

 

 スマホも電源を切っているのか場所情報が掴めないでいる。

 

 上に下にの蜂の巣をつついたような大騒ぎに頭を抱えるビスマルク。思わずにため息が漏れる。

 

「…………」

 

 隣ではグラーフがいつも以上にご立腹そうな態度でスマホのとあるチャット掲示板を見ている。

 

 その様子に口ではなんだかんだ言いつつも、心配なんだなと少し安心もしていた。

 

 

 ……実のところ、2人が行方不明になってからグラーフ・ツェッペリンちゃんが何回かその掲示板に書き込みを行った形跡があったりする。

 

 チャット内容は書き込みをされて直ぐに消されているので気が付かなかったが、チャット内の誉れ堅き海の騎士がそれらしきものを確認していたから発覚したことではある。

 

 海の騎士曰く、晩御飯が美味しいとか、ケーキが美味しいとかそんな書き込みだったらしい。

 

 

 ―――ただ、しきk…と書き込みが途中だった不思議な文があったらしい。

 

 

 おかしいと思い、その日の書き込みがあったと思われる時間のログを確認した所、不審な点が見受けられた。

 

 海の騎士以外にももう一人その書き込みを見た人物がいたため、思い違いの類いでは無いだろう。それで調べてみたらビンゴである。

 

 消したのは……、プリンツ・オイゲンとみて間違いない。

 

 再度、深い溜息を吐く。

 

 この掲示板の大元にアクセスしてどうこうできるくらいの設備がある所に居るという事実が余計に頭を悩ませる。

 

 掲示板に集うメンバーがメンバーだけにセキュリティーも各軍と同程度の性能があるのだが、それすらも引っかからぬ性能のスーパーコンピューターが存在するとはな。

 

 頭の片隅である人物の顔が浮かんだが、それこそあり得ないとその可能性を切り捨てる。

 

 ない物ねだりなど、鉄血を統べる盟主としてあってはならない。

 

 取り敢えず

 

「……ヒッパーの様子は?」

 

「だいぶ荒れているな。どうにかしてくれと文句が来ている」

 

 こうして、また一日と時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が煌めく南の島の基地。

 

 アズールレーン内の勢力関係、思想の違い、その他諸々の事情で大きくざわつき、どこかピリピリした空気が流れていたユニオン本部。

 

 他の皆は、セイレーンに対抗するための前線基地と言う認識だが、本当の所は重桜を抑えるための第一防衛ラインの最前線としての意味合いが強い。

 

 鉄血側の防衛ラインはロイヤルが担っている。

 

 上の連中はどうも、この状況をわざと刺激し、激化するような流れを作っている。

 

 細心の注意を払い、再三確認を取る。

 

 周りに人の気配はしない。妹たちにも言っていない秘密の情報端末の中枢にアクセスする。

 

 パスワードを入力して掲示板を開く。

 

 そこには、各四大陣営(以外にも居るが)の重鎮たちのやり取りが載っている。

 

 それを流し読みしていく。

 

 思わずに奥歯がギリッ! と鳴る。どうにも、皆で話し合い、想定していた最悪の事態に収拾しつつある。

 

 己惚れているわけではないが、自分はユニオン内でそこそこの地位にいるつもりだ。

 

 ユニオン最強たる空母には敵わないが、バトルスターも13個持っている。

 

 何か特別な軍艦であるとか、何かに特化した艦であるとかそう言った生まれではなく、数ある量産型の軍艦の一隻に過ぎない。

 

 少なくとも自分はそう認識しているし、要領は良い方ではあるがそれだけだ。だからと言って自分を卑下するつもりもないけど。

 

 何をやっても人並みにこなすことができるが、それだけだ。当たり前だが、戦艦の主砲には敵わないし砲撃命中率がそこまでいいわけではない。

 

 それでも、13もの星を授与されたのはその足の速さ故だと思う。

 

 私は元々この世界で生を受けた存在ではない。

 

 物言わぬ鉄の塊であったときの記憶もある。こことは似て非なる世界。SFのようなものだ。

 

 その世界において、敵は空からやって来た。恐怖は、死は空を我が物顔で蹂躙する。セイレーンも大概だが、あの敵程理不尽だとは不思議と思わなかった。

 

 

 急に頭上が暗くなる。あれ? 曇って来たか? そう首を傾げた瞬間に意識が暗転する。

 

 

 

 ―――懐かしい夢を見ている。

 

 

 

 その世界で私は生還を期さない理不尽と絶望の中で諦めていた。皆、泣きながら神に祈り続けていた。

 

 そんな中、幼さの抜けきらない若い指揮官が言ったのだ。

 

『帰るぞ、皆の元へ』

 

 真夜中で仲間と逸れ、航路を見失い、更に敵にも追いかけられていた。

 

 とられた作戦は取り敢えず逃げ回ること。

 

 皆、やけくそだった。助かる見込みはゼロ。それでも、指揮官は自ら弾を運び皆と煤だらけになりながら指揮を執り続けた。

 

 指揮官の未来を見ているような指示に乗組員は一人また一人と希望を取り戻して指揮下に戻り、命令を実行する。

 

 あれ程絶望の中で希望を一度として見失わず、常に前だけを見つめていた碧玉の瞳に私は魅せられた。

 

 何よりも輝いていた。

 

 満身創痍で仲間と合流してドッグに入って修理中にやってきて指揮官が授与されたバトルスターを作業員に頼んで額のような物に入れて艦橋に飾らせた。

 

『この艦でなければ、そして期官らでなければ俺は間違いなく死んでいただろう。ありがとう。誉れ堅き海の騎士たち。本当はもう少しいい物を持ってきたかったんだが、これで我慢してほしい』

 

 そう言って全員分の休暇申請の許可証と小切手を配っていた。因みに、小切手の額は高級士官の一か月分相当の額だったと言っておこう。艦長と、副長には扶桑刀(こっちで言う重桜の刀)と何故か盆栽もプレゼントしていた。

 

 

 

 真夜中。誰もいないドッグの中に入ってきた指揮官。

 

 特に何も言うこともなく、艦橋の上に乗り、どこからか出したお酒をグラスに注ぐ。

 

『……ありがとうな。クリーブランド』

 

 そう言ってグラスを自分の隣に置いたときには心臓が飛び出るかと思った。

 

 結果から言うと指揮官に私は見えていなかった。抱きついたところで反応もなかったし、置かれたグラスを持つこともできなかった。

 

 だいぶがっかりしたのを今でも憶えている。

 

『お前はきっと優しい子。お前は敵を倒す騎士ではない……■■■■■■■■■■■■■■、騎士に選ばれたんだ。間違えないでくれ』

 

 騎士の名を拝命するに当たりした誓い。華々しいものではなかったけれども、何千人の賞賛の言葉よりも、後に胸に輝く13の誇りよりも大切な私の始まり。

 

 公式に存在しない幻の14個目の、否、最初の誇り。

 

 

 人の体を手に入れて、ままならない思いをたくさんした。

 

 それでも、胸に抉った一つの誓いを胸にひたすら走り続けた。

 

 何か、

 

 ―――一番大切な誓いを忘れているような気がするが、私は騎士なのだ。

 

 あの人が認め、自らの誇りの結晶たる勲章を。その名誉を捨ててまで全てを私に譲ってくれたのだ。ならば、私はその名誉に恥じない騎士でないとならない。

 

 得意ではない内政も往き来し、戦場では常に先陣を切って矢面に立った。

 

 何度も何度も泣きたくなった。イライラした。凄く怒ったし、嫌にもなった。投げ出したくもなった。

 

 それでも、立ち止まらなかったのは私が騎士であるから。

 

 少し荒れていた時期もあって、妹たちの中でも一番私にべったりくっついているコロンビアに怒られたし、エンタープライズには凄く心配されたけど。

 

 コロンビアに「そんなにバトルスターが大事なのか! バカ姉貴‼」って言われて泣きながらひっぱたかれた時は流石に参ったな~。

 

 別に騎士らしい行いをして、評価された結果であって、バトルスターそのものが欲しいわけではないので貰ったバトルスターの一つをコロンビアに渡して、任務で頑張っていた駆逐艦や軽巡の後輩たちに残りを渡した。

 

 私にはあの世界で指揮官に貰った栄誉以外は興味がないし、これが不和を呼ぶならば意味もないので特に未練も惜しいという気持ちもなかったんだけど、周りはそうは捉えていなかったらしくコロンビアが私が配り歩いたバトルスター全部回収して持って来て「ごめんなさい。わ、私が全部悪かったから‼ もう、そんな酷いこと言わないから許してお姉ちゃん‼」と言いながら縋り付いてギャン泣きして、マントが涙と鼻水でびしょびしょになって。

 

 コロンビアは壊れたラジオのように「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返すだけだし。

 

 駆け付けたエンタープライズにどうにかしてくれと助けを求めたら、無言で首を左右に振って長期休暇の許可証(と言う名の療養待機命令書)を渡して去っていった。

 

 いや、助けてよ!

 

 後日、いつも通りに任務に出ようとしたら皆に止められて、医務室にぶち込まれた。

 

 思うところはあるけど、大人しく従っておく。

 

 

 ―――ふと、懐かしい声を聞いた。

 

 

 自分でも驚く位、勢い良く振り向く。

 

 

 視界が歪む。足が嗤う。

 

 胸が苦しくて苦しくて、それ以上に嬉しくって、でも―――。

 

 これが夢であるのがどうしようもなく悲しくて。

 

 

 近づいたらきっと、戻れなくなるだろう。

 

 その頼もしい背中に縋ってしまう。それで、きっとたくさん泣いて、甘えてしまう。

 

 誰よりも頼もしく、誰よりも現実主義者であり理想主義者で、誰よりも優しいMy king.(私の王様)

 

『来ないのか?』

 

 優しい声音が私を惑わす。

 

 本当は何にも考えずに貴方の胸に飛び込みたい。

 

「それはできないよ―――指揮官。まだまだあっちでやらなきゃならない事が山積みなんだ。それに」

 

 何で指揮官が出てきたのかなんて、考えるまでもない。

 

 それほどまでに私は疲弊していたのだろう。

 

 ああ、認めるよ。ずっと探し続けていた。いないとわかっていながら指揮官の影を探し求めていた。

 

 貴方の痕跡を辿った。海に落とした砂粒の一つを探すようなものだけど、無いわけではなかった。その繋がりの結果の一つがあの掲示板であったりする。

 

 人の身を持って誕生した時からずっとだ。忘れたり考えなかったことなど一秒たりとも存在しない。

 

 貴方を思い、煩わない日など無かった。

 

 世界に亀裂が入る。ピキピキと嫌な音がする。

 

 色々考えることはある。

 

「まだ指揮官の隣に立てない。確かに、道は決して平坦じゃない。今もこうして挫けて躓いて、逃げ出したくて、貴方の傍に行きたくてたまらない。だけど…いや、だからこそだよ。その道行の苦しみも、その果ての栄誉も、全部現実で手に入れるものだから。ここじゃない、私の…指揮官が見つけてくれたクリーブランドの戦いで」

 

『…そうか』

 

 指揮官の返事はどこか安心感を孕んだ返事だった。潤む瞳で必死に指揮官を見つめる。

 

『ならば、現の夢である俺が敢えて問おう』

 

 威厳に満ちた声に、一瞬にして重苦しい空気が支配する。

 

 パリーンッ! 世界が壊れる。

 

 ガラスが砕け散るような音が響き、景色が変わる。

 

 良く見えずともわかる。私が騎士に任命された始まりの場所。私にとって一番大事な世界。

 

 闇に、噓は許さないと告げられているような気がした。

 

苦楽と救いはちゃんとあった(楽しかった)か? 成長に満ちた道程(ここまでの旅)は』

 

 しかし、それも一瞬のこと。敢えて、お茶らけた声で堅ッ苦しい雰囲気をぶち壊しながら問われた。

 

 ……それは反則だよ、指揮官。

 

 我慢していた涙が、堰を切ったように流れる。

 

 悲しくて辛くて空しくて、それでもやっぱり。

 

「うん…、当たり前だろ? 指揮官……。貴方の背中を追う、旅、な゛ん゛だがら゛」

 

 我慢できずに鼻声になってしまう。

 

 指揮官が此方に歩いてきて優しく撫でてくれる。

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!

 

 人の身体を持って、初めて子供のように泣きじゃくった。

 

 

 

 ―――その優しき心を示し、手を差し伸べるために。お前は騎士に選ばれたんだ。

 

 

 忘れていた最後の欠片(ピース)が今、埋まった。

 

 

 

 私に課せられた、その使命を。今度はもう忘れない。だから、待っててね。指揮官。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦行動のために、ある南の島に向けて航路を進む中、様々な考えが良くない方向によぎる。

 

 重桜と鉄血とことを構えなくてはならないかもしれない現状がネガティブ思考を加速させる。

 

 死に急ぐように戦い続ける優秀な人物の顔がよぎる。

 

『それは勘違いだ。私はバトルスターが欲しくて戦っているんじゃない。バトルスターに興味もないし』

 

 それを聞いたときは耳を疑ったものだ。

 

 バトルスターの数こそ私よりも少ないが、戦果は私に並ぶとも劣らないものだ。

 

 私と張り合っているのか、それとも別の何かなのか…、興味本位で聞いてみた。もしかしたら、私の探している答えの道しるべになるかも知れない、と身勝手な期待とよくわからない予感が後を押した。

 

『私はもう、一生をかけてもお釣りがくるくらい十分過ぎる栄誉を受けたんだ。それは先払いで与えられた栄誉だ。本来の順番が逆になっちゃったけど……だからこそ、証明しなくちゃいけないんだ。指揮官(貴方)の目は間違っていなかったと』

 

 曇りなき真っ直ぐな瞳に秘めていたのは、愚直なまでにひた向きな信頼が宿っていた。

 

 それが、狂気に思えるほどに純粋な思いが。

 

 クリーブランドの妹のコロンビアやモントピリアが狂っていると、思わず口走ってしまうほどに。

 

『私には自分のやるべきことと、やれることがわかってる! どうだ! 幸せな人生だろう!! それを他人にとやかく言われる筋合いはない!!』

 

 微妙にずれている回答ではあるが初めて、激昂したクリーブランドの姿を見た。

 

 そこから、意固地になったのか気の許せない張り詰めた雰囲気が続くようになった。

 

 このままでは危ないとも思う。

 

 だが、解決策は思いつかない。

 

 はぁ、とため息が出る。

 

「また、あの事ですか? エンタープライズちゃん」

 

「ん? ……ああ。流石に隠せないか」

 

 後ろから来たヴェスタルに返事を返す。

 

 そう言えば、彼女はクリーブランドのメンタルカウンセラーも務めていたな。他でもない私が半ば押し付ける形で頼んだのだが。

 

「正直、彼女が羨ましいと思った。彼女があそこまでなってしまう”栄誉”、とやらも興味がある」

 

 たくさんの仲間たちの希望と意思の代弁者として自分が存在するのだと信じて疑わなかった。

 

 それは彼女も方向性は違えど、同じものだと信じて疑わなかったから。

 

 …違うな。そうだと、自分と同じであってほしいと私が彼女の姿に願っていたのだろう。

 

 

 ふと―――、

 

 鷹が此方に飛んできた。腕を上げてとまれるようにしてやるが、今日に限ってとまらずに甲板の隅の方に行ってしまう。

 

 その先には……私達以外誰もいないはずの飛行甲板に誰かが居た。

 

 座っていて後ろ姿しでしか確認できない。

 

 そこに件の彼女の姿もあった。

 

 体制的に後ろ向きで座っている人物の膝の上に頭を置いているのだろう。

 

 警戒して、近づこうとしたら目の前に突然何者かが割り込む。

 

 陽光に反射して黄金に輝く金髪。

 

 近未来的な不思議な服装。ふよふよと浮かんでいる少女。

 

 キャノン級護衛駆逐艦、エルドリッジ。

 

 誰かと進んでコミュニケーションを取ることのない彼女。感情表現が希薄な彼女はユニオン内ではかなり浮いた存在であった。

 

 何故か姉であるヨークタウンと妹のホーネット、そして、クリーブランドと仲がいい。

 

 他人に興味を持たないエルドリッジが私の前で両手を左右に広げ、ダメと言うように私とその人物の間に浮かんで、首を振っている。

 

 アズールレーンの徽章以外にも四大陣営の徽章に、色々な徽章やロゴの入った第二種軍装。

 

「―――きっと」

 

 声が発せられる。若い男の声だ。

 

「きっと目を覚ましたら忘れてしまっているだろうけど……貴女たちは本当は役目を終えて眠るはずだった」

 

 ドクン、心臓が鳴った。

 

「だけど、神々の戯れか、はたまた運命の悪戯か。貴女たちは再び生を受けた。―――けど、それはかなり強引な手段だった。無理やり水底から引き上げられた影響で祝福が呪いに変わって精神を蝕んでしまった。だから貴女はここにいるのだろう」

 

 男が身体を此方に向ける。

 

 人形のような整った顔にダークブルーの髪の毛。全てを見透かしているような碧玉の瞳。

 

 幼さの抜けきらない顔が、温度のある存在であることを示している。

 

 優しく微笑みながら目の前の青年は口を開く。私は目の前の人物から目が離せない。

 

「初めまして、未来の戦士。俺は1945年において、指揮官の任を担っているものだ。この声を聞いている貴女の時代にいたるまで、どれほどの戦いが起こるのか」

 

 少し悲しそうな、申し訳なさそうな蔭りを落とす目の前の青年。

 

「すべての者たちが時に恐怖して、悩んで、苦しんで……守りたい者のために戦っていくのだろうと信じている」

 

 少し離れているが、歩けばすぐに青年の所まで辿り着ける。だが、何故か青年との間は途方もないくらいの絶望的な距離が開いてしまっているような錯覚を覚える。

 

「俺たちは、もう誰が託したのかわからない未来へのバトンを引き継いだ。どれだけ時間が経とうとそのバトンは引き継いでいかれるだろうと俺は思う。バトンの名は”勇気”である。別名を”希望”とも、”願い”とも言う」

 

 私を見つめる宝石のようでもあり、鏡のようでもある瞳に私の姿が写りこちらを見つめているように感じる。

 

「貴女は決してひとりではないことを知ってほしい。多分今の貴女はとても苦しんでいると思う」

 

 私ですらわかりかねていることを口にする青年。

 

「痛いこと、悲しいこと、絶望すること…。がんばってがんばって…、それでも耐えられないくらいつらいことがあったのだろう。だからこそ、俺の声が届いている筈だ」

 

 それを言うと、クリーブランドにユニークな第二種軍装をかけ、起こさないように抱きかかえながら立ち上がる。所謂お姫様抱っこと呼ばれるものだ。少し、羨ましいと場違いなことを思ってしまう。

 

「そんなお前たちに言いたい言葉は”もっと戦え”でも”もっとがんばれ”でもない。生きろ。ただ、生きてくれ。大切な人がいるならその人のことを思い起こしてほしい。お前が生きることを諦めたら、その人が悲しむことを思い出して欲しい。お前の、お前たちの大切な人…、その人のところへ必ず帰還してくれ―――」

 

 途中、貴女から”お前”に変わっていた言葉。恐らく、どこの誰でもない皆に充てて発していた言葉が、私達に向けての言葉に変わったのだろう。

 

 疑いようが無い。クリーブランドに栄誉を与えたのは目の前の青年だ。

 

 淡々と繰り出される言葉とは反比例して、言葉に途方もない願いと重みを感じるそれは、まるでできの悪い生徒に優しく諭すようにも受け取れる。

 

 人によっては余りよい受け取られ方をしないやり取りだが、私の胸には不思議とストンと落ちついた。

 

 私の求めていた答えではなかったが、大きく空いた心の穴をほんの少しではあるが確かに埋めた。

 

 この身体を得てから満たされること無く、すり減り続けていた何かが微かに滾り、満たされた。

 

 クリーブランドを受け取る。

 

 涙で濡れているが、前に会ったときに感じた目を離してはいけない危機感は感じられない。

 

 そのことに安堵する。彼女はもう大丈夫だ。

 

 青年は彼女の手に箱を握らせる。

 

 満足そうに踵を返して離れようとする青年を呼び止める。

 

 よくわからないが、私はとても焦っているらしい。少しでも目の前の青年をこの場にとどめたかった。

 

 青年は、首を傾げて考えるそぶりを見せた後、再び背を向けた。

 

「順番が逆だ。…お前たちは”意味”の為に存在するわけじゃない。生きたことに”意味”を”魅いだすため”に()()()()()()()()

 

 そう、悪戯っぽく言い放つ青年にエルドリッジの小さな手が触れる。

 

 最初から誰もいなかったかのように姿を消した。

 

 何だか、幻覚を見ていた気分だ。確か、重桜の言葉に今の状況を表したものがあった気がする。何故か銀髪の狐耳に九本の尻尾が生えた女性(謎の一航戦の片割れ)がこちらに向かってニヒルに笑っている姿が頭に浮かんだ。

 

 徐に空を見上げる。

 

「意味…か」

 

 あるのだろうか? この私にもそれが。

 

 それにしても、詩的なニュアンスの物言い、表現がロイヤルに所属する装甲空母の彼女にそっくりだ。

 

 

 

 それと同時に彼女があそこまであの青年に固執する理由が少し理解できてしまった。

 

 間違いなく最高の戦士だった。そう直感できる人物。

 

「羨ましいよ…クリーブランド」

 

「じぎがぁ゛あ゛あ゛ん゛」

 

 どうやら目を覚ましたらしい。

 

 その後、クリーブランドをなだめて、一緒にいたにも拘わらず一言も発さなかったヴェスタルがいないことに焦ると、また、エルドリッジが戻って来てヴェスタルを置いて行った。

 

 話を聞くと、突然現れたエルドリッジにどこだかわからない場所に飛ばされたらしい。

 

 エルドリッジには説教をした。




実は恥ずかしくてクリーブランドに「お姉ちゃん」と普段は言えないが、クリーブランドの予期せぬ行動に羞恥心を持つ余裕さえ無くなるコロンビアとか尊い。

尊くない?


色々詰め込みまくった作者のドリームな話だった。

何に影響されたかがまるわかり。


因みにクリーブランドに持たせた箱には、特別製の勲章が入っていた模様。

以後、時折、箱開けて幸せそうに眺めているのを妹たちに見られて居た。

第二種軍装の方はエルドリッジ(誰か)に取られたらしい。



アスラン・ザラ(偽)

転生オリ主。無論、チート。
なんか、神様のミスで死んで、詫びに転生させてあげるよとテンプレかましたが、これまた神様のミスで、教えられた世界とは違う世界へ送られた。
紆余曲折あり、二つの世界を救う偉業を成し遂げた。

どこぞの正義の味方と違って、世界と契約してないのに扱き使われるブラックっぷりに「不幸だー!」と心の中で叫んでいる。

特技は自爆。


ジャスティス

アスラン・ザラ(偽)が最初送られる筈だったリリカルな魔法少女の世界に合わせて神様が渡したインテリジェットデバイス。
ハイスペックを軽く上回る廃スペック(誤字に非ず)仕様。
ガンダム種や種運命のジャスティスの超小型核融合炉をリリカル式の魔力生成炉に変えられた物。
担い手の魔力切れたらこのデバイスから供給される。

アスラン・ザラ(偽)が自爆するのは、大体こいつのせい。

女神様が用意しただけあって、ハイスペックを通り越し、廃スペックに。無口で余りしゃべらないが、アスランとは阿吽の呼吸。

インフィニット・ジャスティスの超小型核融合炉は、なのはの世界に合わせて核エンジンから超小型魔力生成路に代わっており、アスランの魔力が尽きたらジャスティスからアスランへと魔力を供給するシステムとなっている。

基本的に、アスランのため以外には自ら動こうとしない。また、アスランの邪魔になると思われる事柄は意図的に隠したり、潰したりしている。

人間の姿にもなれるが、アスランの前では一度もなったことは無い。

二十四時間、アスランがどうすれば楽しく、また、穏やかに過ごせるかに演算能力の半分を割いている。趣味はアスランの安らぎの時間を共に過ごすこと。



なぜか、行く先々の世界の情報を知っている模様。

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