機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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遅くなってごめんなさい。実は、前回の種死ZIPANGUの投稿後に少し手術を受けて入院していました。
退院はすぐでしたが、退院後も食生活に制限が加えられていたために色々と萎えていましたし、身の回りがゴタゴタしていたこともあって執筆が中々進みませんでしたね。
結局、一月ぶりの投稿ですが話はほとんど進んでいないっていう……


PHASE-26 紅の嵐

「全く……どいつもこいつも不甲斐ないわね」

 朱にペイントされた専用機仕様のウィンダムの中で、フレイ・アルスターは舌打ちした。

 

 当初、数に優る大西洋連邦軍が日本軍に対して優位に立ってはいたのだが、その優位はこの1時間ほどの戦いで崩れ去っていた。

 既に、戦況はほぼ互角。元々主力MSの性能を比較すれば、ようやく大西洋連邦全軍に配備が行き届いたウィンダムと、不知火弐型への更新が進んでいる日本軍の現時点の主力機、陽炎改を比べた場合、撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)は2.3対1でまだ陽炎改の方が優れているのだ。時間の経過によって数の差が埋められることも十分考えられることである。

 数で圧せばいいと安易に考えた大西洋連邦の見通しが甘かったとも言わざるをえないだろう。この作戦を立案した作戦本部も、元々味方を欺かんとする意図はなかったかもしれない。 一応、味方から無能の謗りを免れない彼らにもそれなりの言い分はあるらしいが。

 まず、日本軍のMSの更新速度がこちらの予想を上回っていた。作戦本部が日本の議会に提出された防衛予算や各地の軍需工場の動き、関連企業の資材調達状況や株価の変動等の情報から導き出した大日本帝国宇宙軍に配備されている不知火弐型の数は、実際に配備された数を大きく下回っていた。不知火弐型の調達に関する情報は情報局によって操作されており、その成果が出た形となる。

 次に、アメノミハシラの防衛に駆り出された部隊の配備された不知火弐型の比率だ。大西洋連邦軍はこの時点で知る由もないことなのだが、実は、日本が調達した不知火弐型のおよそ8割がこの戦闘に参加した部隊に配備されていた。

 宇宙軍は強権を行使し、不知火弐型への機種転換を済ませていた部隊を強引に各地からかき集めたのだ。当然各地のコロニーや軍港で混乱一歩手前の状況に陥ったが、そちらは日本の『労働者と油は絞れば絞るほど出る』という江戸幕府初代将軍以来脈々と受け継がれてきたデスマーチ理論でどうにかなっていた。

 軍の実務官僚をこれほど酷使(実際に過労で軍病院に入院したものは少なくない)してまで不知火弐型をそろえるというのは通常は考えられないことである。ただ、いざというときの取らぬ足らぬを人を酷使してどうにかするのがこの国の悪しき伝統なのだ。

 因みに、給料面での待遇改善は数世紀前に比べて遥かに進んでいるが、未だに「企業戦士」=サラリーマンの構図は崩れていない。

 最期に、アメノミハシラの軍勢が要塞の傘から早々に飛び出してきたことだ。本来であれば、要塞の傘に篭る敵に一方的に攻撃を与えることで要塞の傘から追い出し、そこに攻撃を加える手筈になっていたが、早々に日本軍は攻勢に移ってきたために計画は当初から躓いていた。

 これらの要因が重なったことで、大西洋連邦宇宙軍は当初の予定よりも苦戦を強いられていたのである。多分に大西洋連邦の楽観論のツケが回ってきた部分があるが、そもそもこの出兵論そのものがロゴスの根回しによって実現したものであるため、出兵論を強めるために作戦本部には不都合な情報はあまり与えていないところもあった。

 作戦本部もA級戦犯であることには間違いがないが、この損害の原因はもっと根深いところにあるのだ。

 

『おねえちゃん。ナタルがむこうで暴れてきてって言ってる』

 妹分であるステラ・ルーシェ曹長から通信が入る。それに対し、フレイは好戦的な笑みを浮かべながら応えた。

「分かったわ。――アウル!!スティング!!聞いていたわね!!」

 ウィンダムのコックピットモニターに二つの通信ウィンドウがポップする。

『わぁーったよ。雑魚を蹴散らせばいいんでしょ?』

『アウル、調子に乗るな。任務なんだぞ』

 生意気そうな口調で話す淡い青の髪の男がアウル・ニーダ曹長。アウルを諫める顰め面の男がスティング・オークレー曹長だ。彼らとステラはエクステンデットと呼ばれる強化人間であり、薬物的な身体強化や、催眠によるメンタル面の強化なども施されている。特に、フレイの小隊に所属する彼らは、エクステンデットの中でも最高クラスの戦闘能力を誇る。

 大西洋連邦最高峰のエースであるフレイが指揮すれば、時に3人がかりとはいえ大西洋連邦最強の撃墜王(エースパイロット)、ムウ・ラ・フラガですら撃墜判定されることもあるのだ。

「アタシが先行してかき回してくるわ!!ステラたちは迂回して後ろから食い散らかしてやりなさい!!」

『うん、わかった!!』

 無邪気な笑みを浮かべるモニター画面のステラに僅かに頬を緩めるも、すぐさまフレイはフットバーを蹴り飛ばし、機体を加速させた。それに続き、後続の3機のMSが軌道を変え、フレイと距離を取る。

「さて、じゃあサクッと終わらせるわよ」

 レーダーが日本軍の不知火弐型を捉えると同時にフレイは乗機の両腕が握るライフルの銃口を正面に向けて構えた。

「『自分たちは正義の味方じゃない』って言っていた貴方達が世界で正義面してるのって、正直虫唾が走るのよね」

 不知火弐型の方も、レーダーでフレイの機体の接近を察知したのだろう。散開した8機の不知火がライフルをこちらにむけて構えている姿がコックピットのメインモニターに映し出された。

 8機の不知火は、まっすぐ突っ込んでくるこちらを十字砲火で絡め取る配置についている。通常であれば、自分から火箭の網に飛び込むことなど、まさしく飛んで火に入る夏の虫だ。にもかかわらず、フレイはそんなことに構わずに十字砲火の網が待ち受ける空間を突き進む。

 当然のことながら、火にいる夏の虫に対して8機の不知火は理想的とも言える集中砲火を浴びせた。火箭が複雑に絡み合い、フレイのウィンダムを絡めとらんとする。

 しかし、火箭の網の目を縫うようにフレイのウィンダムは突き進む。時に左に、時に右に上にと細かくスラスターの噴射口を傾け、手足を振ってAMBAC制御で機体の姿勢を変えることで紙一重で砲火を回避したフレイのウィンダムは、速度を全く落すことなくキルゾーンを抜けた。

 十字砲火が浴びせられるキルゾーンを抜ければ、もはやフレイの道を遮るものなどない。瞬時に一機の不知火弐型に肉薄したフレイは、ウィンダムが両腕に構えるライフルのトリガーを引いた。

 M7G2 リトラクタブルビームガンから放たれた連続して緑の閃光が放たれる。最初の数発こそ、71式攻盾で上手くコックピットをビームから守った不知火弐型だったが、腰部噴射ユニットがビームの直撃を受けて爆発、その衝撃で姿勢を崩した隙を見逃さずに放たれた銃撃によって、コックピットを打ち抜かれて爆発四散する。

 不可能なはずの砲火潜り抜けを平然とやってのけ、さらに僚機を一瞬で撃墜してみせた紅のウィンダムに恐れをなしたのだろう。撃墜された不知火弐型の一番近くにいた一機が狂ったようにビームを撒き散らして牽制する。

 しかし、先ほどは8機の不知火弐型が形成した分厚い弾幕を突破してのけたフレイにとっては、たった一機の不知火弐型が苦し紛れに張った弾幕など脅威になりえない。両腕のライフルを構えなおして急ターンしたフレイのウィンダムは、弾幕を軽々と潜り抜けながら肉薄する。

 不知火弐型の脇を高速ですり抜けつつ、AMBAC制御で姿勢を変えたフレイのウィンダムは、がら空きの脇からビームを打ち込み、不知火弐型のコックピットを撃ちぬいた。最初の不知火弐型が撃墜されてから、この間およそ15秒。この短時間で、8対1は6対1となっていた。

 そして、残りの6機の不知火弐型の側面からさらに銃撃が浴びせられる。側面から回り込んでいたステラたちが到着したのだ。これで、6対1から6対4。数だけで見ても形勢は五分五分に近づきつつあり、実際のところ、パイロットの質の差から言えば日本側は圧倒的な不利に立たされていた。

『お姉ちゃん!!』

「待っていたわ、ステラ。突っ込んできなさい!!あぁ、スティングはステラの援護、アウルはアタシのカバーね」

『は~い!!』

『……了解]

 愛する姉の言葉に舞い上がって笑顔を浮かべているステラ、はしゃぐ妹分の御守をぞんざいに命じられて淡々と了承するスティング。

『え~、また姉ちゃんのカバーかよ。たまには前にいかせてくれてもいいじゃん、ケチ』

「私が前に出たいの。何?まさか不満?」

『へ~へ~。分かりましたよ』

 不満を口にするアウルと、わがままを通すフレイ。アウルはいつも突撃するフレイのカバーを命じられるばかりで、前に出させてもらえないことへのフラストレーションを溜めつつあった。尤も、フレイからしてみれば、ヒットアンドアウェイならばともかく近接格闘戦をさせるにはアウルの技量は正直なところ心もとないものだった。

 しかし、それを面と向かって言えばアウルは反発し、命令を無視してでも格闘戦をしでかすだろう。自分のわがままに付き合わせるという形をとることで、彼が無茶をしでかさないように予防線を張る。これが姉貴分なりの気遣いなのだ。年齢に比べて精神的に幼いところのあるエクステンデットのアウルにはまだ分からないことだが。

 

 

 

 

 

 

 一方、フレイたちの襲撃を受けた雲龍航宙隊第一中隊は一瞬で2機が立て続けに撃墜されたことによる動揺から既に立ち直っていた。雲龍航宙隊第一中隊の内、中隊長の響を含めた4名が火星での激戦を潜り抜けた猛者だ。既に彼らは敵のパイロットとの力量差を見極め、先に別れた第三小隊の合流を待つ消極的な戦いへと切り替えていた。

『隊長!!あの赤いウィンダムはカスタム機です!!ブースターの推定推力は通常の機体のおよそ1.3倍!!』

 元整備士でもある中島は、その経験から敵MSのスペックなどを非常に的確に推測することができた。

「敵のエースだろうな。それで、側面からきた3機は?」

『そちらはおそらく、第二期GAT-Xシリーズの改修機でしょう。スペックは想像できませんが、間違いなくウィンダムは超えています』

「集中砲火を潜り抜ける腕っこきが乗ってるカスタム機に、第二期GAT-Xシリーズの改修機か。加えてお高くつく高性能機を揃えているってことは、十中八九こいつはエースを集めた超優良部隊だな」

 響はレーダーで周囲の状況を見つめながら冷静に考察をしていた。おそらく、側面を突いてきた第二期GAT-Xシリーズの改修機は不知火弐型のスペックを上回っている可能性が高い。ただ、どうやら腕の方は先ほど曲芸を見せてくれた赤のウィンダムのパイロットほどではないようだが。

 そして、現状、彼の指揮下にある6機の不知火弐型では、これを撃退することは不可能であるという結論は響の頭の中で瞬時に導き出された。

 先ほど撃墜された2機は、雲龍に配属されてから彼らの中隊に補充されたパイロットで、お世辞にも力量は大日本帝国宇宙軍母艦航宙隊のパイロットの腕前としては下の上から中の下といったところでしかない。母艦航宙隊のパイロットには、基地航宙隊のパイロットに要求される力量よりも上の力量が要求されるということを差し引いても、腕はあまりいいわけではなかった。

 その他の二名のパイロットは、母艦航宙隊のパイロットとしては並程度の腕前はある。歴戦の猛者である響の統率力もあったため、2機が立て続けに撃墜されても即座に指示に従って態勢を立て直していたが、現状を打破しうるほどの腕はない。

「いいか!!各機、まともにやりあおうと思うな!!距離を取りつつ、エレメントで対応しろ!!」

 シンたちが戻ってくるまで耐え忍ぶことができれば、敗北はないと響は判断した。しかし、この尋常ならざる敵パイロット相手に敗北しないだけで十分な戦果だと彼は考えている。

 もしもこの敵小隊をこのまま野放しにすれば、よほど腕のある撃墜王(エースパイロット)かベテランが対応しない限りは的にしかならないからだ。このことは、既に撃墜された2機がその身をもって証明してくれている。

 敗北しないだけで、戦況に大きく貢献できるのである。

『隊長!!甲田大尉がそちらに向かっています!!後10分だけ耐えてください!!』

 CP将校(コマンドポストオフィサー)、緑川曹長の泣きそうな声がスピーカーから聞こえてくる。

「10分か……聞いたな、10分だ。10分だけ持ちこたえろ!!死ぬんじゃねぇぞぉ!!」

『ラジャー!!』

 スピーカーから聞こえてきた力強い唱和に、響は僅かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 ――とはいったものの、正直、10分誰一人欠けることなく持つかどうかは怪しいな。

 

 しかし、ふと懸念事項に占められた響の脳裏に一人の若者の顔が過ぎった。

 シン。若者にありがちな無鉄砲さを武器にどこまでも真っ直ぐ突き進む素直な青年だ。ただ、彼のMSの操縦センスには自分や他の隊員にはないどこか光るものがあった。コーディネーターが生まれつき備えている反射速度や身体能力とはまた違う、戦人の才とでもいうべき原石。日々の訓練や火星での戦いの中で時折シンが見せた力は、現在大日本帝国軍で撃墜王(エース)と呼ばれている彼らの力を彷彿とさせることもあった。

 

 ――ひょっとすると、アイツがこの窮地を抜け出す希望になるやもしれんな。

 

 響は、部下の手前勇壮な姿を演じつつ、未だひよっこ呼ばわりしている新人の才能に縋る自分の弱さを恥じる一方、シンにまるでヒーローに向けるような期待を寄せている自分を可笑しく思った。


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