Fate/Start Over 星譚運命再度カルデアス 作:ていえむ
何気に人生で初めての憑依ものだったりします。
生きていても苦しいだけだと悟ったのはいつからだろうか。
それは星と共に周り続ける時間が、まるで熱した鉛のような熱さでこの体を通り過ぎていくような感覚だった。
繰り返される日々、終わりのない迷宮。
自分なりに足掻いてきたつもりでも、結局のところ人間というものは相応な末路に収まるべくして収まるのだろう。
即ち、自分は成功なんて掴めない。
背負うべき家名は大きく、信用できる者もいない。認めて欲しい人は既に亡く、自分の側には誰もいない。
思えば生き方すら己で決めてこなかった自分が、誰かに認められたいと思う事など烏滸がましかったのかもしれない。
努力はした。
求められるだけの成果も欲した。
身を削り、魔術を刻み付け、次代のアニムスフィアを背負える者にならんと尽力した。
けれど、それはアニムスフィアの後継者としての責務であり、そこに自らの意思が介在する余地などない。
父親は自分に見向きもせず研究に没頭し、他の者は自分のことをアニムスフィアの後継としか見ない。誰もが自分を
何かを成してもアニムスフィアの後継ならばできて当然と嘯かれ、失敗すればアニムスフィアにあるまじき失態と揶揄される。
正直に言うと、生きているのが辛かった。
このまま一生、誰からも必要とされないまま生きていくのは真っ平だった。
けれど、逃げ出す勇気も持ち得なかった。
代々と続いた家系、修めてきた魔術、しがらみだらけの人間関係。全てを捨ててやり直せるほど無責任には生きられない。
結局、息苦しいまま流れに流れ、自分は最期の時を迎えようとしている。
「わかるかな。君は死んだことで初めて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ」
目の前にいるのは時代錯誤な正装に身を包んだ長身の男。
こんな生き辛い世界の中で、自分が信頼を置いた数少ない男性。
頼りがいのある腕と理知的な眼差し、恐らくは自分が求める父性を強く体現した存在。
認めて欲しかった父親の姿を、彼に重ねていたのかもしれない。
ひょっとしたら、異性としての彼に惹かれていたのかもしれない。
思いは複雑だ。とても一言では言い表せないが、今だけはハッキリと言い切れる。
目の前で下卑た笑みを浮かべているこの男に対して、憎悪にも似た感情しか抱けない。
「良かったねぇマリー? 今回もまた、君の至らなさが悲劇を呼び起こしたワケだ!」
嘲り、見下すこの男が、本当に自分が信頼したあの人なのかと疑ってしまう。今の彼は平素の姿からは想像もできないほど豹変してしまっている。
汚らしい言葉使い、卑しい笑み、そこから垣間見えた獣を想起させる牙のような歯、身の毛もよだつ視線。
あまりの事態に思考が追い付かなかった。
カルデアスの異常、突然の爆発、特異点へのレイシフトとサーヴァントとの戦闘。
そして、信じていた人の裏切り。
自分では何一つとして背負いきれない事態に脳は考える事を放棄し、体は糸が切れた人形のように動けない。否、体が動かないのは彼の魔術によって拘束されているからだ。
そのままゆっくりと持ち上げられた体は、少しずつ虚空に浮かぶあるモノへと吸い寄せられていく。
彼が時空を捻じ曲げて空間を繋げたというその先に待つのは、自らの所有物である叡智が紅蓮の炎で燃え盛る姿であった。
疑似地球環境モデル・カルデアス。惑星の魂を複写したそれが燃えているということは、即ちこの世界の全てが灰燼に帰したということだ。
何がそうしたのかは分からないが、これからこの身に起こる事と、この星がどうなろうとしているのかだけは分かる。
もう、ここで終わりなのだ。
「君の宝物とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」
燃え盛る炎の向こうにあるのは高密度の情報体だ。太陽にも匹敵する高純度のエネルギーは人間が触れれば分子レベルで焼却される。そこにいたという存在ごと消え去ってしまうだろう。
「遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」
炎が迫る。
みっともなく叫んでいた気がする。
どうしてこんな目にあうのかと己の不幸を呪い、誰からも認めてもらえなかったことを嘆き、躓いてばかりの人生を恨んだ。
足下では誰かが叫んでいた。
見覚えのある少女と、まだ出会ったばかりの少年だった。
そう遠い距離でもないはずなのに、何故だか声は聞こえなかった。ただ、彼らは必死でこちらに手を伸ばしており、自然と自分も彼らに向けて手を伸ばしていた。無論、その手が取られることはなく、無慈悲にも炎が末端を焼いていく。
脳が焼き切れるかのような痛みで思考が消える。
意味のある言葉を発することさえできなかった。
2秒後には完全に炎の中にくべられて自分は焼き尽くされてしまうだろう。
その刹那の一瞬、死を前にして引き延ばされた永遠の中で願っていた。
(まだ、何もしていない――――)
せめて、何かを成して消えたかった。
それが、オルガマリー・アニムスフィアが最期に抱いた思いのはずだった。
□
神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。
星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。
これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。
南極に秘匿された研究機関。魔術協会のロードにであるアニムスフィアが管理するその施設の名は人理保証機関フィニス・カルデア。
余人が立ち入れぬ極寒の地において、人知れず人理の行く末は観測されていた。
それは今後、百年続く人類史の歩みの保証。人類はこの先も存続しているという安息を得るためのものであった。
今、その人類の歩みに未曽有の事態が起きていた。
カルデアが人類史の観測の為に用いている疑似地球環境モデル『カルデアス』から文明の光が消え去ったのだ。
人は豊かな生活を求めて夜の帳すら光に追いやった。それが観測されないということは、科学文明に何らかの異常が生じたことを意味している。
調査の結果、過去の時代において通常ならば有り得ない異常を検知したカルデアは、所長であるオルガマリー・アニムスフィアの判断で国連にレイシフトの敢行を要請。
過去への時間移動をもって原因を究明し、それを取り除こうとしたのである。
だが、万全を期したはずのレイシフトは失敗に終わった。
予期せぬ爆破テロによる組織の機能不全。そして、所長であるオルガマリーは偶発的にレイシフトに巻き込まれ、辿り着いた廃墟の街で絶命した。
彼女の視点から見れば、その時点で世界の全ては終わったはずであった。何しろ世界の観測者たる
それがオルガマリーの最後の記憶。
物語はそこで終わる。
終わるはずであった。
□
誰かの呼ぶ声に意識が引き戻される。それと共にぼやけていた視界の焦点が少しずつ合わさっていき、水の膜を通しているかのような音が鮮明になっていった。
まず目に飛び込んできたのは広間の中を行き交う人々。見慣れた制服に袖を通した何十人ものスタッフが棺のような装置がひしめく空間を行ったり来たりしている。
その光景をどこか他人事のように見つめながら、オルガマリーは間の抜けた魚のように口を半開きにしていた。
どうして自分は今、ここにいるのだろうか?
そんな疑問が脳裏を過ぎる。
ここはカルデアだ。
極北の僻地に秘匿された天文台。国連傘下の機関でありながら、実質的にアニムスフィアが牛耳る私設工房。
3年前、自分が強制的に跡を継がざるをえなかった重荷。
けれど、それは炎に包まれたはずだ。■■・■■■■■によって仕掛けられた卑劣な工作によって、■■諸共に焼き尽くされたはず。
なのに、それがどうして無事なのか。
火災の跡などどこにもない。スタッフ達は何事もなかったかのように、広間の中で作業を進めていた。
「そんな、どうして……」
確かに焼けたはずなのだ。
思い出そうとすると、頭の中に霞がかかったかのようにぼんやりとしか思い返せないが、それでも炎が広がったことだけはハッキリと覚えている。
そして、廃墟の街へと飛ばされて異形に襲われ、合流した仲間からカルデアが爆破工作に合ったことを知った。
ほんの数時間前のことのはずだ。それが跡形もなく消え去っており、炎に焼かれたはずの自分もここに立っている。あれは全てが夢だったのだろうか。
「所長、先ほどからボーっとされていますが、お具合が悪いようでしたら医務室に…………」
こちらに呼びかけていた女性スタッフが気づかってくれるが、オルガマリーには構っている余裕はなかった。
前後不覚の状態に戸惑いを覚え、軽いパニックに陥っている。苛立ちと焦りから思わず親指の爪を噛んでしまい、一瞬の後にみっともない姿を見せてしまったと後悔した。
「あなた、そう、そこのあなた。これはどういうことなの? どうやって私はカルデアに戻ってこれたの?」
自分でも馬鹿馬鹿しい質問であると分かってはいたが、聞かずにはいられなかった。
元より子どもの頃から冷静さを欠きやすいことは承知している。普段はそれを修練の成果と高飛車な仮面で隠してはいるが、今回は取り繕っている余裕はなかった。
「はあ、戻るも何も、所長はどこにも行っておりません。マスター候補への説明会の後からずっと、ここで作業の監督をされていたではありませんか」
「マスター? 説明会?」
「特異点Fへのレイシフトです。間もなく始まりますよ」
軽く会釈をしてから、女性スタッフは己の持ち場へと帰っていく。
その後ろ姿を、オルガマリーは信じられないものを見る目つきで見送っていた。
彼女は今、何と言った?
そんな馬鹿な、あれは失敗に終わった。
本当のところは少し複雑だが、少なくとも当初の計画通りにはいかなかった。
爆破工作でマスター候補達は重傷を負い、偶発的にレイシフトに成功した補欠の少年が事態を収束したのだ。
そして、その後に自分は殺された。
そう、やっと思い出せた。
自分は――オルガマリー・アニムスフィアはあの炎の街で殺されたのだ。
なのに、自分はこうして今、生きている。
パニックが一周回って冷静さが戻ってきたらしい。
鮮明になっていった記憶の時系列が、目の前の光景の既知感を訴えている。
(知っている。この景色を、光景を……私は数時間前に見ている)
袖を捲って腕時計を見やると、特異点Fへのレイシフト――ファーストオーダーが開始される時間を示していた。
これは夢なのか、それとも現実なのかは定かではないし、確かめる術もない。
だが、オルガマリーの動悸は秒針の刻みと共に早鐘を打ち始めていた。
時間が戻っている。
ファーストオーダーが開始される直前、まだ自分が爆発に巻き込まれる前の時間まで戻っているのだ。
何故、という疑問があった。
自分は赤く染まったカルデアスに放り込まれて消滅したはず。なのに、どうしてこの時間に戻ってきているのか。
戻るにしても、どうしてこの直前なのか。今からでは出来る事は何一つとしてない。
既に装置は稼働を始めていて、レイシフトを中断することは不可能だ。
爆弾を見つけ出して無力化する時間もない。
そもそも、急いでここを立ち去らなければまたも自分は爆発に巻き込まれてしまう。爆弾はこの足下に仕込まれているのだから。
「所長、どちらへ?」
「どきなさい、いいから!」
こちらが駆け出そうとした瞬間に呼び止めてきたスタッフを押し倒し、オルガマリーが地面を蹴った。
後ろで何かが倒れる音と悲鳴が聞こえたが、構うものかと両足に力を込める。
とにかく逃げるのだ。少しでも遠くに、安全な場所に。爆心地から離れさえすれば、即死さえ免れれば魔術で延命できるかもしれない。
そう思って駆けるのだが、思っている以上に体は重く先に進んでくれない。
周囲からは困惑の視線と戸惑いの声。そして、遠くからはシステムの起動をアナウンスする音声が聞こえてくる。
時間がない。
この管制室から逃げ出す暇さえない。
咄嗟に目についたのは、開け放たれたままの無人のコフィンであった。
誰かが搭乗しようとしているようだが、それが誰なのかを気にかけている余裕はなかった。急いで逃げなければならないという焦燥に駆られ、乗り込もうとしていた少女らしき者を押し退けて強引にコフィンの中へと飛び込もうとする。
爆発音が轟いたのは、その直後のことであった。
「きゃっ!?」
衝撃と炎に襲われ、横っ面を固いものにぶつけて痛みが走る。
起き上がろうとするが、腕が思うように上がらなかった。ひょっとしたら、ぶつかった時にケガをしたのかもしれない。
それでも自分が生きていることだけは実感でき、声にならない笑みが自然と浮かんでいた。
(ははっ……やった……私、生きている……)
痛みは酷いし、呼吸の度に喉が煙で焼かれるが、それでも確かに自分は生きている。
ざまあみろ、あのシルクハット。そんな汚い言葉が思わず喉から出そうになった。
自分は運命を乗り越えたのだ。後はここから脱出して、まだ無事なスタッフと合流して事態の収拾にあたらねばならない。
重傷を負ったマスター候補の保存、カルデアが負った被害の把握と対応、そしてこの爆破工作を行った男への糾弾。やらなければならないことは多い。
文字通り、一度死んで肝が据わったのだろう。今ならば何でもできるという自負すらあった。
だが、そんなガラス細工の自信は次の瞬間には粉々に砕け散っていた。
苦心して顔を上げ、立ち上がって垣間見たのは、一人の少女が瓦礫に押し潰されている光景だったからだ。
「そんな、嘘でしょ……」
知らない少女ではなかった。
亜麻色の髪、華奢な体、白い肌。
報告書には何度も目を通したし、同じ施設で過ごしていれば通路ですれ違う事は何度もあった。
彼女もまた、特異点Fへレイシフトする予定であった。なのにどうしてコフィンに搭乗せず、外で瓦礫に押し潰されているのか。
答えは明白だ。先ほど、自分が突き飛ばした相手が彼女だったのだ。
「マシュ!」
「所長……ご無事、ですか……」
半身を血で赤く染めながら、息も絶え絶えといった風に少女は言葉を漏らした。
マシュ・キリエライト。
カルデアの職員、自分の部下。レイシフトチームの首席であった少女。
その一人の人生を、自分は今、台無しにした。
その事実にオルガマリーは驚愕し、安堵と後悔を覚える。
本心を言うと彼女に対して負い目があった。自分は恨まれても当然だと思っていた。
だから、ここで彼女の人生が終われば自分との関係が断たれることにほんの少しだけ安堵を覚え、次に自らの振る舞いがそれを引き起こしたことに恐怖と嫌悪を覚えた。
負い目も恐怖も苦手意識もあったが、それでも彼女を排斥することだけはしなかった。例え背負いきれずとも、その恨みを受け止めるのが責務であると割り切った。
なのに今、こうして彼女が死にかけていることに安堵し愉悦している自分がいる。
それが堪らなく怖い。
そんな恐ろしいことを僅かでも考えてしまった自分が憎い。
何より、今にも消えそうな命で尚、こちらを気遣うマシュの言葉がとても重く切なかった。
「所長、逃げてください……わたしは、助かりません……から……早く……」
自らの人生を弄んだ一族の長に向けて、マシュは恨み言の一つも漏らさない。
それどころか、こちらの身を案じて逃げるように促してくる。
どうしてそんな事ができるのか、そこまで他人に優しくなれるのか分からなかった。
だから、思わず罵倒していた。
心の底から、泣き叫ぶように喚いていた。
「どうして! 死にかけている時くらい、本心を言えば良いじゃない! こんな目にあったのは、私のせいだって言えば良いじゃない!」
その言葉にマシュは答えない。
静かに首を振って、もう一度だけ『逃げて』と口にするだけであった。
オルガマリーは理解する。
刻一刻と死に近づく彼女の中に、自分への恨みなんてこれっぽっちもなかった事を、今になって理解する。
でなければ、こんな時にまで誰かを気遣うことなんてできない。
この娘は根本的な部分で歪んでいて、欠けているのだ。
アニムスフィアがそう育ててしまったのだ。
なら、その全てを自分は受け止めなければならない。
重みで押し潰されて、身動きが取れなくなろうとも、逃げだすことだけはしてはならない。
それがアニムスフィアの長としての責務であり、戒めだ。
「マシュ!」
第三者の声に振り返る。
やや癖のある黒髪の東洋人が、瓦礫を乗り越えてこちらに向かっていた。
48番目のマスター候補。数合わせのために呼ばれた補欠の少年。
そういえば、そんな者もいた。直前の説明会で居眠りされ、腹いせに自分が追い出したのだ。
本当に時間がファーストオーダーの直前にまで巻き戻ったのだとしたら、彼がここにいるのは不自然ではない。
自分の記憶では、共に特異点Fへとレイシフトした彼が黒化した英霊達と戦い、特異点を修正したのだ。
その時は自分も同行していたが、今回はそうはならないだろう。
オルガマリー・アニムスフィアにはレイシフトの適性がない。
アニムスフィアの後継として英才教育を施され、類まれなる実力を開花させておきながら、最も求めていた適性だけは得られなかった。
前回はこの爆発で死亡したことで肉体の枷から解き放たれた魂が偶然にもレイシフトに巻き込まれたのだが、今回はこうして爆発から逃れることに成功している。
さすがにレイシフトが開始されるまでに自殺する度胸はないし、したところでそうそう同じ奇跡は起きないだろう。
どのみちファーストオーダーが終われば行き場を失った魂が消滅するのなら、ここで炎に焼かれることと何ら変わりはない。
そんな諦観に心が支配され、目の前の出来事すら他人事のように思えてしまう。
管制室の隔壁が閉じられたのは、正にその時であった。
「……隔壁、閉まっちゃい、ました。もう、外には……」
「うん、そうだね……けど、何とかなるさ」
あっけらかんと、どこか達観したかのように少年は答える。その手は自然とマシュの手に重なっていた。
震えるマシュと、少しでも慰めるかのように。
彼はそんな優しさを自然と出せるゆとりがあるのだろう。
自分だって死ぬかもしれない局面で、よくもそう落ち着いていられるものである。
「ちょっと、そこの48番」
「……え、俺?」
番号で呼ばれたことに戸惑ったのか、少年の反応は少しだけ鈍かった。
分かっている。自分でもこんな物言いは失礼だということは分かっている。
だが、そもそも名前を覚えていないのだから、他に呼びようがない。
「あなた、名前は?」
「えっと……藤丸、立香です」
「そう……なら、藤丸。その手、絶対に放さないでね」
ここで終わる者の責務として、せめてそれだけは言っておきたいと思った。
情けない。
一度目は泣き喚いてまともな指揮も取れず、二度目は生き延びようとした結果、何も成せないまま終わる。
つくづく、自分の人生は因果なものだと思わずにはいられない。
死ぬのはこれで二度目――いや、三度目だろうか。ここまで立て続けに経験すれば肝も据わるというものだ。
だから、本当の意味で彼女が取り乱したのは、燃え盛る管制室に鳴り響きコンピューターの無機質なアナウンスを瞬間であった。
――――コフィン内マスターのバイタル 基準値に 達していません。
――――レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中…………発見しました。
――――適応番号48 藤丸立香 及び 当施設所長 オルガマリー・アニムスフィア を マスターとして 再設定 します。
その言葉に我が耳を疑った。
自分がマスターとして再設定。そんなことは有り得ない。天地が引っくり返ろうとそれだけは有り得ない。
どれだけ努力しても、あらゆる手段を講じても、それだけは適わなかったのだ。なのに、カルデアのシステムは自身にマスター適性があると無慈悲に断言する。
喜ばしいはずなのに、混乱と自己否定の意志が先に出た。
「嘘でしょ」
答えは返って来ない。
推敲の時間すらない。
無遠慮に、冷酷に、システムは人間に代わってレイシフトの準備を進めていく。
自分にはもう、どうすることもできなかった。
――――アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。
――――レイシフト開始まで あと3。
――――2
――――1
――――全行程
意識が暗闇に飛ぶ。
肉体が霊子に分解され、流れる水のようにどこかへと運ばれていく感覚。
自分が自分でなくなっていく恐怖と、肉体という枷に囚われていては垣間見えない時の流れを目にしたことによる歓喜。
そんなない交ぜになった感情に戸惑いながら、オルガマリーはこの時間において初めてのレイシフトを経験する。
この先に待ち受けているものが何なのか、オルガマリーはこの場の誰よりも熟知していた。
炎に焼かれた街、黒化した英霊、聖杯、そしてカルデアを爆破した張本人。
これはやり直しの機会なのだとオルガマリーは確信する。
誰かに認められたいなら、それを成してみせろという星々の導きなのではないかと思いを馳せる。
ならば、その流れに乗ってみせよう。
きっとうまくやれるはず。
きっと、今度こそ。
必ず。
そう誓う少女の右手に、うっすらと光輝く三画の紋章が刻まれていることに、彼女はまだ気づいていなかった。
よく考えたら、アクシデント数分前じゃ憑依してもほとんど意味ないよね。対策も取れないし。
はい、二週目だからといって楽はさせません。神様もいない。よその作品からチートも持ってこない。
一応、救済措置は考えています。
頑張って今度も人理修復目指すぞ。