あえて誰か何時の時期かなど伏せた物をチョイ出ししていこうかと思います(作者もフラグ自体忘れて未回収のまま完結する可能性もありますがw
廃墟になった町
人は少しずつ記憶を忘れていく生き物だ。
楽しい記憶や悲しい記憶、分け隔てなく忘却は訪れる。
幾多もの忘却の夜を越えても尚、思い出すことの出来る心に刻み込まれた記憶……それらの積み重ねが人格というものを作り上げているとするならば私には一体どれ程の思い出が残っているというのだろうか?
静かに瞳を閉じて思い返す。
仄かに香る薬品の匂い。
中央には簡素なベッドが設置されているだけの何もない部屋。
天井、壁・・・シミ一つない真っ白な壁紙で統一された空間は何所か非現実的と思えてしまう。
唯一、開けっ放しにされた窓からのぞく景色・・・雲一つない青空だけが何もない部屋を彩っていた。
風に靡くカーテン
小鳥の逃げた鳥籠。
私は……唯一の記憶さえ楽しい物とは言えそうにない。
・・・・・
日の光を遮る程の分厚い曇天
街頭に並ぶ家電量販店のテレビからはまるで警鐘の様に午後の天気予報が鳴り響く。
市民達が雨が降り始める前に…と足早に目的地を目指す中、幼い子供の姿が一つ。
ボロボロになった服、何処か薄汚れた顔。
明らかに親からはぐれた…だけとは思えない子供の姿を横目にしながらも、街の人々は少女の前を通過していく。
少女はまるで自身が透明人間みたいと思った。
実際その認識は間違っていない。
言葉にするなら[事なかれの大衆心理]。
本来、親を失った孤児なら施設が保護する。
しかしその少女がボロ布で着飾った格好で街角にいるということは保護対象から外れたと言っているのと同義である。
国籍不明、住所不明。
名前を名乗ったとしても実名なのかさえ怪しい。
そんな人物に誰が手を差しのべる?
同情はしても施しはしない。
何故なら街の人々には見ず知らずの子供を養う義理もないからだ。
下手に声をかけて目をつけられ、金品目的で刺される可能性だってある。
その結果が[見て見ぬふりをする]というこの状況になっている。
少女は廃棄されたカサカサに乾燥した黒パンを齧りながら街並みを眺める。
街には色んな人が溢れている。
此方を哀れそうに見るスーツを着た中年の男性。
明らかに不機嫌な表情を浮かべ去っていく女性。
「見て!お母さん。あの子汚い。」
時折、無邪気な子供が此方に指を指して嘲笑う姿が見える。
……もっとも、私にはその言葉に反論などする気にもなれずに泣き寝入りするしかないのだが。
自嘲の笑みを浮かべながら少女は立ち上がり歩き始める。
もうすぐ夕立が訪れる。
「雨を凌げる所を探さないと…」
私の心の中を示す様にポツポツ…からやがてザーザーという雨音に変わり勢いを増す豪雨。
私は高架橋の下、
上から滝のように落ちてくる雨水で両手を洗う。
激しい雨音の中微かに聞こえる街の喧騒……ふと、何気なく見回した街の風景は…
「何時になっても変わらないものね…今も、昔も、そしてこれからも。」
……酷くデフォルメした景色に見えた。