手洗いを済ませて『カツカツ』と硬いブーツの音を響かせてその場を後にするジェーン。
トイレの出口にたどり着い筈たが、いつの間にか出口は無くなり壁で塞がれているようだった。
正確に言うならば視界に収まりきれない壁のように巨大な生物なのだが…
トロール
生息地はイギリス、アイルランド、その他北ヨーロッパ
身長最大4m。体重最大1t。しばしば棍棒を持っている。
強力だが知能はO・W・L等の試験で最低のT(トロール並)と揶揄されるくらい恐ろしく低い。
暴力的で行動が予測不可能。
川トロール、森トロールと種類があるが目の前の個体は灰色の肌と禿げた頭部から山トロールということが伺える。
どうしてこんな所にトロールが?
しかも広い場内で私達がいる場所にピンポイントで出現するなんて…
誰かが意図的に引き込んだのは間違いない…一体誰が……?
今の置かれている状況、恨みを持っている人物、そして自身が死亡したときに特をする人物をジェーンの優秀な頭が即座に犯人を特定した。
「……(ロンの報復か!?)」
ハロウィンパーティーのサプライズとしては少々過激ではないだろうか?
第一彼がトロールを誘導出来るとは驚きだ
単細胞同士気が合うのか?
「………(さて、どうする?)」
と下らない思考から、まずどうやってこの状況を切り抜けれるかに思考を切り替える
悲鳴をあげる?
一番の悪手だろう。刺激されたトロールは此方を敵と見なし襲ってくる
ならば、ゆっくり後退りして距離をとるのはどうだ?
ここはトイレで戻った所で行き止まり、逃げ場はない
それに今はお互いに予期せぬ遭遇で意表を突かれているだけに過ぎない、数刻もしないうちに私達を潰しに来るだろう。
命乞い?
そもそも言葉を理解できる脳ミソが詰まってない
「……(相手はトロール!良く考えるんだ!)」
話し合いは不可能
逃走、戦闘は絶望的
ならば……
「やぁ!調子はどうだい?」
友人を装って手を振り挨拶しながら自然に通りすぎる!
脳ミソの入ってないトロールだからこそ成せるスルー方法
状況を理解できずにジェーンへ手を振り返すトロールを横目にトイレから外へと脱出に成功した。
「この手に限る!」
一人ガッツポーズをとる
中にはハーさんが残っているが静かにしていれば気付かれないし、姿を見せなければ攻撃はされない。
誰も居ない事を確認したトロールがトイレから退室した後でハーさんを回収すれば良いだけだ。
「……………」
「……………………」
『……キャー!!!』
中から聞こえた悲鳴と破壊音に思わず溜息
本気で中に戻りたくない……
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ハーマイオーニー視点
苦しかった
誰にも理解されずに繰り返す日々
教科書と違い、明確な答えのない日常
寮の為にした注意は聞き入れてもらえず、逆に此方が悪者扱い
理解者が欲しかった
人気者になんてならなれなくていい
ただ、普通の少女の様に友達と共に楽しい学校生活を送りたかった。
そして破れ去った夢に打ちひしがれて
唯一、手にした物まで手放してしまった……
「ジェーン……」
『カツカツ』と響くブーツの音
すぐに此処を出て謝れば彼女は許してくれるだろうか?
涙をローブの袖で拭き
トイレの個室を飛び出した
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再び入ったトイレの中はまるで台風が通りすぎた様な有り様だった
残骸と貸した個室と便器、割れた床、そして現在進行形で破壊されていく洗面台。
トイレの隅で縮こまってるハーマイオーニー
無傷なのは奇跡としか言いようがない
徐々にハーマイオーニーへと距離をつめていくトロール
時間の猶予が残されていない
何とかしてトロールの注意を引かなければ!
ジェーンは今覚えている魔法を瞬時に思い出す
マッチ棒を針に変身させる魔法、吹き出物の治療薬、浮遊魔法に…魔法界の歴史!頼みの綱の闇に対する防衛術は吸血鬼に有効なニンニク料理の作り方!一体どうしろって言うんだ!
唯一使えそうなのは罰則で教わった全身金縛りの呪いくらいか……
ダメ元で金縛りの呪いを続けて唱えて魔法を連続で放つ
壁に、天井に、ハーマイオーニーに……金縛りの呪いが命中して大きな音を立てた。
音でジェーンに気付き振りかえるトロール
ひとまずハーマイオーニーが潰される危機は回避出来たが状況は良くない
きっと私の呪いではあの脂肪の塊を貫いて拘束する事は出来ない
巨大な物は時に、その存在事態が驚異となる。
身長4mに及ぶ体は圧倒的なリーチがあり1tにもなる体重はそれ自体が凶器となる。そして、ブクブクと太った脂肪は魔術の効果を半減させる
トロールと睨み合う
数分とも思える様な数秒間
遠くから聞こえてくる廊下を走る足音を皮切りにトロールは行動を再開した
ジェーンを潰さんと振り落とされる棍棒をバックステップで回避し棍棒が引き戻させる前にトロールへ接近して魔法をトロールの体に刻み込む。
金縛りの呪いが発動した手応えを感じながら流れる様な動きで追加で3回呪いを放つ
一瞬トロールは硬直
握っていた棍棒が手を離れて真横の壁へと突き刺さった
至近距離で洗面台の鏡が割れて破片が飛び散る
頬に痛みを感じながら素早くトロールの横を通り抜けてハーマイオーニーの倒れているトイレの隅へとたどり着いた。
再び目を戻すと呪いが解けて動き始めるトロールが棍棒を壁から引き抜く姿が見える
「……(次はどうやって出口へ向かう?)」
「「ハーマイオーニー!」」と叫び声と共に現れたハリーとロン
「大丈夫か!?どういう状況だ?」とロン
「手前この野郎!こんなサプライズ用意してよくもぬけぬけと出て来やがったな!見ての通りだ!ハーマイオーニーがやられた!」
ハーマイオーニーの目が「いや、お前だよ!」と訴えているような気もするがきっと気のせいだ!
「いや……僕じゃないし……」
「…とにかく僕達が引き付けるからその間に此方側に!」
言うや否やトロールにハリーは飛びかかった。
その間にジェーンはハーさんを引き摺って出口側に走り込む
ハーマイオーニーの拡がった髪がトイレの残骸をモップの様に回収しているが気にしてはいけない!
振り返りハリーを見るとトロールに拘束されている……
足を捕まれて逆さ吊り、そして身動きの取れないハリーへとトロールは棍棒を振りかぶる
「何とかして!」
『ウィンガーディアム レヴィオーサ』
ロンが放った浮遊魔法はハリーを強打しようと迫る棍棒に当たり
偶然にもトロールの頭上へと落ちた。
ふらつくトロールだが倒れる迄には至らない
激昂して低い唸り声を上げながら
近くのハリーを潰そうと腕を振り上げた
ジェーンは走る。助走をつけてスライディング。まるで大木の様なトロールの足の間をすり抜けて足元で停止する。
「魔法は苦手」
ヘンテコな呪文を唱えて杖を振り回した上で相手に照準を合わせなきゃならない。
マグルの使う銃がそうであるように狙う角度が1度でもずれたら25m先では頭一個分程の誤差が生まれる。
それを呪文が言い終わると同時に杖の振りを完了させて尚且つ相手を狙わなきゃならない……
だからこそ言える
杖で狙い打ち出来る人の方が異常なのだと…
もっとも…歴戦の魔法使いでも交戦距離は50m以内だと思われるが
「私には狙って当てる技量などないから……」
……でも、魔力が足りなくて魔法が発動しない訳ではない
付近の床に転がっている洗面台、便器、破壊された個室の仕切り等の残骸……大小様々な破片を幾多ものナイフ、刀、鎌等の刀剣類に変身魔法で変化させる
『ウィンガーディアム レヴィオーサ!!』
そして、あえて必要以上の大量の魔力を込めて魔法を刀剣に放つ
床に散らばっていた刀剣は浮遊魔法を受けて勢い良く舞い上がった。床と天井の間に居たトロールを無惨に引き裂き天井へと深々と刺さる。生暖かい血の雨が降り注ぎ呆然と眺めるハリーと私を赤く染め上げた。
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複数の足音がトイレの外から聞こえてマクゴナガル、スネイプ、クレイルがトイレに踏み込んで来た
「一体全体あなた方はどういうつもりなんですか」
相当怒ってるなと一目で分かる
唇を蒼白くなりそうなくらい真一文字にしたマクゴナガルが問いかける
「どなたか納得のいく説明を出来る者はいますか」
「僕達はトロールが侵入してきた時にハーマイオーニー達がトイレに行ってるのを思い出して……彼女達に避難を連絡しないと……と思って」
とロンが説明した
「それで避難指示に従わなかったという訳ですか…この際ですから言っておきます。本来、入学したての一年生がトロールに立ち向かうという行為は極めて愚かです。今回、負傷者が出なかったのが奇跡と言ってもいいほどです!何故!貴方達は避難案内をしていた監督生や教授に助けを求めなかったのですか!トロールくらい自分達で対処出来るとでも思ったのですか!」
うんうん、言いたい事は分かるよ。
勇敢と蛮勇は紙一重であるって事も…
だけどね………
「……先生……彼等の後先考えない行動を注意する事は出来ても責め立てる事は出来ない筈です」
「ミス・ウィルソン何が言いたいのですか」
「彼等がここへ到着したのはギリギリのタイミングでした。避難誘導で手が離せない監督達の救援が到着する頃には私達はトイレの染みになってますね。
現に先生方が駆けつけたのは全てが終わった後でした。
事態が終息したあとで分かった事を、さも当たり前の様に最善の方法と結論付けるのは卑怯と思いませんか?」
例えるならそれは後出しジャンケンの様なもの
皆、全体の状況が分からない状態で自身が最善と思う行動を選択している。そして、箱を開けてみて初めて分かる結果を知った上で「あの時どうするべきだった」とか「何故そうしなかった」等と他人が責め立てるのは……フェアじゃない
「では、私からも先生に質問です」
「何故、危険生物が校内に侵入したにも関わらず全館に聞こえるように避難指示を出さなかったのですか?校内にはパーティーに参加していない人も少なからず居た筈です。指示がもれていた上で「何故避難しなかったか」等というのですか?」
「そもそも、禁じられた森などという魔法生物保護区が近くにありながら校内に魔獣が入り込まない様な措置が取ってあったのですか?これまで前例がないから大丈夫?考えれば分かることでしょうに」
「……………」再起動したハリーを含めて誰も言葉を発せなかった
「ね?フェアじゃない。お互いの揚げ足をとって見苦しいだけです。……そろそろ寮に戻って大丈夫ですか?夕食をまだとっていないので」
「……先に医務室に寄って傷を治して貰いなさい」
「わかりました」
一同の時間が止まったかのような状況の中
『カツカツ』とブーツの音を響かせて立ち去る
トイレの出口付近で胸に手を当ててヒイヒイと息を上げているクレイル教授が目に入った
本来、真っ先に駆けつけて対処しなければならない教授なのだがこんな様子では今後も役にたちそうもない。
「それで……何年生になったらニンニク料理を卒業してトロールをぶち殺せる方法を学べるのですか?」
闇に対する防衛術
危険生物の生息範囲?苦手な物質?戦闘になった時はニンニク料理を相手に振る舞う?全くもって反吐がでる