「うちは(宗教勧誘は)結構です!」
慌てて開けた扉を再び閉じて施錠する。その間僅か2秒!
我ながら良い判断が出来たと称賛したい。
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家に呼鈴があるにも関わらず
『コンコンコン』とノックでしつこく住人を呼び出そうとしているお客様。
「煩いなー」と悪態をつきつつ扉を開けたら其所には
ローブにマント、鎖のネックレスと指輪をジャラジャラさせたカマキリみたいな素敵なマダムが居たとさ。
そりゃー、戸を閉めるわ!
全力で閉めるわ!
明らかに怪しげな宗教勧誘か何に使うか分からない骨董品の押し売りか何かだろ!これ!
「帰れ!警察呼ぶぞ!」
施錠した扉越しに訪問者を追い返す為に声を張り上げて警告。
幼さの残る少女の声が廊下に反響したが周囲の住人の耳迄は、このやり取りが届くことは無いだろう。
ここはコークワース州。
工場が建ち並ぶ工業地帯。
そして私の家は騒音放つ工場の横!
仮に悲鳴を上げても騒音でかき消されてしまう。
警察へ電話?
携帯?固定電話?何それ?美味しいの?
貧困舐めるな!
客観的に見て面白い状況ではないが幸い扉は集合住宅特有の鉄製の少し丈夫な物。
扉を隔てた先に居る非力そうなカマキリではこじ開ける事は不可能だろう。30秒前の私、グットジョブだ!
あとは放置するなり、罵声を浴びせてお引き取りを願うなり選り取りみどり。
『ガチャ』
「おい!扉!何故開いた!?根性見せろ!」
思いの外、簡単に開いた扉を通り抜けて無断で侵入してくるカマキリ。
(あぁ…神様。明日から別の如何わしい神様を信仰する事になりそうです)
今まで1mmたりとも神を信仰したことは無いが、そう思わずにはいられなかった。
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「要するに、私は魔法使いで貴女は魔法学校に入学させるために案内に来たと?」
「その通りですわ。残念ですが拒否権はありませんの。」
この事が真実ならばそうなるでしょうね。
話によると魔法族は非魔法族から存在を認識させないように行動してきたそうだ。
新しく産まれた子供が起こした魔法事故を非魔法族に認知されないように揉み消すより、子供に教育を受けさせて育てる方が生産的な考えだ。
「仮に入学するとしても私にはお金がありませんよ?」
家の中には家電という家電が無く、酷く殺風景だ。
「在学中は奨学金がありますのでご安心を。」
「分かりました(このカマキリ帰る気配見せないし、暇潰しがてら騙されたつもりで)受けましょう」
それではこれを…と
手渡された手紙に目を通し、少女は顔をひきつらせた。
『ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、
最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員、日刊予言新聞マーリンの髭賞、チャーミング口髭賞』
「………やっぱり悪戯でしょ?」
価値の分からない聞き覚えの無い賞が鎮座している手紙に目眩を感じる。
大体なんだ?マーリンの髭賞って!
「大真面目ですの。」
「それはそれは『おったまげ~』で御座いますの。」
そして少女は考えることを止めた。
だからせめて愚痴の一つぐらい赦して欲しい。
「では、必要な教材を購入しに行きましょうか。」
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ロンドン パブ:漏れ鍋
『バチンッ!』
小さな破裂音と共に女性と少女の姿が現れる。
突然の出来事に一旦は客達の注目を集めたが次第に興味を無くし、手の止まった食事へと戻っていく。
「おや、トレローニー先生とは珍しい。今回は新入生の案内かい?」
「ええ、そうですの。たまには下界の様子を見ておかないと未来の観測に誤差が生まれますの。案内はそのついでですの。」
などと教授はバーテンのじいさんと話をしているが……私、現在進行形で吐きそうです。
姿現しという移動魔法らしいのだが
例えるのなら遊具の珈琲カップを調子にのって回しすぎた様な体幹を揺さぶる感覚で吐き気が込み上げてくる。
『バチンッ』
再び破裂音と共に人が現れる。
一斉に音の方へ視線を向ける客達。
明らかに異様な光景だった。
「どうしたんですの?」
「いつもはこんなことは無いんですがね。ほら、生き残った男の子がそろそろ顔を見せる頃かと皆首を長くしてまってるんですよ。だから……おおっと…これはいかん!お嬢ちゃんこれをお飲み。酔い止めだ」
ゲロ色の薬を出してすすめるバーテン。
「止めてください死んでしまいます「ほら、いいから飲むんだよ!」」
問答無用で流し込むバーテンのじいさん。貴様は鬼か!
でも酔いはさめたから感謝するぞじいさん!
薬の味?ゲロの味でした。
ゲロを吐かない為にゲロ味の薬を飲む……これ如何に!?
「大丈夫そうだな、長々と先生をひきとめるのも悪い。」
「では時間がある時にまたお邪魔しますの」
中庭を抜けてダイアゴン横丁へ
流石にこれを目撃したら魔法という存在を認めなければならないだろう。
店頭に並ぶものは空飛ぶ箒やドラゴンの眼球、ゴミ箱に廃棄された新聞も写真の人物が動いたりなど見たことの無いものばかり。
「不思議の国へようこそ……」
思わず口から言葉が漏れた。
制服、鍋、学用品を教授と手分けして買っていく
特に変わったことはないが気になる事が2つ程あったくらいか…
一つはオリバンダーの杖店
入店すると目に入ったのは積み重ね上げられた細長い箱の山。
その中で楽しそうに箱を漁る老人と、渡された杖をひたすら振り続けている茶髪の少女の姿だった。
「これも駄目か…ああ、いらっしゃい!其所に座っててくれ
お嬢ちゃん中々決まらないからって気を落とすな。必ずお前さんを待っている杖がある。」
そう言い残しスッと消える老人、歳の割には機敏だ。
「貴女の両親は魔法使い?」
待ち時間、店内を見回してると先程の少女が声をかけてきた。
「私は…「これはどうじゃ!栗に芯材はユニコーンの毛。23cm」」
割り込むオリバンダーを一瞥することなく杖を掴み振る少女
老人は振り下ろす前に奪い取り「これも駄目か」と再び杖の山の中に消えた。
「私の両親は非魔法族だからもしかすると私に合う杖なんて最初から無いんじゃないかって思ってしまうのよ……」
少女の横には試した杖の山が出来ており少女の茶色の瞳からはハイライトが消えている。
「大丈夫だよ。きっと…「ブドウにドラゴンの琴線27cm」…もう、何なのさ!」
オリバンダーのタイミングに悪意を感じてしまう。
少女が先程と同じ様に杖を取り振るうと前回と違い奪われる前に振り抜く事が出来ていた。杖の通った軌道が花火の様に煌めいている。
「素晴らしい、これに決まりの様じゃの」
先程の暗い表情とはうって変わって此方に抱きついて喜ぶ彼女。
うむ、良かった良かった。
「私ハーマイオーニー・グレンジャー。良かったら友達になってください!」
「ジェーン・ウィルソン。よろしく」
という勢い任せの流れでハーさんも私も魔法学校初の友達をゲットした訳です。
いや~若いっていいな~とシミジミ。
「私ね私ね、今まで魔法なんて存在しないって思ってたんだけど実際にこの目で見てビックリ。こんな素晴らしい世界を今まで知らずに過ごしてきたのかって思うと何か勿体無く感じて。幸いホグワーツに行くまでに時間があるから帰ってから教科書にじっくり目を通そうと思うの!だって代々魔法の家系の子とか既に魔法を使ってる子もいるんでしょ?それじゃ急いで予習しないと今の私では全然追い付けないかもって……とても心細かったの。私一人だけが授業に置いていかれるんじゃないかって。でも貴女がお友達になってくれたから一緒に分からない所を教え合いながら勉強出来るじゃない?それってとっても素晴らしい事だと思うの!だから今日貴女に会えて本当に良かったと思う!」
……お……おう……。
ちょっとハーさん落ち着こうか!?
今の息継ぎ無しで言い切ったよね!?
心なしか抱き寄せる腕の力が強まっていないですか?
目が血走っておりますよ!?
誰かヘルプ!
「ねぇ!ジェーンはもう教科書買って目を通してみた?私、変身術の…「さて、おまたせしたのう。次のお客さんどうぞ」」
オリバンダー爺……空気読めと思って悪かった!
グッドジョブだ!
「……あ~、私も長引くかも知れないし続きはホグワーツでゆっくりしよう?」
「でも……」
「私も魔法はさっぱりだからハーさんに授業内容聞くかもだし!ほらほら!時は金なり!善は急げっていうじゃん?」
「うん…そうね。今日はありがとう、次はホグワーツで会いましょう」
ハーさんの後ろ姿を見つめながら安堵の息が漏れたのは秘密だ。
「さてさて、きょうのご用件は杖の手入れ用品ですかな?」
「購入です」
「?」
「?」
杖を買ってもいないのにどうやって手入れしろというのだろうか?
首を傾げる私の顔をオリバンダー爺が覗き込む。
「おっと、失礼。人違いだった様じゃ。お客さんに似た少女が数ヵ月前にこの店に訪れての……その子と間違えてしまったようじゃ。ナナカマドにセントラルの尾毛24cm堅牢。鮮明に覚えておる。あの時は本当に店の中の杖を全部引き出す羽目になったの。それこそ先代が作った杖を出すほどに」
「それは気の毒に……」
店内に並ぶ物は勿論、店の奥に見える倉庫部屋の在庫まで試したのだろう、おそらく1日がかりで。
「まあ、物は試しだ。この杖を振ってみてくれ
胡桃にセントラルの尾毛、21cm。先の少女の杖の兄弟杖になるものだ。」
綺麗に加工されている木材の表面は滑らかで光沢を放っている。手に持ってみた感想は良く馴染んだ。
特になにも考えずに杖を一振り。
積み上げられていた杖の山が吹き飛びガラガラと崩れ落ちていく。
「ああああ!?ごめんなさい!」
大惨事だ『なんと言うことでしょう』と言いたくなるぐらい悪い方向にビフォーアフターしてしまった店内。
「大丈夫じゃよ」
杖を爺が一振りすると崩れた杖達が勝手に浮き上がり、元の位置に整列されていく。便利!
教授から貰った金で杖の代金を支払い店を後にした。
「不思議なことじゃ」と一人呟く爺を残して
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二つ目は些細な事だ。
教科書を買いにフローリシュ・ブロッツ書店に足を向けた時の出来事。
天井までギッシリ積み上げてある本の山から教科書を探している時に後ろから会話が聞こえた。
「お兄ちゃん今年入学なんでしょ!生き残った少年に会ったらサイン貰ってきてよ!」
「嫌だよ!そもそも同じ寮になるかわからないのに!」
微笑ましい兄妹喧嘩なのだが……
「生き残った少年ね~」
どんな人物かは意外とすぐに情報が手に入った
目を週刊誌のコーナーに向けると『生き残った少年ハリー・ポッター、ホグワーツに入学か!?』とデカデカと少年の顔写真の載った雑誌が販売されていたのだ。
ボロボロの眼鏡、額には稲妻の様な傷痕、自信無さげに微笑む少年の顔写真に少し同情する。
「有名人にプライベートなんて無さそうだしね」
彼も今年入学するそうだ。
「少なくとも今年は退屈せずに済みそうだ」
少女は一人、笑みを深めた。
胡桃:知識のある人と相性が良い、多岐にわたる魔術に適正があり使い手次第では最凶の杖になる可能性がある
ハーマイオーニー:マグルの学校でも孤立することが多い
杖が決まった喜びと勢いでジェーンに絡む。
寂しかった反動でジェーンの前ではポンコツに