「静かね・・・もう生徒は皆、競技場に行ったのかしら?」
静かになった校内。磨き上げられた床材の上をコツコツと2人分の足音だけが一致のリズムを奏でていく。
ジニーが先頭、私はその後を付いていく形で広い校内を早足で歩く。
「ねぇジニー、私とハーさんが図書館で話していた声って結構響いてた?」
「分からない、私今着たばかりだったし。」
そう、それじゃあ私達を呼びに行くためだけに
「ねぇジニー、最近体調が優れなかったみたいだけど、もう大丈夫なの?」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」
「そう?ってっきり体調が悪くてギリギリまで寮に居たのだと思ってたわ。」
だって
「ねぇジニー、もうすぐハリーの試合で急ぎたい気持ちも分かるけど、走っている所をフィルチさんに目撃されたら大事な試合の間、ミスターの事務所に監禁される事になるよ?」
「そうね・・・でも大丈夫。此処には誰も居ない。」
「でしょうね。だって此方側は競技場へ向かう道ではないもの。」
ブーツが石を叩く音から湿っぽい水気を帯びたものへと変わった・・・
進行方向には水道管を壊したのか大きな水溜りが出来ていた。
(その割には水面に波紋は無い・・まるで意図的に配管を壊して水を出した後に修理したみたいに?)
波のない水面は窓から差し込む日光を反射してまるで鏡のように廊下の天井を写していた。
「それじゃ、此処が終点って事なのね。そうでしょう?リドル」
「何故最初にフィルチさんを襲った?ってずっと気になってたんです。貴方にとっては他のマグル生まれの生徒を襲うよりもフィルチさんを狙う方が確実だったのでしょうね。だって、最初に切れる手札がそれしかなかったでしょ?」
仮に生徒の出自を知っている教員ならば
なんなら去年事件を起こせばダンブルドアの対処能力を上回る事ももしかしたら出来たかもしれない。
「不確かな情報で標的を決めざる得なかった・・・だって意思を持ったのが最近だったのだから・・」
「ご名答。ジェーン・・・いや、匿名さん」
小さく拍手をしながら振り返るジニーの姿をしたような他人。
その両目は硬く閉じられているのをジェーンが確認したのと同時に、後ろの空き部屋の扉が開いた気配を感じた。
「それで?私をどうするつもり?」
「勿論、この舞台から退場してもらう」
違う、そうじゃない
「今、均衡が保たれているのは秘密の部屋の怪物の正体が不明だからですよ?バジリスクだと感付かれたらたちまち討伐隊がこの学校に押し寄せて来るでしょうね・・・それで、私を絞め殺します?毒牙にかけますか?ヘビらしく丸呑みさせます?いえ・・身重になった図体では怪物が隠れるのには苦労しそうですね。それとも・・・あなた自身が魔法を使って私を殺します?」
きっと振り向けば赤い瞳があるのだろう・・・廊下を這う音、水が弾ける音、巨大な気配を背後に感じながらも相手の取れる手段を潰し、相手にとっての勝利条件を限定させていく。
「まさか、何も考えずに誘き出したってわけ?貴方・・・脳筋といわれたことない?」
背後からシューシューと低い声が目の前で向かい合う少女に話しかけている。
彼女が返答すれば即刻私は死ぬ事になるだろう。だが、そうはならない。
「此処は静かね、良く音が通る。もし、戦闘音が響けば誰が駆けつけてもおかしくはない。貴方は罠にかけたつもりだけど、随分分の悪い賭けに出たようね?」
杖を取り出しその場でステップを踏む。
足を下ろす度に水飛沫が弾ける。凪いだ水面に波紋を残していく。
「もう一つ貴方に悪い知らせよ。」
戦闘の気配を感じたのか杖を取り出すジニー。
実際にはクィディッチの試合で校内には誰も居ないのかもしれない。だが、可能性をチラつかせればそれだけで
そして、その結論を出す前に私から仕掛ける。戦いの主導権は
「私の魔法は前には飛ばない!」
担架を切ると同時に小声でディフィンドを唱える。ジニーを狙った杖先から光が漏れ魔法が射出される。
前方ではなく私めがけて・・・
(もう慣れたよ・・・)
最初からそうなると思っていて既に身体を背けていた・・・その横を眩い光が通過し鈍い音を奏でる。
のた打ち回り背後の扉や廊下の壁が破壊される音を聞きながら弾ける様に前方のジニーめがけて疾走をした
(そもそも挟撃と言えば聞こえはいいけど同士討ちは避けるべき)
バジリスクとの連携である以上どちらかが目を閉じなければならない。最大火力を叩き出せない。つまり、無防備な状態で対峙しないといけない訳だ。
ジニーの口から人の言葉ではない音が出た後、少女の目が開かれた。
杖を疾走するジェーンに向ける
(盾の呪文かしら?それとも、自慢げに語っていた死の呪文?どちらにせよ・・・もう遅い)
先に杖を振り、呪文を唱え始めていたジニーの身体に衝撃が走った。
「私は近距離しか魔法が当たらないの。でも、相手を害するだけならわざわざ杖を振り回す必要なんてあるのかしら?」
少女の鳩尾に深く打ち込まれた肘。鈍く何かが折れた音が伝わる。
吐瀉物がジェーン肩にぶちまけられるが構うことなく、一連の動作のように流れるように次の打撃へと移行する。
くの字に折れ曲がったジニーの身体。救い上げるように下から掌底をジニーの顎に添え、ジェーンは更に踏み込みこんだ。
そのままジニーの背後に身体を滑り込ませながら、掌を振りぬく。
ジェーンの足を軸に一回転。そのまま地面に叩きつけられるジニーの復帰を待つことなく私は廊下の窓へと駆け寄った。
城の2階。飛び降りれば怪我は免れない。運が悪ければ死亡する。
(だけど、この場にいるよりはマシよ)
そもそも私の勝利条件は生き延びて情報を教師陣に報告する事。
術をぶつけ合う決闘など付き合う道理もない。
窓枠に手を掛け一気に引き上げようとした瞬間だった。
低い『シュルシュル』という音の後に続けて『ルーモス(光よ)』と詠唱を聞いた。
直視できないような強烈な光。
太陽の光を押しのけて廊下を照らし出した光は、廊下の水溜まりを・・・ジェーンの握る窓を鏡のように映し出していた。
・・・・その中に写る瞳孔が縦に割れた黄色い瞳が一つ
「・・・やられた」
片目から血を流し、此方を反射した窓越しに睨みつけるバジリスク。
廊下に倒れこみながら光を放つ杖を掲げるジニー
そして窓に映る、半笑いで『してやられた』というような表情をしている自身の顔を最後に私の意識は途絶えた。
ーーーー
「ロックハート先生、これをどう見る?」
「そうですね・・・私の見解では犯人は複数居ると見て間違いないでしょう。競技場へと向かう通路で2人、反対側の通路で1人の女子生徒が犠牲になったのですから。僅かな時間に2箇所。大胆な犯行といっても過言ではありません」
「手がかりはどうじゃ?」
「今回も同様に・・・しかし、御安心下さい。このロックハートは怪物の正体を掴みつつあります!」
「そうか・・・期待しておるぞ」
ーーーー
授業以外は寮から出歩く事を禁止され
月明かりが窓から差し込む廊下。時折、音も無くゴーストが巡回だけの静かな空間。
廊下に四つん這いになって何かを探す男が一人。
男は良く『年老いた老犬』や『ハイエナ』と例えられていた。実際、今の姿を見たものは犬が廊下の匂いを嗅いでいるとしか思わないだろう。
「何か手がかりは見つかりましたか?」
その男に向けて私は声をかける。
「ええ、今回は奮闘したのか痕跡が至る所にのこっているようでね」
「よければ手がかりをお聞きしても?」
男は床に頭を付け土下座のような体勢をとっており、顔だけ横に向け会話に付き合ってやってるといった感じだった。
「わたしゃ、お前さんに情報を提供する利点なんぞ何一つ思い浮かびませんがね?」
「そうですか、それは残念です。ところで・・・貴方がしたいのは犯人探し
男は地面に這いつくばったまま会話を続ける。
やがて、何かを見つけたのか『ニィ』と効果音が付きそうなくらい口元を綻ばせた。
「そりゃぁ先生方は一体何が言いたいんで?」
「生徒からは馬鹿にされ、邪険にされながらも職務を全うしてきた。それなのにぽっと出の輩に『出来損ないは不要』とレッテルを貼られたのはさぞかし不満でしょう。もう一度聞きます、貴方がしたいのは犯人を見つけ出す事だけなのです?その、コートのポケットに入っている物は一体何に使うつもりなんですか?」
「わたしゃ非力なスクイブなんでね。怪物が出たらひとたまりもないもんで」
「それは結構・・・さて、本題に入りますか。取引をしましょう?なに、悪いようにはしませんよ。私は事件を解決できて貴方は敵を討てる。お互いWinWinの関係です」
これまで馬鹿にされてきた。そして、継承者が目指す未来にも自分の居場所は無い。
自身の大切な存在を守れない非力な弱者とあざ笑う糞餓鬼。
やられっぱなしで「はい、そうですか」と納得できるわけでもない。
(復讐は蜜より甘い・・・よく言ったものですね)
立ち上がる老犬。ただし・・・目だけはまるで獲物を見つけた猟犬のようにギラギラと輝いていた。
「おまえさんは何を望む?」
「我々は個にして群れ。群れにして個・・・・私の望むものは魔法と非魔法のハーモニーです。だから・・・」
「秩序を破壊する者。力を持ち過ぎた者・・・それらは、この世界には・・・・不要なんですよ」
週刊魔女のチャーミングスマイル賞を5回連続で受賞した満面の笑顔で彼に告げた
バジリスクとの戦闘後、辺りの痕跡を消してハーマイオニーを狙いに(ただし、破壊の範囲が大きくて完全には修復復元は出来なかったもよう
イラストいただきました!(n‘∀‘)η
【挿絵表示】
*城の2階って具体的になんメートル!?