鏡の中のアリス   作:ブルーな雛菊

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ーー貴方は愛を知らないと言います
ーー貴方は自身の力を絶対なものとして他者を信頼する事はなかった
ーー貴方は理解をするべきでした
支えてくれる者達の献身を、共に歩を進める同士達の信頼を

ーーだから貴方は手にしたソレにも気づくこともなくすべてを失ったのです


数えきれない感傷と忘却の夜に

「さてさて、蛇というものは厄介なものですね。瞼が無いので視線が切れる事が無い。バジリスクの生態がどのような物かまでは知りませんが、ピット器官の様に赤外線で動物を認識する事が出来るかもしれませんね。今回は配置について、情報を聞き出すだけ聞きだした後にフラッシュバン(閃光手榴弾)を投げ込んで突入しましょう。奇襲?敵の予期しない時期・場所・方法により組織的な攻撃を加えることにより、敵を混乱させて反撃の猶予を与えない攻撃方法の事を奇襲と言います。正面火力は此方が上ですよ、これから行うのは強襲です。」

 

「凄まじい熱と爆音、瞼が無い以上、網膜に光が一時的に焼き付き、ピット器官も熱により麻痺させる。貴方は適当に頭部へ向けてバックショットを見舞ってください。目を潰した後は貴方に任せます。先に進んでるハリーポッター?170-180デシベルの爆発音と15メートルの範囲で100万カンデラ以上の閃光を無防備な状態で受ける事になりますね・・方向感覚の喪失や見当識の失調を起こすことになりますが非致死性兵器です。些細な巻き添えですよ。」

 

フィルチは苦笑いを押し殺す。敵対者が例えホグワーツの生徒であろうと弁解の余地をも与えない、殺した後に死体に尋問するのか?と言いたくなるような徹底ぶり。

奥から「シューシュー」と蛇の発する様な音が聞こえ正面の大蛇が動き始めたのを確認し、フィルチと反対側の石柱の影に身を隠していたロックハートがハンドサインで突入の合図をした。

 

ピンを抜きバジリスクの足元にM84スタングレネードが投げ込まれた。

 

(我々への知識が少しでもあるなら寧ろ降伏を選んだろうに…)

 

お互い向かい合って早撃ちをするような時代は遥か昔に通りすぎた。

魔法使い達が思っているよりも苛烈に、血生臭い歴史の中、研鑽された兵器達はやがてより遠くの敵を、より正確に相手の息の根を止める事すら可能にした。

 

突如現れたソレにハリーを襲おうとしていた大蛇、その様子を見て楽しんでいたリドルの視線を集める。

見慣れない物体を注視される中、ソレは強烈な音と光を伴って炸裂した。

 

間髪入れずに柱の陰から身を乗り出しながら散弾銃を大蛇の頭部目掛けて弾が切れるまで乱射を行うフィルチ。

 

どんなに熟練した魔法戦士が早口で唱える呪文よりも早く引き金を引き、一度の射撃で目視する事は不可能な音速を超えて飛来する弾丸を複数ばら蒔くソレは、まさしく暴力と言っても過言ではないだろう。

 

 

ーーー

 

「いったい何が・・・!?」

強烈な光に視力を奪われたリドルは腕で目を庇いながら杖を無茶苦茶に向けて呪いを放っていた。

直後、腹部襲う衝撃。吹き飛ばされる肢体。暫く痛みにのたうちながら石柱の陰に隠れ何が起こっているのか把握と、視力の回復に努めた。

 

「女子トイレの配管はお気に召さなかった?ここも大して変わりないでしょうに・・・」

「いったい何をした!?」

 

自らの杖をクルクルと廻して遊ぶ教師へと怒鳴り声を上げるが気にする様子もない。

「バジリスク!この男を殺せ!!」

 

「無駄ですよ。相手を捕捉する器官を一時的に焼かれて身動きが取れなくなった所に立て続けに9.14mmのペレットを8粒、頭部へ向けて放たれ続けたのですから…」

 

元々鹿などの中型動物狩猟用の散弾だ。散弾の特性を生かし眼球を直接見ることなく破壊したフィルチ。

その後に何が待っているかなど言うまでもない。

 

リドルは舌打ちをしながらロックハートへと無言で呪いを放つ、それを当然の様に反対呪文で打ち消す教師。

 

(話が違う)

ジニーが日記に記した決闘クラブでの無様な一幕。スネイプ相手に無駄な動き、出鱈目な呪文を放とうとしてあっさりと吹き飛ばされた教師と目の前に佇み、平然と命のやり取りを行う人間が同じとは到底思えなかった。

 

「君は自身の敵はダンブルドアだけだと考えたのでしょう。だから、その計画も常に敵を意識し重点的に対処した物となった・・・」

無言で放たれ続ける魔法、時には反対呪文で打ち消し、時に盾の呪文で弾き返す。

最小限の動きで突き出された杖から無言で放たれる呪い。『フリペンド(撃て)』学生同士の決闘では相手を吹き飛ばす程度だが過剰に込められた魔力は当たったら最後、大口径の銃弾に撃たれたような大穴を残すことになる。

 

リドルはそれを対抗呪文で弾き飛ばし、許されざる呪文・・・死の魔法を敵対者へと放つ。

反対呪文が存在しない絶対の呪文であり、盾の呪文も通用せず防御不可能。

受けたら最後、これまで一部の例外を除いて数多の命を摘み取ってきた呪文だ、直撃しないように逃げ回るのがこれまでの定石にも関わらず、ロックハートが呪いを避けるには遅すぎた。

直撃コースを進む緑色の閃光を見てリドルは薄く笑みを漏らした。

・・・ロックハートが同じように緑色の閃光を杖から放ち、空中で衝突させ打ち消すまでだが。

 

「いったい何をした!?」

「最も強力な防御呪文が盾の呪文であり、もっとも強力な攻撃呪文が死の呪文ならば対抗する事は出来ないでしょう。簡単な事です、防御力2の盾で攻撃力4の鉾は防げれない。ならば、同じ質量の(呪文)をぶつければいい。」

 

確かに理論では可能だろう。だが、一歩間違えたら自身が死亡する状況で、涼しい顔をして当然の様に許されざる呪文を打ち落とす人間が居るのだろうか?

例えるならばプロの野球選手が投げた速球を、自身が投げた球を空中でぶつけて弾く様なことをしているのだ。

「・・・・狂人め!」

 

「確かに君の目論見通りダンブルドアに嗅ぎ付けられることなく排除できた・・・いえ、あの人は案外分かったうえで罠に乗ったのかもしれませんね。ただ、君にとって誤算だったのは・・・」

ーーー相手のキングを打ち取ったのにゲームが終わらないと気づいたことでしょうか?ーーー

 

ホグワーツ内。互いに姿くらましを多用した高速戦闘は行えず、正面からの殴り合いは続く。

空中で飛び散る緑色の残光。その光に触れれば命までは届かないにしろ、意識を刈り取るには十分な威力がある。

気にすることもなく呪いを打ち落としながら一歩ずつリドルの方へ歩を進めるロックハートにリドルは自然と後退をした。

 

「君はうまくやった。魔法省が怪物の正体に気づき学校に乗り込む事もない、誰一人としてジニーが継承者と気づかれる事無く幾度となく襲撃を行った。だが、見落としている事がある・・・そう思いませんか?相手が立て直す間もなく打撃を与える電撃戦は有用な手段です。過去に君は魔法省相手にそれを行い多大な戦果を残したこともある。ですが、思い返してみてください・・」

ーーー過去に成功させた時と同じ戦力を君は持っていますか?君の体は君のものですか?ーーーー

 

「人質はね・・・生きているからこそ価値があるんですよ」

ロックハートが放った緑色の閃光がリドルから離れた位置に向けて・・・横たわるジニーに向けて進むのがスローモーションのようにその目に映った。とっさに自身も死の呪文をぶつけて相殺する。

 

「復活の為に緻密に組まれた計画、もしそれが術中に宿主の死亡という形で幕が落ちたら残された君はどうなるのでしょう?不完全な形で復活となるのでしょうか?それとも宿主と共に消滅するのでしょうか?どちらにしろ・・・誰も知りえない事です。なにせ前例が無いのですから。とっさにジニーを庇ったのはそういう事なのでしょう?」

 

「ジニーー!!ロックハート!お前なんてことをしてるんだ!!」

リドルと相対するロックハート、視覚障害から回復したハリーの絶叫

 

「おやおや、これではまるで私が悪役ではないですか?襲撃を行った実行犯の小娘の命と、復活したら最後何百、何千もの命が犠牲になると分かってる暴君の命を天秤にかけているのですよ?考えるまでもないでしょう・・・」

 

ロックハートが杖を一振りするたびに苛烈になっていく攻撃・・正面からは緑の閃光、リドルやジニーの足もとからは石のスパイクが突き出し、天井から滴る多数の水滴は鋭利なツララとなって2人へと降り注ぐ。

「君は実にうまくやった。だが、自らの状況を考えずに各方面へ喧嘩を売りすぎましたね?何より、私がこの学校に居たのがあなたの運の尽きです」

 

蔑み嘲笑う言葉とは裏腹に、まるでガラス細工の様な感情の籠っていない透き通ったロックハートの瞳にリドルはダンブルドアと相対した時の様な薄ら寒い何かを感じた。

 

 

 

ーーーーーー

バジリスクを見ないように目を閉じていたのが幸いしたのか目を焼くような閃光の影響は他のものと比べて軽微なものとなった

しかし、敏感になってた聴覚を吹き飛ばす様な轟音を防ぐことはハリーには叶わなかった。意識が飛ぶとは違う放心状態

回復したハリーが目にしたのは片側の頭部を損傷して、のた打ち回る大蛇の姿とプラスチック製のショットシェルをローディングポートからチューブマガジンに送り込むフィルチの姿だった。

 

(もう片目も失明してる・・・)

銃弾を受けてない側頭部、もう片方の眼球がある位置にはまるで古傷の様に光を灯していない抉れた目があった。

フィルチは過去の戦闘の痕跡から大蛇が負傷したのは把握していたが、その箇所が目であると・・つまり現在両目とも失明していると把握するとこれを好機と散弾銃に装填する弾薬を大型狩猟用のスラグ弾へと弾種を変更する。

 

熊すら沈黙させる威力をもつ親指大の鉛玉。

その弾頭は着弾と同時に体内で変形し弾頭の持つ運動エネルギーを余すことなく対象に伝える。

装填が完了すると同時にバジリスクの巨大な体躯に連続的に弾を吐き出す散弾銃。

 

半開きとなったバジリスクの口内にピンを引き抜いた後の()()を投げ込み、呆然とバジリスクとの戦闘を見守るしかなかったハリーを引きずって柱の陰に身を隠すフィルチ。

「ホグワーツではマグルが使うような機械は使えないんだ!」

ハリーが慌ててフィルチに伝える

 

「勉強不足だ坊主。ピンを抜く事で発火レバーが跳ね上がる、ばね付きの撃鉄が信管にぶつかり薬品ヒューズに火が付く、やがて起爆装置が発動し爆轟が起こる。形は違えど昔と何ら変わりない」

 

投げ込まれて5秒。爆発時5メートル範囲以内の人間は致命傷を受け、15メートル範囲に殺傷能力のある破片が飛散する手榴弾が体内でば爆発したのだ。

飛び散る臓物。辺り一面に真っ赤なペンキをぶちまけてスリザリンの蛇と恐れられた大蛇はあっけなく生命の幕を下ろした。

 

「これの何所に精密機械が含まれてるんだい?ええ?」

 

ハリーにとってウザったいフィルチが頼もしく感じたのは後にも先にも今日が最初で最後だろう。

 

「小僧、今から継承者とやらをぶち殺しに行くが邪魔をするなら・・今この場で鉛玉をぶち込んでやることになる・・言いたいことはわかるな?」

血走った眼で睨むフィルチに対してハリーには選択肢などなかった。

コクコクと頷くハリーの姿を見たフィルチは満足げに足を引きずりながら今も尚、戦闘を続けているロックハートの元へ向かった。

 

ーーー

 

「待たせたな。」

「まったくですよ!襲撃犯を〆るのを手伝うという契約でしたが、これ以上待たせられるのなら私がやっちゃうところでしたよ!」

 

ロックハートの背後で銃を構えるフィルチを鼻で笑うリドル。

マグル同然の出来損ないが一人増えたところで何も変わりない・・・とでも思ってるんでしょうね。

 

ロックハートの動作だけ注意深く観察するリドルに対しフィルチの散弾銃から鉛玉が放たれるが、しっかりと照準を付けられていたにも関わらず銃弾は逸れてリドルの足元に着弾した。

最初から眼中にないと無視されていたフィルチは構うことなく次弾を装填する。

 

「マグルの兵器は魔法使いには通用しない。弾避けの呪文や盾の呪文を()()()()()展開している事で弾丸がその身に届くことはない。それでは、もしも他の魔法使いによって()()()()()()()()()()どうなるのでしょう?」

ロックハートが杖を一振りした直後にフィルチの散弾銃が火を噴いた。

 

「有利な状況で遊びたいのは分かりますが、今度は当ててくださいね?」

 

リドルの頭部の真横を掠めるように通過した弾頭は、リドルの髪の毛数本と頬にうっすらと赤い筋を残した。

 

如何ですか?魔術と非魔法のハーモニーは?

 

ロックハートが防御を崩し、フィルチによって狙われたら最後、回避することなど出来る筈のない銃撃がリドルを襲う。

 

盾の呪文には死の魔法を、弾避けの呪文には反対魔法で打消しを。

逃げ回ろうとすれば横たわるジニーに銃弾と死の魔法が殺到する。

リドルに残されたのは地面の石板を隆起、肥大化させて身を隠す程度だ。

 

「君は自身の力を過信しすぎた。自身の身体でもないのに過去の経験を基準に計画をたてて実行した。」

 

・・・余裕なんて無かったのでしょう?だから肝心な事を見落とす。

 

「アクシオ(来い)」

 

リドルにとって背後から自身の上を通り過ぎ、ロックハートへと向かう黒い物体が何なのか見当がつかなかった。

ソレが自身の魂を封じ込めていた日記だと気づいたのはロックハートがそれをキャッチしようとする寸前。

 

「アバダ・ケダブラ(息絶えよ)」

石柱から身を乗り出し死の魔法を放つリドル。

身を翻し、倒れこむように緑の閃光を避けるロックハート。

黒色の日記は呼び寄せ魔法の誘導が術者に辿り着く前に切れた影響で、予定地点よりも遥か後ろに落下し滑る。

バジリスクの死体の近く、戦況を見守っていたハリーの足元近くへと。

 

「詰みです」

ハリーは無造作に拾い上げたバジリスクの毒牙を日記へと突き立てた。

 

 




胸からどす黒いインクを垂れ流し絶叫するリドル。
何度も日記にバジリスクの毒牙を一心不乱に突き立て続けるハリー。

「誰もが明日がくれば明日を求めてしまうように・・・」
対照的に静かに佇み、リドルにしか聞こえない声量で静かに語り掛ける教師

「変わらずに続くと信じてやまない日常は、案外あっけなく終わりを告げるものなんです。ここは皆が思い描き、そして捨てられた夢の上」
「きっとこれは悲しい戯曲なの・・・君もそうなの?」

回答はない
血のように大量のインクを残してリドルは消滅した
ハリーが思い出したようにロックハートの横を通り過ぎ、ジニーの安否を確認する。

「結局、君たちにとっては敵を倒した・・でしかないのでしょうね」

仲間が殺され怒り狂い、敵を殺しはしゃぎ喜ぶ。
戦うという事の結末を知ろうとしない子供達・・だけど、今はそれでいいのかもしれない
己に課せられた責務、背負わされる命の重み。
一度入り込めば抜け出す事の出来ない英雄という名の檻
それは、君を飼い殺す鉄格子……
「ここに来ちゃいけない」
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