長くなりそうだったので分割投稿
清潔感のある白の多い室内。
ベットを囲むようにカーテンが掛けられており、見舞いに来たであろう生徒達の声や保護者の声と思われる聞きなれない声が微かに私の耳に届いてくる。
横たわったまま、ぼんやりと腕を天井へ伸ばし緩やかに指を拡げる…
──私はまだ、生きているの?
ほとんど首なしニックの様なゴーストみたいに自身の体が半透明になっていない事を確認。
状況から察するに石化してしまい医務室に運ばれたのだろう。
最後の記憶は、バジリスクを率いるジニーとの対決。
「それで?先生がここにいるという事は、襲撃犯を目撃していないか確かめに来たという事でしょうか?」
ベット横に置かれた椅子に腰かけ、ニコニコと此方の様子を伺う老人へと問いかける。
秘密の部屋の怪物の正体はバジリスク。自称、継承者の正体はジニー。
知り合いの家族が犯人だと判明して、先生に伝えるべきか一瞬迷う・・・
きっと犯人が分かれば、どんな形であれ、この老人は数刻もしないうちに混沌とした事態に終止符を打つ事が出来るだろうとジェーンは確信していた。
「どうやら現在と君の中で流れる時間に相違がある様だ。まずは現状を説明しようかのぅ。まず一つ目、君が襲撃者と死闘を繰り広げた日から3カ月程経過しておる。2つ目、秘密の部屋は場所を特定され、継承者及びスリザリンの蛇は既に討伐済じゃ。」
「そう・・・ですか・・・。他に犠牲になった人はいますか?」
静かに首を振る老人
「ハリーは骨折、被害にあったMsジネブラは疲労が貯まっておったが命に別状はなく、先週ここを退院しておるよ。つまり、継承者こと『トム・リドル』の手によって起こされた今回の事件での死亡者は0名という事じゃ。」
まるでジニーは被害者であって今回の襲撃事件に関与していない、という風な言い方に違和感を感じた。
「そういう事になったのですね・・・」
「左様。」
「・・・・先生がここに来た理由をお聞きしても?」
「なに、君が眠っている間に起った事を話しておこうと思っての。ただ、それだけの事じゃ。」
ーーーーーーーー
銃声や魔法の撃ち合い弾ける音は無く、先程までの喧騒も嘘の様に感じてしまうような静寂。
バシリクスの折れた牙を日記に突き立てたまま周りを見渡すハリー。
普段の学生生活とはかけ離れた現状。
掛け値無しの殺しあい。
それらを目の前にして、ハリーは『現実味を帯びない、まるで夢を見ていたかのような感覚』と、それまでの出来事がまるで他人事の様に感じてしまっていた。
視界に写る、床に広がったインク溜まり。
銃と杖を向けるフィルチとロックハートがゆっくりと構えを解くと同時にハリーは現実の世界へと意識を戻した。
「ジニー!!」
まるで『此処には用はない』とばかりに鼻を鳴らして来た道を引き返すフィルチの横を通り抜け、興味深げにジニーとハリーの様子を伺うロックハートの視線を躱し、ジニーの元へと駆け寄る。
リドルとの戦闘の前にジニーを見た時とは違う。
血の気がなく、まるで人形の様に感じられていた顔色は、かつて夏休みに合った時のように健康的な肌の色に戻り、しっかりとした呼吸、服越しでも感じられる体温を確認して安堵の息を溢した。
「ジニー!起きて!ジニー!!」
ハリーは少女の肩を持って揺さぶり、声を掛けるが返事はない。
リドルを倒した事により、ジニーへの呪いは解かれた筈。
目を覚まさないのは疲労?
それともリドルの言う強力な闇の儀式を、術者を殺すという形で妨害した影響なのか?
リドルとの戦闘の前にジニーの状況を『魂を奪い、自身の魂で上書きした』と言っていた。
そして、ロックハートは『間違いの許されない緻密な儀式、失敗したらどうなるか分からない』とも。
「ジニー!」
激しく揺さぶる。
このまま目を覚まさないのではないか?と最悪の結末が脳裏を過り、焦りが募っていく。
「先生!ジニーが目を覚まさない!」
一向に反応を示さないジニー。
半ば半狂乱になりつつあるハリーは其処にいる筈のロックハートへと助けを求め、視線を上げた。
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「それで、ロックハート先生がハリーとジニーに向けて魔法を放ったと?」
「左様。その場にいた者の話を信じるならば・・・つまり、ハリーの証言を信じるならばロックハート先生がハリー達を襲ったという事になる。そして、儂はハリーに絶対の信頼をおいておる。」
ハリーが見たものは、杖を掲げ、今にも魔法をハリー達目掛けて放とうとしているロックハートの姿。
ハリーはジニーを抱いたまま、転がるように放たれた呪文を避けた後、ハリーVSロックハートの一騎打ちをしたと・・・突拍子の無い話をダンブルドアの口から聞き、ジェーンは開いた口が塞がらなかった。
「何故?だって彼は、後に闇の帝王となる様な実力ある闇の魔法使いと互角に戦い、打ち勝ったのでしょう?無様な戦い方をして、目撃者のハリーに真実をばらされては困るってわけではない筈です!」
信じられるはずも無い。全てが終わったと思った矢先にハリー達の口封じをしようとしたなんて。武勇伝にするには十分な成果があり、凶行を行う動機がロックハートには無い筈なのだ。
「彼は勇敢に戦った。」
声を荒げるジェーンをよそに、まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせるようにゆっくりと、確かな声でダンブルドアは真実を伝える。
「彼は勇敢だった。この学校の誰もが想像する以上に・・・問題だったのは、その過程だと儂は考えておる・・・つまり、いかなる場合でも人を対象として放ってはならない魔法・・『禁じられた魔法』を使用したという事実をハリーの記憶から消そうと考えたのかもしれぬ。」
「ですが!相手は名前を言ってはいけないあの「禁じられた魔法・・・すなわち、最も恐れられている死の呪文を含む3つの魔法の事じゃ。」」
「・・・魔法使いにとって『杖』とは便利な道具なのだ。人々の生活を支える一方で、使い方を誤れば人々を傷つける『武器』にもなる。君達の学ぶ『闇に対する防衛術』は如何に『武器』を使わずに自身の身を守るか?という事に重点を置いた学科なのだ。・・・・彼は間違ってしまったのだよ、使い方を・・・」
料理中、包丁を落としてしまい隣に立っていた友人を傷つけてしまう『事故』。
ライフルのボルトを引き、弾薬を薬室に装填、狙いをつけて引き金を引く『殺人』。
禁じられた魔法を使用するのと、その他の魔法で人を傷つけるのでは明白な違いがあるのだと老人は話す。
「例え、かの者の復活を止めるためだとしても・・・あ奴の中では刑務所に送られる確率は五分五分と見たのじゃろう。」
ましては大戦を生き抜いた戦士。自身の活躍で刑務所に送られた魔法使いも数知れず・・・きっとその場に自身が赴くことになるという事は、さぞかし恐怖だったに違いない。
「・・・・それで、ハリーは無事だったという事は先生に勝ったという事なのでしょうか?」
「左様、格下と油断していたのかもしれぬ。ハリーとロックハートが放った呪文が空中でぶつかり合い、混ざり合った物をハリーがロックハートへと押し返したようじゃ。」
話を聞いているだけで疲れが貯まる様な内容に、ジェーンは無意識に目頭を押さえた。
その後、これまでの記憶が一切無いロックハートにジニーを背負わせて秘密の部屋の入口まで。
ハリーとロンの姿が見えない事に気づいたマクゴナガル教授が、他の先生と共に学校中を探し回り、ハリー達を発見、保護。
これが一連の出来事らしい。
「この事は一体何所まで公表したのですか?」
「トム・リドルが学校に侵入。秘密の部屋を開放して、怪物に生徒を襲わせた。ハリーがリドル及びバジリスクを討伐した・・・までじゃ。」
「確かに嘘ではないですね。」
「全て真実じゃよ」
穴だらけの真実。
足りないパズルのピースを人々は自身で『その日、何があったか』を考えて無理やり種類の違うパズルに似たようなピースをはめ込んでいく・・
その結果できるのは
「似て非なる物・・・」
「嘘は言っておらぬよ」
人から聞いたものは疑うべき。
しかし、自身の体験した物。自身の導き出した答えは誰しもが信じて疑わない。
だってそうでしょ?穴だらけの真実の中で、自身の納得できる答えを自分自身の手で導き出したのだから。
「つまり、ジニーは襲撃とは無関係。ロックハートは激しい戦闘の末に負傷して記憶喪失に・・という認識でいいのですね?」
「実際に襲撃を受けた君に、容認しろと言うには心苦しいがね。」
苦笑いしながら目を閉じる老人に、ジェーンはため息をつきながら半目になった。
「まったく・・・目が覚めたら殴り返す予定の相手がいなくなってるというのも考え物ですね。」
慰謝料で済む分はいい。今回私が失ったのは石化している間の『時間』と本来得る筈だった『知識』。
「君はいつも時間に追われているからの~」
ほれ。っとダンブルドアは手に持った物をベットに座るジェーンへと投げ渡す。
「懐中時計?しかも壊れていないですか?」
1から12までの文字盤が反時計回りに順に刻まれており、秒針は『カチカチ』と同じ場所に留まり時間を刻んでいる。
正直言って使い方が分からない。
「時には時間を忘れる事も重要なのじゃよ」
と言う老人に、首を傾げるしかできなかった。
さて、そろそろマダム・ポンフリーに追い出されてしまう。と腰を上げるダンブルドア
「最後に一つ。」
「今年、ハリー達と距離を置いていたそうだが・・・答えは見つかったかね?」
「・・・・・」
新年度早々、喧嘩別れ。
距離を置けばトラブルに巻き込まれないかと聞かれれば、そんな事もなく。
気が付けば
当然、準備無くしてしのげるはずも無く・・・それならば寧ろ
「どうせ巻き込まれるのなら、予兆が分かるだけ近くにいた方が平和・・・かもしれませんね。」
それだけではないだろう?
老人の優しげな青い瞳がジェーンの視線と重なりあう。
────言わせないでよ
今さら寂しかった等と白状する気にはなれず、ジェーンは大きく顔を背けた。