夢を見ていた。
ジニーを抱えながらロックハートを睨むハリー。
これは過去の出来事の焼きまわし。バジリスクは死に、継承者ももういない。ジニーは目を覚ましていないが生きている。
全て終わった。その筈だった。
「一体何のつもりだ!」
襲撃者に杖を向けながら、ジニーを引きずって柱の陰まで向かい、ロックハートから隠れるようにジニーを横たえるハリー。
対照的にニコニコと2人の姿を目で追いながらも見送るロックハートの姿はこれまで対峙してきた何よりも不気味で恐ろしいとハリーは感じていた。
襲撃者のロックハート。
攻撃を受けたハリーとジニー。
そして、彼らとは違い離れた位置から物語を
(この後、話す事もなく魔法を打ち合い僕が勝利した・・・)
「ハリー・ポッター。何も終わっていないんですよ。」
しかし、夢の中では実際に起こった事とは別の物語へと変化していくようだった。
身を隠す事もせず部屋の中央に陣取り、掌の上でクルクルと杖を弄びながらロックハートはハリーへと対話する。
「ハリー。今回の襲撃で何人が犠牲になったかご存知ですか?」
ミセス・ノリス
ジャスティン・フィンチ=フレッチリー
ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿
コリン・クリービー
ジェーン・ウィルソン
ハーマイオニー・グレンジャー
ジネブラ・モリー・ウィーズリー
「これらの者は本来、命を失っていても不思議ではありませんでした。」
「さて、トム・リドルが君と戦う前に話した事を覚えていますか?」
ーーーー「ジニーのおチビさんの魂を僕の魂で上書きをし始めたのさ」
種明かしの様に自慢げに話すリドルの顔がよぎる。何か重大な事を見落としている。胸騒ぎの様な感覚がハリーの中で大きくなっていく。
「私は言ったはずです。緻密に組まれた儀式をぶち壊したらどの様な影響を及ぼすか分からないと。私達は彼を倒しました。では、これまでに上書きされた魂は元通りに戻るのでしょうか?それとも彼女の中に上書きされたまま残っているのでしょうか?」
「(そんなの!・・・・そんなの、ジニーが目を覚まさないと分からない事だろう!)」
夢を見ているハリーと同じように夢の中の
「ええ、その通りです。そして、目を覚ましても、きっと気づくことは出来ないでしょう」
ーーー今年、7人が犯人を突き止める前に襲撃に会いました。
友人が、教師が、家族が、近くに居たにもかかわらず、誰にも気づかれる事無く丸一年、正体を隠しながら襲撃を行いました。
「行き当たりばったりのずさんな計画ですら我々は止める事は出来なかった。」
では、長期間潜伏し、少女の皮を被って徐々に力を蓄えながら復活を目指していたのならば・・・・我々は彼女の異変に気付くことが出来たのでしょうか?彼女を止める事を出来たのでしょうか?
「次は何人が犠牲になります?7人で済むなんて考えていないでしょう?何百人?何千人?その時、自身の友人の死体の前で遺族に何て話しますか?『本当は秘密の部屋で終わらせる事が出来た。未然に防げる犠牲でした』といいますか?仮に気付く事が出来たとして……君は彼女を執行機関に引き渡すことが出来ますか?」
ーーー混じった彼女は永久に隔離されると分かっているのに?
ーーー社会の危険分子は処分されると知っているのに?
「君は泣きながら命乞いする少女を払いのけ、公正に裁くことが出来ますか?」
ーーーどうせ君は、決断する時になっても『今はその時ではない』などと言って問題を先延ばしにするだけでしょう?
選択すると見せかけて結果を見ることから逃げている。だからこそ、何も得ることが出来ない、何も守れない。
(こんなの知らない・・・こんな展開などなかった!)
ハリーの隙をついて奇襲を仕掛けたロックハート。その攻撃を躱して、間一髪のところで放たれた魔法を打ち返した・・・それがハリーの体験した全てであった。
なのにこの夢は・・・既に今見ているモノはハリーの知る内容とはかけ離れたものとなっていた。
「安心してください。今回は君の代わりに私がその責を負いましょう」
今なら終わらせる事が出来る。
継承者を倒したが連れ去られた少女は手遅れだったと偽れる。
そう諭す教師
……だけど
「そんなの間違っている!「正しい、正しくないではないのですよハリー。君は何人の命を危険に晒すつもりですか!戦争になればこの程度では「今は戦争なんかじゃない!」」」
「ハリーハリーハリー。こんなにショックを受けたことは、これまでになかったと思うくらいに。君が何故、不合理な判断をしてしまった私にはわかりますよ。教師達が何もできない中、怪物を倒し、少女を救い帰還する。有名になるという蜜の味を私が君に教えてしまった。『有名虫』を君に移してしまった「そんなんじゃない!」では、何故こんな理の無い判断が出来たのでしょう?」
「戦争を終わらせた英雄、ハリーポッター。君は確かに偉大な事をした。だが、『戦争』を体験したわけではない」
ーーー君は兵隊を集めるために焼き払われた町を見たことがありますか?
ーーー拷問されて廃人になってしまった者達の姿を見たことは?
「戦争が
ーーー死喰い人が起こした虐殺をどのように隠蔽したかご存知ですか?
戦いは終わった。言葉にするのは簡単ですね。でも、目を閉じれば今もメリメリと肉が裂け、悲鳴を上げながら裏返っていく母の姿が瞼の裏に焼き付いている。
無音の暗闇の中に居るとボトボトと弟が生きながら腐り果て、床へ崩れ落ちていく肉の音が耳の中で反響する。白を目にするとあの部屋を思い出す。青空が視界に入るとあの日を思い出す。
「君はただ、教科書で歴史を知り、英雄になっただけ。戦火の中で戦っていた者達の想いなんて分かるはずも無い!違うのですよ、歴史を『知る』と『歩む』とでは・・」
「君の判断で世界が戦火に包まれるかもしれない・・・私はそう言っているのですよ。『友人だから裏切るなんてありえない』等と希望的観測なんて糞の役にも立ちやしないんだ。『英雄』ハリー・ポッター。君の役目は何ですか?身内の悪行に目を瞑り、自身にとってだけ都合の良い世の中にすることですか?もし、違うというのならば・・・為すべきことを為せ!」
これ以上、言葉は不要とばかりにロックハートの持つ杖が空を裂き、静寂に終わりを告げた・・
ーーーーーー
「今回の標的は人狼・・・つまり狼男です。肉体は強固、身体能力は人間の
「あの・・・今からでも魔法省に通報して応援をお願いした方が良いのでは・・・?」
「時間があれば応援を依頼するべきなのでしょうが・・・生憎、今回はその時間が無いのです。唯でさえ人を襲うことに躊躇いの無い人狼が、満月の日に大人しくしてくれるとはおもえませんのでね。心配しなくても大丈夫ですよ。アリス・・・君を危険な目に合わせる様な事はしないつもりです。日没までに時間があります。必要な物を揃えて戦いに備えましょう」
私は不安そうに眉を顰める助手の少女・・・アリスを落ち着かせるように、ポンポンと優しく頭を撫ぜるが、彼女の瞳に写る不安の影は消える事はなかった。
戦いに勝ちたければ相手を知ることが重要だとよく言ったものだ。『何のために戦うのか?』今回の相手・・人狼に当てはめるとどうなるのだろうか?
これまでの歴史、最近では前の戦争で人狼が闇の陣営に協力していたこともあり一般の認識としては『治療法のない病に侵された人』ではなく、『人類に仇を為す悪しき魔法生物』と捉える人々が大半だろう。目撃され次第、魔法省へ通報、捕獲、そして監禁もしくは監視の下で日常を送るべきと意見を述べる議員も数多い。では、今回の相手は『己の自由の為』に戦っているのか?
答えは否。プロファイルから導き出された人物像はそんな高貴なものではなかった。
では、『生きるために』?人類を『食料』として捉えていると仮定するべきなのだろうか?人の味を覚えた熊の様に?
答えは否。襲撃件数の多さ、仕留めた相手を捕食せずに『感染させるだけ』にとどめておくという行為から飢えを満たすためという生物的な欲求ではないと言える。では、何が正解なのか?
「
『化物』と呼ばれ、監禁や迫害を受けた幼少期。そして、成長して自由となった今、自身の受けた地獄をより多くの者に体験させてやる為に襲撃を繰り返しているのだ
「アリス、君は奴を見て『可哀そうだ』と思いますか?」
幼い子供に感染させる。つまりこの少女も奴からすれば標的でしかない。仮にも人だった者。命のやり取りになる以上、討伐に赴く上で躊躇う様では話にならないと私は彼女に鋭い視線を投げかけた
「私にはそんなもの分かりませんよ。ただ、私達が生きる上で彼は障害であり、排除しないとならない存在という事でしかないのでは?・・・話が通じるのならよかったのですが・・」
言葉は通じても聞く耳を持たなければ『話が通じない』と同義、ましては自身の意思で人を襲う怪物に成り下がった獣に人としての慈悲など必要ないとどこか冷めた目でアリスは返答した。
「それでいいのです・・・」
既に賽は投げられている。
遠くで聞こえる自動車や機関車、人々の生活の営みの音を聞きながら着々と山道にわなを仕掛けていく
「もうすぐ日が暮れる・・・・」
戦いの時は着々と迫っている。
「さて、ハリー?戦いに必要なものは何だと思いますか?」
ロックハートの杖から放たれた呪いは、ハリーとジニーの隠れる石柱を何の抵抗もなく貫いた。
縦長の秘密の部屋、その天井を支えるための巨大で強固な支柱をだ・・・
1/3を綺麗にくり抜かれ、柱の反対側に佇むロックハートの姿まで確認できる。その威力にハリーか静かに生唾を飲み込んだ。
当たればただじゃすまない・・・寧ろ、脅しではなく殺しに来ているのだと嫌でも思い知らされた。
このまま柱の裏にとどまれば、柱ごとジニーと一緒にハチの巣にされる未来がハリーの脳裏を過った。
丁度、夢の中のハリーも同じことを考えたのだろう。ハリーは背にした柱から腰を上げて駆けだす準備をしている様だった。
「この一年、私は君達に生き残る術を教えてきました。再び闇の魔法使いが生まれる事を危惧した魔法省が『対人戦闘』ではなく『対魔法生物』としての授業を行うように圧力を掛けられていましたが・・・君達はピクシーや数々の魔法生物と戦闘して、その脳みそに何か得ることは出来たでしょうか?」
石柱から飛び出し走り出したハリー。その姿をロックハートの杖は正確に捉えていた。
俯瞰していたハリーは叫びたい気分だった。このままでは数十秒もしないうちに殺されてしまうと。
だが、見届けるしかない自分にはどうする事も出来ない。
ロックハートの杖を持つ腕がゆっくりと動く。
緊張でハリーの心臓が張り裂けそうになった時、夢の中のハリーも物陰に逃げ込む前に殺されてしまうと気づいたのか、走りながら出鱈目にロックハートへ向けて魔法を放った。
魔法使いの戦闘とはどういったものなのだろう?重要なのは『速度』そして『命中率』
どんなに強力な呪いでも長ったらしい呪文を唱えて、出鱈目に杖を振り回し、放ったところで当たらなければ意味がない。したがって実戦で使用する呪いは、より強力に、より簡単な呪文で、よりコンパクトな動作で発動するようにと『同じ効果の呪文でも』最適化された呪いが存在する。子供達が『決闘ごっこ』で使用する『タップダンスを踊らせる呪い』等とは画する性能があるものだ。
それらを使用し
「ハリー・・・君は授業で何を学んだんだね?手元が1度でもズレれば25m先では頭一個分もの誤差が生じる。
ロックハートが何もしなくても逸れていくハリーの攻撃。対するロックハートは一歩も動かずに狙いを定めて呪いを放つ。
放たれた呪い。
反対側の石柱へと飛び込んだハリーの頭上を掠め、天高く
遠吠えが響く。狩りの始まりだ。人狼と人間のスペック差は致命的な程の隔たりがあり、生身の身体能力だけで戦闘を行うのは自殺行為だ。では、奇襲はどうだろうか?透明マントを使用して背後から接近を試みたとしよう。その際は風向きに注意しなければならない、何故なら犬の嗅覚は人間の40~50倍程度優れていると言われているからだ。
「無いよりはマシと言ったところでしょうか・・・とはいっても見つかってしまってからは意味が無いのでしょうけども。」
罠を仕掛けた帰り道、不運にも遭遇してしまった狼男。幸いなのは人狼に見つかったのは先頭を歩いていた私だけで後ろに続く、助手のアリスはまだ奴の視界に入っていないという事だ。互いにとって不意な遭遇、人狼が気を取り直し私の背後に隠れるアリスに気づく前に行動を開始する。
『バチン!』と小さな炸裂音と共にロックハートの姿が人狼の前から姿を消し、再び至る所から響く炸裂音の後に四方八方から何十もの相手を死傷させるには十分な威力を持った閃光が人狼へと降り注ぐ。
現代の死喰い人や闇払い多用する『姿くらまし』を使用した戦闘方法だ。魔法により一瞬で位置を移動し、『姿あらわし』で立ち止まった状態で出現する。走りながら狙いを定めるよりも正確に魔法を放つことが可能だが、一歩間違えれば自分の体を
「これで仕留めれたらば苦労はしないのですがね・・・」
木々は魔法でなぎ倒され、人狼が居た地面にはいくつものクレーターが出来上がっていた。それでも仕留め切れていない。『バチン』とその場からロックハートが姿を消したと同時に弾丸の様な速度で人狼が一瞬前まで彼が居た場所の地面に
精鋭の闇払いがチームで討伐する様な化物だ。音を聞くと同時に身を捻り、呪いを避けるなんて造作もない事だろう。何度も言うが身体能力が人間とは天と地ほどの差がある
辺りを見回す。身を隠していたアリスは既にこの場を離れた。頭上には静かに山道を照らす満月。そう、既に目的は果たされたのだ。
満月の人狼は人間的な思考は消え去り、獣と化す。十分に注意を集めた。ここで背中を見せて逃げ始めると
「魔法使いの戦闘は如何に盾の呪文に頼らずに攻撃するかに重点が置かれています」
姿くらましはホグワーツ内では使用できず、盾の呪文による防御は強力だが、性質上反撃できない。
防御に入ったら盾の上から一方的に殴られる、ましては防御を貫通する呪いも存在する為、必要な時にしか使用できない。
「呪文を唱えれば、相手は容易に反対呪文で君の攻撃を弾くでしょう。故に、無言魔法は対人戦闘の第一歩です。さて、君が無言魔法も盾の呪文も、姿現しを多用した高速戦闘もマスターしたと仮定しましょう。おめでとう、君は一人前の闇払いになりました。では、先の戦争で生き残ることが出来ると・・・そう思いますか?残念ながら、
今の君にはどれ程の力がありますか?自身の我儘を押し通せるだけの力を持ち合わせていますか?
「足りない・・・全然たりないのですよ。その程度の覚悟じゃ何も為せない、何も守れない、誰かに傷を負わせることだって出来やしない!」
チラチラと緑色の光を放つ松明。照らし出されるハリーの影を眺める事で柱の裏に隠れるハリーの状況を手を取るように把握している様だった。
(やめろ!今飛び出せばあいつの思うつぼだぞ!)
俯瞰するハリーはロックハートと対峙しているハリーへと決して届く事のない声で叫ぶ。方や命の危険に晒されながらも走り回り心拍数の上がった自分自身。方や日常の様に命のやり取りを行い冷静に周囲の状況まで確認をしているロックハート。他に手段がハリーに残されていないとしても、再びロックハートの前に躍り出ればどの様な結果になるかは明白だった。
そしてハリーは意を決して飛び出した。
「エクスぺリアームス !!(武器よ去れ!)」
しっかりと狙い放たれた赤い閃光。
それは杖を前に突き出したロックハートが手首をスナップさせるだけで簡単に軌道を逸らされる。
(駄目だ。逆立ちしたって勝てっこない!)
お返しとばかりにロックハートが杖を振る。
くねくねと複雑に宙を描く杖。聞いたこともない呪文。かつて決闘クラブの時にスネイプの前で披露した無駄に洗練された無駄のない無駄な動き。
当時はロンと無能と笑い話にしたものだ。だが、リドルと正面から魔法を打ち合い、殺し合う魔法戦士がそんな意味のない事をするのだろうか?
ハリーは再び駆けだした。
放たれた呪文
ハリーの手間の床を粉々に吹き飛ばし、周囲に石の破片が飛び散った。
肩に衝撃と激痛。奥の石像の足元へと吹き飛ばされるように赤いペンキで床に線を引きながら転がっていくハリー。
夢の中では何が起きたかは分からなかっただろう。
だが、俯瞰するハリーにはしっかりと何が起こったのかその目に映っていた。
床を吹き飛ばし、放射状に弾けた床材が何十、何百もの短剣へと変化しハリーを追尾するように放たれたのだ。
まるで
ハリーは痛みを無視して立ち上がる。
待ってくれるような
「気配のない相手と相対すると何ともやりにくいものでしょう?」
人狼が私の姿を見失わないように短距離の姿くらましを多用しながら一定の距離を保ちつつ撤退を開始する
一瞬前まで私が居た場所に人狼が飛び掛かるが、もう既に私はその場所には居ない。代わりに『待ってました』と言わんばかりに複数の指向性対人地雷が炸裂し、何千、何万もの銀製のベアリングが獣へと飛来する。
もし人の心が残っていれば違和感に気づいたかもしれない。理性があれば撤退を考えたかもしれない。だが、今となってはすでに遅い。
木々が立ち並ぶ登山道、砂利の敷き詰められた林道を通り過ぎ、アスファルトに舗装された国道へとたどり着いた。車一台も通過しない真夜中の峠道。前方には月明りの中でも明々と光り存在を示す電話ボックスがある。
背後からは未だ追ってくる気配がある。私が電話ボックスに辿り着き、その中に身を滑らせた時に
頭部と心臓を守る為にその腕を犠牲にしたのだろう。片腕は千切れかけ、全身から血を滴らせながら一体の獣が私の前へと進み出る。
咆哮。
電話ボックスに立て籠もる私の姿を見て歓喜に震えているようにも見えた。確かに怪物の見立ては間違ってはいない。鉄製のフレームが格子状に組まれている『鋼の檻』ではあるのだが人狼の怪力にかかれば数刻もしないうちに解体されてしまうことになるだろう。
好機とみたのか咆哮を上げながら接近する狼。
「まさに絶体絶命でしょうか?・・・私でなければね」
私は電話ボックスの扉を開け放ち、正面から迫り来る巨体に杖を向けながら見据えた
もう休む時間さえ与えてもらえない。
松明の光を遮りながら飛来した、人間サイズの巨大な鷹の石像がハリーの隠れていたスリザリンの石像を破壊し、倒壊させる。
体に鞭を打ち走り出すハリー。
だが、ハリーが隠れている間にも走り回るハリーの機動力を削ぐように、ロックハートは床を微かに凹凸やスパイクを混じらせ確実に足への負荷を加速させる様に罠を仕掛けていた。
環境を変化させ自身の有利な状況へと作り替えていくロックハート。
誰がどう見ても絶望的な状況。だが、夢の中のハリーは諦めていないようだった。
崩れ落ち、倒壊した石像。その土煙に紛れてロックハートへと肉薄を試みる。
「ハリー大きく吠えてーー」
かつて授業で人狼役を演じさせられた。
茶番だと馬鹿にした授業は、案外ハリーを真剣に学ぶべきものだったのかもしれない。
相手に自身の突撃を察せられるにも関わらず、自然と己の口から漏れる咆哮。
どの道、満身創痍。次の手などありはしないのだから。
この時、本当の意味でハリーは人狼の
「ーーそうそう、それで信じられないかもしれないですが私は飛び掛かった」
土煙の先に見えたロックハートの表情は突然の奇襲に驚くようなものではなく、満面の笑みだった。
「
(密着するような距離では魔法使いは呪いを放つことは出来ない。
ハリーは杖手とは反対側の手でロックハートの胸倉を掴み、相手の退路を断った。
ハリーは自身の杖を相手から奪われないように半身になりコンパクトな動作で杖で宙を描く。
今年になるまで毎日のように眺めていた異質な方法・・・今となって遠い昔の様に思える平和だった日常。かつて友人が得意としていた近距離に特化した呪文の詠唱方法。
「エクスぺリアーム
ハリーの全身全霊、捨て身の特攻は自身の脇腹に突き刺さるロックハートの拳により、最後まで詠唱を終えることなく終わりを迎えた。
「その友人はとっさの戦闘では殴った方が早いといいませんでした?」
「終わりです」
地面へと崩れ落ちるハリーへと杖を向けるロックハート。
既に呪文を唱える空気すら肺に残されていなかった
それでも・・・諦めたくなかった
だから、心の中で強く願う
『エクスぺリアームス !!(武器よ去れ!)』
至近距離で放たれた青と赤の呪文は空中で混じり合い、周囲を煌々と照らし出した。
ーーー
「急に呼び出してすまないの~トレローニー先生」
「そう思っているのならば気軽に呼びださないで下さいまし。唯でさえ俗世に下ると心の中にある内なる瞳が曇ってしまいますのに。」
所狭しと本の詰められた本棚に囲まれている。
壁には歴代の校長たちの絵画、古びた組み分け帽子、憂いの篩、キャビネットには記憶の入った小瓶が並べられている。
トレローニーは憂鬱だった。
秘密の部屋、継承者による襲撃事件。解決後には校長からの呼び出し、内容など容易に想像が出来た。
「無いとは思いますが初めに。今回の襲撃事件は、これが最善でした。誰も死亡者もなく、私も襲われることもなく今をすごせている。」
「先生、知っておるよ。今更『予知できなかったのか』などと無粋な事は言うまいよ。儂も先生と同様にこれが最善の道だったと感じておる。」
トレローニーはウンザリしていた。事ある毎に、「予知できたのなら何故教えてくれなかったのか?」等と煽ってくる輩は一定数はいる。
ーーーましては校長からの呼び出し・・・
『解雇』という言葉が脳裏を過った。
だが、校長の話を聞く限りは襲撃を予知できなかったことに対する『能力不足』からの『解雇』ではないらしい。
首を傾げるトレローニーに「個人的に話を聞きたかっただけじゃよ」と老人は話す。
「儂は自慢ではないけれども、他の人よりも予想が当たると自負しておる。未来を見通すという共通点で先生の話を聞いておきたいと思っての?」
なるほどと頷くトレローニー。自身には占いに対する才能がない事はとっくの昔に気づいていた。だが、自身が『出来ない』のと『知識がない』のとは別の話。
「いいでしょう。まず、先生がしている『予想』は『予知』とは全く別物という事を先に話しておきます。」
確定された事象を予知するのと、これまでの事柄から未来を予測するのとでは正しく『似て非なる物』なのだと
「予知が内なる瞳で未来を見ているのに対して、ダンブルドア先生の予想は過去を元にこれから起こる事を予測されています。これは占い学というよりは数占い学に当たりますの。過去の出来事、現在の状況を全て数字に置き換えて式に代入し、これから起こる事象を予測する。」
温度、湿度、天気、城の構造、人の能力、感情、行動基準、それらを全て統合し計算し、答えを導く。データが多ければ多いほど未来への予測は精密に、正確になっていく。
ーーーもし、計算した上で外したのならば?
疑問を口にする校長、「人は時間と共に成長しますし、退化もします。変動値は計算に入れました?」と指摘するトレローニー。
「何度も計算したよ。じゃが、その予想はことごとく外れたのじゃ」
止まり木に止まる不死鳥、棚に置かれた組み分け帽子に目を移した後、ダンブルドアは静かに目を閉じる。
ーーー何度も計算し、調整した。
ーーー事の直前にも・・・しかし、訪れる筈の未来は訪れなかった。
「ならば、何が間違っていたのだと思う?」
「そうですね・・・きっと根本的に数値を測り間違えたのでしょう」
誤差はあれども想定の範囲内で収まるはずの事象は、全く別のものになっていた。ならば、計算に入れていない『何者、あるいは何か』がはいりこんでいたのでしょ?
答えるトレローニーの前で珍しく、最も偉大な魔法使い。アルバス・ダンブルドアは声を上げて笑った。
弾き飛ばされ床に力なく横たわるハリー。意識と共に徐々に自身が何と戦っていたのかさえも薄れていく。
(きっとこの調子だったら僕は敗北したのだろう・・・)
ハリーは状況を見てそう判断した。
遠くから聞こえる重いブーツの音。やがてハリーの前まで来ると立ち止まり、足音の主は覗き込むようにハリーの顔をみた。
綺麗な銀髪は、部屋を照らす緑色の幽明に照らされて鮮やかな色に輝いていた
「良く頑張りましたね。今回は貴方の意思に従おうと思います。」
「ロックハート先生・・・継承者が・・・ジニーが・・・」
「大丈夫ですよ、ハリー。全て終わりました。継承者は倒され、ジニーも無事です。君のおかげですよ。『英雄さん』。学校に戻った後にこの功績を誇るといい」
「そうか・・・僕は負けなかったんですね・・・」
何故この時『勝った』と言わなかったのだろうか?
普段は無能と馬鹿にしていた筈のロックハート。だけど、この瞬間だけは長い間、共に戦った友人の様な心地よい感覚すらあった。
「少し眠るといい。目が覚めた時には嫌な事は忘れて・・・貴方の望んだ世界が広がっているはずだから。だから、今はお休み・・・」
成人男性にされる膝枕。筋肉で堅いと思っていたが、予想よりも
私は混乱していた。『ここで電話が来るまで待つように』と言われた電話ボックスの中でひたすらと・・・自らを『助手』になると言ったアリスという少女。彼女はこれから何が起こるのかまでは私に教えてくれなかった。ただ、遠くで断続的に聞こえる爆発音や咆哮は自身の手に負えない化物と戦闘が行われているという事はしっかりと分かった
戦闘音は絶え間なく山間部に響き渡り、どんどん私のいる方向へと近づいてくるようだった。いよいよ堪らなくなって電話ボックスから出た瞬間だった、木々をかき分けて体長3~4mくらいは有にあるかもしれない、巨大な狼が姿を現したのだ
狼は私の顔を見た瞬間、大きく咆哮し満身創痍の体を引きずって私の元へと距離を縮めてくる・・・「さっきまで戦っていたのは私じゃない!」叫びながら電話ボックスの中に駆け込むがとても話を聞いてくれるような相手ではなさそうだ。開け放たれた扉を閉めようと必死で取っ手を引くが一向に動かない。電話ボックスを出て逃げるか?そんなことをしようとした瞬間、狼は私へ飛び掛かり、喉元を食いちぎるだろう。鋭く睨め付ける眼光からはまるで親の仇のように『絶対に殺す』という意思すら感じ取れる
公衆電話の呼び鈴が鳴る。私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で必死に受話器を取り寄せて相手が誰か?などと確認する間もなく助けを求めた
「貴方に頼んで正解でした。あなた以外の演技ならこれが罠だと感ずいたでしょうね」
「ばぁなじがぢがうそ!!まっでるだげだどいっだじゃないが!!」
「ええ、そのままで結構ですよ。もう終わる。」
開け放たれた電話ボックスの入口から私へと飛び掛かるケダモノ。生きたまま食いちぎられるのは想像を絶する痛みだそうな・・・と身を屈めて神に祈った。
すぐにでも訪れると思った激痛は一向に来ず、代わりに遠くから『ターーーン!』と聞きなれない音が私の耳に届く。恐る恐る目をあけると目の前には頭部の吹き飛んだ人狼の死体が横たわっていた。
「お疲れ様。予定通りね」
『パチン』と音を残し全ての元凶であるアリスの姿が私の前に現れた
「話が違うぞ!!何も危険が無いって言ったじゃないか!」
当然わたしは少女へと抗議するが、アリスは「あら?私の言った通り先生には傷一つないでしょ?」と満面の笑みで返す
「私のこんな姿など本には書けない・・・」
「私は何も真実を包み隠さず書けなんて言ってないですよ。契約の通りに功績は全てあなたの好きなように書くといいわ」
自慢の銀髪を土で汚し、自身の匂いを撤退的に排除した少女は、私を囮にしている間に2km離れた位置から対物ライフルで銀の弾丸を打ちこむ・・・現実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。こんな真実、公表したところで誰も信じる者などいないだろう
ーーーー
フェンリール・グレイバック
数々の襲撃を行い、数多の不幸を生み出した『最悪の獣』は私の手で葬られた。
後に駆けつけたアリスが戦いの状況、電話ボックスの出入り口を開け放つことで相手の侵入方向を特定し、正面から一騎打ちしたと伝えた際には綺麗な銀色の瞳を涙で潤ませ、私の胸の中で「無茶な事をしないで下さい」と言ったものだ。
私達にとって最悪の敵だったが、彼にも彼なりの正義があったのだろうか?
今となってはその本意を知ることはない。
ただ、私は命を奪ったことに後悔はしない。
私に寄りかかり泣き止まない少女の背中をトントンと優しく叩きながら・・・いつの日か子供達の笑顔で溢れる素敵な世の中になるようにと・・・そう願う。
~狼男と大いなる山歩き~ 著:ギルデロイ・ロックハート