鏡の中のアリス   作:ブルーな雛菊

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「何が望み?」

「そうじゃな……お嬢さんの言葉を借りるならば……
『取引をしないか?なに……悪い条件では無い筈だ』じゃろうか?」

「皮肉ね……」


その頃ダーズリー一家は

ダーズリー一家は逃げていた。

姿の見えない変質者から。

 

始まりは一通の下らない内容が書かれた手紙……勿論すぐに破り捨てたのだが。

誰かの気まぐれな悪戯…そう思っていたのだがそうではなかった。

 

次の日もその次の日も手紙は配達され、日に日に増えていく。

そして暖炉から四十通もの手紙が投下された時、一家の主であるバーノンは逃亡を決意した。

 

お気に入りのテレビ番組があると駄々をこねるダドリーに珍しく雷を落とし、全員を車に押し込めて住み慣れたプリペット通りを後にした。

 

ダーズリー夫人の故郷であるコークワース州の安いモーテルに宿泊しバーノンは(逃げ切った)と安堵するが、翌朝その希望は絶望へと変わった。

 

「ごめんなさいまっし。ハリー・ポッターという人は居なさるかね?これと同じものがフロントに百通ほど届いたんだが」

 

甥のハリーが手紙を受けとる前にバーノンはそれを取り上げて確認する

『コークワース州

    レールヴューホテル17号室

         ハリー・ポッター様』

 

ただの手紙。

だが、その手紙には色んな意味が含まれているとバーノンは感じた。

 

日々送られる手紙の数は増えていき今となっては100通が届く。

しかもコピー機で大量印刷した物の様にも見えない。

少しずつ各手紙の筆跡に差異がある様子から察するに、手書きで複数人が作成した物と判断できる。

 

そして手紙の配送手段。

家を離れる前は窓や扉を全て塞ぎ外部との接触を断った。

しかし、手紙は送られてきた。

配達員が夫人に手渡した卵のパッケージの中に一個につき一通ずつ……手紙をねじ込むという非常識な方法で……

業者に苦情をいれても、知らぬ存ぜぬの一点張り。おそらく敵は業者を買収するだけの経済力を持っていると見ていい。

 

極めつけは誰にも言わず移動したにも関わらず、モーテルに100通もの手紙を送りつけた。

まるで、お前らの行動は全て監視されてる。何時でも、何処にいても殺せるぞと言ってるかのように。

 

(決して屈するものか!)

追い詰められたバーノンの精神でただ一つあるものは『家族を守る』となった決定的な瞬間だった。……例えその手を他者の血で汚そうとも。

 

車を走らせるバーノン

行く先などない。ただただ、追跡者の魔の手から逃れられる場所へ。

ある時は森の奥深く

(障害物が多すぎる。これでは追跡者の接近に気づけない)

 

ある時は吊り橋の真ん中で

(敵は複数、挟撃されるのが目に見える)

 

またある時は立体駐車場の屋上で

(実用化されてるか分からないがスパイ映画の様な衛星写真や偵察機からの高高度・航空写真で居場所が特定されるか……)

 

そして………またある時は……

 

~~~

 

郊外……周りには建物の影すら見えず、見渡す限り一面の畑が広がっていた。

 

そんな何もない場所で何を思ったのかバーノン叔父さんは車を停めて、先程購入した長細い箱を持って畑の中を一人歩き出した。

 

「あなた?……ちょっと何処にいくの!?ねぇ!聞こえてる!?」

 

「ハリー!あの人を連れ戻してきて!」

 

車の中に残されたままのペチュニア叔母さんの困惑した声が響くがバーノンの耳には届いていない様だった。

 

(ここでは見晴らしが良すぎる……)

 

最早バーノンの思考は逃亡者のそれと対して変わらない。

自身が追跡者ならどの様な手段を取るか…また、その手段を取られた場合どの様に対処出来るのか。

 

キャンプを張れそうな場所を見つけては脳内でシミュレート、そして不利と判断すれば次の場所へ。

 

かれこれ一日中移動しているが御目に叶う場所が未だに見つけられず次第に苛立ちと焦燥、そして恐怖がつのっていく。

 

「珍しい…旅行ですか?」

 

「誰だ!?何が目的だ!」

 

 

突如、背後から妻以外の女性の声が聞こえた。

バーノンは反射的に長細い箱を腰だめに抱えて声の方向に先端を向ける。

 

「いや~目的って言ってもね~……ここら辺じゃ人が通るのも滅多にないし珍しくて声をかけただけですよ……ほら、何も無いところですし。」

 

声の主はバーノンが予想以上に驚いた為か、若干気まずそうに頬をかきながら返答した。

 

「あ………あぁ………」

(良く見たら年端もいかない普通の少女じゃないか……)

毛先にいくにつれてウェーブのかかった黒が強めの銀髪、透き通る様な銀色の瞳。希少と言えば希少なのだが血族に外国の血が流れているのなら普通なのかもしれない。

 

(現地の人からすると自分達の方が余所者で異端……さらに、いきなり怒鳴ってしまうという異常な行動を見せてしまった……)

 

「叔父さん!叔母さんが早く車に戻るようにって言ってた!」

 

息を切られながら追い付いたハリー。

夫人からの言伝てを聞き、道草くってる場合ではないと本来の目的を思い出した。

 

 

「坊主……すまないお嬢ちゃん。此処は通過点ですぐに移動するつもりだ。妻も呼んでることだし失礼させてもらうよ。」

 

「そうですね。もうすぐ日没だし、近くには宿泊施設も無いから宿を探すなら急いだ方がいいですよ。」

 

流石のバーノンも気まずさから逃げる様に車に戻ろうとするが、少女がポケットから取り出した物に気をとられて振り返る途中の姿勢で止まってしまった。

 

少女が取り出したのは懐中時計。

 

(今時、懐中時計なんて物は爺さんくらいしか持ってないぞ!)

(思えば自らを魔法使いと名乗る輩は服装や持ってるものまでおかしかった。)

 

バーノン自身も何度かその目にしたことがある。

マントにローブという中世の様なコスプレした集団を。

スーツジャケットに短パン、チグハグな靴下という頭のおかしい格好でコスプレ集団と楽しそうに歩く変態を。

 

では、目の前の少女はどうなのか?

本当に普通の少女なのか?

 

 

「ん?……これが珍しいですか?」

 

バーノンの不躾な視線に気付いた少女は懐中時計を目の前でブラブラさせた。

 

「貰い物ですが、私にとって御守りみたいなものなんです。」

 

 

 

(……深く考え過ぎか)

少女の格好は至って普通。

若干和服に近いデザインは寧ろお洒落な方だと思えた。

 

「そうか……すまない、邪魔したな。」

 

「いえいえ、良い旅を~」

 

車に向けて歩き始めるバーノン

 

 

叔父を追いかけて車に戻る途中、ハリーは喉に小骨が刺さった時の様な何とも言えない違和感を感じていた。

 

何もない場所で夕刻なのに何故…あの子は一人で其所に居たのだろう?

周りには見渡す限り一面畑。少なくても車がないと移動出来ないのではないか?

 

その様な疑問に思考が辿り着きそうだが其処に至らないというモヤモヤとした感情が胸の奥に居座っている。

 

 

車に乗り込み扉を閉める。

最後に窓から見た先程の場所には誰の姿もなかった。

 

 

 

 

 

 




若干ホラーっぽくなってしまうのは何故だろう…(*´・ω・)
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