「こんにちはトレローニー先生。長生きしてみるものじゃのう・・・まさか、北塔以外でお会いする事になるとは」
夕暮れ、広大なホグワーツ城の数多ある空き部屋の一つ。ふと、思い立って場内を巡っていたダンブルドアは人気のない廊下から一人、席に座りカードを捲るトレローニーの姿を見つけ、声を掛けたのだ。
「ええ、わたくしも先生がこの教室に入らっしゃると予見してお待ちしておりました」
いつもと変わらない、どこか霞のかかったような声で答えるトレローニーの姿にダンブルドアは笑みを浮かべながら、魔法で椅子を引き寄せてトレローニーの正面に座った。
トレローニーも特に気に留めることも無く、ダンブルドアの黒く変色した右手を一瞥した後にカードを捲る。
夕日の差し込む教室。生徒達は年度末の試験の為、必死になって脳ミソの中に知識を詰め込んでいる頃だろう・・・そして、試験を実施する教師にとっても忙しい時期でもある筈だった。
「実のところ、先生にトランプ占いの結果を知らせたくてお待ちしていたのです」
そうか・・・とだけダンブルドアは返答し、トレローニーに続きを促した。
「何度も何度も、どんな並べ方をしてもーーー」
「稲妻に撃たれた塔。災難、大惨事、刻々と近づいてくる・・・」
カードを捲りダンブルドアにカードを見せた。
トレローニーの死の予言は今に始まった事ではない。毎年のように余興の様に行われ、今まで一度たりとも当たった事はない。
(じゃが、今回の予言は当たるかもしれんのう・・・)
老人は自身の手に視線を移した後に苦笑を漏らした。
進行する呪い、自身に残された時間、自身の置かれた状況を思い返し・・・まるで他人事の様にそう判断した。
「驚かれないですね・・・」
「長く生きると『死』もまた、冒険の様に感じてしまうようになるのじゃよ」
自身の死に向き合えるのは素敵な事ですねとトレローニーは囁いた。
「実は儂からも先生に聞きたいことがあるのじゃ」
そう言ってダンブルドアはカードの広げられていない机の空きスペースに『シビル・トレローニー』と名前を杖を使って刻んだ後に、静かに瞳を閉じた。
「トレローニー先生は滅多に北塔から出る事はないし、何より君からはシェリー酒の匂いがしておらん。それとも、初めから再現する気が無いのかもしれんがの」
「それでは目の前に居るのはトレローニー先生ではない誰かといことになる。儂の死期が近いという話じゃったのう。となれば・・・」
そこまで口にした後、目を開けるダンブルドア。
不愛想で不機嫌な顔をしたスネイプ教授が目の前に居た。
「見事な術じゃ。これまでスネイプ先生と儂の身に宿る呪いの緩和で話していたと記憶していたが・・・どうやらそうではない様じゃの?」
机に書いた『トレローニー』の名前に目をやり、更に笑みを深めた。
「人間は目で見て、耳で音を聞き、舌で味を確かめ、肌で空気を感じる。そして、それらの情報は脳で統合され、記憶として保管される」
ダンブルドアは再び『セブルス・スネイプ』と机に記し瞳を閉じた。
「記憶から情報を取り出し、脳で処理し理解する。その段階で何らかの・・・そうじゃな、『錯乱』の魔法と言った方がいいのだろうか?偽りの情報を紛れ込ませることで記憶と現実の違和感を限りなく0にしておるのじゃろう?」
この人はどの様な声で、どの様な話し方で、どの様な容姿で、どの様な行動をする。受け止める側の記憶を利用し、この場面にこの人が居るのは不自然だと感じたら『この人ならば居合わせてもおかしくはない』という人物に自動的に変換される。
「恐ろしい術だ・・・ポリジュース薬や七変化では容姿だけ変えれるが、その者に成りきれる訳ではない。一方、お主のソレはこうでもしない限りは誰にも気づくことは出来ない。正しく、誰でもあって、誰でもない」
トントンと2人分の名前が記された机を指で叩くダンブルドア。
「それでは今、儂と会話しているのは誰なのかの?そして重要なのは何時から物語に干渉してきたか・・・じゃな」
まるで長年解けなかった知恵の輪を解いた子供の様に、とても楽しそうに答え合わせを行うダンブルドア。
闇の帝王が復活する以前から不可解な事件は多々あった。それらはチグハグの様に思えたが、焦点を当てると一貫したものだった。
「ロックハート先生・・・過去に本に出た戦いは君がやったものだね?」
「左様」
不機嫌そうなスネイプの声が響く。
きっと、この受け答えも演じているものではなく、魔法によってダンブルドアの脳内で『スネイプらしい受け答え』として変換、出力されているのであろう。
その事実を再確認したダンブルドアは一つ頷き、話を進めた。
「秘密の部屋が開かれた際、バジリスクと矛を交えたのは?」
「吾輩だ」
「では、アルカトラズで虐殺を行い、その罪をシリウスに擦り付けたのは?その為にシリウスをアズカバンから脱獄させた。間違いないかの?」
「アイツは自力で脱走した、アルカトラズの虐殺は吾輩ではない「じゃが、虐殺には関与している・・・」」
「・・・」
「・・・君は知っての通り、ハグリットにとある任務を任せた。」
「巨人の集落は見つかりましたか?」
「いや、見つかったのは争った痕跡だけ。死体すらも見当たらなかったそうじゃ」
「君の目的は何なのかね?ジェーン」
ダンブルドアは再び机に名を刻み目を開けた。
夕暮れ、窓から差し込む斜陽が銀髪に反射し、まるで淡い赤毛の様な鮮やかな色合いを放っている。
身長は成人女性の平均よりも少し低い程度、所々幼さが垣間見える少女は机に散らばったカードを再び集めなおし、ランダムに並べ始める。
「先生の質問に答える前に、何故ジェーンだと思ったのですか?」
「儂は自慢ではないが少し先の未来を予想できるのじゃよ」
未来予知に近い精度の予想はジェーンも把握している・・・故にもっとマシな状況を作ることもできたのではないかと非難の目を向けるジェーンにダンブルドアは自身の手を見つめながら「好奇心には勝てないのじゃよ」と弱弱しく呟いた。
「秘密の部屋が開かれた時、儂の予想を外す出来事が起こった」
「先生の予想では、ハリーが一人でバジリスクとトム・リドルを相手にして勝てたと?」
違うと首を振るうダンブルドアに冷めた目を向けるジェーン
「先生の狙いも分かります。ですが納得できるかは別の話です。そうでしょう?予想まで出来ていたのなら我々が処理を怠った故に子供を危険に晒したと認めている様な物です」
「痛いところを付くのう・・・じゃが、必要な事だった……」
それは理解しています。と返すジェーンの目には非難の色が薄れていない。
ダンブルドアは眼鏡を外し眉間をもむ様な仕草をした後に話を続ける。
「ロックハート本人ではなく、それに扮した誰かが裏で調整をしていたのは明確じゃった」
「つまり、個人の能力を正確に把握していたのでそれ以上の成果を上げたロックハートに疑問を抱いたと?」
継承者と戦う上で戦力を欲し、事前にロックハートの部屋を訪れていたハリーと、ペテン師と把握していたダンブルドアではハリーから聞いた事実に違和感を感じたのも道理と言えよう。
「その通り、誰にも気づかれることも無く。丸一年、潜伏し痕跡を残さずに姿を消した・・・こんな大それた事をやってのける人物は『昔』も『今』も儂には見当もつかなかった」
「・・・じゃが、『未来』ならどうだろうか?もしも、未来から洗練された魔法使いが時間を逆行して過去を変えようとしていたら?」
君は持っているはずだね?と問いかけるダンブルドアに答えるようにジェーンはローブのポケットから古びた懐中時計を取り出して机の上に置いた。
「その時計は二次災害を怖れて1時間しか戻す事の出来ない既存の逆行時計とは違う。」
戻す時間は一年。故に、この物語が始まる前に戻ることも可能だと説明した。
「儂はこの時計を可能性のある者に託した。この時計を逆行時計と気付ける者、時計の存在を秘匿し正しく扱える者へと……」
その者には苦労させてしまったようじゃがの……。
何度も時を繰り返して、まるで数千年経過したかのように劣化した時計の蓋を眺める。
「つまり、私が受け取った時点で先生はジェーンが関わってると考えたわけですね?」
危険だと思わなかったのですか?と問いかけると
信じてみたいと思ったのじゃ。ハリーが信じた君を……と返すダンブルドア。
「私をジェーンだと思う理由は分かりました。ですが、結論から言うと私はジェーンではない。」
「なんと!!」
目を見開き驚愕を顕にするダンブルドアにジェーンは柔らかい笑みを浮かべた。
「人は何時だって自分の聞きたい声しか聞こえないし、見たいものしか見えない。先生も私の魔法を知った上でも『目の前に居るのはジェーンだ』という思い込みがあったはずです……」
再び目を閉じるダンブルドア
人為的な闇の中ジェーンの声で『心を空っぽにしてみてください』と助言が聞こえた
「私の逆行時計は先生の言うとおり一年を巻き戻します。ですが、巻き戻すのは世界の時間だけではなかった……」
実際は使用者の時間も巻き戻していた。一時間や一年を巻き戻す程度なら気付くことは無かっただろう。しかし、十年時を戻せば自身の体の成長も当時の姿に戻っている事に気付く。
何百年、何千年と同じ時を繰り返せば自身の寿命以上の時を生きている事にも気付く。
再び目を開くダンブルドア。その視線は先程よりも下へ……
ようやく視線が交わった事を察した少女は、まるで花が綻ぶ様に微笑んだ。
「初めまして……それともお久しぶりです?今はアリスと名乗っております」
銀色の髪、まるで生気の無い……吸い込まれそうなガラス玉の様な瞳。ホグワーツにジェーンが入学した当時だったのならば双子と見間違うほどの容姿……ただ、成長し大人らしい女性になりつつあるジェーンとは相反する様に、彼女の時間はまるで止まっているかのように幼い少女のままだった。
「お主………」
「時間は巻き戻ります。しかし、それから最初と同じように成長するとは限りません。」
最初と同じような物を食べ、なにも考えず同じ様な生活をしていたら多少はジェーンと同じ様な体格になってたかもしれませんが……それでは意味がない。
それに、案外この姿も悪くないのですよ?時間を巻き戻す度に服を買い直す必要が無いですし。
「さて、何処から話しましょうか?」
アリスはニコニコと上機嫌に微笑みながら机の上に並べたカードを一枚捲った。
アリスの魔法……リアルタイムで認識を誤魔化すと同時に、過去の記憶も改ざんしている。その気になれば目の前に居るのに認識されなくなることも可能。今話では元々ダンブルドアに会うつもりだったので中途半端な認識阻害魔法を掛けて対話している
アリス……入学当初のジェーンと瓜二つの少女。
酷いタイトルだ……だが、それが良い( ・`д・´)