2つの相反する結末が同時に存在する世界
まるで鏡合わせの様だと私は思った
この世界では皆が正しく・・・そして皆が狂っていた
故に少女は問う
「鏡よ鏡。世界で一番
意味のない問い
皆が狂っている世界で一人だけ『正気』で居る事に一体どれだけの価値があるのだろうか?
「それは貴方です」と鏡に写る少女は嗤う
・・・どちらにせよ、この世界でただ一人、正気な人間など狂っているのと大差ないのだから
宙を浮く蝋燭。薄明りの教室。
肌をひりつかせるような冷気。
吐く息は微かに白く染まり『生きている事』を改めて実感させる。
その
ある者にとっては過去
ある者にとっては未来
ある者にとっては苦痛の伴う生
ある者にとっては安らぎの死
・・・ある者にとってはあり得ない今
まるでコインの裏と表のように相反する事象を示すカード、その中から1枚選ぶように目の前の老人へと差し出した。
彼の目には私の姿はどの様に写っているのだろう?
ダンブルドアが黒く萎びた右手をカードへと差し出す中、その想いが頭を過る。
「かのお伽噺に登場する『死』の様じゃな」
興味深げに観察するアリスの姿に老人は微笑みかけ
一息ついた後、一枚のカードを引き抜いた。
「案外、私の様な存在が過去にも居たかもしれませんね?」
死の秘宝。魔法使いの間では有名な
優秀な魔法使いの前に現れた『死』と言う名前を持つ人ならざる存在。
かの者は3人の兄弟に力を与えた・・・『ニワトコの杖』『蘇りの石』『透明マント』
他者から見て『死』は自身にとって何の得にもならないと思えるような事をした様に感じるかもしれない・・・
だけど、私はその物語を知った時、別の感想が思い浮かんだ。
「かの者はきっと知りたかったのでしょうね。力があれば運命に抗う事が出来るのだろうか?と」
だから、他者を使い実験するように・・・兄弟の運命を観察することでそれぞれの結果を記録した。
自身が本来、歩むことになってであろう未来を他者を代わりに歩ませることで複数の運命の結果を一回のループでリスク無く集計できる。
「確かに一人で繰り返し、運命を見届けるよりは効率的ではある」
とダンブルドアは納得したように頷く。それと同時に「些か人の道を外れてしまっているがの」とこぼす。
「今よりは倫理観が緩かったでしょうしね。では、私が『死と呼ばれる者』だとするなら先生は何を望みます?」
とアリスは笑いながら問う。「私ならば大抵の事はかなえる事が出来ますよ?」
と嗤っていない目で笑いながら問う少女へダンブルドアは「儂が欲しいのは答えじゃよ」と静かに笑う。
最も偉大と呼ばれた魔法使い、アルバス・ダンブルドアの密かな野望を聞けるのではないか?と期待していたアリスは僅かに落胆したように肩をすくめた様な仕草をみせた。
「とは言っても先生はこれまでの話から答えに辿りついてそうですけどね・・・」
「さて、何所から話しましょうか・・・」
アリスは一瞬これ迄の出来事を思い返すように視線を宙に泳がせた。
伝えたいことは沢山ある。
そして、互いに言葉を交わさなくても理解している事もある。
ダンブルドアが引き抜いたまま結果の分かり切っているカードを裏返し、確認する必要が無いように…
彼が欲したのは『答え』
故に分かりきった出来事でなく、私が体験した不思議な世界の出来事を話そうと思う。
「物を作る上で『改良』とは単純に性能を上げる事ではないという事をご存知?」
いくら高性能な物を作り上げてもコストが高ければ購入出来る者は少ない。
いくら高度な授業を行っても理解できる生徒がいなければ授業として成り立たない。
与える者がいる一方でそれを受け取り、使う者が居る。
そして、その需要から外れる物は『最適化』という意味合いの『改良』を行うことがある。
その場合、例え本来の性能を損なう事になっても『扱いやすくなった』と言う意味では『改良』という事には違いないのだから。
「魔法省が管理していた逆転時計と先生から頂いた物を比べると、そう思うのも当然と思いませんか?」
一回で一時間巻き戻す事の出来る従来の逆転時計、そして
アリスの指摘の通り、意図的に性能を落とされて現在の形に収まっているのは明確だとも感じられた。
何の為に?
この
「きっと間違わない為なのだろう・・・」
「ええ、私もそう考えた」
逆転時計の最初の形はきっと
逆行とは未来から過去への一方通行。
過去を変えようと過去に戻ろうとも、自身に流れる『時』が逆行する事無く経過していくのであれば、そのループは無限の可能性があっても人の寿命という時間制限付きの『有限』に成り代わってしまう。
また、作り上げた逆転時計の時が逆行すればその時計はどうなるのだろう?
完成する以前の状態に戻るのなら、時計は組み立てる前の素材に戻ってしまうのだろうか?
・・・実際の所、そうはならなかった
持ち物には通常の時間が流れ、使用者は過去の身体状態へと時を遡る
相反する事象を同時に行いながら時を戻す。
現行の逆転時計では気付くことは出来なかった。
1時間逆行する程度では時を巻き戻した際の世界のルールに気づく事はないだろう。
だが、逆行する時間が一年となれば話は変わってくる。
世界のルールに矛盾する現象を当然の様にねじ曲げている…
異音を発しながら時を刻む手元の懐中時計はそれを平然とやってのけていた。
「偶然の産物なのか、最初の製作者が意図的に作り上げたのかは分かりません。ですが、あまりにも都合が良すぎた」
「きっと私の様な者が何人もいたのでしょうね。そして、人が逆行に希望を見出し、挫折し・・・逆転時計を手にした者が再び自身と同じ過ちを犯さないように性能を制限した」
『ふー』と白い息を吐き、アリスは頭を振る。
「この時計の歴史を話しに来たのではない」
ダンブルドアが知りたいのはその先なのだと話を切った。
「・・・何百、何千年と時を戻す。だけどその間もこの時計の時は進む」
形ある物には必ず終わりが訪れる。
何百年と共に戦った杖は使用者より先に寿命を全うし、木屑と成り果てる。
地獄の始まりを作った
「正常な動作をしなくなった逆行時計。もうじき、この長い物語も終わりを迎えるという事を私自身感じていました」
「制御の効かない逆向・・・当然、自身が生まれる前に逆行してしまう可能性もある」
生命の誕生前への逆行。存在の消滅。
暗にアリスを心配するダンブルドアに対して「それは重要な事ではない」と否定する少女。
彼女自身、自分の命に価値を感じておらず文字通り時計が機能を停止するか、自身の存在が消えるその時まで時計の針を回し続けてきたのだろう。
「これが最後かもしれない。そう思いながらも針を回した先の世界」
それが
「偶然すれ違った道を行く親子。それが記憶を消される前の私なのだと気づくのは必然でした」
「ほう」と興味深そうな相槌と共に全てを見透かしてしまいそうな青い瞳がアリスの視線と交差する。
★★★
『ガチリ』
もう何度目になるだろう?私は聞きなれた音を鳴らす。
それが正常なのか、はたまた異常をきたしているのかすら分からない。
世界の終焉に奏でる音、それと同時に再生へ導く異音
時計の針を回す
無音の世界。度重なる魔法や爆撃で瓦礫の山となっていた廃墟。路上に飛び散っていたコンクリートやレンガ、燃え盛る車がまるで記録していた動画を逆再生するように本来の姿へと戻っていく・・・
悲痛な叫びをその顔に刻んだままの骸に命が宿り、再び平和な日常へと戻っていく。
未来から過去へ時間を巻き戻す間の過程、この景色を見た者はきっと狂ったように喜んだだろう。この時計さえあれば『賢者の石』も『蘇りの石』も必要ない。場合によっては『最強の杖』や『透明マント』も不要となる。人生をやり直す最強の一手。無限の可能性を秘めた最高の秘宝・・・
「・・・蓋を開けてしまえばこんなものよね」
運命を理解した私にとってはこの時計は祝福なんかではなく呪いの様なモノだったよ
それでも同じ過ちを繰り返す愚者を演じるのはさぞかし滑稽に思えるだろう。
時を戻し終わったのか・・・無音の世界が終わりを迎え、町の喧騒がアリスの耳に届いた。
日の光を遮る程の分厚い曇天。
街頭に並ぶ家電量販店のテレビからはまるで警鐘の様に午後の天気予報が鳴り響く。
市民達が雨が降り始める前に…と足早に目的地を目指す中、幼い子供の姿が一つ。
(一体どれだけ巻き戻った?)
今日が何年のいつ頃なのだろうか?とっさに少女は懐から懐中時計を取り出して確認しようとするが数回前のループの時から正常に『時』が表示されていない事を思い出し、ため息と共に肩を落とした。
点滅する信号、交差点。誰もアリスに声を掛けようとしない。
誰も手を差し伸べようとしない。
・・・分かってる
幾多にも重なる戦闘でボロ布になったローブを纏った死んだ目の少女・・・どこからどう見ても厄ネタでしかないってことぐらい自分でも理解している
(・・・どちらにせよ今更救いの手が差し出されたってきっと受け入れる事など出来はしない)
僅かに残る期待と失望。
時戻しで健康になった体と反比例して死んでいく精神。
欲が満たされれば幸福を感じる
幸福が過ぎ去れば人は不幸なのだと認識する
(私はどうなのだろう?)
自身の事が
(私には何も残されていなかったからね)
(まるで死に場所を求めるように同じ時を繰り返す人生だった・・・)
アリスはこれまでの物語を思い返し、そう結論付けた。
まるで自身の心を示す様に滝の様に降り注ぐ雨。
いくら洗っても両手にこびり付いた幻覚を洗い流すことは出来ない。
高架橋の下で雨を凌ぐ私。通り過ぎていく人達。
私は望んだ、当たり前の生活を
(与えられたのは洗脳、堕落の象徴)
私は願った、平和な世界を
(たどり着いたのは最底辺の惨状)
皆が夢を描き・・・そして壊れた
屑籠に集めて出来上がった夢のない世界。
終わらせる方法は知っている。
ホルスターに納めた金属の塊に意識を落とす・・・
・・・でも
きっと、明日になれば明日を求めてしまうのだろう。
そこまで考えて私はクスリと乾いた笑みが零れた。
(そんなことしなくても、もう直にこの物語は終わるというのにね)
幼い姿の
何千年と共に歩んだ
沈む夜の中を行きかう車。
ヘッドライトの光が濡れた路面を反射し光の帯を作る。
照らし出される人々の影、それはまるで格子状に張り巡らされた檻の様にも見えた。
橋の下で親子とすれ違う
影があるが優しそうに子供に笑みを向ける女性。
そして私とうり二つの姿をした
「ああ、だからか・・・」
私は汚れすぎた。
あまりにも多くの物を背負い、そして託されてきた。
あの子のようにはなれはしない。
立ち止まり、不思議なものを見たかのように振り向き首を傾げる少女。
私の物語の主人公は
私は貴方、貴方は私。だけど、決して彼女になる事は出来やしない。
私の存在は歪んだ鏡に映り込んだ
「…これが最後」
これから彼女に訪れる闘争、戦争、絶望、渇望。
きっと、この出来の悪い悲しい戯曲は神様が暇を持て余して作り上げたものなのでしょう?
だから、私はこの物語をぶち壊してやろうと心に決めた
・・・それが託された願いだから
★★★
「ジェーンが7歳の頃の出来事です」
チェスはキングが詰まれたらそこでゲームは終了します。
だけど、現実ではそうはならない…
この世界では誰しもがキングでありポーンでもあるの、だから指導者が倒れても意思を受け継いだ者が戦場を指揮する。
かつて赤子のハリーに帝王が敗れた後もそうでしたね。
降伏する者、操られていたと無罪を主張する者、潜伏し主の復活に尽力した者、最後の戯れとその命尽きるまで闘い続けた者
そして、死喰い人に対する魔法省の役人も各々の役割がありました。
戦場となった場所で巻き込まれたマグルの記憶処理、死喰い人の残党の追跡、無罪を主張する罪人の裁判、その罪人を裁くための証拠を集める作業。
「母を死に追いやったのは死喰い人ではなかった」
健康だった筈の母に突然入院が言い渡された。
病院の個室、見舞いに訪れたジェーン。そして、扉を開ける事無く現れた3人のローブを纏った男達・・・
「当時の私には彼らが何を話しているか理解できませんでした」
魔法界とは関わっていなかったのだから当然ですよね。ただ、今なら断言出来る。
「彼らは魔法省の役人でした」
「かつて母が遭遇した死喰い人の襲撃での証言を取りに来たようでした・・・随分身勝手な話ですよね?彼らが襲撃のあった事実をマグルから隠すために記憶を消し、偽りの記憶を植え付けたというのに・・・死喰い人を裁判で裁く際に証拠が必要となったので思い出してくださいだなんて」
それまで淡々と・・・時には楽しそうに話していた少女。
それがこの話題になったとたん、表情に変化は見られないが言葉の節々に憎しみが込められている事にダンブルドアは気づいていた。
「ああ・・・思い出しただけでも反吐が出る」
最も、アリス自身も取り繕う素振りを見せていないのだから当然ではあるのだが。
風のない教室、宙に浮かんだ蝋燭の炎が少女の感情に揺さぶられるように激しく揺らいだ。
「恫喝、脅迫、拷問。彼らは必死でしたよ?手前らの平和を守る為に罪人を野放しにはできないって。その為には家畜が何人死のうが関係ないってね?」
「子供を磔にしろ!」
ジェーンを襲う激痛。母が魔法使いに飛び掛かり、もみ合いになった末に窓へと突き飛ばされた。
激痛、薄れゆく意識の中彼女は見ていた。
仄かに香る薬品の匂い。
中央には簡素なベッドが設置されているだけの何もない部屋。
天井、壁・・・シミ一つない真っ白な壁紙で統一された空間は何所か非現実的と思えてしまう。
唯一、開けっ放しにされた窓からのぞく景色・・・雲一つない青空だけが何もない部屋を彩っていた。
風に靡くカーテン
小鳥の逃げた鳥籠。
「その後、私は記憶を消されて何事も無かったかのように世界は回る」
「彼らにとって誤算だったのは記憶を思い出すきっかけとなる出来事が私の在学中に起こったって事でしょうか・・・」
「でも、彼らがどうなったかはこの話では重要ではない。重要なのは母の死をこの目で目撃していた事です」
ループで学んだことは運命を変える事は出来ないという事。
「私は母の死を阻止したい。だけどきっと失敗する。分かり切った結論」
「じゃが、君は立ち向かうと決めたのじゃろう?」
頷き、息を整え。ゆっくりと話し始める
「結局のところ何故そうなったかは私にもわかりません・・・」
★★★
日中の病院内。普段だったならば看護婦や見舞に訪れる者で廊下は溢れかえっている筈だった。
それがどうだろう?廊下は閑散としており
・・・いや、実際魔法で人払いが行われているのだろう。何も知らないマグル達はそれぞれに用事を思い出し、トイレ・休憩室・売店・喫煙所・あるいはセンターへ苦情を言いに行った者もいるかもしれない。
院内に居るマグル達はその日、その時間
アリスは閑散とした院内を早足で歩く。
かつて体験した出来事、消された記憶、継ぎ接ぎだらけの記憶の中から
争う音はおろか人の話し声すらも聞こえてこない・・・まるで
普段の病院の景色を知っている者なら明らかに異常と思える景色・・・つまり、今日がその日なのだとアリスは舌打ちした。
床材を重いブーツが叩く音だけが反響している・・・疑念は確信に変わり私は38口径の拳銃をホルスターから抜き放ち走り出す。
そして辿り着いた部屋の前。少しの間、息を整え音を消した。
間に合ったのか?それとも手遅れなのか?
静まり返った廊下、部屋の中の様子を察することは出来ない。
廊下と部屋を隔てる戸の取っ手に手をかけながら脳裏を過る
いくら私が想定外な存在でも身体能力や魔力の総量は逆行した過去のスペック・・・つまり、7歳の少女くらいの力しか持ち合わせていない。
全盛期とは程遠い成長前の力で魔法使い3人を無力化できるのだろうか?
杖はない、魔力も微量、身体能力も乏しい。継承しているのは忌々しい記憶だけ。
(ーーーきっと私は失敗する)
運命が
魔法使いに敗北し殺されるか、もしくは取り逃し駆け付けた応援部隊に邪魔をされるのか。
この部屋の中にはジェーンと母親、尋問する魔法省の役人が3人いる筈だ。乱戦になり母が巻き込まれる可能性だって存在する・・・
(だから諦める?)
彼女達は私が救出に向かわなければ助かるのか?
私が戦闘を行ったが為に巻き込まれて死亡したのか?
(忘却、欺瞞、継ぎ接ぎだらけの記憶。何が本当に起こった事なのかも曖昧)
(・・・結局答えなんてない)
運命に楯突くなんて愚かな考えでしょう?でも・・・何もせずに諦めるのは過去に戻って来た今までの自分を否定する事と同義だとも理解している。
変えることの出来ない運命を変える。
自身の矛盾した目的を再び思い出し、その滑稽さに自虐的とも見える笑みが浮かぶ。
死ぬ覚悟なんてとっくの昔に済ませた。失うものなど何もない。今さら後悔なんてしないでしょ?アリス?
だって私は、その為だけに私は今・・・ここにいるのだから…
そしてドアを開け放ち、アリスは叫び声の木霊する部屋の中へ一歩を踏み出した。
分かり切った結末。
戦争を生き残った魔法省の闇払い3名。対する私は魔法に対しては無力と言われている銃を持った程度の小娘。
決して覆る事のない物語。
開け放した扉。大して広くもない病室の中に男が三人。
部屋の奥、中央のベットに腰掛ける女性の胸倉を掴み上げ尋問する者。
磔の魔法を使用されベット右側で苦しんでいるジェーン。
そして部屋中央で磔の呪いを使用している者。
入口付近で証言を記録しようと羽ペンを持っている男。
当然、アリスの侵入に初めに気づいたのは入り口付近に陣取る男だった。
人払いの魔法の効果を無視し、防音魔法の効果で廊下からは一見何も起こってない様に見える状況にもかかわらず、この部屋に辿り着いたことに驚愕していた様子だった。
アリスが成人していたら・・・もしくは魔法使い然としたローブやマントを身に纏っていたら彼はアリスを脅威として認識したかもしれない。
だが、彼が目にしたものは開け放たれた扉から侵入してくる小さい影。白のワンピースにブーツ・・・彼は不幸な事に何らかの偶然で部屋に迷い込んだマグルの子供だと認識してしまった。
男は突然の訪問者に驚きつつ、『偶然通りかかった一般人』『記憶を消せば問題ない』などと楽観的に考えた・・・
だから、少女がその手に持ったマグルの武器を自身に向けられて、初めてその脅威を認識した。
ペンとメモから手を放し、素早く自身の杖をしまった懐へと手を伸ばす。杖を引き抜きながら少女を無力化するための魔法を頭の中で強く唱える・・・
・・・アリスにとってはそれらの動作は
彼が最初に受けたのは胸を叩く2回の衝撃、同時に響く聞きなれない
杖を取り出し振る、頭の中で呪文を強く思い浮かべるのと銃に添えた人差し指を2回引くのはどちらが早いだろうか?
放たれた弾頭は音速を超えて飛来する。10mも満たない至近距離での銃撃を、弾頭が放たれた上で回避できる生物がいったいどれ程いるというのだろう?
上半身の中央に2発、男は撃ち込まれた事を確認する間もなく頭部へ衝撃を受けてこと切れた。
侵入者に気づいた闇払い達が杖を此方へと向ける。
これだけ派手な音を響かせたのだ、当然だよねとアリスは笑みを浮かべる余裕すらあった。
突撃する前の悲観的な感情は消え失せ、戦いに高揚するように生き生きとした表情で一足飛びで最初に無力化した男の位置まで距離を縮める。
「アバダケダブラ!」
確実な発動の為に詠唱される呪文。多大な魔力と精神力。残忍な心をもって初めて実現される死の呪文。
あらゆる防御を無効化し、対象の魂を奪う最強の呪文・・・そう魔法使い達は認識しているのだろう。
アリスは心臓に2つ、頭部に1つ大穴を開けた屍を魔法の射線へ突き飛ばす。
着弾し弾ける緑色の残滓。
大戦を生き抜いたアリスは知っている
銃撃を受けて即時に死亡する事は少ない事を。大半は銃創による出血か内蔵損傷によるもの・・・つまり生命活動が停止するまで数秒、もしくは数分程の余裕がある事を。
さらに死体から魂が分離するのはいつ頃か?心臓を貫かれようとも、頭に大穴が開けようとも身体の生命活動が停止しただけで即時に『魂』が肉体から離れたわけではない。
(魂が欲しいならくれてやる!)
死の呪文は貫通しない。故に、一回程度なら弾避けくらいにはなる事を理解していた。
魔法は万能で強力だが使用する場面によってはマグルの兵器が優位になる場合がある。
突入から反撃まで数秒。驚きつつも脅威に対して対応してみせた役人達もまた、戦争を生き残った精鋭であると言える。だが、今回は相手が悪すぎた。
お返しとばかりに毒蛇の名を冠する無骨な鉄の塊から放たれる38口径の357マグナム弾。
アリスの銃撃は盾がわりに突き飛ばした死体ごと貫き、中央に居座る男の胸に突き刺さり弾頭は停止する。
ーーー次はどうする?
強襲の利点は相手にとって不意な突入により無防備な側面を叩く事にあり、時間経過で敵が態勢を整えた場合は当然自身への反撃を行う余地を与える事になる。
アリスの放った銃弾を受けて2人目の男が膝折に倒れこむ中、床に落ちる杖を通り過ぎざまに回収。
ーーー姿くらましで逃げるのか。盾の呪文を使用して態勢を立て直すか
相手の出方を楽しみながら嗜虐的な笑みを浮かべて走り寄る少女。
杖を振り反撃の意思を見せた最後の犠牲者にアリスは「ハズレ」と声をもらした。
『パチン』
姿くらましを使用した際に奏でる軽快な破裂音がほぼ同時に複数回。
まるで分裂したかのように見える少女の残像。
アリスの姿を見失った男の背後で『パチン』と音がする。
ゾッとするような悪寒を男は感じていた。まるで死神の命を刈り取る鎌を首筋に当てられているかの様な絶望感。
男の背後から伸ばされた少女の手が肩口に置かれる。情けない叫び声を出さなかったのは戦場を渡り歩いた矜持だろう。
確かに感じる手の重みを受け入れて・・・(これじゃ死神の鎌と大差ない)と瞳を閉じた。
『パチン』
★★★
「例え力が衰えようとも1000年以上戦い続けていた魔法使い」
「死の呪文を使わずとも人を殺す方法などいくらでも知っているの。傍から見たら当たり前の結末なのかもしれない。だけど、私にとっては
その日死ぬはずだった母は生き残り、私が10年かけて復讐を実行した下手人達はその日に鉄槌が下りた。
全てが予想外だった。どうせ実現できないと高を括っていた出来事が予測を外す結果になった。
「本来なら喜ぶべきなのだろうが・・・そうは感じなかった?」
「ええ、ジェーンは母を殺された記憶があったからこそ魔法省の唱える平和に疑問を持っていた。薄氷の上に立っていると理解しているからこそ私は身を守る為の力を欲した」
それは私が私である為に通過すべき道の筈だったのだ
「母をこの手で殺し、ジェーンの記憶を消す。本来あるべき運命へ修正するべきか迷ったわ」
アリスはそこまで話すと首を振って笑った。
「私の知っている運命から外れたのかもしれない。今回のループで未来がどうなるかも分からない。だけど、私はこれまでのループで見た世界を・・・最底辺の惨状を知っているの」
ーーーだから、きっとあの運命以下の未来にはならないでしょう?ってね
「それでもジェーンを誘導する必要があった。私は2人に記憶の改ざんを掛けた」
「ジェーンは孤児として施設に、君の母君は・・・「偽りの記憶を掛けてアメリカに移住して貰ったわ」」
「ふむ・・・」ダンブルドアは少しの間考え込む様に自身のひげを触る。
「それでは、お主はロックハートと共に闇の勢力と戦いながら彼女らを見守っておったのだな?」
人狼、吸血鬼、トロール、グールや鬼婆。ダンブルドアが彼の功績を上げる一方、アリスは「インチキだと気づいた上で読んでたんですか?」と彼の本を読んでた事自体に驚きの言葉を上げた、
「ありえない出来事。思い当たるのはもう一つの運命。ハリーが勝利し、戦争が阻止される未来。私が辿った運命とは別の・・・平行する未来。ただ、その時点では確証が得られなかった・・・私と彼女が別の存在なのかを」
だから側にいた。闇の勢力を削ぎ落す一方で、私の過去と同じ存在であるかもしれないジェーンに危機が及ばない様に
「秘密の部屋が開いた年に君の存在に気付いた・・・じゃが、その調子ならばその前の年から学校に居たのだろう?」
「お手洗いが多い女子生徒・・・翌年にはそれが無くなった」クスリとアリスは笑う
「賢者の石が狙われた年。時折私がジェーンを誘導して手洗いの度に入れ替わっていましたからね・・・シリウスが脱走した年のハーマイオニーのように2人のジェーンがホグワーツに存在していたの。鉢合わせにならない様に、時にはハリー達に接触するために彼女に腹痛の呪いをかける事もあったかしらね?他の生徒からすると当然、手洗いに行く回数が多く感じるでしょうね」
彼女の成長を近くで見守っていたとアリスは言った。
「賢者の石、最奥の部屋。戦闘になった際に帝王が構える付近の床や天井が都合よく吹き飛ぶのかしら?」
知ってます?糞エイムってやつは時として予想しない方向に弾が飛んでいくものなの・・・外れた魔法、発生した周囲の損壊を利用して・・・なんて考えはそもそも許容範囲の方向に弾が飛ばなければ前提が成り立たないの
「ならばバジリスクを負傷させた時もなのじゃな?」
「知っての通り、透明マントが無くたって私は透明になれる」
「そしてお主自身の魔法で認識をズラせば開心術を使用しても存在を悟られることはない」
「楽しかったですよ・・・友人と共に何気ない一日を平和な世界で過ごす・・・そんな幻想を見ていたんです。私は運命を変えて望んだ物を手に入れた」
家族、友人、平穏な日々、まだ見ぬ未来の可能性。遠い昔に私が失った物が目の前に並べられている・・・それらに囲まれて楽しそうに笑う私の姿・・・
でもね、気づいてしまったの・・・そこに私の居場所なんてないんだって。彼女の家族、彼女の友人、彼女の運命、彼女の世界。
「私は全てを手に入れた、そしてそれと同時に全てを失った。」
結局、彼女は私にはなりえない。私が守りたかった世界は当の昔に滅びてしまったのだと。
アリスはその言葉を最後に口をつぐむ。
「死者にとって生者は羨ましく、そして妬ましい・・・じゃったな?それでも君はこちら側に居る事を選んだ」
「・・・愛してますからね、この世界を。戦う意味を見失ったけれど、それでもこの物語を見届けようと思ったの」
「答え合わせよ。秘密の部屋でジニーを殺さなかったのは私が手を下さなくても最悪の事態は訪れないと知っていたから」
「マグルに力を与えたのは?」
「抑止力となる力があれば不用意に喧嘩を売る馬鹿も居なくなるでしょう?勿論、戦争になれば双方に相応に犠牲は出るけども被害が増えれば最終的には落としどころを探すことになる」
「行き過ぎた政策。無条件降伏を足蹴にし民族浄化を行った為にマグル達が手段を選ばなくなっただったのう?」
ええ、どんなに言葉を交わして薄っぺらい約束をするよりも直接的に殴り返せる力を持った方が早いし確実ですからね。
ダンブルドアは少女の話を振り返る。
2つの運命
惨状を辿る未来から外れてしまった現在
アリスの手で有利になるように不穏分子を排除し、調整された物語
・・・きっとこの物語では本来辿るべき運命とは大きくかけ離れてしまったのだとダンブルドアは悟った
故に案ずる、彼女の危うさを。
「アリス、お主は頑張った。それは勲章を与えるくらいの働き程に・・・じゃがお主の物語を皆に伝えることは出来ぬ」
もし彼女の後に続く者達が居たとするならば・・・
逆転時計を使い過去を変えようとたくらむ者が居たとするならば、それが叶わなくても卓上の理論ならばと納得出来たもしれない。
だが、
「何が望み?」
きっとアリス自身も同じ結論に至っているのだろう。
ダンブルドアの声に静かに耳を傾けるその姿は判決を待つ罪人のようだった。
「そうじゃな……お嬢さんの言葉を借りるならば……
『取引をしないか?なに……悪い条件では無い筈だ』じゃろうか?」
「皮肉ね……」
それはかつて彼女がマグルの兵士やロックハートへ働きかけ、物語を大きく変化させるきっかけとなった言葉
まさか自身に返されると思わなかったアリスは苦笑する
「私を消しますか?」
運命を変える事は出来ない。それがこの世界のルールなのならば、それを覆すことが出来たという事実は後の者を更に過激に増長させる原因となるであろう事は容易に想像がついた。
彼女はここに居てはいけない
彼女の存在、彼女の記憶自体がこの世界の矛盾であり、平穏へ向かうこの物語・・・これからの未来への脅威となる可能性があった
アリスは問う。「私を殺しますか?」と
ダンブルドアは答える「その必要はない。今は戦時中ではない。儂の見立てだとその時計はあと一回、正常に動作するだろう。お主は記憶を消し、去ってもらう」と
人格は経験や記憶から形成される。記憶の消去、すなわち
「結局死ぬ事と変わりないじゃない」と少女は笑った
「報酬はお主が望んだ平穏」
トントンと机の上に未だ裏返しになったままのカードを指で叩く。
窓から差し込む月明り
校庭は銀色の光を浴びて静かに煌いている
「私の最後はもっとろくでもない終わりだと思ってました」
私は運命を変えた?いいえ、案外この運命に紛れ込む事自体定められた運命なのかもしれない
それでも構わない。結局、与えられた役割、物語に満足して私はこれ以上進むことは出来そうにもない
誰も知らない、誰にも語られることのない物語
・・・でも、それでいいと納得している私が居る
アメリカ合衆国・ウィラメッテ
ここには産業や特産物など目立つものなど何もない。平和で退屈にも思える日々
そんな平穏の日々の中で時折夢を見る。箒に跨り空を駆ける人々。短杖を振り回し、現実では存在しない様な怪物と戦う突拍子のない夢。
・・・ありえないと理解する一方でソレは現実に起こった事なのだと私の中で警鐘が鳴った。
幼いころの記憶など今となっては思い出せない。だからこそ、その夢が何なのかも思い出せない。
どちらにせよ今の私は「些細な事」と笑い飛ばすだろう・・・だって、忘れているだけであって答えは私の中に確かにあるのだから
私の名前はエレノア・ウィルソン。
「普通の家庭で育った一般人だよ!」と笑いながら道をすすむ
やっと完走!!
お付き合いいただき有難うございました!!(長かった~)
秘密の部屋以降は「このペースで書いてたら何年かかるんだよ!」という事で書きたいところだけ書かせていただきました★
やる気のないあらすじシリーズを見かける機会がありましたら「またコイツ書いてるよ」って生暖かい目で見守っていただけると幸いですw(*'ω'*)