転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#18 犬守村のおいぬ様

 

その日、わんこーろの配信は始まる前からどこか雰囲気がおかしかった。メイクの配信10分前のつぶやきではいつものわんこーろのようだったが、配信開始5分前のつぶやきでは【この先、犬守村】の一言と配信枠へのリンクが貼り付けてあるだけだった。

訝し気に思う視聴者もいたが、メイクアカウントはわんこーろのもので、配信アカウントもわんこーろのもの、雰囲気以外はいつもの配信開始前と変わらない。

配信が始まるまでの待機画面で流れるコメントも何が始まるのかと不安に思う声が多い。

そうこうしている内に配信時間となり、配信が始まる。

 

『なんだ?』『一体何がはじまったんだ』『配信始まったのにわんころちゃんいないぞ』『ここって森の中?犬守山か?』

 

配信が始まった画面は直後真っ暗なままだったが、ガサガサという音だけは聞こえてくる。しばらくするとわずかな光が真っ暗な画面に差し込み、徐々に暗闇が晴れてくる。

どうやら配信画面は薄暗い森の中を動き回っているようだった。まるで小動物が深い森を疾走している、その小動物の視線で周囲を見ているかのような光景。

まだ画面は森の中を動き回っている。どこかを目指しているようで一直線に進んでいるようだ。

 

『おいなんか音聞こえね?』『音?ガサガサって音はさっきから聞こえてるが』『ちげーよ!もっと違う音だって!』『確かに、なにかざーざーって感じの音が聞こえる』『何か流れる音……?』

 

 

『水の音……?』

 

 

 

暗い森から抜け出した先、目の前にはそれなりの水量を誇る川が流れていた。山の先から麓へと流れるその川は数メートルほどの幅を誇り、それでいて流れは緩やかなものだった。深さもそれほどなく、一般的な成人が足を踏み入れても膝にさえ届かないほどしかないだろう。

驚くほどの透明度を誇る水流は川底の苔生した岩々の輪郭を正確に映し出し、川より露出している岩には跳ねた水しぶきが付着し、水面と共に日の光によってキラキラと輝いていた。

 

『はあああああ!???!?』『!??』『おいこれまじかよ』『さすがにこのレベルの3Dモデル?は見たことないぞ!』『いやいやほんとになんだこれ!?』『どっかのロケ地だって!!じゃないとありえないだろ!?』

 

しばらく視聴者はその光景に唖然としていたが、ふと画面が横へと動き、上流が映される。川の中には人影が確認できるが、逆光によってその姿は明確にはわからない。だが、誰なのかは視聴者の誰もが分かっていた。この世界を創ったただ一人の配信者。

 

『わんころちゃん!?』『逆光でまったくみえないが……』『わんころちゃんだろ!他に誰がいるってんだ!?』

 

画面は徐々に人影に近づき、その姿を鮮明にしてゆく。そして画面が十分に近づいた時、日が雲に遮られ、逆光に隠れていたその姿があらわになる。

 

いつもの姿とは打って変わったわんこーろの姿。涼しげな色の浴衣に、虹色の髪留めで黒髪をまとめ、いつもは出さないおでこが確認できる。

川の中に入っている影響か、その髪は少し湿気を含み、頬から鎖骨にかけても川の滴か、もしくは汗でじんわりと濡れているのがうかがえる。当の本人はこちらを確認した後、目をまん丸にして驚いたように固まっていた。

だが、それも少しばかりの事ですぐさまわんこーろはいつものように温和な笑みを湛え、こちらへと歩いてくる。

川の中だからか、わんこーろは浴衣の裾――(おくみ)あたりを片手で持ち、ふとももが見えるまでたくし上げ水に濡れないよう注意しながら進んでいる。

 

「おやおや~珍しいお客さんだね~どこから迷い込んだのかな~?」

 

いつものような砕けた口調ではなく、たっぷりと余裕を持った少し大人びた声音でわんこーろはそう口にする。余裕だけでなく、その言葉に大げさなほど困惑の感情を乗せている。

 

配信が始まる前の意味深なメイクのつぶやき、始まってからの徹底した映像美とわんこーろの登場までの演出、そして先ほどのわんこーろの演技がかった口調……。

 

そこまで考えたところで察しのいい視聴者は理解する。

 

――――――これ茶番回だ!!

 

 

『う、美しい……』『ガチ恋案件だわこれわ』『似合いすぎてて胸がつらい』『もう十回は尊死したわ』『新しいアニメですかな?』『かわいいお嬢さん、ここは一体どこなんだ?』

 

「んふふ~いきなり人外をそんなに褒めるなんて~なかなか豪胆な人間のようだね~」

 

わんこーろはぴくぴくと犬耳を動かし、ついでとばかりに尻尾をくねらせる。

 

「ここはただの人間が迷い込んでいい場所じゃあ無いんだよ~ホントはね~でも、あなたたちは私の事、褒めてくれたから~特別に許してあげるよ~」

 

微笑みを深くするわんこーろは画面を自身へと近づけ、目の前まで持ってくる。

 

「ここはね、犬守村。私が創った私の世界なの~もしもあなたが私の事を好きだって言ってくれて~一緒に居たいって思ってくれるなら~あなたたちをこの村の"移住者"として認めてあげるけど~どうする?」

 

『すきーーーー』『好きです!!』『一緒にいてください!!』『わんころちゃん大好きです!!』『いい、すき……』

 

「んふふ~それじゃあ決まりだね~私……わんこーろのことずっと大好きでいてくれなきゃダメだからね~これからよろしくね移住者さん~」

 

 

 

 

 


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