転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
「移住者の皆さま、おかえり~久しぶりにわんこーろの配信に来てくれてありがとうね~」
『おか~1万人突破おめでとう!』『おめおめ』『ついに一万か~かなり早かったんじゃね』『でもわちるんはすでに3万いってるし……』『最大手と比べてはいけない』『個人勢でこの勢いは前例ないんじゃね?』
「んふふ~ありがとうございます~わんこーろもこんなにいっぱいの移住者さんにお祝いしてもらえるなんてとっても嬉しいです~、ほんとは記念配信とかもしたかったんだけど~いろいろ忙しくて配信できなくてごめんね~?」
『つっても数日空けてただけだし大丈夫』『メイクの更新もあったし、生存確認できてた』『ただいまー』『帰ってきたぁ!』『ただいま帰りました姫』『今日も夕焼けがきれいだねぇ』『もちろんわんこーろもきれいだぜ!』『気障な台詞は村八分対象です』
「んふふ~、今日も移住者さんは元気ですねぇ、わんこーろも嬉しいですよ~」
今日もたくさんの移住者さんが私の配信を見に来てくださっています。皆さん部屋から見える景色をご覧になっているようですね。まあ、私を見てくださっている移住者さんもいてくれるみたいですけど。
「皆さん見てください、神社の周りにはわんこーろが植えた木がありますよね~?」
『ん?』『確かにあるが?』『それがどうしたの?』
私は夕日に照らされた森の一辺を指さし、そう言います。コメントは私が何を言いたいのか分からず、少し混乱しているようです。そんな移住者さんに私はいつもの口調をできるだけ抑えて、静かに話し始めます。
今から私が言おうとしていることは、今後の私の配信において最も重要な内容となるからです。
もしかすると道徳的な批判さえも出てくる可能性があるため、言葉も雰囲気も選んでから続きを口にします。
「当然ですがあの木は成長しません、当然ですよね、あれは3Dモデルなんですから~」
『確かに』『3Dモデルは成長なんてできないしね』『残念だけどね』
私は身を乗り出し、画面に近づきます、画面を覗き、その先にいる移住者さんと視線を合わせるように。
「皆さん、あの木、成長させてみたいと思いませんか?苗木が、幹を大きく太くしていって枝を増やし葉を付ける。花を咲かせたり、実を付けたり、鮮やかな色に葉を変える、そんな木を見てみたいと思いませんか?」
『出来るの!?』『生きた3Dモデル!!』『マジか!』『命を創るわんこーろマジ神』
「実は成長させることは難しくありません、3DモデルにAIを実装して、あとはサルベージした木の成長過程を記録したデータを挿入すればいいのです。ですが、そのデータを実装したところで木はすべて同じようにしか成長しません、実装したデータのとおりの成長しかしてくれないのです~」
与えられた情報に従った動きしか出来ない、あるいは情報のない行動が出来ない。それがAI。
「現実の木は様々な要因からその成長過程に個体差が出てきます。病気になる木があれば、他の木よりも大きくなるものもあります。同種でも栄養のない土地ならより栄養を求め根を強く広く張り、日照時間が短い場所なら体を高く、葉をより広範囲に広げます」
それはまるで、話すことも動くこともない植物が、考え行動しているように。
「木だけではありません。生物は様々な要因から微妙に異なる姿に変化します。……これが"成長"です。その個体が経験し、考え、対策した結果なのです」
『ふーむ、難しいな』『ランダム成長でも同じ成長過程をたどる木々もあるだろうしな~』『木は数百、数千本、葉に至っては数万枚あるわけだからランダムでも全く同じという不自然な個体が出てくるのか』『いろんな要因を考えて木一本ずつに別情報を実装するのは?』『←それ一体どれだけ時間かかるんだよ』『←それに、それじゃあ病気になる木も大きく成長する木もいつも決まってるってことだろ?』『あの隅っこにある木、いつも病気になってるな、って感じか』『それはそれで不自然だな』
「AIにはこの空間の生物の成長を処理し切るのは難しいです。少なくとも現状は。わんこーろも成長するAIなんてどうやって作ればいいかわかりませんでした」
コメントでも分からない、あるいは不可能だという意見が大半です。成長するAI、あるいは自己進化AIなどは結局想像の産物なのだと。
「ですが、そのお手本がありました。それはわんこーろです」
『えっ?』『わんころちゃんが?』『確かに電子生命体……』『……?』『つまりどういうこと?』
さあ、これを言ってしまえばもう後戻り出来ません。移住者さんに受け入れてもらえるか、私は覚悟を決め、この言葉を口にします。
「わんこーろは自身を自己解析して、わんこーろを元にとある"命"を創りました」
ただ動物の動きを再現した3Dモデルを創るのとはわけが違う。
私という存在の複製、命という名の疑似電子生命体の創造。私と同じ"生きている"存在。既存の人工知能とは一線を画す、私、あるいは人に最も近いものの創造。
それが、私がしたこと。
『はああああああ!????』『わんころちゃんのコピー!??』『自己解析って!?』『えっ!?わんころちゃんて……』『まさか本当に電子生命体?』『いやいやそんな訳ないって!?』『ただの配信者だろ!?他の配信者と同じ!』『いや、電子生命体とかもうそんな設定いいから』『命創る?意味わかんね』『先研の研究者が何か実験で配信してんだろ』『電子生命体とかいるわけないだろ』
予想通り、コメントは困惑している移住者と私が本当は何者なのかを問う言葉で埋められていきます。コメントは徐々に過激になりはじめ、話題は私の正体から、私が創りだした命の所在まで。
私はその様子をじっと見つめます。
私は電子生命体で、この空間に居て、みんなとお話ししたいただの配信者だ。それに嘘はない。
わちるさんは初配信で言っていた。
私の視聴者さんは私が、心を持っているって知ってくれている。
『お前ら落ち着け』『まったく新参者は落ち着きが無くていかん』『わんころちゃんが何者だろうと関係ない』『お前ら今まで何見てきたの?わんころちゃんが面白半分でそんな事するわけないだろ』『わんころちゃんは俺ら機械に囲まれて育った人間よりよっぽど自然や命を大切に想ってる!』『俺たちはわんころちゃんの配信を楽しみにしているただの移住者さ』『その通り、だからわんころちゃんはこれからも俺たちの度肝を抜かせてほしいw』『てかV配信者のプライベート聞くとかマナー違反は村八分』
「……皆さん、本当にありがとうございます……」
受け入れてもらえた。
たとえ私の存在をフィクションと思っているとしても、わたしが好き勝手に命を作り出し、そんなことをしてもいいのだという倫理観を持っていると思われる可能性だってあった。
今回だけじゃない。これからの事を考えれば、"動物の創造"など、生命をいじくるだけの頭のおかしい思考の持ち主だと思われるかもしれない。
だけど、私は移住者さんを信じてみることにした。私を受け入れてくれると。
私がただの娯楽としてではなく、創造主として、この世界のすべての存在の責任を持つことを覚悟していると、視聴者さんに知ってほしくて、理解していてほしくて……。
そして、受け入れてもらえた……。
『!!』『わんころちゃん泣かないで!!』『ああっ!涙が!』『さっきのコメントした奴ら全員村八分な』『俺たちは何時でもわんころちゃんの味方だぞ!』『俺も泣きそう』
~~ううぅ、最近涙もろくなっちゃったなぁ~~