転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#24 魂の触り方

 

「え~と、皆さんいきなり泣いちゃってごめんね~、こんなすぐに受け入れてもらえるなんて思ってなかったから~」

 

力が抜けていつもの口調に戻っちゃいました。そんな私に『涙目の笑顔かわいい』なんてコメントする移住者さんはほんと、……もうっ!本気で言っているのか笑わせようと冗談を言っているのか分かりませんよ!

 

「さてさて~わんこーろは自身を自己解析して"命"を創ったと言ったのですが~どうもわんこーろはほとんどがブラックボックスのようで、まるまる複製してるところもあるんですよね~」

 

ブラックボックス、つまり解析はしたもののどうやって動作しているのか分かんない箇所がいくつか確認できたのです。

それはこの世界のものでも、ましてやかつて私が生きていた世界のものでもない、私の電子生命体としての能力をフル活用しても実態が解明できなかった部分。

不用意に分解して元に戻せなくなったりしたら困るのでそのような部分はほぼ触らずまるまるコピーしてしまいました。

 

『つまりわんころちゃんが二人!?』『どっちがわんころちゃんかわかんなくなりそう』『自分を解析とかこの電子生命体肝が据わっとる』

 

「その"命"はわんこーろを元にしたので、様々な経験を経て自分で考えることが出来、成長することが出来るはずです~。その成長までに行われた基本的なプロセス、"成長の仕方"をわんこーろが観測し、他の3Dモデルへと複製、実装していくのです~。これならただの成長データを挿入するよりもリアルな成長を行わせることが出来るはずです。この、まるで個々の3Dモデルが独自に考え、成長するように見えるプログラムを、わんこーろは"魂"と名付けました」

 

『電子生命体の命の観測かぁ』『なんかすっごい話だよな』『ついに魂つくったわんこーろ』『むずかしい話すぎてついていけんw』

 

「その"命"が新しい事を経験するたびに、その情報をこの世界に存在するすべての"魂"に随時更新し続けます。そうすることでより複雑化した分岐を経て"魂"は成長してくれるはずです」

 

『"成長"をバージョンアップしていく訳か』『アップデートといった方がいいかな?』『ちょい難しい』『なるほどわからん』

 

う~む、確かに自分で言ってて難しく言いすぎた気がしますね……。

 

「……簡単に言えば、その"命"が生物としての経験値を得れば得るほど、他の生物も生物らしくなっていく、という事です」

 

『なるほど経験値か』『手に入れた経験値を他の3Dモデル(AI)にコピーして、複雑な成長させる?』『なるほど、ランダム性があってそれでいて周囲の環境に作用される』『そういう風に成長させることが出来るのか』『……思ったんだが、これってその創った"命"と同じように他の3Dモデルもわんころちゃんを元に作り直せばいいのでは?』『う~ん、それはそれで』『この世界のすべてがわんころちゃんに?』

 

「最初はわんこーろも同じようなことを考えておりました~、この世界のすべてを電子生命体化すればいいのでは~?、と。でも、さすがにわんこーろの中身がブラックボックスだらけで、性質が全く違うモデルへの実装は難しそうだったのです~、なので経験という上澄みだけを掬い取って3Dモデルへと分け与える方法に変更したのです~」

 

あくまで複製できただけなので、植物の疑似電子生命体やら動物の疑似電子生命体やらを作り出すのは私には不可能です。

ですのでこの世界の3Dモデルはあくまで3Dモデルのまま。自分で考え、行動する能力はありません。"命"から得た経験を元に生物らしく振舞っているにすぎないのです。

 

これが"生物"実装を目標とした私が考え抜いた最終的な妥協案です。

 

「さてさて、それでは難しい話はここまで~、移住者の皆さんにその"命"をご紹介したいと思います~」

 

『おお!』『もうひとりわんころちゃんがついに!』『新しい犬守村の住人のお披露目』『どのような子なのかな?』

 

「はいは~い、では呼びますよ~?、こいなりさーん!」

 

『………?』『草』『誰も来なくて草』『わんこーろの声がむなしく響いた』『おっ?反抗期か?』

 

「……皆さんちょっとお待ちくださいね~」

 

『お、おう』『眉間にしわ寄ってる気が……』『見える見えるぞ、笑みの中に憤怒を忍ばせているわんこーろが!』『狂気しまって』

 

ちょっと!そんな私怒ってませんから!いつの間にか私笑顔でキレるキャラにされてませんか!?

 

「はいはい~恥ずかしがらずに出てきてくださいね~、今日はあなたの紹介配信なんですから~」

 

「……!」

 

部屋の奥に隠れていた女の子を配信画面まで引っ張ってきます。本人はその間オロオロとしていましたが、その腕に触れている私の手を振り払うこともしなかったので、混乱しているというより、ただ緊張しているだけのようです。

 

「お待たせしました~、え~と、この子が私が創った子になります~名前はこの神社の近くで生まれたという事で~狐稲利(こいなり)さんと名付けました~」

 

狐稲利さんの中身は私を基に創造したのですが、その外観は全く違います。まず幼女な私の身長よりも頭二つ分は背が高いです。大人の女性、というにはまだまだ幼いですが、少女というには大人びた雰囲気を持っております。焦げ茶色をした髪は肩に触れるほどの長さで、後ろ髪は纏めて結んでいます。

前髪は目元まで覆い、そのせいで綺麗な菖蒲色の瞳が隠れているのが残念ですが、私の髪留めを貸してあげようとすると逃げたので。本人が嫌がることはしない方針です。

 

『おおおおお!!』『かわいい』『背高ぇ!いやわんころちゃんが小さ……小柄なのか?』『メカクレは俺に刺さる』『ほーんええやん』『わんころちゃんとうり二つかと思ったけどぜんぜん違うやん!』『これから推しますわ』

 

「……っ!」

 

おやおや、配信画面を見つめていた狐稲利さんがいきなり大量に流れだしたコメントに驚いてしまいました。私の背中に逃げるように隠れます。

ですが、頭二つ分の身長差があるのでどう見ても隠れ切れてません。

 

「だ~いじょうぶですよ~この方達は移住者さんです~狐稲利さんに危害は加えませんよ~」

 

『完全にお母さんじゃねーかw』『子どもの方が大人っぽい容姿だけどなw』『お前ら怖がらせんじゃねーよ』『危険な視線を察知したんやろなぁ』

 

私があやすように優しく話しかけると狐稲利さんは恐る恐る私の背中から出てきます。そしてコメントを見、配信画面へと視線を移し、ぺこり、と頭を下げました。

その後すぐさま私の背中へとまた隠れてしまう。隠れ切れていないけど。

 

「え~と、この子は生まれたばかりで見るものすべてが初めてなので~ちょっと緊張してるみたいなんです~、ごめんね~」

 

『かわいい』『わんころちゃん信頼されてるみたいだね』『親子だな完全にw』『二人ともかわいいが過ぎる』

 

ふむふむ、どうやら移住者さんにも狐稲利さんは受け入れてもらえそうですね。創造主として一安心ではありますが……。

 

「ちょっとちょっと~さっきからお母さんとか親子とか~、わんこーろはまだ一歳ですよ~?せめて姉妹とか~、……ん?狐稲利さん~?」

 

まったく、わちるさんの初配信から私をお母さんやらママやらと言う人が増えた気がしますね。別に私がそう呼ばれることに問題はないのですが、移住者さんにも親御さんがいらっしゃるのですから、私がそう呼ばれるのはその親御さんに失礼な気がします。これ以上私にお母さん呼びが定着しないように一言注意しようとしたのですが、その時狐稲利さんが私の浴衣を指先でくいくい、っと引っ張ってきました。

何かと思い、背中に隠れている狐稲利さんへ振り返ると何とも寂し気な顔でこちらを見ているではありませんか。

 

なんだか今にも涙がこぼれそうな……。

 

……

 

……うう、もうっ!わかりました!!

 

「え~と、姉妹でなく、この子は私の娘です~」

 

「――!」

 

『てぇてぇ』『てぇてぇ』『心臓にキタ』『てぇてぇなぁ……』『いい…最高かよ』『ようやく認知してくれましたね』『よかったねえ狐稲利ちゃん』『ママーー!!』『お母さん!』『母上どのー!』『狐稲利ちゃんめっちゃうれしそうじゃん』『尻尾があったらちぎれんばかりに振りまくってると思うぞw』『なお実際に尻尾を振っているのはわんころちゃんの模様』

 

ああもう!コメントは勢いありすぎて追いつけませんし、狐稲利さんはなんだか嬉しそうですし、なんなんですか~~!

 

 


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