転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#26 やたの滝

 

山中に造られた断崖絶壁。山を構成する岩石のむき出しになったその断崖は頂上より莫大な水量が降下し、巨大な滝を形成していた。

 

渓流の終わりから落ちてくる大量の水は断崖に突出した岩々に衝突し、枝分かれしながら落ちていく。

その過程を経て滝の終わりにはその大半が霧となって周囲に文字通り霧散していった。

 

私と狐稲利さんはその光景を見上げながら、満足げに配信画面へ語り掛けていた。

 

「移住者さ~ん!ど~です~?先日ちらっとお見せした滝はこのような姿に完成いたしました~!」

 

「……!……!」

 

『でっけええええええ!』『音もでっか!、ごごごーってすっごい音してんね』『飛沫が画面にあたって見えにくいゾ』『見えにくいのは水が霧状になって漂ってるせいもあるかも』『しかし迫力あるな!』『すまん、俺は滝よりもその前でぴょんぴょん嬉しそうに跳ねてる狐稲利ちゃんに目が行くw』『完全同意』

 

今日はいつもの平日配信よりも少しだけ早く始めています。

大体完成した滝のお披露目をおこなうためなのですが、恥ずかしながら私が次の休日配信まで待てなかったというのが理由なのです。

皆さんに選んでもらって造った滝なのですから、完成したらすぐに見てもらいたかったんですよ。

 

「……!」

 

狐稲利さんは滝の傍まで寄ると手や肌へと散った水滴が付着する不思議な感覚に目をぱちくり。滝つぼの近くに腰を下ろし、水面に指先をちょんとつけたとたん驚いて手を引っ込めて、もう一度指先を水面に入れるを繰り返していました。

手のひらに冷たい水が通り抜けるたび、狐稲利さんはにこにこと楽しそうに体を揺らしています。

 

「狐稲利さ~ん!そんなにはしゃぐところんじゃいますよ~、ただでさえ濡れて滑りやすい場所なんですから~」

 

『おまいう』『いつかのわんころちゃんみたいに?』『流石経験者は言うことが違う』『説得力がありますねw』『また苔生える?』

 

「何か言いましたか~?」

 

『いえいえ!』『いえ何も?』『空耳じゃないスかね?』『ジト目もかわいいなぁ』『狂気助かる』

 

……移住者さんなんだか慣れてきてません!?私手玉に取られてません!?

というか私の扱いがおざなりになっているのでは……?

 

「まったく~、それよりももっと近くで滝の様子を見てください~。画面の先に居る移住者さんには感じられないかもしれませんが、霧になった水が肌に触れて気持ちいいです~、落ちる水が全部霧状になっている訳ではないのでこの通り滝つぼもちゃんと存在しています~」

 

配信画面に映した大滝の滝つぼは降下してくる水量から考えられないほど澄んでいます。大量の水が一気に雪崩れ込んでくるのではなく、霧や水滴とならなかった水分が降り注ぎこまれているので滝つぼの水面は揺れ動いてはいますが、激しく泡立ったり濁ったりする、という事はありません。

そしてなにより注目して頂きたいのはその滝つぼの中に居る存在です。

 

『おおっ!?』『なんかいる!?』『動いてる?生き物か?』『魚!川魚か!?』

 

「そのと~りです~!先日お披露目した御霊降ろしによって生物らしい生物を生み出せるようになったので早速創ってみたんです~。まだ"(データ)"不足なのでよ~く見ると違和感があるかもしれませんが、今後のアップデートでそれも徐々に修正していけるはずです~」

 

実装した魚は黒い斑点が特徴的な川魚であるヤマメです。本来は他にもいくらかの種類を実装しようかと考えていたのですが、川魚として代表的な魚は成長したり産卵時期になると"海"へと向かう種が存在するので、そうなると新たに"海"を実装する必要が出てきます。

塩の入手問題の件もあるので、海はどうにか実装したいのですが、まだ家の周辺すら満足に造れていない現状で適当な位置に海を広範囲に実装するのは今後この世界の開発を進める際に邪魔になる可能性があるので、出来ればある程度家の周りが形になったら手を付けていきたいですね。

 

「少し滝からの水で見えにくいかもしれませんが~滝の裏にちゃんと洞窟も造ってあるんですよ~、中はまだ何にもないただの洞窟って感じなのですが~中の空間の利用方法はちょっと考えていることがあるので、またその時お披露目したいと思います~」

 

滝の裏の崖には滝によって浸食され出来たように見える洞窟が大きな口を開けています。中にはまだ何の光源もないので真っ暗で確認できないのですが、なかなか大きな空間にしてあります。

ここをお披露目できるのは食べ物関係の成長が順調にいってからになりそうです。

 

「さて、それでは~もうすぐ日が沈むので家に帰りますよ~、って、あれ?狐稲利さん~?ど~したの~?」

 

まだ真っ白な地平線へと太陽がオレンジ色に沈んでいく中、狐稲利さんは滝をじっと見つめています。

どうしたのかと私も滝へと視線を移すと、そこには夕焼けの光によって黄金色に照らされた美しい滝と、周囲に散っている霧に反射して現れた虹が現れていました。

 

「わあ……!」

 

「……!、!」

 

『綺麗……』『思わずため息出るわ~~』『なんだろ、ただ水が流れているだけなのに』『だな、不思議と感動する』『飛沫やらで空間自体がキラキラ光ってるみたいで幻想的だな』『滝の筋がいくつかに分かれているのが何だか生き物みたい』『たしかに光が反射して枝分かれした滝の水がよく分かる』『この滝はなんて名前にすんの?』

 

「名前ですか~?う~ん、そういえば考えてませんでしたね~移住者さんに早くお披露目したいってことしか頭になくって、忘れてました~」

 

『あらわんころちゃんおっちょこちょいね』『珍しいのお』『かわいい』『そんなわんころちゃんもかわいい』

 

「も~う!そういうのはいいですから~!えと、名前!そう名前ですよ、うーんそうですね~」

 

考えながらもう一度目にした滝は相変わらず夕焼けの光に照らされて滝はまぶしく輝いています。

滝は光の反射によって枝分かれした水の流れが目立っており、その流れは全部で八つ。

 

八つに分かれた流れの滝……。

 

「ではこの滝の名前は~八つに分かれる滝、八つ又の滝ということで、"やたの滝"と名付けることにしました~!」

 

 

 

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