転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
鬱蒼と生い茂る木々をかき分け、山道を往くその姿はまさに私、わんこーろでございます。
私は今犬守山の麓の獣道を突き進んでいるのですが、そういえば家は作ったのにそこから伸びるはずの道を全く整備していなかったです。これは神社への参道という形である程度道を造っておいた方がいいでしょうね。
「は~い移住者のみなさんもうすぐ見えてくると思うので目を凝らして探してみてくださいね~」
『はーい』『おけまる』『今来たただいま、何してんのー?』『おかえり~』『おか~』
「移住者さんおかえりなさい~、今はですね~山道を突き進んでいます~」
『説明不足で草』『現状の説明だけじゃん!』『境界のお披露目でしょ』『境界?』
「"魂"実装、アップデート用のエリアの区切りのことです~。さすがにこの広大な世界を一度に更新するのは骨が折れると思いまして~世界をいくつかのエリアに分けて各エリアごとに更新をかけるという風にしていこうかと考えております~。手間というだけでなくアップデート後に何か不具合が発生した場合そのエリアのみ修正をかければいいという理由もあります~」
ガサガサと道なき道を歩いていると目の前に大きな鳥居が見えてきました。私が住処にしている神社の鳥居のつもりで設置したものになります。
鳥居は丸太をいくつか組み合わせて作っただけのシンプルなつくりになっていて、色も樹木の色そのままで、周囲の風景に溶け込むように気をつかって設置しました。
お狐さまを祀っているので鮮やかな朱色に色付けされた巨大な鳥居っていうのも魅力的だと思ったのですが、この鳥居とその先の神社は山の麓にひっそりと存在する神社、というコンセプトで造ったのでこれくらいシンプルで隠れた感じの方が雰囲気が出ていいですね。
『鳥居だ!』『なかなか味があるな』『森の中に突如現れる鳥居とか神秘度高い』『なんか不思議な気配を感じる』
「この鳥居と同じものが犬守山を囲むように四方に設置してあります~、鳥居というシンボルが囲んでいる領域を選択範囲として指定できるようにしてあるわけです~」
見えてきた鳥居へ近づくとその鳥居に隠れるようにしてこちらを伺う存在が目に留まりました。
「……」
『うおっ!びっくりした!』『狐稲利ちゃーん!』『狐稲利ちゃんの登場!!』『配信始まって姿が見えないと思ったらこんなところに居たのか』
狐稲利さんは配信が始まるまで犬守村の周りを散策していたようです。配信が始まったら鳥居の前に来てくださいと言っていたのですが、無事合流できてよかったです。
鳥居の足部分から顔だけを覗かせる狐稲利さんは、近づいてくるのが私だと分かると嬉しそうにこちらに駆けてきます。落ち着いた色の和服とは裏腹にその駆けてくる姿は見た目よりも幼く、お転婆な印象を持ちます。ですがそれも仕方ありません。この子は生まれてからまだ数日程度しか経ってないのですから。
「はいは~い、狐稲利さんも待っててくれてありがとうございます~よしよし~」
「~~!」
狐稲利さんは少し腰を曲げ、私と視線を合わせます。
移住者のどなたかが教えたようでして、狐稲利さんはよく頭を撫でるようにお願いするようになりました。
それが愛情表現の一種であり、強い信頼関係のもとに行われる動作である。と狐稲利さんは学習したようで、ことあるごとになでなでを要求してきます。
まあ、別にかわいいから問題ないのですが。
『かわいい』『かわいい』『これがてぇてぇってやつか……』『幼子になでなでされる少女……いいね!』『やっぱ姿だけ見ると役割が逆に見えちまうw』『逆だったかもしれねェ』
「は~いなでなでおわり~、移住者さんに鳥居もご覧いただいたので次にいきますよ~」
そう言って狐稲利さんと手を繋ごうとその腕に触れると狐稲利さんは大層驚いたように体をびくりと震わせ、目をまん丸にしてしまいました。
「~?、あ、もしかして手を繋ぐってことはまだ知らなかったのかな~?」
繋がれた手と私の顔を交互に見て、小動物のようにオロオロとしています。手を繋ぐという行為にどのような意味があるのか、きっと今狐稲利さんは必死に考えているのでしょう。
しばらくすると狐稲利さんは意を決したように私が繋いでいる手を握り返してくださいました。
「!、そうそうそうですよ~しっかり繋いでいてくださいね~」
離してはいけませんよ?
山の中腹、川が一時的に途切れ"やたの滝"が現れる場所に再びやってきました。まだ日が高いので滝の全容は周囲の木々の影によって隠れ、日の光はまばらに滝を照らしてくれます。
今後、各エリアには鳥居などの"日本なら数多くあっても違和感のないもの"を境界として各地に設置していきます。そうしてエリアの境界を設定した後、そのエリア内に実装するデータが漏れなく確実に実装されるためのデータの
このシンボルの役割はエリア内の実装データの監視やバグ報告等多岐にわたり、実装された"魂"が正常に稼働していることを見守ってくれる存在です。
今回この犬守山や犬守村を含めたエリアのシンボルとして私はやたの滝を用いることにしました。
狐稲利さんからもたらされる魂は今後やたの滝のようなエリアの
"
私は手にした写し火提燈で狐稲利さんの手を優しく照らします。
ふわりと浮かんだ人魂のような明かりはいくつにも分裂し、数えられないほどの量になっていきます。
それらは滝を昇るかのように降下する水流に逆らい上空へと進んでいき、一定の高さまでゆくとふわふわと山全体へくまなく飛んでいきます。
しばらくして、漂っていた光が山へと吸い込まれるように消えていくと、突然木々がざわざわとざわめき始めたように感じました。
木の一本一本が枝を風によって揺らし、いくらかは枝より葉を落とし、散った葉は滝つぼに落ちて、水流に流されていきます。
「可視化しているので"魂"の姿がまるでいくつもの光球のようで綺麗だったでしょ~?わんこーろはこの魂が大地へと降りてくる様子から、この魂実装を"御霊降ろし"と名付けました~」
鳥居で囲まれた範囲に限定し、その範囲内に"魂"が実装されました。今後、この山は自然の流れと共に成長し、枯れ、新たな命を残すという流れを生み出していくことになるでしょう。
『相変わらず神ってるねぇ』『まあやってることがまんま神の所業だしね』『わんころちゃんと狐稲利ちゃんによって命が吹き込まれた!』『なんだか山の雰囲気が変わったような?』『文字通り木々が生きてるからな、そう思っても不思議じゃない』『紅葉とかも見れるようになんのかな、楽しみだ』
「それも楽しみにして頂ければ幸いです~、ん?どうしたの狐稲利さん~」
「……、……?」
狐稲利さんは風で揺れ動く木々を珍しそうにじっと見つめています。
ああ、確かに狐稲利さんにとってこの空間の植物はただのオブジェクトのように見えていたでしょうし、こんなふうに葉が落ちていく光景を見るのは初めてでしたね。
ふむ、これはもっといろんなことを積極的に教えていった方がよさそうですかね?
「どうやら狐稲利さんは木から葉が落ちる光景を初めて見て驚いちゃったようです~」
『まだ狐稲利ちゃんも学ぶことがいっぱいだね』『この場所では今までそれが普通だったからね』『しかし狐稲利ちゃんが何言ってるか分からんな』『しゃべれないわけじゃないんだよね?』『声に関するデータもブラックボックスで再現出来ないんじゃなかったっけ?』
「う~ん、私のデータを用いたので声に関するデータも複製したはずなのですが」
なので声自体は出すことが出来るはずなのですが、狐稲利さんが自ら発言する様子はありません。まあ私は創造主として狐稲利さんとリンクがあるので何が言いたいのか分かるからいいのですけど。
もし、狐稲利さんが無口な性格ならば、無理やりしゃべらせるのはなんだか悪い気がしますし、これについては気長に待ちましょうと、メイクなんかでも移住者さんと相談していました。
「さてさて~それでは今日はこれで配信を終わらせていただきます~これから狐稲利さんとお昼寝の約束があるので~」
『何っ!?お昼寝!』『俺と一緒に川の字で寝ようぜ』『こちら名誉移住者、村八分対象者を捕捉。処理する』『名誉移住者ニキ有能』『いつから名誉制度できたんだよ』『勝手に名乗ってるの草』『最近暑くなってるから熱中症に気を付けてね』『てか電子生命体は寝られなかったのでは?』
「寝られないわけじゃないですよ~、今までは寝る必要が無かったから寝なかっただけなのです~。これからは狐稲利さんに"生きている"ことに関していろいろ教えてあげないといけませんから、わんこーろも狐稲利さんと一緒に寝たり、ご飯を食べたりしていくつもりなんです~」
狐稲利さんにはこの空間の成長のために、生物としての経験値を積んでもらう必要があります。という理由は一割程度。
残りの九割は狐稲利さんに寝ることの気持ちよさや、おいしいものを食べたときの幸せなんかをたくさんたくさん味わってほしいからなんです。
そのためには親である私が率先して教えてあげるのが一番でしょう。
さて、数年ぶりのおやすみです。狐稲利さんと一緒にどんな夢がみれるのでしょう。今から楽しみです。