転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#30 一万人記念配信(前編)

 

「移住者のみなさーん!おかえりなさーい!今日もわんこーろの配信に来てくださってありがとうございます~」

 

待ちに待った休日配信、この日に合わせて先日突破した一万人記念の配信を行うことにしました。

数日前より長時間配信を行うと予告しており、この日はかなり早い時間帯からの配信となっています。

縁側から外へと出て移住者さんに朝の犬守村をお見せします。早朝という事でまだ村は薄く霞がかり、それが太陽光を散乱させることで一層辺りを暖かく照らしているように見えます。

早朝のまぶしい日の光に目を細めながら、肌寒さを感じなくなったことが夏を感じさせます。

 

『一万人おめ!』『おめおめ!』『ついに大台に乗った!』『かなりの速度で突破したなw』『個人勢でここまでの勢いは初めて見た』『俺も古参移住者として鼻が高いぜ』『というかもうすぐ2万人突破する』『この速度なら3万人も目前なんですが』『次週の休日配信が3万人記念になる予感』『一万人突破&二万人到達見守り配信になるなこれは』

 

「そうですね~今の速度で行くと二万人突破も配信中にいってしまいそうですね~おそらくまた作業に集中しちゃうと気づかないかもなのでその時は移住者のみなさん教えてくださいね~」

 

『おk』『おけまる』『了解です』『今日は何するの?』『メイクは長時間配信するってことしか言ってないよね?』『お外にいるー?』

 

「今日はですね~作物の種まきを中心に配信していく予定ですよ~先日移住者さんに育てる野菜の希望を募った結果、まずはトマト、キュウリ、ナス、後はスイカなんかも育ててみようかと考えています~当然味噌や醤油の原料になる大豆も育てますよ~」

 

『おおっ!』『いいね!』『いいじゃん、でも季節が……』『大豆以外どの野菜も収穫時期は夏あたりだが、種まきの時期過ぎてる?』『←そうなのか?てか種まきできる期間とか決まってんの?』『まあ、今は天然の野菜なんて機械的完全室内栽培だから季節とか時期とか関係ないが』『犬守村はネット空間だからさらに関係ないな!』『季節は関係ないが、種から育てるとなるといつ収穫できるようになるやら』

 

「ええ、ええ移住者さんの疑問ももっともです~季節を無視したとしても今から種を蒔いたんじゃいつ見れるのか分からない~ですよね、なので今回だけ特別に植物の成長を早めて、本来今の季節に成長しているであろうところまで時間を進めたいと思います~」

 

『ファ!?』『マ?』『た、確かに犬守村に時間を実装したのはわんころちゃんで、季節を実装したのもわんころちゃん……』『時間を早めるなんて難しくもなんともないな』『時間操作系配信者わんこーろ』

 

「ですが!成長を早めるのは今回だけ!にする予定です~。皆さんにこの夏に収穫した野菜を見てもらいたいという理由もありますが、今回の処置は制作した種が無事に成長してくれるか、内包されたデータがしっかりと種から野菜へ遷移してくれるかの経過観察が含まれているからです~なので成長具合によっては種の3Dモデルは作り直しになるので内心ドキドキしております~」

 

実際は種だけではありません。この種という状態から野菜への変化が上手くいってくれないならば、他の3Dモデルの変化も上手くいってくれない、もしくは上手くいっていない可能性があります。例えば、樹木の紅葉や落葉など。

あと、大豆の収穫時期は秋になるのですが、大豆から醤油や味噌になるまでの発酵工程も問題が無いか確認したいので、大豆だけは季節を無視して収穫できるまで成長させるつもりです。

 

『植物の成長を自由に操るとかまた神に一歩近づいたな』『成長を早めると聞くと最近サルベージされたアニメを思い出すw』『となりのわんころ』『ほんとだもん!わんころいるもん!』

 

「ああ~あのアニメですか~わんころもVちゅーぶで無料配信された時に視聴させて頂きました~」

 

その後しばらくコメントは文化復興省の復興推進室が断片データをサルベージし、環境技術研究所が全面監修を行ったとあるアニメ映画について盛り上がっていました。

アニメ自体は完全にサルベージすることが出来なかったようでバラバラな場面を繋ぎ合わせただけの数分程度の映像になっています。

ですが、たった数分でそのアニメは視聴者の心をわしづかみしたのです。

 

自然豊かなかつての日本の田舎に引っ越してきた二人の姉妹の不思議な体験を描いたおはなしなのですが、この世界の人間にとってはそのアニメで描写されている風景はすべて真新しく新鮮に映った事でしょう。

かつての失われた生活が克明に映し出され、不思議となつかしさを覚えるそのアニメは一大センセーショナルとなり、どのメディアにもたびたび登場するようになりました。

 

私のメイクアカウントにもそのアニメに登場する道具や設備に関する使い方を質問してくる方もおられるようで、私とそのアニメとの繋がりを聞きに来られる方もちらほら。

 

「え~とですね~、メイクでも呟いていたのですがもう一度言わせてもらうと~例のアニメとわんこーろはなんの関係もございません~わんこーろがサルベージしたものでもありません~」

 

いや本当に、もしも私が復元するなら最初から最後まで全部復元したいです、ええ。というか……実際のところ例のアニメは話題になり始めたころに私自身が前世の記憶によってなつかしー!な感じになってしまい勢いのままフルでサルベージ&復元させてしまったんですよね……。

 

しかし、このアニメを私の配信はおろか、ネットに流すのはちょっといただけないのでは?と思っているのです。

 

たった数分程度のストーリーもぐちゃぐちゃの貼り合わせただけの映像がこれだけ話題になるのですから、そんな事をすると話題どころの騒ぎではなくなるのでは……?

 

そもそもこのアニメの著作権やらはどうなるのでしょうか?前回虹乃なこそさんの配信でサルベージしたゲームが新設のゲーム企業から発売する、とあったので販売権は効率化時代に放棄されたとみなされているのでしょうか?それとももともと開発販売していた当時の企業を探して許可をもらった?

 

うーん、やっぱりわかりませんね。効率化時代はゲームを含めた娯楽がかなり酷く批判されていたようで、企業も持っているだけで批判の的となるゲームの各種権利を我先にと放り投げていたとか噂では言われていますし……。

 

……まあ、権利関係など面倒な事になりそうな気がしたので復元したデータは保管領域の奥底にしまい込んだままになっています。

 

 

「さてそれでは話を戻しますね~わんこーろが取り出したるこの紙包みに包まれているものが植物の種になります~これはポリゴンからわんこーろと狐稲利さんがせっせと作ったものです~」

 

手のひらにのせた紙包みを開けながら配信画面にその中身を映します。

種は数ミリ程度のものから数センチ程度のものまでさまざまで、当然ですがどれも成長後の野菜とは似ても似つかない姿をしています。

 

『へぇこれが野菜になんの?』『ちっさ、初めて見た』『これが野菜になるとか想像できないな』『まあまだ無事に成長してくれるか分からんしな』『こいつらがまさしく希望の種になってくれるか』『無事に成長してくれよ!』『犬守村の今後がこの種にかかってる』

 

「ま、まあ楽にいきましょ~、上手く育たなくても原因究明に時間がかかるだけでまたやり直せますよ~」

 

なんだか移住者さんはこれが最後のチャンスだとか無事に成長してくれよ!と力んでいるようですが、もっと楽に考えてくれていいんですよ!芽さえ出ないようなら根本からデータの作り直しになりますが、小さなバグ程度なら今後定期的に行っていく予定の"御霊降ろし(魂の更新)"と同時にデータ修正を行うだけでどうにかなりそうですし。

 

「では畑の様子をご覧いただきますよ~家の縁側から出てすぐのこの空き地ですが~、配信外で狐稲利さんと一緒に耕しておきました~今は狐稲利さんが畝を作ってくださっているところですね~~……ん?」

 

ふと配信画面から視線をそらし、畑の予定地を確認します。そこで狐稲利さんが畝を作っているはずなのですが、すでに畑はまっすぐに土が盛られた綺麗な畝が出来上がっており、狐稲利さんはその畑の隅で土遊びをしていました。

 

少し湿った土をこねこねしたり、山のように盛り上げています。

 

『狐稲利ちゃんwww』『すっごく汚れてて草』『なのにいい笑顔なのが草』『どろんこ遊びか』『やったことない、てか土を触ったことないからなんだか憧れるわ』『土ってどんな感触なのかね?』『土の匂いってのも気になるな』『頬っぺたまで汚れてるけど気づいてなくて草』

 

「狐稲利さ~ん、もうそろそろ種まき始めますからね~」

 

そう言って声をかけると狐稲利さんは夢中になっていた土いじりを中断し、こちらに寄り、手を伸ばしてきました。

手を繋ぎたいのでしょう。

 

「まったく~、わんこーろも狐稲利さんも後で体をきれいにしないといけないですね~」

 

私はドロドロになった狐稲利さんの手をためらいなく握りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~む、やっぱり肥料とか必要なのでしょうか~?作物によっては水やりのタイミングや温度管理も重要らしいですね~」

 

『そこらへんはてきとーでいいんじゃね?』『あんまりリアルにしすぎると何種類も育てるの無理じゃね?』『移住者の中には育てる地味な絵を嫌う奴もいるだろうしな』『俺はわんころちゃんや狐稲利ちゃんが土いじりしてる光景だけで幸せになれるけどなー』『あまりにも面倒な細かい作業は省略してもよいのでは?』

 

「そうですね~出来るだけリアルにしたいというのが前提ではありますが、ある程度作業を簡略化することをお許し頂ければ~」

 

『まあでしょうね』『しゃーない』『ガチ農業やるとしたらかなり時間かかるだろうな』『そこはネット空間らしさ出してけ?』

 

「とはいえなんでもかんでも無くしちゃうと風情も何もあったものではないのでそこは今後皆さんと相談しながらという事にしたいと思います~」

 

さて、ある程度ゆるくするお許しを頂いたところで種をまいていきますよ。

等間隔で畝に穴をあけ、丁寧に種を入れて土をかぶせていきます。その上から水をかけてあげて芽が出るように祈ります。

 

「芽よでろ~でろ~でてね~いっぱい~でてね~。……あ、そうそう~今回は畑に直接種をまきましたけど~実際に種から育てるときは畑の前に育苗用のポットやプランターで苗を育てた後に畑に植え替えた方が失敗しにくいので覚えておくと良いですよ~」

 

『かわいい』『おう助かる』『神様の祈りなら効果抜群でしょ』『土も触ったことない俺らじゃ覚えるもなにもないっす』『野菜の育て方なんて教育データで簡単に教えてもらったぐらいだわ』『そもそも今の野菜って七割合成だからな』『育て方どころか天然の野菜なんて口にしたことない』

 

本当は肥料などを用いた土の改良を行わないといけない野菜や後の厳密な温度管理が必要な野菜などがあるのですが、移住者さんとの協議の結果、省略してもいいとのことなので省略することにしました。

種に内包されているデータのうち、土壌や温度に敏感に反応する部分を非アクティブ状態にしてそれらの要素を無視しても成長するようにしておきます。

 

とはいえずっとそのままではリアルさが損なわれてしまうのでいつかは肥料を作ったり、温度管理が可能なビニールハウスのようなものもこの世界に実装してみたいですね。

 

「ある程度種はまき終わりましたね~。では、この畑の範囲だけ時間を加速させておきますので~芽が出てくるまで他の作業へといきましょ~」

 

 

 


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