転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
さてさて、皆さんは疏水というものを知っているでしょうか。灌漑や農地に利用する水が目的の場所まで流れるように人工的に造られた川のようなものの事を言います。
現在犬守山より流れる川、その終着点は山を下り終えた先で流れっぱなしになっております。まるで3Dゲームの裏側のように開発者が制作せず、本来ならば見えない場所のように適当な状態で放置されています。
この不自然に途切れた川をまずは延長して、そこから田んぼに利用する用水路を作っていきます。
「大まかな計画としては~畑の向こうに広がる平地を横切るように山からの川を通します~その川に沿うようにして田んぼを造って~それぞれの田んぼに隣接して取水用の水路を造っていきます~。畑の近くにも水路は設けたいですし~今後建築物などが増えていくことも想定して大規模な疏水……そうですね、"犬守疏水"を整備していきたいと思います~」
一定の長さの川を造った経験がここで活きてきます。どうすればよりリアルな水の流れを再現できるかある程度把握できておりますし、何なら制作済みの川のデータを流用することも可能です。
もちろん川の一部をそのままコピペするわけではありません。川を構成する岩や砂、泥その他もろもろを複製し、並びを変えて設置していくわけです。一から全部作る必要が無いので制作速度は今までの倍にまで高められておりますよー。
「一度造ったことがあるわけですから~ここはさっさと進めていきますよ~」
それほど目新しさもないので移住者さんにとってはつまらなく思われるかも。ですのでそれほど時間をかけるつもりはありません。
ちょちょいと指先を動かして川の流れる場所を指定してやるとその通りに川が形作られていきます。ただの雑草生い茂るだけの平坦な土地がなぞられた線に従うように窪んでいき、むき出しの土は岩や石に置き換わっていきます。それらが終わると水が流れ始め、水に満たされた川底は徐々に苔生していき、水棲植物が茂り水棲昆虫がその陰から顔を覗かせます。
そしてそれらを餌に川魚が山より下りてきます。
『相変わらずの手際の良さだねぇ』『省略助かる』『省略助からない……』『←わんころちゃんがメイクで制作動画上げてくれてるだろーが』『いやいや省略とかのレベルじゃねーだろ!?お前らなに言ってんの!?』『←初見さん一名ごあんなーい』『初見さんおかえり』『おかおか』『お茶をお出ししろ!』『合成でいいか!?』
「しょけんさーんおかえりなさーい、電子生命体のわんこーろですよ~ゆっくりしていってね~」
ちらちらとコメントを確認しながら川を造っていきます。田んぼにする面積は確保しておかないといけないのであまり蛇行しないように気を付けないと。
ちょいちょいと指先を動かすだけで私の思い描いた通りに川が出来ていく光景はなかなか異様……じゃなくて、神秘的なのではないでしょうか。
「ある程度川は通し終えたので田んぼにする場所を決めて~取水用の水路をつくっていきましょ~」
水路にする場所に溝を掘り、その溝の中で木の板を組み立てていきます。ちょうどコの字型になるように板を組み立てて、水の流れる路があらかた形になったら余分な溝の空間に土を戻していきます。
『木製の水路か』『大丈夫?腐らない?』『耐用年数がががが』『石材にすべきでは?』
「あ~やっぱり~?見た目こっちのが良いかな~と思ったんだけどね~……力作なので使わせて?」
『おk!!!』『かわいいおねだりやね』『首を傾げながらはにかむその技は!!』『狐稲利ちゃんのヤツじゃん』
意外とこの木の板こだわったんですよね。木目の感じとか、まるで使い古された古木のような……うーん、もしかして見た目が悪いから印象悪かったのでしょうか?
まあせっかく作ったので実際に腐ってしまうまでこれでいきましょう。
「田んぼと水路の接続部には仕切板で通常は水が流れないようにしておきます~水を張るときなどはこの仕切板をはずして水を取り入れるというわけですね~」
仕切り部分の仕組みは簡単なつくりになっていて、板の表面に溝を付けてその溝に板を差し込むだけです。移住者さんにも見てもらうように何度か仕切り板を動かして取水口を開けたり閉めたりしてみます。
そうしていると田んぼの予定地である平地から狐稲利さんがこちらに向かって大きく手を振っているのが見えました。田んぼ予定地は水路によって大きく三つに分かれており、すべて合わせて1
およそ1ヘクタールといったところです。
……広いですね。いや、広すぎますねこれは……。
広くて何処までも続く水田というものを想像してこれくらいかな?とあまり深く考えずに場所を取ったのがまずかったです。
私と狐稲利さんの二人が食べる分のお米を収穫するだけなら1町の百分の一の1
……まあ、それはまた今度考えましょう。ええ、問題の先送りですよ。でもまだ苗さえ育てていないのですから収穫後の事を考えるのは皮算用すぎます。……場合によっては空いた場所で豆類や麦なんかを育てることも考えておきましょう。
「……!」
私がそんなことを考えていると、手を振っていた狐稲利さんはこちらへと駆け寄ってきます。反対の手には私がお貸しした裁ち取り鋏が握られています。
既に狐稲利さんのいる土地は鋏の能力で初期化され、耕された土地へと変化していました。
「ん?おおっ、わんこーろが水路づくりをしている間に狐稲利さんが田んぼを耕してくれていたようです~一度水を張ってみて水田の様子を確認してみましょう~。……こ、狐稲利さんっ危ないですから鋏は振り回しちゃだめですよ!」
鋏を上手に使いこなせたことを褒めて欲しいようで、狐稲利さんは両腕を振って私にアピールしてきます。もちろん鋏を持ったまま。……ちょ、やっぱり危ないですって!
興奮する狐稲利さんを諫めながら耕された田んぼへとつながる水路、その仕切り板を取り払います。
仕切板をはずしたとたん水路を流れる水が勢いよく田んぼへと流れていき、耕された土が水分を含んで灰色から黒い色へと変わっていきます。ほのかに匂う土の匂いは山より流れ出た水の匂いと合わさり、ゆっくりと田を満たしていきます。
「……うんうん、いい感じですね~種籾から苗を育てるのは配信外でやろうと考えていますが、田植えはまた後日配信したいと思います~。では畑の様子を見に行きましょうか~田んぼと水路の高さを合わせてあるので水が溢れるという心配は無いので安心ですよ~」
『おお!?なんか出とるー!!』『なんかちみっこい緑のが……』『雑草かと思ったぞ』『犬守山の雑草とは葉の形が違いますねぇ、葉の形でどの植物かだいたい把握できそうだ』『有識者ニキが現れたぞ!』『だいぶ前にコメントしてた環研の関係者か!?』
畑へ帰ってくるとすでにいくつかの畝から芽が出始めているのが分かりました。まだまだ小さく、弱々しいものですがここからさらに大きくなってくれるでしょう。
ひとまず、種から次の段階への遷移はうまくいってくれたようで一安心です。
『でも思ったより少ないな』『失敗か?』『マジ?やり直し?』『いくらか芽はでてるから成功だろ』
「これは成功ですよ~植える前にわんこーろが言ったように発芽の確率を上げるなら直接畑に植えるのはやめておいた方がいいですね~」
今回の主目的は種から想定通りに成長してくれるか、だったので無視しましたが今後植物を植える時はそのあたりも考慮していきましょう。
「今も微妙に成長し続けているのですがしばらくは代り映えしない状態が続くと思われるので~お家の中に入りましょうか~」
場所は変わり、我が家へと帰ってきました。縁側で足を延ばし、水が張って鏡のように風景を反射する水田と、先ほどよりも大きくなった畑の芽を見ながら移住者さんと今後の犬守村の開発について雑談しております。
狐稲利さんは慣れない作業に疲れたのか、先ほどまであんなにはしゃいでいたのが嘘のようにちゃぶ台に突っ伏すようにしておやすみ中です。
「現在せっせと食糧問題を解決しようとしていますが~問題は調味料をどうするかなんですよね~。味噌や醤油はさっき植えた大豆が無事成長してくれるのを祈るだけなのですが~かつての日本では育成されていなかったものはどうすべき~?」
『育成されていなかったものって?』『わんころちゃんがメイクで言っていたのは香辛料など』『スパイスか』『外から買い付けている~的な設定で……』『たしか育てられていなかったのは気候的な問題だからだっけ?』『かつての日本は明確な四季が存在しており、亜寒帯から亜熱帯の間であり、それ以外の気候で育つ植物の育成は難しかった(わんころ調べ)』『←本人の前で本人の発言引用してドヤ顔は恥ずかしい』『せっかく環境をわんころちゃんの好きなように設定出来るんだから育てられる環境を整えてみるのもいいのでは?』『まあ、育てないってのも選択肢の一つではある』
「ふ~む、移住者さんのコメントを見てみるとだいたい選択肢は三つですね~。外から買い付けているという設定でわんこーろがそのものを創る。育てられる環境を創って育てる。そもそも利用しない」
育てられるならば育てたいですね。どうやって育てるのかはこれから調べないといけませんが。
上の三つの選択肢において移住者さんの反応はどれか一方に偏っているという訳ではありませんでした。
育てるのは見ていて楽しい、成長する様子を見せるだけでも配信のネタとしては通用する。と仰られる移住者さんもいれば私の体調を気遣って、育てるのが大変なら3Dモデルとして創ればいい、無くてもいい、と仰ってくれる移住者さんもおられます。
「……思ったより移住者さんの意見がバラバラなので~とりあえず保留にします~しばらくは醤油主体の味付けになりそうですね~」
『了解です』『わんころちゃんの好きなようにしてくれればいいよ』『日本人なら味付けは醤油でしょ!!』『合成のもんしか食ったこと無い俺らが胸張って言える事じゃないですねぇ』『今ある食品も醤油じゃなくて醤油風の味付けで醤油は使ってない』『マジ!?』『本物は味も香りもやばいぞ』『←食ったことあるの!?羨ま死』『醤油には塩が必要ですよ(ボソッ』
「塩なんですが~どうしようかまだ考えている途中なんですよね~山で得る方法もありますが、海で得る方法もありますし~手っ取り早いのは山ですよね、でも海……うーん、どうしましょう?」
『水と塩は大事、お手軽に取れる方がいい。という訳で犬守村の山に岩塩を』『いや俺は知ってるぞ海の塩のほうがミネラル豊富で美味い』『←おまえそれ海の塩(合成)だぞ?』『あるいは海の塩っぽい食用リサイクル塩だろうな』『←マジか!?マジかぁ……』『そりゃそうだ、今の海じゃ塩の精製なんて金かかりすぎる』『塩に関してはどちらでもいいと思うけど、今後海を実装するなら海のほうが都合が良くない?』『塩も海の海産物もほしいから海で』
移住者さんは海派が多いようですね。どちらかというと塩のついでに海産物実装を希望する方が多いようです。
「ですよね~海産物はほしいですよね~食卓がぐっと彩りよくなりますし、鰹や昆布は出汁の素にも必要になりますし~……実際のところ海は実装するつもりではあります~現実のように一面海というような広大な面積は難しいとは思いますけど~」
となると思ったよりも海の実装は早めに考えておいた方がいいかもしれませんね。少なくとも醤油や味噌造りを行う前には実装しないといけません。
どこに創るか、どの範囲にするか、どのような環境にするか。
いやはや、考えることが多くてわくわくしてしまいます。
「もうすぐ配信終了時間になるのですが~最後にもう一つ移住者さんにわんこーろの配信についてご相談したいことがありまして~」
『お?』『うん?』『なにかな?俺のママになってくれるって?』『こちら名誉移住者、火炎放射機の用意をした。皆使ってくれ』『やっぱり名誉移住者ニキ有能じゃん!』『助かる』『助かる』
「え、ええ~とですね~わんこーろの配信の時間についてなんです~。今のわんこーろの配信は主に休日配信と平日配信の二種類あることはご存じだと思います~休日は今日のように朝やお昼の太陽が高い時間からのお家の外で配信をして、平日配信は皆さんお仕事や学校の授業があると思い、だいたい夕方に配信しているのですが~これからもそのスケジュールで進行していっていいのかな?っと思いまして~一度移住者さんの意見を聞いておきたいと思っていたのです~」
移住者さんによっては今の配信は進みが遅いとか、もどかしいと思っている方もおられるかもしれません。私の配信はこの世界の開発を主にしているのにその肝心の開発を皆さんに配信でご覧いただくのは週末のみとなっているのですから。
移住者さんの反応によっては現実のワールドクロックとの同期を解き、平日でも明るい犬守村で配信することも考えていると移住者さんに説明しておきます。
『うーん、このままでいいとおもうけどな』『でも犬守村の開発風景ももっとみたいと思う』『わんころちゃんの配信の良いところは現実としっかりリンクしてるところだと思う』『でもメイクの動画だけじゃ物足りないのじゃ……』『そんな焦って開発しなくてもいいじゃん?ゆっくりでいいよゆっくりで』
「一応平日配信も雑談だけではなく、いろいろ考えているのですが~……」
『へっ?そうなの?』『無理しなくていいよ?雑談うれしい』『村開発の話もしてくれるし、俺はずっと雑談でもいいよ』
「平日はお歌配信や読み上げ配信~本の読み聞かせ配信とか~次の日が休日なら寝落ち配信とか、ASMR?というのも挑戦したいな~と」
『はいっ!今まで通りのスケジュールでOK!閉廷!』『最高かよ!最高じゃねえか!!』『わんころちゃん万歳!!』『今から楽しみすぎて心臓消し飛んだわ』『おほほほおーーーーー!!』
ひっ!?ちょ、ちょっと移住者さん?いきなりテンションがあがりすぎてて恐怖を感じるのですがー!こ、コメントの勢いが止まりませんが、あ、あうあう。
『あ、二万人突破おめでと』
「どさくさに紛れるように報告ー!、あ、ありがとうございますー危うく見逃すところでしたー!」
そんな感じで今日の記念配信は終了しました。チャンネル登録者は最終的に三万人に届くかと言うところまで伸び、次回の記念配信に期待するメイクのつぶやきに若干おののくのでした。