転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#36 塔の街(中編)

 

駅を出た私と○一さんは二人並んで家まで歩いています。この湖上に建設された都市はこれまでの地下に造られた都市群や、わずか地上に残る特別区とは異なり、移動手段はもっぱら歩きか自転車などしかありません。室長が言うにはここは実験都市としての面もあり"非効率"な部分をあえて作ってあるらしいです。

ここの不便さは○一さんやナートさんに愚痴として聞いていたけど、おばあちゃんと住んでいた私にはいまいちその不便さがピンときません。不便といわれる内容のことごとくが私にとって普通の事だったからです。

 

「いやー今日は天気いいね、そんな暑くないし、この街なら青い空も見えるし」

 

そう言った○一さんは何かを思い出したように言葉を続けます。

 

「そういえばさーわちるんの友達のわんこーろさんってさ、すっごいねー。前の記念配信ちっとだけ見てたけど何がなんやら訳分からん!って感じだったよー。あんな光景環研のデータでも見たことないし」

 

えっ!○一さんも見てたんですか!確かに私のメイクでわんこーろさんの迷惑にならない程度の宣伝をしていましたが、○一さんが興味を持ってくれるとは!

これは犬守村の移住者を一人増やすチャンスなのでは?

 

「そうなんですよ!わんこーろさんの配信は他の配信者さんのようなゲーム実況などは全くしないんですけど、その代わりネットの仮想空間を開拓していくっていう何とも新鮮でこれまでなかった配信なんですよね。それが移住者さんの興味を引いて――あ、移住者というのはわんこーろさんの配信の視聴者さんのことなんですけど、その移住者さんをまたそのとろけるようなボイスとよく動くヴァーチャルな姿が魅了してそのまま引き込まれるわけで―――」

 

「わちるん分かったから!ストップストップ!」

 

あう……○一さんからのストップがかかってしまいました。まだまだ話したいことがたくさんあったのに、例えば最近新しく犬守村にやってきた狐稲利さんのこととか、生き物を創った話とか。

でも、話しすぎるとナートさんとお話ししていた時のように「わちるちゃんってわんこーろちゃんの事話すとき早口になるよねw」なんて言われてしまうかもしれません。自重しましょう自重。

 

「わんこーろさんって何者なんだろね、ワタシの配信者仲間もだいたいハマってるし、最近じゃあ新しい配信者?が登場したって話題になってたし」

 

私が落ち着いたころを見計らって○一さんはそう口にします。

確かに○一さんの疑問はもっともです。私は初回配信からの根っからの移住者なのでわんこーろさんの謎な部分は"そういうもの"として深く考えたことが無かったのですが、ここ最近爆発的に増えたわんこーろさんの配信視聴者さんはそこが引っかかっている人が多いようです。

まあ、そんな人もしばらく配信を見て移住者となれば気にならなくなってしまうんですけどね。

そんなふうにわんこーろさんが最近紹介した狐稲利さんについても移住者さんはあまり気になっていないようです。大半の移住者さんはわんこーろさんのリアルの知り合いで新人のヴァーチャル配信者なのだと考えているようです。

 

ですが……。

 

「うーん、わんこーろさんや狐稲利さんは本当に配信者なんでしょうか?」

 

「うん?どゆこと?」

 

「○一さんやFSの皆さんの配信を視聴者として傍で見ているとよく分かるんです。ヴァーチャル配信者ってやっぱり言葉の端々にリアルや現実的な内容が隠れていたりするんですよね。それが悪いって訳じゃないのはナートさんの配信なんかを見ていると分かるんですけど……」

 

私と同じFS所属の配信者であるナーナ・ナートさんはFSの中で一番年上のお姉さんです。そのせいかナートさんの配信には現実的なネタやら雑談内容が多分に含まれていたりします。初見視聴者さんの中にはそんな現実的な内容を生々しく語るナートさんに顔をしかめる方もいます。

それでもFS配信者としてなこそさんや寝子さんに負けず劣らずの人気を誇っているのはナートさんのその煽りに対する対応力とメンタルの強さによるものなのでしょう。

 

「わんこーろさんの配信にはそういったヴァーチャルの向こうのリアルを匂わす発言がほとんど無くて、まるで本当にネットの中に住んでいるみたいに感じてしまうんです」

 

「ああ~確かに。なんだか配信してる世界に入り込んでるって友達も言ってたっけな」

 

「なので、私はわんこーろさんは本物の電子生命体だと思っています!」

 

「お、おお……まあそれだけ徹底してるってのは尊敬するけどさ」

 

なんだか○一さんに呆れられてるような気がしますが、○一さんはあのわんこーろさんの配信をしっかり見ていないからそう思うんですよ!

一度最初っから視聴すればその世界に入り込んでしまう感覚を理解できるはずです!

 

「そう言えばそのわんこーろさんってのはいろいろ昔のデータを引っ張ってきたりしてんだろ?室長とかはなんか知ってんじゃないのかね?」

 

「そういえば……わんこーろさんのいろいろを疑問に思っていなかったので室長に改めて聞くことはしてませんでした。何か問題があれば室長の方から注意しにきてくれますし」

 

「ワタシら配信者はあんまし推進室の仕事に深く首突っ込まないように言われてるし、知ってても"なこそ"ぐらいだろうしなー」

 

私たちFSの配信は基本的な方針を室長が決めて、配信スケジュールは灯さんが決めるようにしています。ですが、それもきっちり決められている訳ではありません。

というか、ゆるゆるです。室長の決めた方針というのは"他人に迷惑をかけない"、"楽しむこと"の二つぐらいで後は好きにしていいと言われました。

灯さんのスケジュール管理も記念日や日付をまたぐような配信をする際は声をかけてくださいね、としか言われず、FSの皆さんは好きな時に好きなように、自分が面白いと思った配信をしています。

そんな放任主義的なところのあるFSですが、その中でリーダー的存在と認知されているなこそさんは少し事情が違います。

なこそさんも私たちと同じく好きなように配信されておられます。なこそさんの配信にボードゲームがよく登場するのもなこそさんがその手のゲームが好きだからというのが大きいです。

ですが、それ以外になこそさんの配信にはFSの事務的な話が含まれていることが多いのです。私の初配信日に関する告知が初めてされたのもなこそさんの配信でしたし、何かしらの炎上騒動が噂された時も真っ先になこそさんの配信にて事情が説明されたりしたようです。

なこそさんは運営的な存在である室長、灯さんと配信者である私たちの橋渡し的な立ち位置に居るのだと思います。

 

「なんだかなこそさんに頼りっぱなしになりそうです……」

 

私が何か問題を起こしたり、トラブルが発生した時もきっとあの優しい顔で、もう仕方ないなぁなんて言いながら助けてくれる、そんな光景が容易に想像できてしまいます。

 

「なこそはそういうヤツなんだよ。自分の事は後回し、他人を立てることが好きなんだって言ってた」

 

そんなことを○一さんと話しているとあっという間に家についてしまいました。私や○一さん、それに他のFS所属の配信者さんが一緒に暮らしているその家はこの都市では珍しくない一軒家でそれなりの大きさがあります。

FS配信者だけでなく、灯さんや室長も一緒に暮らしているので大きいだけでなく、部屋数も多くてまるで寮生活をしてるような気分になります。

扉に手をかけ、部屋の中に○一さんと一緒に入ります。家にいるはずの室長にただいまと声をかけようとリビングへと入った瞬間、その声が私に届きました。

 

「んぐぅうううううう……」

 

これは、鳴き声?誰かの声……でしょうか?

 

この家のリビングはそれなりに広い作りになっています。住んでいる皆さんの個室は二階から三階にあり、一階にはリビングやキッチン、お風呂やトイレなどなどそれ以外の部屋が集中しています。

そのリビングのソファからなにやらうめき声のようなものが聞こえてきます。

 

「んぎゅぅぅぅぅぅ……」

 

さらにみゅにに、うにゅにゅと様々な声が不規則に聞こえてきます。どれも同じ人物からの声のようです。

 

「ただいまー」

 

「た、ただいま帰りました……」

 

○一さんは謎の声に臆することなく挨拶してソファへと近寄ります。ソファには二人の少女が座っており、ひとりは姿勢正しく腰掛け、両足をそろえて綺麗な姿で何やらタブレット端末を真剣な様子で眺めています。

もう一人は座っていると言うより、なんだか力なくぐだっとしているように見えます。

 

「部屋中に響くような変な声出してんじゃねーよ」

 

「あいだっ!」

 

そう言って○一さんはソファに寝そべるようにもたれかかっていた少女の額に一発デコピンをお見舞いします。不意打ちを喰らった少女は突然の痛みに悶えた後、がばっと起き上がり、涙目になりながら○一さんへと向き直ります。

 

「なにすんだよぉ!!人が気持ちよく寝てたってのにさぁ!!」

 

「いびきがうるさい、てか、キモイ」

 

「き、キモイ!?配信でも"なー党"のみんなに可愛いって評判な私のいびきが!?」

 

「配信切り忘れて就寝中の様子まで垂れ流すのはナートぐらいだっての。みんなどう反応していいかわかんねーから無難なこと言ってるだけだろーがよ」

 

「んぐぐ……そんなの私だって分かってるんだよぅ……あれはトラウマだよぅ……言わないでよぅ」

 

「最初にナートが言ったんじゃん」

 

そう言って○一さんに古傷を抉られた少女、ナーナ・ナートさんは再びソファに突っ伏します。顔をぐりぐりとソファにこすりつけるように隠し、そんな頭の動きに彼女の長いツインテールが従うように動いています。今の時代でも珍しいその美しい金髪は彼女の丁寧なケアによって日の光を反射し、羨ましく思えるほど艶やかに映っています。

彼女自身もそんな特徴的で目立つ髪色に負けないくらいに綺麗な人です。大きくぱっちりとした目に、大人びた顔立ち、最年長とはいえ私たちとそう歳が離れていないはずなのに、なんだかとってもお姉さんのように感じます。

 

……まあ、○一さんにあしらわれている姿を見てしまってはそのように感じるのも難しくはありますが。

 

「うわーん!○一ちゃんがいじめるー!寝子ちゃーん」

 

「ナートお姉ちゃんうるさいです。ちょっと静かにしてください」

 

ソファに顔をぐりぐりとこすりつける動作をしばらく続けたあと、ナートさんは隣に居た少女に力なくもたれかかろうとしますが、察した少女は体一つ分ナートさんから距離を置き、当ての外れたナートさんは再度ソファに顔を埋めます。

 

「相変わらず寝子はクールだね」

 

「○一お姉ちゃんやナートお姉ちゃんがうるさすぎるだけです。私ぐらいが普通です」

 

銀色の髪を揺らし、なんでもないように答えるのはフロントサルベージで最年少の配信者である、白臼寝子(しらうすねこ)ちゃんです。まだまだ幼いその容姿と平均よりもかなり低い身長のせいか、彼女はいつもFSメンバーに妹として可愛がられています。

本人はそんな年下扱いが不満のようで、オトナに見えるように髪を短く切りそろえ、口調も大人びたものにしています。

ですがそんないじらしい姿が逆に皆さんの庇護欲を掻き立てているのを寝子ちゃんは知りません。

ふんっ、と鼻を鳴らし寝子ちゃんは再度タブレットに目を移します。

 

「うぐ、ひぐ、えぐえぐ……」

 

ナートさんは心なしか震えていて、……泣いているような気がしますが、誰も気にしません。

いつもの光景ですからね……。

 

「うえーん!わちるちゃーん」

 

「へっ!?きゃあ!」

 

なんと、ナートさんはノーモーションで今度は私へと抱き着いてきました。体格的な事や先輩である事もありナートさんを無理に引きはがすなんてこと私には出来ません。

 

「ちょ、ちょっとナートさん!」

 

「わちるちゃ~ん、前も言ったでしょ~私の事はお姉ちゃんって呼んで~」

 

「い、いえいえ流石にそれは失礼で……!、ナートさんっ!服の中に手を入れないでくださいっ!」

 

「わちるちゃーん~お姉ちゃん~~」

 

「分かりました!分かりましたからやめてください!ナート……お姉ちゃん!!」

 

「うへへ~~」

 

満足したのかナートさん……ナートお姉ちゃんは私から手を放し、再び寝子さんの隣に座り直しました。寝子さんはナートさんへ不満げな顔を向けますが、ナートさんは構わず彼女の隣へ座り、もたれかかります。

こうなっては何を言っても動かないことを知っている寝子ちゃんは深いため息をついた後、ナートお姉ちゃんを無視してタブレットに映された映像に再び目を落としました。

 

「んで、寝子は何見てんの?配信のアーカイブ?勉強熱心だねー」

 

「……悔しいですけど、私はまだ○一お姉ちゃんやナートお姉ちゃんみたいに視聴者の皆さんを喜ばせているとは言えませんから」

 

「ストイックだねぇ、勉強することも大切だけど、ワタシらが楽しまないと見てくれている人たちだって楽しめないんじゃね?」

 

「"楽しむ"とは基本的な知識が有る前提の話だと私は思います。私にはまだ配信者として基礎知識が不足しています」

 

「……ストイックってか、頑固なんだよな……」

 

最後に小さな声でポツリとつぶやかれた○一さんの言葉はどうやら寝子ちゃんには聞こえていなかったようです。

 

 

しばらくそうしてリビングで談笑していると奥の部屋から誰かがやってくるのが見えました。

 

「おっ、みんな帰ってきてるね。お帰りお帰りー」

 

「灯さん、ただいま帰りました」

 

「ただいまセンセー」

 

現れたのはこの家で私たちFS配信者とともに生活している、いわゆる運営のお方。名前を白愛灯(はくああかり)さんといいます。灯さんはパソコンや配信機器関係にめっぽう強く、私たちの配信環境のサポートのみならず、配信内容の相談にまで乗ってくれる方です。例えば、配信にて実況したいゲーム類の許可取りをしてくださったり、私たちのヴァーチャルな姿や、なこそさんが配信で用いているボードゲームの3Dモデルを作製したり、あとは過去のゲームをサルベージしているのも確か灯さんだったと思います。

 

ずれた眼鏡の位置を直し、青みがかった銀髪を揺らして灯さんは自身をセンセーと呼んだ○一さんに苦笑します。

 

「もうっ!○一さん先生はやめてくださいってば」

 

「だってセンセーはセンセーだし」

 

○一さんは悪びれることなく再度灯さんをセンセーと呼びます。私がここにやってきた時にはすでに○一さんは灯さんのことを先生と呼んでいました。なぜかと聞いたこともあるのですが、○一さんはただ、先生だから、としか答えてくれませんでした。

○一さんにも何か人に言いたくない事情があるのだと思い、それ以上聞いたことはありません。何度も繰り返されているこの掛け合いを聞いているとそれほど重い事情ではないとは思うのですが、なんだか今更過ぎて聞くことができません。

 

灯さんはしかたないですねぇ、と一息ついて寝子さんへと近づいていきます。

 

「はい寝子ちゃん、これお願いされていた3Dモデルね。多少無茶に動かしても問題ないと思うから」

 

「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」

 

寝子ちゃんは灯さんが差し出した指先ほどの小ささのメモリを受け取ると、タブレットに差し込みます。中身は先日から寝子ちゃんが灯さんに頼んでいた新しい3Dモデルのようでした。

 

「室長さんに利用許可を頂きたいのですが」

 

「それならもう頂いてますよ、いつでも寝子ちゃんのタイミングでお披露目配信していいそうです」

 

寝子ちゃんの問いかけに灯さんは分かってますよといった顔でそう答えます。寝子さんは驚いた様子のまま、一拍おいて灯さんにありがとうございます、とお礼を言いました。

なんだか寝子さんの目が若干輝いているような気がします。確かに灯さんの気が利くところは尊敬できるところです。私だけでなく、FSの皆さんはそんな灯さんをまるでお母さんのようだと感じている方も少なくありません。

もちろん、そんな恥ずかしいことを口にすることなんて出来ません。今のナートお姉ちゃんのように灯さんが寝子ちゃんのそばに寄ったのをいいことに、頭を撫でてもらおうと期待するのが精一杯です。

無言の要求をしてくるナートお姉ちゃんに気が付いた灯さんはやれやれといった風に首を振り、優しくナートさんの頭を撫でてあげます。

 

「ありゃ?そういや室長は?今日は家に居るんだよな?」

 

撫でられて幸せそうなナートお姉ちゃんを呆れたように見ていた○一さんは灯さんの言葉に室長の居場所を聞きます。

確かに室長はいつもならリビングでお仕事をされていらっしゃいますし、今ここにいないのは珍しいです。

 

「会議用の部屋におられますよ、ちょっとお客様が来られているので」

 

「へぇ、客?珍しいじゃん、通話じゃなくて直にこっちに来るなんて」

 

「それだけ大切なお話しなんですよ」

 

この家は私たちの住居としてだけでなく、復興推進室の拠点としても機能しているので突然のお客様というのも珍しくはありません。ほとんどは室長への通話という形で偉い人から連絡が来るらしいのですが、今回のようにこの都市にわざわざ足を運ぶお客さまも時々おられます。

 

私たちは極力推進室としてのお仕事には関わらないように室長に言われているので家の中でお客さまとすれ違っても軽く会釈するぐらいで話したことはありません。

 

「んみゃんみゃ……」

 

「ああもう、ナートちゃん寝るなら自分の部屋で寝ないとだめですよ?」

 

「どうせまた徹夜でゲームやってたんだろ?配信で」

 

ナートさんは主にゲーム実況をメインにしておられます。その中でも深夜帯に配信されているというアーカイブ不可配信は煽り、罵倒、叫び声なんでもありのカオス配信で、良い意味でも悪い意味でもFS随一の盛り上がる配信をされている方、と灯さんに聞いたことがあります。

私以外のFSの皆さんは何度かコラボ配信にてナートお姉ちゃんとご一緒されたことがあるらしいのですが、私はまだお呼ばれされていないので一体どのような配信なのか、アーカイブが残っていないようなので気になってしまいます。

 

「ナートお姉ちゃんの配信ってどんな感じなんですか?」

 

「わちるお姉ちゃん。ナートお姉ちゃんは参考にしてはいけません」

 

「わちるん悪いことは言わん。こいつから誘われても荒らしコメみたく無視しろ」

 

「うーん、新人のわちるちゃんにはまだ早いかなー?」

 

私のナートお姉ちゃんの配信に対する興味はその場にいる全員に否定されてしまいました。

そう言われると余計に気になってしまうんですよね。……視聴者さんの切り抜きがないか後で調べてみましょう。

 

「ナート、完全に寝ちまったみたいだな……」

 

「もう、しょうがないですね。……よいしょ」

 

灯さんはナートお姉ちゃんの頭を撫でるのをやめ、起きないのを確認しておんぶします。どうやらこのままナートお姉ちゃんの部屋まで運んであげるようです。

 

「だらしない娘と過保護なお母さんって感じだな」

 

○一さんは笑いながらそう言います。灯さんは自覚があるのか苦笑するだけで何も言い返せないようです。その場で毛布を掛けるという手段もありそうですが、灯さんはそれでは体を痛めてしまうからといつもこうやっておんぶして部屋へと運んでくれます。

私はまだ経験はないのですが、皆さん翌日には灯さんに顔を真っ赤にして謝りに行く光景は珍しくはありません。

 

「私もついていきます!」

 

大丈夫だとは思いますが、部屋に運ぶということは階段を上るということです。それほど段数があるわけではないのですが、バランスを崩しては大変です。私もついていきます!

 

「あら、わちるちゃんありがとね」

 

 

 


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