転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#40 けものの山の構想

「むむむ……」

 

現在私は苗代にて育成中である稲の苗の状態を確認しております。先日の記念配信にて種から苗を育てていることは配信にて紹介したのですが、その後の育成がうまくいっていません。

苗代とは種から稲の苗を育てる専用の小さな田んぼのことをいいます。ここで苗を育てて、その苗を本来の大きな田んぼへと"田植え"するのですが……私が蒔いた種から苗に成長できたのは全体のおよそ三割程度です。

 

「種はちゃんと消毒したし~温度センサはノンアクティブ状態だし~土?土が悪い~?」

 

結局苗代で種を蒔いては時間を進め、蒔いては進めを繰り返して田植えに必要な数の苗を確保したのですが、これでは根本的な解決になっていません。

 

「と、とにかくこれ以上移住者さんを待たせるのも悪いので~この量産した苗で今後田植え配信することにしましょ~……」

 

次の田植えの季節までに解決しておかないといけない問題ですねこれは……。とにかくこのまま苗を田植えできる大きさになるまで育てますか。

 

……さて、もうそろそろ配信の準備にかかりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます~今日も元気に休日配信していきますよ~」

 

最近おなじみになった週末の休日配信が始まりました。時間はお昼より少し早いくらい。すでに夏特有のじんわりと暖かい空気を感じますが、私が今いる場所はいつもの家の中で、日差しが遮られているので意外と快適です。

移住者さんもどうやら快適な環境で配信を視聴しているようなので熱中症の心配はしなくてもよさそうですね。

今日の狐稲利さんは一日中ネットの海に潜っている予定なので今回は一人で配信することになります。配信を始めて間もないころを思い出して少し緊張しますね。

 

 

さて、先日行った動物の実装に関する投票ですが、つい先ほど締め切り、結果を発表することになりました。総投票者数は一万以上を記録し投票先はほぼ均等に散り、ほんの僅かな差によって決定しました。

この投票ですが、皆さんから募った実装候補を私がさらに精査して数種類に絞り、その中から投票するという形にしています。

移住者さんには狼が圧倒的人気で実装希望が最も多かったのですが今回の投票先には選べないようになっています。その理由として、狼が主に肉食性の動物であり、食料となるのが他の動物だからです。

狼だけを実装しても、彼らの狩りの対象となるべき存在がいなければ意味がありません。

今後様々な動物を実装する予定ではありますが、その実装する順番をよく考えなければ食物連鎖のピラミッドの崩壊を招きます。

そのため私が最初に実装する候補として選んだのは昆虫などを餌とするものや、草食性のもの、あるいは雑食性の動物と決めておりました。

 

これに関しては多少移住者さんも不満に思っていたようですが、理由を話せばある程度理解していただけました。

とにかく動物の実装は初期段階に肉食性でない小型の動物を実装後、中期に雑食性や肉食性の動物、後期に肉食性の大型動物を実装すると配信とメイクの両方で告知しておきました。

 

「というわけで~今回投票にて選ばれた実装第一段は~"タヌキ"に決定いたしました~!」

 

『たぬきーーー!!』『たぬ~~』『説明しよう!タヌキとは……』『タヌキとは…?』『………』『おい!?雑学ニキ!?どうした返事しろ!』『タヌキはいい選択。雑食性で昆虫や魚、木の実なんかも食う』『とりあえず犬守山は餌が豊富か』『食事に関しては問題なさそうだな』『川の近くを好むからその点も問題なさそう』

 

「はい~今回実装するホンドタヌキは雑食性なので食料に関しては問題ないかと~。ですが、このタヌキ……いえ、今後実装する予定の動物は基本的に犬守山から離れた場所で実装しようと考えております~、タヌキに限らず野生動物が麓まで降りてくると畑や田んぼが荒らされる可能性がありますから~。豊富な食料と快適な住処となりそうな動物達のための山を一つ創ってしまおうと考えております~」

 

『おおーーー!!』『山つくんのか!』『犬守山を含めて二個目だな』『いや、わたつみ平原の先に連峰が見えた』『←マ?いつの間に……』『あれ映像データを映しただけの背景じゃないの!?』『普通そう思うよな……』『でもわんころちゃんだしなぁ』『知らぬ間に山が一つや二つ増えてても驚かんようになってきたわ』『その山はお披露目配信するん?』

 

移住者さんがおっしゃっている山はわたつみ平原の向こうにうっすらと見えていた山々のことでしょう。犬守山とは比べ物にならないほどの標高で、頂上はいつも雲に隠れているのでうかがい知ることができません。

 

「まーそっちはてきと~に造っただけなので配信する予定はないんですよ~今回造る山はですね~犬守山の二倍程度の規模にして~沢山の動物が暮らせるように整備していきたいと思ってます~、今日はその山を創る場所を皆さんで決めよう!という配信になります~ではいってみよ~!」

 

元気に宣言して私は部屋を出て縁側へ。

 

今日は移住者さんと一緒に犬守村を見学して頂きながら山の予定地を見て回ることとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

改めて移住者の皆さんに私と狐稲利さんの住むこの空間について直接歩きながらお見せしていきます。

 

「もうすぐトマトは収穫できますね~少し赤くなってます~」

 

家の縁側から外に出るとまず目に入るのは家の庭に造られた小さな畑です。記念配信で種まきをして、その配信のうちに芽を出した野菜たちはもうすぐ収穫できると思います。

それと時間はもう早めてはいません。夏に収穫できる予定の野菜はこのまま通常の時間経過で成長させて収穫する予定です。でないと収穫タイミングが知らぬ間に過ぎてしまうかもしれませんから。

 

『うまそう』『わんころちゃんの両手で包み込めないほどの大玉に育ったな』『←それはわんころちゃんのおててが小さすぎるだけでは?』『え?わんころちゃんの……が小さいだって?』『ま、まだ成長途中だから……』『これからに期待しよう』『だいじょうぶだよ?移住者はみんなわんころちゃんが小さくっても味方だから』

 

「……なに言ってるのかな~移住者さんは~?」

 

手?手の話だよね?いきなり何の前触れもなくアッチ系の話題が展開されるなんてことあるはずないよね?うん、そうだよね、……さあ次いきますよ!!

 

畑の様子を確認した後、家の正面である神社へと回り込みます。まだ真新しさを感じさせますが、造ってから何度か雨風にさらされているので造った直後の新しすぎるという違和感は薄れ、木々に囲まれたこの立地に馴染み始めているように感じます。

この神社の中には私がこの空間で初めて配信で制作お披露目をした狐の人形……のコピーが祀られています。本物は制作資料を提供してくださったわちるさんに提供済みです。

 

せっかくですから挨拶をしておきましょうか。

神社の鐘を鳴らして二度頭を下げ、二度手を合わせます。これまでの村の発展を報告し、今後の発展を見守ってくださいとお祈りします。その後もう一度頭を下げておしまいです。

 

「二礼二拍手一礼って、移住者さんはご存知ですか~?今では知らない方のほうが多いかもしれませんね~」

 

『知ってるぞ』『神社の参拝マナーだっけ』『移住者なら基礎知識よな』『とはいえマイナー知識ではある』『ある程度サルベージされているが、生活に直結してない知識はなぁ』『興味がないと調べることすらしないからね仕方ないね』『しかし改めてみるとやっぱクオリティたけーわ』『あれ、賽銭箱あるじゃん!賽銭も投げさせてくれよ』『←それな。移住者に賽銭投げさせてくれよー』『わんころちゃんて収益化申請してんの?』

 

「んー?、してないですね~、今のところ予定もありませんし~」

 

私が配信をしている動画投稿サイトであるVちゅーぶでは他のサイトと同様に広告や投げ銭機能と呼ばれる配信者が収入を得ることができる収益化の申請ができます。

 

Vちゅーぶの収益化条件は投稿した動画の累計視聴回数一万回以上に加え、チャンネル登録者数3000人以上というなかなかに厳しい条件ですが、これはなんとかクリアしています。

それではなぜ収益化しないかというと、そもそもお金を得ても有効に活用することができそうにないからです。

他の配信者さん、例えばフロントサルベージ所属の配信者さんは新人のわちるさんを含めて全員が収益化しておられます。皆さんは収益化で得られたお金で実況するゲームを購入したり、配信機器を新調したり、最近では珍しい食べ物の情報と共に投げ銭が投げられて、後日その食べ物を食べたお話を配信で語っているのを見かけたことがあります。

視聴者の皆さんもそんな推しの姿を見られるからと気軽に投げておられるようです。

 

ですが、私は電子生命体なんですよね。収益化してお金を頂いても今のところ何に使えばいいかあまり思いつきません。この空間を開拓するのに注力しているのでゲーム実況などには手を付けていませんし、高性能のマイクやPCもいりません。食べ物についても同様です。

あり得るのは何らかの有料ソフトなどの購入に用いるぐらいでしょうか?まあ、環境に最適なものを自作できるのであまり活用する機会はなさそうですけど。

 

「収益化しても~移住者さんにしてあげられることはありませんからね~頂いたものを返せるくらいに開拓を頑張るしかできそうにありませんよ~」

 

『そんなこと考えなくていいよ?』『投げたいから投げてるだけだしね』『金かかる趣味がないからじゃぶじゃぶ投げていくわ』『うっせえ!金ならある!投げさせろ!!!!!!』『てか、マジな話この開拓風景だけで金とれるレベルなんだよなぁ』『はよはよはよはよ』

 

「ああ~もう、分かりました!何か考えておきますから~皆さんも何か要望があれば言ってくださいね~?」

 

 

 

 

神社を後にして最近造った参道を辿って山を下りていきます。森の中に造った参道は石畳を敷いて、比較的歩きやすく整備してあります。時々ゆらゆらと落ちてくる葉の影が石畳に写る様子を眺めていると、落葉や桜の季節は何とも綺麗な光景を拝めるのではと期待してしまいます。

そのまま進んでいくと鳥居が現れそこで石畳は終わり、整備された農道が現れます。整備といっても大きな石をどかして雑草を刈った程度なんですけどね。

 

「この道を南にいけば~わたつみ平原へと行けます~予定地候補は何も創ってない北か~東ですね~」

 

『おk』『了解です』『こうやってじっくり犬守村を見たのって初めてかもしらん』『どっちに行く?』『北はほぼ無編集な状態やね』『対して東は前に造った水田予定地があるか』『まだ田植えはしてないのか』『配信でやるって言ってたっけ?』

 

「田んぼは水が張ってあるだけですね~近々田植え配信をして~それが終わったらほかの野菜と同じように夏まで時間を進めようと思います~あ、一度お米の味を確かめたいのでいくらかは収穫まで成長させてみるつもりです~」

 

『田植え配信たすかる』『水張ってあるだけでも絵になる』『鏡みたいで綺麗よなー』『東に山創るとなると、この水田の先ってことになるのか』『このまま北に山を創ると犬守村の隣ということになる。それじゃわざわざ動物の山を分けて創った意味がなくなるのでは?』『ああそっか、畑が荒らされないように住処を分けるんだもんな』

 

「なるほど~確かにこのまま犬守山の隣を動物の住処にするのはちょっと問題かも~。ですが、決して動物がその山から出てこれないような隔離された場所にするつもりはないのです~あくまで彼らが定住できるお家として山を創る予定なので~」

 

この動物の山も一つのエリアとするつもりなので、やろうと思えばこのエリアだけに動物が存在するようにも出来ますがそれはさすがに違和感ありすぎです。天然の動物園かと。

山をメインの生活圏として頂いて、都度ふもとへと姿を見せていただけるくらいが丁度いいでしょう。

 

『ならやっぱり北はダメだな』『すぐ隣に創るなら動物が住処を拡大すると結局犬守山も動物の住処にされるわな』『お家の周りが肉食獣だらけに……』『それはマズイな』

 

「動物が住んでくれるのは良いのですがやっぱり限度がありますからね~今後大型の動物も実装する予定なのでわんこーろがおもてに出られないようになっちゃいます~」

 

北はまた何か別のもの創ることにして、予定地は東のどこかということにしましょうか。

 

「では東の先~田んぼを越えた向こうへ行きましょう~」

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ田植えを行っていない水田を風が通り抜けていきます。鏡のように鮮やかに風景を写していた水面はその風によってまるですりガラスのように写した風景をぼやけさせ、波紋を広げていきます。

そんな水田に沿うように造られた水路では緩やかに水が流れていき、山の川から流れてきた水はこの季節でも驚くほど冷たくて、手でちょっと触れてみるととても気持ちいいです。

最近では蝉の鳴き声もちらほら聞こえてくるようになり、きっと田植えを終えるころにはこの水田も蛙の合唱が聞こえてくるようになるでしょう。

 

「ここら辺もらしくなってきたでしょ~?配信では言っていなかったのですが~空の色や太陽の色も初期の10倍ほどに増量しています~山の位置や過去の気象データなんかを利用して風や雨の発生条件もよりリアルに再現するように改良してあります~」

 

『分かる。かなり鮮やか?になった』『青色だけに見えるんだけど確かに鮮やかという表現が似合うな』『雲ももくもくしてて面白い』『入道雲だね。思ったより立体感あってびびる』

 

田んぼを越えるとその先はほとんど何もありません。真っ白な空間というのもなんだか嫌なので地面だけは創ってありますが、そんな何もない地面だけの土地が延々と続いているだけです。

 

「ここら辺に創ります~?犬守山からは遠いですし~……田んぼは近いですが」

 

『うーん……』『田んぼが近いのがなぁ』『ある程度は仕方ないのでは?折り合いをつけないと』『そうそう妥協しないとどこにも創れんて』『それに動物の被害もそれほど深刻に考えなくてもいいかもしれん』『←うん?どゆこと』『野生動物が山から下りて田畑に被害を出すのはつまり山に食べ物がなくなったから。住処の山に餌が豊富ならわざわざ人間のいる場所までやってくることは無い。動物って基本臆病やしね』『なるほど』『……まあ山の食べ物より人間の作る野菜のほうがおいしいからってやってくることもあるが』『やっぱダメじゃん!』

 

「う~ん……何か畑と山の間に壁、とまでは言いませんが~侵入を抑止する何かが必要ですかね~」

 

『壁つくる?』『柵や網ならまあ景観的には妥協できるか……?』『もっと自然的なものがいいなぁ』『じゃあ川にしよう!』『川がいいかな』『今まで造った川よりももっと大きくて深い川……河を造るのはどう?』

 

「ほほう!河ですか~!なるほど確かにそれなら景観を損なわずに動物の侵入も抑止できそうですね~今までのような小さな川でなく、この空間で一番大きな河を造ることにしましょ~!」

 

そうなるといろいろ考えることが増えてきますね!大きな河を造るならそこを横断するために橋を架けたいです。橋は何製にしましょうか。石造りでもいいですし、木材を使ったものもいいですねぇ!

犬守山の川や、そこから派生した疎水も合流させましょう。大きな河ですからヌシみたいなのも生み出したり……!

 

「ではではここに河を創って~それから動物たちの山を創っていきますね~、皆さんも配信やメイクにてどんどん意見やアイデアを下さい~、では今日は予定地を決定したここまでで配信を終わります~またこの犬守村に帰ってきてくださいね~それじゃばいばい~いってらっしゃ~い」

 

『いってきまーす!!』『また帰ってくるよわんころちゃん』『おつでした~』『ばいばい~』

 

 

 

 


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