転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
皆さまおはようございます。最近平日の配信がままならず、お休みしておりました。何とか実装途中の河の予定地や作りかけの山の姿をメイクにて動画として投稿しているのですが、やっぱり配信で移住者さんとお話しする方が身近に感じられる気がして私は好きです。
なので休日である今日はめいいっぱい移住者さんとお話ししながら開拓していく雑談兼作業配信にしました。
狐稲利さんも久しぶりに移住者さんとお話しできると聞いてとても喜んでいます。
「河を創るのは良いですけどやっぱり堤防も一緒に造っておきましょう~田んぼに近いので大雨が降って氾濫するといけませんから~」
『台風とか梅雨とかあるもんね』『そんな面倒なこと実装しなくていいと思うけどな』『台風は災害という面もあるが、普段雨の降らないような地域に降水をもたらす益のある現象でもある』『梅雨もおんなじだな、夏の期間に雨がまとまって降ってくれるのはありがたい』
「移住者さんわんこーろの知らぬ間に物知りになっておられますね~これはわんこーろとしてもありがたいことです~一緒に村を発展させていきましょ~ね~」
さてさて河と堤防、さらにその先の動物たちの山を創っていくのですがいつもの通り、まずは大まかな形を創って、それから細かな部分を仕上げるようにしていきたいと思います。
既に今日の配信までに河にする場所を掘り終えており、山の方も植物は植えていないですがある程度の形を創り終えてあります。
河に敷き詰める岩や砂利、水棲生物各種、山は水の湧く場所を設定して動物の食べ物となる木の実や果物のなる木を植えていく。
ちょいちょい空に昇って全体を確認しながら修正を施し、また設置と植林を繰り返します。
この作業は狐稲利さんにも手伝ってもらっていて、私がある程度の形を創った後に狐稲利さんに色を付けてもらって配置して頂いております。
「ふ~む、いつもの雑談でもいいんですが~どうせなら皆さんの質問に答えていく配信にしていい~?」
淡々と作業していくのも移住者さん的には問題ないとおっしゃってくださっているのですが、ふとこれまでのDMやら配信での気になったコメントなどの返信が溜まっていることを思い出しました。
私もこれは答えておいた方がいいかな、という質問もあったのでいつかはコメント返し配信を行おうと思っていたのです。どうせならこの作業配信中にそれらを消化してしまいましょう。
『マジで!?お願いします!』『楽しみ!』『お便り届いてる?』『前に送ったDM見てもらえてた!?』『まさか返信してもらえるとは』
「では~頂いたお便りやコメントを読んでいきますよ~まずはこれ~"この世界はどれだけ大きいの?"です~。ふ~む、実は私も完全に把握しているわけではないんですよ~何度か空間のスキャンを行っているのですがそのたびに規模が拡大していってるようなのです~」
『謎の空間に住むわんこーろちゃん』『実際どこなん?仮想空間だよね?』『
「配信は移住者さん以外もご覧になっておられますからね~、たぶん今後も犬守村の場所は公開しないと思います~、そもそもわんこーろもこの空間で生まれたからネットの海に遊びに行っても何となく帰ってこれますけど~皆さんがここを見つけるとなると至難の業かと~」
『今現在まで特定されていない時点でね』『映像データから場所を特定するのとはわけが違うだろうな』『ネットは広大だわ』『いつか漂ってたら辿りつけるかもしれん』『俺はここで見ているだけで満足ですわ』
「では次~"わんころちゃんの耳としっぽは本物ですか?"うん~もちろん本物だよ~ほらほら~」
画面に向かって大きく耳をぴこぴこ、しっぽをふさふさと動かしてあげます。今までも無意識にゆらゆら動いていたとは思うのですが、今の時代ケモミミ付きのヴァーチャル配信者もじわじわ増えてきているので同じようなアクセサリー的なもので動かないと思われていたのでしょう。
『かわいい』『触ってみたい……きっともふもふしてんだろなぁ』『いい匂いもしそうだよな』『もっと日ごろから動かしてアピールしてけ?』
「んふふ~~、へっ?、わ、わわ~!?こ、狐稲利さん~!?くすぐったいです~!!」
「!……」
揺れ動く私のしっぽに突然狐稲利さんがさわさわと優しく触ってきます!最初は恐る恐るだったのですが、途中からなんだか手触りが気に入ったのか興味深々といった真面目そうな顔でさわさわとしてきます!
ちょ、これは思っていたよりこそばゆいですよ!?
「わ、わちるさん……!後で覚えておいてくださいね~!」
『よくやった』『さすが狐稲利ちゃん!俺たちに出来ないことを!』『平然とやってやがる……!』『誰だ狐稲利ちゃんに仕込んだのは!?よくやった!』『まーたわちるんか』『わちるんもうそろそろわんころママに接触禁止令出されそう』『わんころちゃん既にわちるんの仕業と断定してて草』
事前に送られていた質問をあらかた片づけた後、今配信を見てくださっている移住者さんの質問にも答えていきます。
『狐稲利ちゃんは個人のチャンネル持たないの?』
「!!」
「……イヤだって~。わんこーろと一緒じゃないと嫌みたいです~」
『わんころちゃんはくしゃみできる?』
「これは……くしゃ民……?、まあ、電子生命体でもくしゃみするかもしれませんね~。もちろんその時はミュートしますけど~」
『前のわちるんとの同時視聴良かった!またコラボ予定ってある?』
「うーん、今のところ予定はありませんね~まだこの世界も創りかけですしね~もうちょっと余裕ができてから、もし誘っていただけるならしたいですね~」
『配布してもらった3Dモデルを動画制作に使わせてもらってもいいですか?』
「もちろん大丈夫ですよ~?今配布中の3Dモデルはすべて軽量化したものにしてあるはずですので~皆さんのPCでもダウンロードできるはずです~、あ、もちろん"魂"は無いので皆さんの手で存分に動かしてあげてくださいね~」
しばらくの間そうやって皆さんの質問コメントを返しながら狐稲利さんと共に作業をし続けて、ついに河と堤防、山の大体の形が出来上がりました。
細かな作業が残っているでしょうけど、とりあえずは外観が出来てそれを紹介できたので、今後微修正を施しながら完成を目指していきたいと思います。
河は犬守山より流れる本流と、そこから分かれた犬守疎水を流れの中で巻き込み、大きな河となって新たな動物たちの山と田んぼの領域とを分割し、わたつみ平原を迂回して南西へと流れていきます。
河の対岸は小さくその姿が確認できる程度で、幅だけでもかなりのものとなっています。今まで制作してきた川とは異なり流れもかなり急なもので、容易に渡ることはできそうにありません。ですが川岸のあたりは露出した岩々の影響で流れが緩やかになっており、水遊びするには最適な環境になっています。
動物の山は基本的に木を植えた程度なのですが、今後木の実や果物の生る植物の実装や湧き水の設置なども手掛けていく予定です。
「ある程度は形になってくれましたね~細かな部分に手を付けていないので不自然な点はありますが、それも配信内外でちょくちょく修正していきますね~それでは今日はこのくらいで配信を終了したいと思います~次回の配信までには山を完成させて~タヌキをその山に実装したいと思います~。ではでは移住者の皆さま次回までいってらっしゃ~い」
『おつー』『今日も珍しいものいっぱいで楽しかった!』『満足な配信内容だったな』『定期的に返答配信してくれると助かる』『こうやって聞いていると俺たちわんころちゃんの事あんま知らなかったんだな』『まあ、謎なところがあるのもわんころちゃんの魅力よ』『また次回までお仕事いってきまーす!』
配信が終了し、私と狐稲利さんは体の汚れを落とし、神社に併設された我が家へと帰ってきました。
まだ家は改装中のため、お風呂もまだ使えない状況です。早くあったかい湯船に狐稲利さんと一緒に浸かって疲れを癒したいですねー。
お疲れな狐稲利さんはあくびをして眠たそうにしています。
「……」
「狐稲利さんおねむですか~?少しお昼寝してしまいましょうか~」
私が敷布団を部屋の影になる場所に敷いて狐稲利さんを手招きするとふらふらとやってきて、そのまま布団にぽすん、と横になってすぐにくうくうとかわいい寝息を立て始めました。
「もう、まだまだ子供ですね~」
もうすぐお昼になります。夏真っ盛りという感じではありますが、犬守村はそれほど暑苦しくは感じられません。実際気温はそれほど高くなく、さらには現在この土地は犬守山と動物の山の間に存在しているため、わたつみ平原の先にある山々より吹き降ろしてくる冷たい風が山の谷間にあたるこの場所にそのまま吹き込んでくるので熱がこもらず涼しさが保たれています。
とはいえ夏とは暑いもの。ささっと創ったうちわで眠っている狐稲利さんを優しく扇いであげます。
蝉の忙しない鳴き声を聞きながら、ゆらゆらとうちわを動かしていると緩やかに流れる時間を感じることが出来ます。生ぬるい空気が涼しい風と混じって髪を揺らしていくのが心地いいです……。
「……ん~?メイクのコール?」
私もそのまま眠ってしまおうかと思っていたところメイクより
となるとコールしてきたのは誰なのかおのずと分かります。DMに関してはフォローしている方々から寄せられるのですが、私と音声通話の設定を交換しているのは一人しかいません。
「もしもし~こんにちは~音声通話なんて珍しいね、どうしたの~わちるさん?」
「あ、あのえと、わんこーろさん…、お疲れ様です、配信見てましたよ」
なぜか通話先のわちるさんは最初おどおどとしたふうに話し始めました。
「え、本当~?うれしいな~。わちるさんのところの視聴者さんもちらほら見に来てくれているみたい~ありがとね~」
「い、いえいえ!わんこーろさんの配信はいろんな人に人気ですし!それはわんこーろさんの実力ですよ!」
「んふふ~登録者10万人目前の人気配信者さんにそう言ってもらえると自信になりますね~」
「もうっ!からかわないでくださいってば!」
からかってはいないんですけどね、もうすぐチャンネル登録者が10万人突破するのは事実ですし、それはわちるさんの実力にほかなりません。
「んふふ~……、そういえばわちるさんは私に何か聞きたいことはないんですか~?」
「……え?」
「ほら~私の配信を見てくださっていたということはコメント返しのところもご覧になっていたんでしょ~?移住者さんに遠慮してわちるさんはコメントされなかったのかな~と思って~」
「い、いえ……私は……」
どうしたのでしょう?またわちるさんがなにやら言い淀んでいるみたいですが、そんなに言いにくい質問だったのでしょうか?だからメイクのプライベート通話で質問を?
「別になんでもいいですよ~?わちるさんには隠すことはありませんから~」
「じゃ、じゃあ……配信お休みの日なんかは何してますか?」
「んふふ、なにそれ~、ふふ、そうですね~狐稲利さんと一緒に畑や田んぼの手入れなんかをしてますね~」
思っていたより普通な質問ですね。一体なぜあんなに言葉に詰まっていたのでしょう?
「……いえ、あの……そうじゃ、なくて……配信外では、何をしているのかな、と」
「?……ですから~犬守村の周りの手入れを――――」
「そうじゃ、なくて!!」
突然、わちるさんが今までに聞いたことのないような大きな声でそう言います。
「――――わちる、さん?」
「っごめんなさい!!なんでもないんです!!なんでも!!」
わちるさんは何かを飲み込むように、あるいは先ほどの言葉を後悔するかのような悲痛な声を上げます。叫ぶような、あるいは泣き出しそうな。
……ああ、そうか。わちるさん、あなたは本当に私のことを友達だと思ってくださっているんですね。
だから、私を知ろうとしてくれている。謎を謎のままにすることを良しとせず、私を私として理解したいと思い、勇気を出してくださっている。
たとえそのきっかけが思いもよらない、不本意な何かであったとしても。
「わちるさん」
「ごめんなさい!ごめん、なさい……」
「わちるさん、落ち着いてください。……私にはわちるさんの言いたいことが正確には分かりません。ですけど、なにに悩んでいるのか、おおよそ見当は付きます」
「…………」
「――――わちるさん、私は電子生命体です。私は電子の海に生きる生命体で、肉体を持たない情報によって形作られた存在です。……わちるさん、私は、"人ではありません"」
「……わんこーろさん……」
「信じていただけないかもしれません。これまで言っていたこともすべてただの配信者としての設定としか思われていないということも承知しています。それでも、わちるさんには、わちるさんだけには、もう一度真面目に話しておきたかったんです」
さんざん私が配信で言っていた電子生命体であるという事実。けれどそれを事実だと思っている方は恐らくいないでしょう。
本当にそうなのではないか?と、考える方だってわちるさんを含めてどれだけおられるか。
「……私、わんこーろさんのことを、そうだって思ってました。本物の電子生命体だって」
「うん、うん」
「でも、でもやっぱりわからないんです!どう考えたらいいか、分からないんです!!わんこーろさんが人じゃないって!私と同じように生きてはいないって、……一緒にお買い物したり、手を繋いだり、お泊まりしたりだって、……そんな事もできないなんて、そんなの……そんなの私には難しすぎますよ……」
わちるさんの声は徐々に小さくなり、か細いものになっていきました。そして最後にもう一度ごめんなさいと呟いた後、通話は切断されました。
「わちるさん……」
恐らくわちるさんは私という存在をどう受け止めてよいのか、あるいは私の言葉が真実であるかわからず混乱しているように思えます。私のことを電子生命体だと思っていたとしても、それを深く考えた事がなかったのでしょう。
"わんこーろは電子生命体である"という事実が"わんこーろが人ではない"という事実と結びついていなかった。そして私の言葉によってその可能性に気づいてしまった。
それはわちるさんを混乱させるのに十分な衝撃だったのでしょう。
いつも楽しく話していた、友達だと思っていた人が、自身と全く異なる存在かもしれないと思い至ってしまった。
「……こればっかりは、私にはどうにもできませんね……」
わちるさんの苦悩を取り除いてあげたい、けれどその苦悩の原因が私である以上、私が何か行動を起こせば事態が悪化することになるかもしれない。
私を本当の人外と見るか、設定を決して崩さない人間と見るか、どちらにしろ今の私には親友であるわちるさんが私を受け入れてくれることを願うしかできない気がします。