転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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二話投稿します(二話目)


#44 作ってみるよ!!

桃の木の傍に腰かけた私と狐稲利さん。私は狐稲利さんの目の前にいくつもの道具を置いていきます。その光景はかつて私が初めて配信で3Dモデル制作をお披露目した時と全く同じ。

 

今回の配信のメインはこの山のお披露目だけでなく、狐稲利さんによるリアルタイム動物造形も含まれていたのです。

これまでも狐稲利さんには3Dモデル加工ツールの能力を模した道具を一通り使わせてあげていました。3Dモデルの情報初期化などが行える"裁ち取り鋏"や、御霊降ろしの際に用いた"写し火提灯"、植物の種を創るのに用いた"磨り出し鑿"と"見出し刷毛"など。

これらのツールは空間の開発や情報のサルベージを行っていく過程でその能力にかなりの強化、改良が施されています。

 

例えば裁ち取り鋏は本来3Dモデルを初期化するくらいしかできませんでしたが、今ではこの空間のものなら問答無用で初期化・変更することが出来ます。情報そのものを初期化するので、3Dモデルに付与されている硬さやら頑丈さなどは全くの無関係に初期化することが可能です。それだけでなく対象の情報さえ取得することが出来ればこの空間外の他所のデータも初期化することが出来ます。そのデータを取得するのも写し火提灯があれば楽に手に入れられます。

 

……こんな改造しまくった私が言うのもなんですが、悪用しないよう気を付けないといけませんね。

 

とにかく、今回は狐稲利さんのツール群の扱い方の総仕上げ的なもので、狐稲利さん一人で実装する予定であるタヌキの3Dモデル制作を行ってもらうつもりなのです。

 

「3Dモデル制作する上で一通りの流れは分かってますね~?分からなくなったらしっかり手助けしてあげますから~出来るところまでやってみましょ~?」

 

「!」

 

狐稲利さんは勢いよく手をあげ、分かった!と言いたげな顔でこちらを見つめます。早く始めたくてうずうずしているようです。それでは早速いってみましょう。

 

『かつてのわんころちゃんを見ているようだ』『あの頃はほんとなんも無かったからな』『真っ白な空間が今ではこんな立派な場所になりましたね』『古参としては感慨深いわ』『これってあれだろ?確かエモいってやつ』

 

「移住者さんも応援してあげてくださいね~、ではまずは裁ち取り鋏で基となるポリゴンを頂きましょうか~」

 

『え?マジ?』『まさかあの時と同じく地面を……?』『あの時は真っ白だったが、今回は…』

 

「だ~いじょうぶです~今回は~……うーんと、そうですね、あの桃の木から一本枝を頂きましょう~」

 

裁ち取り鋏を持つ狐稲利さんは私の指示に従って手が届くまで垂れている桃の木の枝の一本に鋏の刃を入れていきます。枝は音もなく樹から離れ、狐稲利さんの手の中に納まります。実際のハサミで枝を切断したわけでなく、接続部を初期化・変更して分離させただけなので元々枝のあった場所に切られた痕はなく、元から枝などついていなかったかのように綺麗な状態に修復が行われています。

 

「では狐稲利さん、もう一度」

 

「……」

 

手の中に納まっている枝にもう一度裁ち取り鋏を、今度は軽く鋏を触れさせるように優しく当てて枝を初期化します。一瞬その姿がぼやけ、テクスチャが飛び、形状が大きく変化していき、最終的には狐稲利さんが抱えるほどの大きなポリゴンの塊へと変化しました。

 

「さて、それでは始めましょうか~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動物の創造、その第一弾としてタヌキが選ばれ、その制作を狐稲利さんに任せると言ったその日から狐稲利さんの情報収集速度は目を見張るものがありました。

一日中ネットの海に潜ってありとあらゆるタヌキに関する情報をサルベージし始め、寝る間も惜しんで復元したタヌキの映像や動画を見ていることもありました。

寝なくても問題ないとはいえ人並みの生活を心がけている私としてはそのような不健康な姿は許容できないので強制的に布団の中に突っ込んだりしてました。

 

最初は私や移住者さんに褒めてもらいたいという感情からそのような努力をしていたようでしたが、途中から行動や習性といった情報よりタヌキの愛らしい映像や動画などを視聴する割合が増えていき、最近ではペットの名付け方なる書籍データの閲覧までしている様子。

 

……野生動物を創ってるんだけどなぁ……ペットにするんじゃないんだけどなぁ……

 

ですが嬉しそうに調べものをして、今現在真剣な様子で3Dモデル制作を行っている狐稲利さんにそんなことは言えそうにありません……。

ま、まあ一体くらいなら、……いい、かな?

 

「いい感じですね~骨格と筋肉の付き方も意識してくださいね~数値はあくまで数値なので狐稲利さんから見ておかしくないように創れば問題ありませんよ~」

 

磨り出し鑿を片手にポリゴンをごりごり削っていきます。画像、映像データより割り出した数値をちらちらと確認しながら丁寧に削っています。

 

『遊び心入れてけ?』『毛の流れは一定方向にするんだぞ』『今は夏だから夏毛であることを意識してね』『刷毛の色付けの時分かりやすいようにしておくといいかも』『意外と歯は鋭利だぞ』

 

移住者さんのアドバイスを聞きながら狐稲利さんは確実にノミを動かしていきます。多少私が手を添えてあげた部分もありますが、そのほとんどは狐稲利さんが手がけました。

 

「目の周りが黒いとタヌキって感じが出ますね~。……ふーむ、集中しているのか反応がありませんね~」

 

「…………」

 

見出し刷毛による色付けも塗り残しがないように丁寧に塗っていきます。終始無言、いえ狐稲利さんはいつも無言ではありますが、今回は私とのリンクでも何か話しかけているわけではないので、完全に集中して周囲が見えていないようです。

 

『まあそうだよな』『わんころちゃんの娘だしね』『こんなところまで同じとは恐れ入る』『これもしかしてわんころちゃんから学習してない?作業中はコメ無視するものって学習してない?大丈夫だよね?』『あり得そうで草』

 

「んぐ……否定できない……」

 

こどもは思っている以上に親のことを見ているんですかね、嬉しくもありますがなんだか今回のは少し複雑ですよ~。

 

 

少しして狐稲利さんの手が止まり、3Dモデルをくまなく観察した後、満面の笑みで私へと視線を移しました。

 

「――――!」

 

「おお~!ついに完成しましたね~良いですよ~かなりの完成度です~!狐稲利さんよくできました~」

 

『いーじゃん!』『かなりリアルな感じ!』『狐稲利ちゃんえらい!』『たいへんよくできました!』『いやマジで年単位費やした3Dモデルと言われても信じるレベルよ?』

 

出来上がった3Dモデルは私の想像以上のものでした。

本来すらっとした体形であるタヌキの形状を体毛が覆い、丸っこいシルエットになっています。今は夏なので、冬より毛の量は少ないのでそれほどもこもことはしていないのですが、それが逆にリアルさを際立たせます。目元が黒いのでぬいぐるみのような愛らしさがありますが、よく見ればその眼光はさすが野生動物、獲物を狙う鋭さを持っています。

ただ可愛らしいというイメージしかなければもっとアニメチックな容姿になりそうですがそうならなかったのは狐稲利さんがタヌキについてしっかりとした情報を集めていたからにほかなりません。

その点も含めて、狐稲利さんの頑張りを手放しで褒めてあげます。

 

「よ~しよ~し、いいこいいこ~さすがわんこーろの娘です~」

 

「!~~~」

 

『甘々わんころちゃん助かる』『極限まで甘やかしてけ』『俺らも甘やかしてくぞ!』『えらい!』『さすがだぞ!』『さすが俺の娘ですわ』『←はい村八分』『←きたわね名誉移住者ニキ』『なんか狐稲利ちゃん逃げてないかw』『狐稲利ちゃん顔赤い?』

 

いつもは困惑しながらも受け入れてくれる狐稲利さんがなんだか私のなでなでから逃げるようなそぶりを見せています。

 

嫌ではないようですし、顔が赤い……これは、照れ!?狐稲利さん恥ずかしがっているの!?

なんと!配信画面の前で服を脱ごうとしていた狐稲利さんに、ついに羞恥心が!?お母さん感激ですよ!

 

「おお~~~これはめでたい~~~これで配信BANの危険性が減りましたよおお~~!」

 

「!、!、!」

 

『わんころちゃんのハグから何とか脱出したい狐稲利ちゃん草』『すっごいジタバタしてますねぇ』『無理やり脱出できそうだけどなw』『恥ずかしくて引きはがしたいけど力ずくではしたくないという葛藤が見える見える』『わんころちゃん限界化からはよ戻ってこいw』

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、これより狐稲利さんの制作した初めての動物、タヌキに御霊降ろしを行っていきます~。基本的には虫にほどこしたものとそん色ないので失敗しないと思いますが~緊張の一瞬です~」

 

「…………」

 

緊張している狐稲利さんの手を取り写し火提灯の灯りで照らします。すぐさま狐稲利さんよりゆらゆらと光の球が現れ、それはゆっくりとタヌキの3Dモデルへと吸い込まれていきます。

 

「……!」

 

魂が完全に入り込んだその直後、ただの3Dモデルだったタヌキは目をぱちくりと動かし、ぶるる、と身震いをした後あたりをきょろきょろと見渡し始めました。

どうやら成功のようです。

 

『うおおおおおおおお!!』『きたきたきたあああああ』『動いた!マジリアル!』『ぬいぐるみが動いてるかのようだ!』『かわいい!!』『すっごい周り見てるな、警戒してる?』『野生動物だし当然だな』『次の瞬間には逃げ出しそう』

 

魂を吹き込まれたタヌキはいまだあたりを見て状況を確認しているように見えます。野生の動物は基本的に臆病ですし、下手に動くとその音に驚いて一目散に森へと逃げてしまいそうです。

 

「……」

 

そんな中、狐稲利さんはタヌキと目線を近くするようにしゃがみ、両腕を広げました。

いやいや狐稲利さん、相手は人を見たこともない完全な野生の動物ですよ?さすがに飼い犬みたいに寄ってくるわけが……。

 

え、なんか狐稲利さんに寄ってきたんですけど、え?なんで腕の中に納まってるんですかあなた。なんで暴れないんですか?

 

「~~~」

 

狐稲利さんはまるで当然とばかりに抱き寄せてますし……。

 

『おい野生』『誰かあのぬいぐるみに野生を実装して差し上げろ』『これタヌキじゃなくて中身犬じゃね?』『ほら、本能で創造主だって分かるんだよ……きっと』『それでいいのか野生』

 

 

その後、狐稲利さんの創った3Dモデルを元に数種類の大きさや毛色やらの異なる同種のタヌキを私が数体制作したのですが、どれも魂実装と共に速攻森へと消えていきました。どうやらあのタヌキだけが特別なようです。

 

 

……まあ一体くらいなら、いっか。

 

 

 

 

 

 

 


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