東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~   作:騎士シャムネコ

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中篇です。案の定長くなった。

次の後篇で終わるかなぁ?


第十七話 「転生香霖とクリスマス(中篇)」

 クリスマス当日の真夜中午前零時、僕はまず香霖堂から一番近い魔理沙の家へと来ていた。

 格好は紫たちが用意したサンタ衣装一式であり、左手にはプレゼントの入った白い袋を担いでいる。口元に付けている付け髭が少しかゆい。

 

 魔理沙の家には『霧雨魔法店』の看板が掲げられており、見た通り香霖堂同様自宅兼店舗となっているのだが、本人が幻想郷中を飛び回っていて、留守にしている事がしょっちゅうの為、店としてはほとんど機能していない。

 入り口付近の看板に書いてある文句が『なんかします』では、実際に客が来たところで困惑するだけだろう。

 以前来た時は店の建物自体も店内もほったらかしの散らかし放題と言った具合だったが、久々に見た感じかなり綺麗にされているようだ。以前魔理沙が言っていたが、掃除しているのは精霊たちであろう。

 ミニ八卦炉に組み込んだ精霊召喚の機能が役立っているらしく何よりである。

 

 雲に覆われた、月も星も見えない真夜中であるが、魔理沙の家の周囲は意外なほど明るい。ミニ八卦炉の機能で呼び出された精霊たちが、家の周囲を巡回して警備しているからだ。

 見た感じ数が多いのが光の精霊『ウィル・オ・ウィスプ』と氷の精霊『ジャック・オ・フロスト』、闇の精霊『シェイド』などであり、元気に周囲を飛び回っている。

 そしてよく見れば、周囲には森の木々に擬態した木の上級精霊『バオバブエント』やその枝に止まる雷の上級精霊『ワキヤン』、風の上級精霊『ジンニーヤ』などの姿も見られる。警備体制はかなり厳重であるようだ。

 出来れば僕の存在は知られたくないのだが、流石に真面目に警備している精霊達を嘲笑う様に侵入するのは気が引ける。

 ここは隠さず姿を現して、正直に理由を説明して通してもらう事としよう。なに、彼らを召喚しているミニ八卦炉を作ったのは僕だし、魔理沙を守っている彼らなら、僕の事を無下には扱わないだろう。

 

 そう考えて、身を隠していた茂みから出ようとしたところで、にわかに精霊たちが騒ぎ出す。

 何事かと目を向けると、何者かが魔理沙の家に近づき、精霊たちに阻まれたようだった。

 一体こんな夜中に、魔理沙の家なんかに何の用があるのか? と、自分の事を棚上げしてその何者かの姿を確認する。

 

(ショートジャンプ!)

 

「ケェアッ!」

「ガッ!?」

 

 姿を確認した瞬間、短距離転移で近付くのと同時に飛び蹴りをそいつの顔面へと放つ。

 その者は全身に黒い衣装を纏った口髭の豊かな老人で、手には何かゴツゴツした物が入って良そうな大きな袋を持っていた。

 どう見てもブラックサンタである。

 

 顔面を蹴りつけられてブラックサンタが派手に吹き飛んだところを、能力でグレイプニルを呼び出しながら捕まえる。

 最初に顔面を蹴飛ばした時に気絶していたらしく、なんの抵抗も無くスムーズに梱包することが出来た。

 その様子に唖然とした雰囲気となっている精霊たちに、手を振りながら「騒がせて悪いね」と声を掛け、念話の魔法である『テレパス』を使って紫へと連絡を取る。

 

『紫、聞こえるかい?』

『あら? 霖之助さんの声が……ああ、テレパスを使ったのね。どうしたの? 何か問題でも起きたのかしら?』

 

 話が早くて助かる。

 いつの間にかは知らないが、僕の記憶を覗いたらしい紫は、僕の能力や技能を誰よりも良く理解している。

 ゲーム外の事を含めれば、煙晶竜以上に僕について詳しいのが紫だ。

 碌に説明しなくても話が進むこのテンポの良さを、僕は頼もしく感じていた。

 

『ああ、問題と言うか……魔理沙の家に入ったら出たんだよ』

『出たって何が?』

『僕以外のサンタ、しかも全身真っ黒な奴がね』

『まぁ』

 

 僕が説明すると、紫も驚いた声を上げた。紫もまさか、幻想郷に黒いサンタが出現するとは思っていなかったのだろう。

 

『……黒いサンタというと、悪い子を攫いに来るって言うクネヒト・ループレヒトだったかしら? まさか幻想郷にも現れるなんて思ってなかったわねぇ』

『気絶させた上で捕まえてあるんだが、回収を頼んでも良いか? 出来れば午前零時の間に全て配り終えてしまいたいし、こいつに時間を掛けたくないんだが』

『ええ、そのサンタさんの処理はこちらでしておくわ。こっちでは煙晶竜が首を長~くして待っているから、早く帰ってきてあげてね』

『待っているのはパーティーの為に用意したご馳走の方だろう? ま、なるべく早く戻るよ』

『ええ、待っているわ』

 

 念話を終了させるのと同時に縛り上げて転がしておいたブラックサンタの下にスキマが開かれ、そのままサンタが落ちていく。

 一段落着いたな。このままさっさとプレゼントを置いて、次にプレゼントを配る相手である霊夢の元へと向かおう。

 

 魔理沙の家を守る精霊たちに、魔理沙にプレゼントを持って来た事と、魔理沙には僕がプレゼントを持ってきた相手であることは内緒にして欲しい旨を伝えると、精霊たちの中からシェイドが一体僕の方に飛び乗って来て、そのまま僕を中に通してくれた。

 夜の間、魔理沙の家には精霊たちの張った結界に守られており、精霊たちの許可が無いと中に入れないみたいだ。

 僕の方に乗ったシェイドは、僕を結界の中に入れるのと同時に、中でおかしなマネをしない様に監視する為に同行してくれたようである。

 まぁ、いくら親しい間柄であり邪な思いが無いのだとしても、年若い女の子の寝ている所に、大の男を一人で向かわせるのは不味いからな。当然の判断だ。

 

 家の中に入り、魔理沙の部屋まで音を立てない様に、浮遊魔法の『レビテーション』で床から浮いた状態で移動する。

 魔理沙の寝室までたどり着くと、音を立てない様にシェイドが静かに扉を開いてくれた。

 

「すー…すー…むにゃ……」

 

 寝室の中は温かく、ベッドで眠る魔理沙の枕元では稼働状態のミニ八卦炉が淡く発光していた。

 ミニ八卦炉は暖房としても問題無く稼働しているようだな。これなら魔理沙が風邪をひく心配も無いだろう。

 魔理沙の枕元にはミニ八卦炉の他に、ミニ八卦炉の光に照らされた靴下の存在が見て取れた。

 プレゼントをくれる方のサンタは来ないだろうと伝えたのだが、何ともまぁ諦めの悪い事だ。

 しかも、その事を伝えた僕本人がサンタとなってプレゼントを持って来たのだから、世の中何が起こるか判らない物である。

 

 後日、魔理沙や霊夢から嘘つき呼ばわりされるかもしれないなぁ。と、苦笑しながら、僕はその靴下の中に紫が用意してくれたプレゼントを入れた。

 さて、次は霊夢の番だ。と、踵を返して立ち去ろうとすると、服の一部が引っ張られる感覚がして動きを止める。

 見ると、ベッドから伸びた魔理沙の手が、僕の来ているサンタ衣装の裾を握っていた。

 

「う~ん…香霖……」

「……やれやれ、勘が良いと言うべきなのかねぇ?」

 

 寝言で僕を呼ぶ魔理沙の手を握り返し、ゆっくりと指を外させてから腕を布団の中へと戻し、眠っている魔理沙の頭を軽く撫でる。

 その感触が心地良かったのか、眠れる魔理沙は笑顔を浮かべた。

 

「おやすみ魔理沙。良い夢をね」

 

 ついて来たシェイドに後はよろしくね。と伝えて、僕はその場から転移魔法の『テレポート』を使って移動した。

 転移する直前に目にした魔理沙の寝顔は、とても幸せそうに見えた。

 

 

 

 さて、魔理沙の家に続いてやって来たのは、霊夢の住む博麗神社である。

 一応確認はしたが、ブラックサンタが居たりはしない様だ。

 博麗神社は、雑多な妖怪にとっては近づき難い場所だ。とは言え、敷地内に入ること自体は魔理沙の家ほど面倒では無いだろう。精霊たちに守られた魔理沙の家と違い、博麗神社には警備員などいないからね。

 それはそれで心配になるから、今度霊夢に警備用の精霊を召喚するアイテムでも渡すべきだろうか?

 

 そう考えながら少し歩くと、霊夢の寝室から近い縁側に辿り着く。

 さて、ここからだ。このままプレゼントを置いて、霊夢の次であり最後に回る予定の紅魔館への配達を終えればミッションコンプリートとなる。

 だが、プレゼントを置こうとしたところで、霊夢がいつもの様な勘の良さを発揮して目を覚ます可能性は十分に考えられる。

 ここは慎重に行動しなければ……。

 

 万全を期すために、アイテムボックスから『隠蔽』スキルに大きな補正の掛かる『金毛羊革のコート』と魔力遮断効果を持つ『黒のローブ』を呼び出してサンタ衣装の上から着込む。

 サンタの赤い衣装が隠れてしまうと、見た目は完全に不審者以外の何者でも無くなってしまうが、背に腹話変えられん。

 透明化魔法の『インビジブル・ブラインド』と透視魔法の『クレヤボヤンス』とショートジャンプを組み合わせて、透明状態で室内に転移し、そのままプレゼントを置いて脱出する。

 これならバレる心配もなく、最速で事を終えることが出来るだろう。そう考え、実行しようとした次の瞬間―――

 

「―――誰かいるの?」

「!?」

 

(ショートジャンプ!)

 

 突然中から寝間着姿の霊夢が出て来た。

 びっくりした。咄嗟にショートジャンプで転移して近くの木の上に隠れたが、バレてしまっただろうか?

 インビジブル・ブラインドは使っていたから、姿は見られていないはずなのだが……。

 

「……居るのは判っているのよ? 大人しく出てこないつもりなら、退治される覚悟はあるのよね?」

 

 不味い、完全にバレている。霊夢の霊力が高まっているのを見るに、このまま僕の隠れている場所へ『夢想封印』でも打ち込むつもりなのだろう。

 万事休すだ。ここは素直に出て行くしかあるまい。

 しかし、不審者度を増大させているコートとローブは脱ぐとしても、このまま出て行けば僕であることがバレてしまう。

 それだけは何とか避けたいが、これ以上僕に招待を隠したりする方法は……いや、ある!

 

(メタモルフォーゼ!)

 

 変身魔法、『メタモルフォーゼ』がまだ僕には残されていた。

 この呪文を使って老人の姿となれば、何とか誤魔化すことが出来るだろう。変身のモデルとして選んだのはゲーム時代の召喚術師としての師匠であったNPC『オレニュー』師匠の姿だった。

 

「―――いやー、すまんすまん。起こしてしまうつもりは無かったんじゃが、すまんかったのう。お嬢さん」

 

 コートとローブを戻し、インビジブル・ブラインドを解除しながら霊夢の前に両手を上げて姿を見せる。

 全身赤い服に白い大きなプレゼント袋を持つ老人と言う特徴的な姿を見て、霊夢は目の前に居る僕が何者なのかに思い至ったようだ。

 目を大きく見開き、震える手で僕を指さしながら訊ねて来た。

 

「あ、あんた……もしかしてその格好……レミリアの言ってた、サンタとか言うお爺さん!?」

「ほっほっほ。うむ、如何にも。サンタクロースじゃよ」

 

 そう僕が精一杯サンタっぽい口調を心掛けて返すと、霊夢は両手を振り上げながら「やったぁーーーっ!!」と叫び、飛び上がって喜びを全身で表現していた。

 

「やったやった! 私にもサンタさんが来てくれたわ! 何よ霖之助さんったら、私のとこには来ないなんて言って。こうしてちゃんと来てくれたじゃない」

「うむ。その霖之助と言う者の言った事は別に間違ってはおらんよ?」

「えっ、そうなの!?」

 

 僕がそう言うと、霊夢ははしゃぐのを止めて、絶望的な顔で訊ねて来る。

 喜んでいる所に水を差して悪いが、ここで釘を刺しておかなきゃ来年どうなるか判らないからな。

 最悪、霊夢の所にもブラックサンタが現れるかもしれない。今の内に対策の一つでもしておかねば。

 

「ふむ。本来は一年間良い子にしていた子供にプレゼントを配るのが儂の仕事であり、お嬢さんはその対象外なのじゃが……ま、今回は特別じゃ。この幻想郷で儂の事を知っているのはお嬢さんくらいじゃし、儂がこの幻想郷でプレゼントを配るのは今日が初めてじゃからの」

 

 そう言って、僕は霊夢へと袋から取り出したプレゼントの入った箱を手渡す。

 それを受け取った霊夢は、ぱぁっと顔を輝かせた。

 

「わぁ~! ありがとう、サンタさん! 大事にするわ!」

「うむ。ただし、無条件に渡すのは今回限りじゃ。来年はちゃんと、プレゼントを貰えるように、良い子にしておるんじゃよ?」

「はーい!」

 

 心底嬉しそうに喜ぶ霊夢に僕は笑顔を浮かべると、能力を使いゲーム時代に遭遇したトナカイ型のモンスター『ブラックレインディア』をソリごと召喚した。

 このモンスターは、ゲーム時代に遭遇した『ダークサンタ』と言うモンスターが引き連れていたモンスターで、名前の通り真っ黒な外見をしたトナカイだ。

 こいつらは飛行能力も持っている為、サンタのフリをするならこれ以上適したモンスターは他に居ない。真っ黒なせいでちょっと禍々しいけど。

 

 僕はトナカイの引くソリに飛び乗ると、手を振って霊夢に別れを告げながら、次の目的地である紅魔館を目指して飛び去った。

 

「それではお嬢さん、来年まで良い子にしているんだよぉ!」

「はーい! また来年よろしくねー!!」

 

 

 

 トナカイたちの手綱を握り、博麗神社から十分に離れた所で一息つく。

 はぁ、正直シンドイ。

 

「サンタって大変なんだなぁ……」

 

 改めて、僕はそう実感するのだった。ただしブラックサンタ、お前はダメだ。




複数の上級精霊と多数の下級精霊に守護された魔理沙の家の警備は万全です。
これも全部、魔改造ミニ八卦炉とか言うチートアイテムの仕業なんだw

因みに今回出て来たブラックサンタですが、魔理沙を攫いに来たわけではありません。
黒いサンタには悪い子を攫うパターンの他に、石や石炭などの貰っても嬉しくない物をくれるパターンがあり、今回登場したのは後者の方でした。

……というか、炭鉱が存在していなさそうな幻想郷なら、石炭は普通に嬉しいのでは?
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