東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
そろそろ買い替えた方が良いのかなぁ。
既に新年の挨拶を終えている叢雲と煙晶竜、それから叢雲に餌付けされている状態の橙に軽く声を掛けてから魔理沙の隣に腰を下ろしたのだが、座った途端に少女たちから囲まれてしまった。
「なぁ香霖! この酒甘くて美味いな! 前と違う奴だろ? こんな美味い酒の事を黙っているなんて酷いぜ!!」
「ねぇ貴方、さっきの魔法はどうやったの? 明らかに私の知っているどの魔法系統とも違うものだったわ。どこで学んだの? その魔法に関する魔導書はあるの? ねぇ!」
「えっとえっと、お兄さん! お姉さまから聞いたけど、お兄さんってドラゴンなんだよね? お姉さまは乗せて貰って空を飛んだって言ってたし、私も乗せて欲しいなって! ……そうすれば、二人きりでお話出来るし」
「アハハ、何と言うか霖之助さん。すみません」
僕の右手側に座った魔理沙は、僕の持って来た『八塩折之酒』を気に入ったらしく、ぐびぐび飲みながら僕の首に腕を回して絡んで来る。
対して僕の左手側パチュリーは、僕が使った呪文が気になるようでグイグイと質問して来るのだが、魔理沙が僕に絡んでいる内は話が出来ないと思ったのか、僕の左手を抱きしめる様に抱えながら、魔理沙から引き剥がそうと引っ張っている。
また、僕の正面に座るフランドールは、一生懸命僕に話しかけて来るのだが、僕の隣の二人が騒がしくて話が聞こえ辛いと感じたのか、どんどん僕との距離を詰め、今では胡坐をかいている僕の足に手を乗せ、下から上目遣いに見つめて来た。
また、フランドールが大きな日除けのパラソルが張られた紅魔館の住人たちの敷物から出て行ってしまったため、彼女に日傘を差す為に美鈴もフランドールの後ろについていた。
絡みつく魔理沙とパチュリーの胸が当たっているわ、フランドールが話しかける度に首元に吐息が掛かってくすぐったいわで大変だったのだが、
「あら、霖之助。モテモテじゃない。こんなに可愛い女の子たちから求められるなんて、罪作りな男ね?」
「あぁ、店主さんのおせちが……」
更にレミリアが面白がって背中から抱き着き、この状況を茶化して来た事で更に事態の収拾がつかなくなって来た感じだ。
フランドール同様、レミリアに日傘を差す為に咲夜が付き添っていたのだが、レミリアに日傘を差しながら名残惜しそうに僕の作ったおせちの重箱を見ていた。よそ見をしている為、日傘がきちんと日光を遮断出来ていない。
大丈夫かレミリア? 日傘の影からはみ出た羽の一部が、ちょっと焦げ出しているようだが。
「この状況を嬉々として悪化させておいて言うセリフかね? ……とりあえず君達、全員離れてくれ。女性としての慎みというものは無いのかい?」
僕は彼女たちが恥じらいというものを思い出してくれることを祈って言ったのだが、誰一人として取りあってはくれなかった。
それどころか、魔理沙とパチュリーは更に強く抱き着き、フランドールは姉の真似をして僕の体に抱き着いてくる始末である。
更に悪化しているじゃないか!
「嫌だぜ! 第一、なんで私が香霖から離れなきゃいけないんだ! 離れるなら、今日初めて香霖と会ったパチュリーとフランが、慎みを持って離れるべきだぜ!」
「私は魔導の探究者として、新たな神秘の知識を持つ彼から聞かなければならない事が沢山あるの。離れるなら、元から彼と知り合いの魔理沙と、魔法の研究をしている訳じゃないフランが離れなさい!」
「わ、私だって、お兄さんとお話したい事いっぱいあるもん! 魔理沙とパチュリーこそ、お兄さんから離れて! ……私が先に約束してたんだもん」
「あら、フランったら大胆ね。霖之助、いつの間に妹をここまで誑し込んだの?」
「誑し込んでない!」
余りにも酷い風評被害だ。断固として否定する!
というかレミリア、君は特に僕に抱き着く理由は無いんだから離れてくれ。さっきから咲夜の持っている日傘と美鈴がフランドールの為に持っている日傘がぶつかり合っているじゃないか。
それと、本当に大丈夫か君の羽!? 焦げ出すを通り越して火が付き始めたぞ!
もうどうすればいいのかと困り果てていると、意外と早く救いの手が差し伸べられた。
「あら霖之助さん。妖怪たちに群がられて困っているみたいね。美味しいおせちと引き換えに退治してあげましょうか?」
「お年玉も付けるから直ぐに頼む。後レミリア、君は一度離れて自分の身体の確認をした方が良い。羽の端に火が付いているぞ」
「え? ……きゃぁあああ!?」
「お年玉! やった! 言質取ったからね!!」
元々上げるつもりだったものでやる気を引き出せたのなら何よりだ。
それと、自分の羽が燃えていることにようやく気付いたレミリアが離れてくれたのも助かった。そのまま元のパラソルの下で大人しくしていてくれ。
お年玉という言葉に目を輝かせた霊夢は、腕をまくりながら自身の周りに複数の『陰陽玉』を出現させる。
あれは博麗神社の秘宝であり、普段から霊夢が妖怪退治や異変解決でも使用している物だが、その本来の機能は……って、ちょっと待て! 僕まで巻き込んで攻撃するつもりか!?
「ちょ、霊夢!? それは流石にシャレにならないぜ!?」
「妹様! 一旦離れますよ!」
「きゃっ、美鈴!?」
「むきゅ?」
霊夢の霊力の高まりにいち早く気付いた魔理沙は、真っ先に僕から離れ逃走を試みる。
それに続いて美鈴がフランドールを抱えて素早く後退し、レミリアたちの居るパラソルの下へと飛び込んだ。
結果、その場には僕と、僕の腕に抱き着いたまま逃げ遅れたパチュリーだけが残された。
ふむ、詰んだか? いやいや、まだ何とかなるだろう。多分。というか、むきゅって何だろうか? 鳴き声?
僕が一瞬、現実逃避気味に考えるのと同時に、霊夢の十八番と言うべきスペルカードが放たれた。
「『霊符・夢想封印』!」
(ピットフォール!)
(レビテーション!)
「「「「「ぎゃわぁぁああああ!?」」」」」
五人分の断末魔めいた叫びが聞こえる。
が、僕は無傷だ。何とか回避する事が出来た。
「あ、えっと、ありがとう。助かったわ」
「どういたしまして」
咄嗟に抱き抱えたパチュリーが、僕の腕の中からお礼を言って来る。
先程までは自分から僕の腕に抱き着いていたくせに、今は僕に抱き抱えられて年頃の少女の様に頬を赤らめているパチュリーを見ていると、どうしてその恥じらいをもっと早くに持ってくれなかったのか、と言いたくなったが、何だか気疲れしてしまったのでやめた。
僕とパチュリーは今、僕が落とし穴を造る呪文『ピットフォール』で作った穴の中に落ちている。
落ちたといっても、ピットフォールと同時に、浮遊呪文の『レビテーション』を使っていた為、体を打ち付けるなんて言う事は無かったが。
(フライ!)
周りが静かになったところで、飛行魔法の『フライ』を使って穴を出る。
落とし穴を出た先に広がっていたのは、霊夢に蹴散らされた少女たちの屍(死んでない)と、素知らぬ顔で僕が咲夜に渡した重箱を開け、中のおせちを食べ始めている霊夢の姿だった。
「あ、霖之助さんモグモグ。見ての通りモグモグ、きちんと退治しておいたわよモグモグ」
「―――僕ごと退治しようとしたことは置いておいて、食べるか話すかどちらかにしなさい。行儀が悪い」
「モグモグモグモグ」
「よろしい」
「良いんだ……」
食べる事に集中する事にした霊夢を見て僕が頷いていると、抱えたままのパチュリーが不思議そうに呟いた。
良いんだよ、霊夢の場合はこれで。あれをしろ、これをしろだなんて言った所で、素直に言う事を聞いてくれる事なんてそうそうないんだから。
「それよりパチュリー、倒れているみんなをきちんと寝かせてあげよう。どうせ直ぐに復活して来るだろうけどね」
「……ええ、それもそうね」
おせちを美味しそうに頬張る霊夢を横目に、僕とパチュリーは協力して倒れているみんなを横に寝かせた。
全員を寝かせ終わった後で、一応回復呪文を掛けておいたが、その様子をじっと観察するように見ているパチュリーが印象的だった。
まぁ、彼女とは前から話をしてみたかったわけだし、この分なら後日話し合いの場を設けることが出来るだろう。
その時はその時で、またひと悶着ありそうな予感もしたが、僕はなるべく考えないようにした。
しばらくすると、霊夢にぶっ飛ばされて気絶していた面々が徐々に目を覚まして行った。
その間に僕はレミリアにもした、僕が別世界の前世の記憶を持ち、その世界でプレイしていたゲーム内の技能を能力として獲得している事について軽く説明した。
説明を聞いたパチュリーは、その出来事の内容を自分なりに考察しているのか、ぶつぶつと呟きながら考え込んでいた。
まぁ、絡まれるよりは大分マシである。
パチュリーが離れた事で自由になった僕は、持って来たおせちを摘まみながら、同じく持って来た酒を呑んでいた。ちなみに、飲んでいる酒は人里で購入した普通の酒である。
僕の持って来た八塩折之酒は確かに美味しいのだが、僕に取ってはちょっと甘過ぎるのだ。
「イッテテ、酷いぜ霊夢。私は妖怪じゃ無いんだから、一緒に退治する事無いだろう?」
「魔理沙が霖之助さんを困らせるから悪いのよ」
まず復帰して来たのは魔理沙だった。霊夢に文句を言ったが、言われた方の霊夢はどこ吹く風だ。
しかし、その態度を特に気にした様子も無く、魔理沙は霊夢の隣に腰を下ろし、そのままおせちや酒を飲み食いし始めた。普段から、弾幕ごっこで対戦している二人にとって、スペルカードを放つのも、スペルカードを食らうのも、日常茶飯事なのかもしれない。
「うう、何で私まで……」
「お嬢様ともかく、私は完全にとばっちりでしたわ」
次に復帰したのは、レミリアと咲夜だった。
レミリアは自業自得だから良いが、咲夜は本人が言う様に完全にとばっちりだった。後で御詫びの品を渡すなり、次に店に来たときサービスするなりで対応するとしよう。
「痛ったーい。酷いよ霊夢」
「あはは、相変わらず容赦ないですね。霊夢さん」
最後に復帰したのは、フランドールと美鈴の二人だった。
フランドールの場合は少し可哀そうだったが、霊夢がその辺を気にする訳も無い。
美鈴は……疲れた笑顔に、普段から理不尽な目に遭うのは慣れていると言わんばかりの哀愁が漂っている。彼女にも後で詫びの品を送ろう。
これで全員目を覚ました訳だが、霊夢が見ている為、先ほどの様に僕に絡んで来る者は居ない。ようやくゆっくり宴会を楽しむことが出来る様になったか。と、思ったのだが、
「ちょっとパチェ! どうしてあなただけ無事なのよ!?」
「古道具屋さんに助けて貰ったからよ、レミィ」
自分たちは霊夢にやられて服が汚れているのに、一人だけ無事なパチュリーの姿に気付いたレミリアが騒いだ。
更にその話を聞き付けた魔理沙が、僕に文句を言って来た。
「なんだよ香霖、私を差し置いてパチュリーだけを助けたのかよ!?」
「君は自分一人でいち早く逃げ出していたじゃないか? 僕が身を守るののついでに、一番近くで逃げ遅れていた彼女を助けただけだよ」
魔理沙の文句をバッサリと切り捨てる。僕を置いて一人で逃げた事、忘れていないからな。
すると今度は、咲夜が霊夢に気になったことを質問して来た。
「そう言えば霊夢、どうして店主さんまで巻き込むような攻撃をしたの? 店主さんは半竜だから頑丈かもしれないけど、霊夢の攻撃が直撃したら危ないんじゃない?」
「危なく何て無いわよ。どうせ霖之助さんならどうにかして防ぐなり、避けるなりするって判っていたもの。それに、私の攻撃なんて霖之助さん相手じゃ石壁に泥団子を投げつける様な物よ。大してダメージがあるとは思えないわ」
「えっ、私すっごく痛かったんだけど……」
大丈夫だと思ったからで攻撃して欲しくないんだが、実際避けたけど。
実際に当たっても大した事にはならなかったと霊夢が語る一方、直撃のダメージで気絶していたレミリアは、その評価を聞いてびっくりしていた。
呆然としているレミリアに変わってか、今度は美鈴が霊夢に質問して来た。
「霊夢さん。霖之助さんってそんなに強いんですか? 半竜なのは知っていますが、正直あまり強そうには見えないんですが……」
「そう? 私が知っている中で、一番強い人が霖之助さんなんだけど。正直私よりもずっと強いわよ?」
「「ええ!?」」
レミリアと美鈴の驚きの声が重なる。
声こそ上げなかったが、咲夜やパチュリーも目を丸くして驚いていた。後、何故魔理沙は自分の事の様に自慢げな顔で胸を張っているのだろうか?
そしてフランドールは、霊夢が自分より僕の方が強いと言った事で、キラキラした目で僕を見つめて来た。
「霊夢より強いの!? お兄さんすごい!!」
「いや、勝手に霊夢がそう言っているだけだよ? 戦ったことがある訳でも無いしね」
実際の所、対戦したら僕と霊夢のどちらが勝つのだろうか?
負けるつもりは無いが、だからと言って勝てるとも言えないのが正直なところだ。
まぁ、男の僕は弾幕ごっこなんてやらないし、霊夢と対戦する事なんて無いだろうけどね。
フランドールは素直に霊夢の言葉を信じて、すごいすごいと言っているが、レミリアの方は今一信じ切れていない様だ。
「……正直信じ難いわね。私に勝った霊夢の力は知っているし、霊夢が嘘なんて言わない事も知っているけど。 ……この冴えない店主が強いの?」
「悪かったね、冴えない店主で」
疑惑の目を向けて来るレミリアにそう返して、僕は再び酒を呑む。
そんな目を向けられても、僕が弾幕ごっこをやらない以上、証明のしようが無いし、わざわざ証明したいとも思わない。
だが、魔理沙は僕が疑われているのが気に喰わないらしく、声を大にして主張した。
「おいレミリア! 香霖は本当にすごい奴なんだぜ!」
「いや、半竜だしすごいのは知っているけど、私はあくまで弾幕ごっこの強さとかが気になるだけで……」
「香霖は私のミニ八卦炉を作ってくれたんだ! 弾幕ごっこだって、やろうと思えば滅茶苦茶強いに違いないぜ!」
「「「「「え゛っ」」」」」
ざっ―――
魔理沙がスカートからミニ八卦炉を取り出して掲げながら言った瞬間、紅魔館住人たち全員が妙な声を出して魔理沙や僕から距離を取った。
その反応はちょっと傷付くが、魔理沙は彼女たちの度肝を抜けたことで機嫌を直していた。
信じられない様な物を見る目を彼女たちが僕に向けてくる中、恐る恐ると言った様子でレミリアが魔理沙に質問した。
「ね、ねぇ魔理沙? ミニ八卦炉って霖之助が作ったの?」
「そうだぜ。作ってくれただけじゃなく、前に錆びちゃった時に直して貰ったら、ひひいろかねを使って更に便利に作り変えてくれたんだ!」
「作り変えてくれたって……それじゃあマスタースパークの攻撃力が明らかに前の数倍になっていたのも?」
「香霖のおかげだぜ!」
「私のナイフの弾幕が、ミニ八卦炉から出た良く分からない反射シールドで全部跳ね返されたのも?」
「香霖のおかげだぜ!」(笑顔)
「私の属性魔法のスペルカードが、実体化して無限湧きした精霊たちに、徹底的にメタられて食い破られたのも?」
「香霖のおかげだぜ!」(超笑顔)
「私のレーヴァテインが直撃しても傷一つ付かなかったどころか、逆にレーヴァテインが砕けそうになるくらいミニ八卦炉が頑丈だったのも?」
「香霖のおかげだぜ!」(有頂天なまでの笑顔)
「それじゃあ私が魔理沙さんに為す術も無く負けたのも?」
「いや、それは香霖とは関係無しに美鈴が弱かっただけだぜ?」(無慈悲なまでに冷静な顔)
「(´・ω・`)ショボーン」
レミリア、咲夜、パチュリー、フランドール、美鈴の順に質問して行き、魔理沙はそれに機嫌良く答えていく。
……最後、美鈴の所だけ冷静になったのは少しだけ可哀そうだったが。
しかし、確かに魔理沙のミニ八卦炉は自信作だったが、それほど騒ぐようなものだろうか?
幻想郷にだって、もっと驚く様なマジックアイテムは沢山あると思うのだが。
「いや、私の知る限り、魔理沙のミニ八卦炉ほど頭のおかしい道具なんて、他に無いわよ?」
「そうかい?」
「前に紫が霖之助さんについて私や魔理沙に聞いて来た事があったけど、あれって魔理沙が新しくなったミニ八卦炉を使っている所を見たのが原因だと思うわ。勘だけど」
「なるほど」
そう言えば紫と初めて会った時も、ミニ八卦炉の事について話したいって言ってたっけなぁ。
去年の秋ごろに出会ったばかりなのに、もう随分と昔からの付き合いのように感じる、冬眠中の友人の姿を思い浮かべながら、僕は再び酒を煽った。
前後篇で終わらせたかったけど、長くなったので中篇です。
転生香霖は魔改造ミニ八卦炉を自信作ではあっても、それほど大した代物だと思っていません。
根本的に、転生香霖の中での最高の道具の基準が、日本神話最強の神剣である『叢雲』や捕らえれば神だろうが何だろうが問答無用で無力化する『グレイプニル』ですので、転生香霖は魔改造ミニ八卦炉をそれらより数段劣る程度の道具であると認識しています。(その数段劣る程度が十二分にヤバいと何故気付かない)
まぁ一番の原因は、魔改造ミニ八卦炉出来る大抵の事が、転生香霖自身の技能で出来てしまう事だからなんですけどね。(だから、それがヤバいと何度も)