東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
宴会の翌日、僕は店番をクトゥグアに任せて、香霖堂地下塔の工房へと来ていた。
目的は、妖夢から請け負った『楼観剣の修復と強化』である。
工房の作業台の上には楼観剣が置かれ、その周囲にはオリハルコン合金や魔結晶などのお馴染みの素材たちが所狭しと並んでいる。
これらを使えば、間違いなく強力な剣が出来上がるが……。
「ふむ、少しつまらないな」
そう、それだけじゃあつまらないと、僕は感じていた。
思えば最近は、便利だからと言ってオリハルコン合金に頼り過ぎている気がする。
別にそれが悪いと言う訳じゃないが、ワンパターンなのは飽きてしまう。
折角なら、もっと別の素材も使ってみたい。
「となると、あれか……」
僕はアイテムボックスから、金属的な光沢を持つ漆黒の素材アイテムを取り出した。
ゴトリ、と重たい音を響かせて、その素材が作業台の上へと置かれる。僕が楼観剣の強化素材として選んだのは、『ボイドドラゴン』のドロップアイテムである『虚無竜の翼爪』だった。
この素材は、僕の得物の一つである『虚無竜のデスサイズ+』や、ゲーム時代に生産職のプレイヤーに作って貰った『虚無竜の投槍+』の素材となったアイテムである。
その威力は折り紙付き、デスサイズの方は破滅の女神『ツィツィミトル』さえ一撃で両断した逸品だ。間違いなく強力な武器となってくれるだろう。
「それと、組み合わせるならこれだな」
続けて、僕が取り出したのは『仏像シリーズ』からのドロップ武器の一つである『七星刀』だった。
叢雲の使う鉄扇『オリハルコンファン』を作った時、僕は耐久値の回復が出来ないゲーム時代の武器たちのデメリットを、他の武器の素材にする事で、武器性能だけを移してデメリット部分を克服するという方法を編み出した。
正確には、魔理沙のミニ八卦炉の時も組み込んだアイテムの中に耐久値が回復出来ない『如意宝珠』が混じっていたのだが、その時は組み込んだ素材が膨大過ぎて気付かなかったのだ。僕ってばうっかりし過ぎかな?
まぁとにかく、デメリットを打ち消した上で武器をより強力な物に出来るこの手法は画期的だった。
これに気付いた時は、テンションが上がってゲーム時代に使っていた武器同士を合成させて、色々と強化して見たものだ。『オリハルコンランス』と『グングニル』を組み合わせるとかね。
後でその事が叢雲にバレた時、物凄い目で見られたが……まぁ、はい。すみませんでした。
「って、そうじゃない。今は妖夢からの依頼を完遂しなきゃな」
脳裏に浮かんだ叢雲の顔を振り払い、僕は作業を開始した。
この刀は良い物に生まれ変わる。それも、とびっきりの良い物に。
後日、楼観剣の修復が終わった事をクトゥグアに白玉楼まで伝えに行って貰った所、帰りのクトゥグアと共に妖夢が店にやって来た。
余程楽しみにしていたのだろう。
『ただいま帰還しました。主よ』
「こんにちは霖之助さん! あの、クトゥグアさんから楼観剣が直ったって聞いて来たんですけど……」
「ああ、もう仕上がっているよ。最後に妖夢が実際に振るうのを見て微調整したいから、外に行こうか」
「はい! あ、では先にお借りしていた剣を返しておきますね」
妖夢が背負っていた神鋼鳥の刀を鞘ごと外して僕に返して来た。
そのまま受け取って、何となく腰に差す。うん、叢雲には悪いけど、やっぱり馴染むなぁ。
「貸してた間、不自由しなかったかい? 元々自分用に作った物だったから、体格的に妖夢には使い難かっただろう?」
「いえいえそんな! こんなにすごい刀を振るえて楽しかったです! 調子に乗って振ってたら、白玉楼の燈籠を一本真っ二つにしちゃって、幽々子様から怒られてしまいましたけど……」
「ははは、気持ちは判るけど、周りには気を付けようね? 新しくなった楼観剣でもその調子だと、また怒られてしまうよ」
「うぅ、はぃ……」
妖夢の失敗談に苦笑しながら、妖夢とクトゥグアを連れて店の外に出る。
店の前の広いスペースまで歩いたところで、僕はアイテムボックス内から改修した楼観剣を取り出した。
「手持ちの素材で強化したら、鋭くなり過ぎて鞘が持たなくてね。勝手ながら新調させて貰ったが、構わないかい」
「あ、はい。それは全然大丈夫です。それよりも鋭くなり過ぎたと言うのは?」
「……まぁ、実際に見て見れば判るよ。素材の関係で前より少し重くなっているから、気を付けてね」
「はい、判りました。 ……っと、確かにちょっと重たくなってますね」
刃の長さや握りの部分は前と変わらないが、逆にそのせいで感覚のずれが大きいかも知れない。
まぁこの辺は実際に使い込んでなれるのが手っ取り早いのだが、妖夢が振っている所を見て微調整すれば多少マシになるだろう。
「抜いて見てごらん。強力なだけじゃなく見た目もかなり綺麗になったと自負しているよ」
「そうなんですか? では、失礼して……わぁ!」
刃に釣り合う様に『涅槃の閂』から作った鞘から、生まれ変わった楼観剣が姿を現す。
刀身は虚無竜の翼爪と同じ漆黒に染まり、剣腹には七星刀に由来する北斗七星の輝きが宿っている。
この輝きはの正体は、凝縮して組み込んだ『星結晶』の放つ光だ。
妖夢は掲げた楼観剣の刀身に見入り、頬を紅潮させてうっとりと眺めている。
「……妖夢、試しに何度か振ってみてくれないか? その様子を見て最終調整がしたい」
「―――は、はい! 判りました! ……すみません、つい見蕩れてしまって」
「いや、そう言って貰えると、作った方としても嬉しいよ。なにせ僕自身会心の出来だと思っているからね」
「はい! 本当に素晴らしい出来です! こんなに良い物を作って頂いて、何とお礼を言ったら良いのやら……」
「なに、その反応だけで十分だよ。職人なんて言うのは、自分の作った物を褒めて貰うのが一番の報酬だからね」
もちろん、仕事である以上代金はきっちりと貰うが、それはそれとして、料理然り作った物を喜んで貰ったり、褒めて貰うのが作った側としては何より報われる瞬間なのだ。
妖夢の言葉や表情は、今回の仕事における僕への最大の報酬と言って良いだろう。
「さ、妖夢。気持ちは十分に伝わっているから、試しに振るってみてくれ。最後の微調整を残したままじゃ、画竜点睛を欠くからね」
「―――判りました。本当にありがとうございます、霖之助さん!」
妖夢の純粋な笑顔が眩しい。
こう無邪気な反応をされると、つい霊夢や魔理沙の小さい頃を思い出して頭を撫でたくなるのだが、今はぐっと堪えよう。
まずは、楼観剣をきちんと仕上げないとな。
「では、行きます。 ―――セイッ、ハァッ!」
正眼に構えた妖夢は、洗練された動作で次々に剣を振るう。
見た事の無い型だったが、恐らく妖夢の使う流派の型なのだろう。
澱みの無い動作は、日頃の訓練の賜物であろう。実に美しい剣筋だと、僕は感じた。が、
(少し綺麗過ぎる。それに、型に嵌り過ぎているな)
ただ剣を振るう姿を見ているだけでも、判って来る事はある。
妖夢の剣閃は実に美しい。だが、綺麗過ぎて遊びが無い。
それに型を意識し過ぎて、動作が固くなってしまっている。
基本を疎かにしない姿勢は好感が持てるが、それも行き過ぎれば対応力を落としてしまうだけだ。
この辺りは、実戦を繰り返して実感と共に鍛えて行くのが一番なのだが、どうも妖夢は、長い間一人稽古を続けてきたように感じられる。
振るう剣が相手を想定した物では無く、ただ型をなぞる為の物であるのがその証拠であろう。
見どころはある。才能があるだけでは無く、妖夢の直向きさ剣の道を行く上で大切なものだ。
だが、余りにも環境に恵まれていない。
稽古や試合を行える相手が居ないと言うのは、彼女の成長にとって大きなマイナス点となるだろう。
一人で極められるほど、剣の道は容易く無いのだ。
まぁ、極めたとは口が裂けても言えない僕が言っても説得力が無いかもだが。
「―――ふぅ。あの、どうでしたか? 霖之助さん」
「ふむ、そうだね……」
考え事をしている間に、妖夢は一通り型を振るい終えて、僕に話しかけて来た。
考え事をしながらでも、振るう様子は見ていたので、調整には問題無い。
「刀身のバランスと、握りを少し調整すればバッチリだね。少し貸してくれ」
「はい、お願いします」
妖夢から受け取った楼観剣の刀身を、魔力を込めた手で撫でる。
もう少し大掛かりな調整をするなら工房に向かっている所だが、ほんの少し微調整するだけなら、ちょっとした魔法を使うだけで十分だ。
調整が終わった楼観剣を、再び妖夢に返す。
「これで大丈夫のはずだ。試してみてくれ」
「はい。 ……わ、すごい。さっきよりもしっくり来てます!」
どうやら調整は上手く行ったようだ。では……。
「妖夢、後は振るうのに慣れさえすれば大丈夫だね?」
「はい、大丈夫です。これ位なら直ぐに慣れて見せます!」
「そうか……なら構えなさい」
「……え?」
腰に差した神鋼鳥の刀を抜き、片手で半身に構え切っ先を妖夢に向ける。
妖夢は自体について行けていないようで、呆けた様子で疑問の声を上げたが、構わず僕は続ける。
「型通りに振るうだけじゃ判らない事は沢山あるからね。実戦稽古に勝るものは無い、とは言わないが、感覚を掴むなら実戦の方が優れているのも事実だよ」
「……そう、ですね。お師匠様も昔似たような事を言っていました」
お師匠様、とやらの言葉を思い出したのか、妖夢は居住まいを正した。
うん、良い顔になったじゃないか。
「実戦稽古や試合は長い事してないんだろう? 今日は僕が付き合うから、いくらでも打ち込んで来なさい」
「はい! ……けど、どうして判ったんですか? 私がしばらく対人戦を経験していないって」
「剣を振るう姿を見れば、判って来る事もあるんだよ」
「なるほど。お爺ちゃんも斬れば判るって言っていたし、そういう事なんですね!」
「まぁ、ニュアンス的には似ているかな?」
そのお爺ちゃんと言うのが、妖夢の師匠という事なのかな?
爺様が師匠と言うのは、前世の事を思い出して嫌な気分になるが……まぁそれは置いておこう。
「一応は先達の剣士として、今日は胸を貸そう。来なさい!」
「はい! 行きます!」
思い切り良く踏み込み切りかかって来る妖夢。
躊躇いが無いのは良い事だ。では、こちらも行くとしよう。
胸を貸すと言った以上、妖夢にとって得るものの多い試合を心掛けなくちゃな。
「はぁ、はぁ……うー……」
地面に倒れ伏す妖夢が呻いている。心なしか、隣の半霊もへたって居る様に感じるな。
「立てるかい、妖夢?」
「うぅ、て、手足が動きませんー……」
「なら、魔法で回復させよう。そうしたら続きだ」
「ひぇ~、ちょっとは休ませて下さいよぉ」
「駄目だ」
ここまで打ち合ってみた感想だが、妖夢は動きが硬すぎる上力み過ぎている。
型通りを意識し過ぎるから、簡単に足払いを食らってしまっているし、脱力が出来ていないから体力も直ぐに尽きてしまっている。
この二つの問題の根本は同じ、圧倒的な経験不足だ。
駄目な点を僕が口で指摘するのが一番早いが、それでは自分で考える力を育めなくなる。
足払いを食らったから足元ばかり注意し、逆にそこを付かれて剣を弾き飛ばされ、今度は弾かれない様にと強く握り込んだところで、今度は動きの鈍くなった腕を掴んで投げ飛ばす。
そう言ったことの繰り返しの中で、一つの事に集中するのではなく、全体に気を配る感覚を身に付けて欲しい。
理想は自分の背後に目があるかのように、全体を俯瞰する事だ。
そして体力の限界まで自分を追い込むことで、自然と最小限の動作で動く事や、適度に力を抜く事を体が覚えて行くだろう。
つまり何が言いたいのかと言えば、剣の修行は自分を追い込むことが一番の近道なのだ。
追い込み過ぎても体を壊すだけだが、その辺は僕が気を配ればいいだけだ。
「だから妖夢、続けるよ。それが妖夢の為にもなる」
「ふぇぇ、お師匠様だってここまでスパルタじゃ無かったですよぅ」
「そりゃあ僕は君のお爺ちゃんじゃないからね。別人なんだから、教え方だって違って来るさ。さぁ、喋っている間に体力も回復しただろう? 継続回復の魔法を掛けているから、まだ回復していないなんて言わせないよ。立つんだ。ハリーハリー!」
「ひぇぇ~、幽々子様ぁ!」
泣き言を無視して、その後も日が暮れるまで妖夢との稽古を続けた。
終わってから、少し厳しくしすぎたかな? と思ったが、翌日も妖夢は店に来て、僕の稽古を受けて行った。
それからは、妖夢も白玉楼での仕事があるため、毎日では無いが数日おきに店に顔を出すようになった。
後に、あれだけ泣き言を言っていたのに、良く自分から来る気になったね? と、訊ねてみると。
「確かにきつかったですけど、誰かに稽古をつけて貰うのは本当に久しぶりで、嬉しかったですし、楽しかったんです。霖之助さん、どうかこれからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
そう言って妖夢は丁寧に頭を下げて来た。
以来、妖夢との稽古は僕の楽しみの一つとなっている。
次はどんな稽古を付けようか? そう考え悩む時間もまた、楽しいひと時だった。
『楼観剣・改』
虚無竜の翼爪と七星刀を組み込んで作られた、漆黒の刀身に輝く北斗七星が浮かぶオサレ武器。
この剣で斬れない物は、割とマジで殆ど無い。(それでも叢雲なら刃毀れを生じさせられる当たり、流石は最強の神剣の貫禄である。例によって自己修復機能があるから、多少刃毀れさせたところで直ぐ元通りになるけど)
なお、七星刀は時空属性を持っている為、楼観剣・改には『ショート・ジャンプの札』が組み込まれているので短距離転移が使える。
この機能を初めて使った時、妖夢は縮地が使えるようになったと勘違いして喜んでいたが、後に転生香霖から刀の機能だと教えられてショボンとなった。