東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
―――その日僕は、以前美鈴とした約束を果たす為に紅魔館を訪れていた。
約束とはもちろん、手合わせの約束である。
時刻は夜。
僕と美鈴の手合わせの話を聞き付けた、レミリアを始めとした紅魔館の住人たちが観戦し、更に叢雲と煙晶竜にクトゥグア、霊夢と魔理沙に紫、幽々子と妖夢まで見学する為に集まってしまい、結構な大所帯となってしまった。後、幽々子が乗って来た日輪も少し離れた場所で寝転がっている。
なお、手合わせをする時間帯に夜が選ばれたのは、美鈴との手合わせに来ている人里の者達が帰った後である事と、レミリアとフランの吸血鬼姉妹に配慮したためである。
「いやぁ、お待ちしていましたよ。霖之助さん」
「待たせてしまって悪いね、美鈴」
それなりに多くなってしまったギャラリーに囲まれる中、僕と美鈴は軽く声を掛け合いながらも腰を落として構える。
ふむ、こうして対峙しただけでも隙の無さが良く判る。
いやはやまったく、開始前から楽しみで仕方が無いな!
「何だか嬉しいですね。幻想郷で格闘技を嗜んでいる方はあまりいませんから、こうして立ち合いが出来る機会が来るとは思っていませんでしたよ。 ―――実はですね。子供っぽいとは思うんですが、今日は楽しみ過ぎていつものお昼寝が出来なかったんですよ」
「ははは、判るよ。実は僕も今日は、楽しみでいつもよりも早く起きてしまって……いや、昼寝はいつもしてちゃ駄目なんじゃないか? 君門番だろう」
「あっ……いやぁ、あはははは……」
「美鈴……終わったら後で話があるわよ」
「ひぇっ、ごめんなさい咲夜さん!」
どうして美鈴は、これから手合わせを始めるというのに墓穴を掘っているのだろうか? 緊張感が台無しだなぁ。
……というか、妙に謝り慣れ過ぎている感じがするが、いつもの事なのか? ……大丈夫か、紅魔館の門番。
まぁ、これだけ隙の無い構えが出来る美鈴がそう簡単に侵入者など許すはずも無い。と思いたかったが、よくよく考えてみれば魔理沙が日常的に侵入しているんだよなぁ……。
「……美鈴、夜あんまり眠れていないとかだったら、寝具何かを格安で売るよ?」
「いえ、不眠症と言う訳では無くお日様を浴びていると眠くなってしまうだけですから、全然大丈夫ですよ!」
全然大丈夫じゃないんだよなぁ。だって話を聞いてる咲夜が青筋立てて居るんだから。
これ以上美鈴が失言を重ねる前に、早く始めるとしよう。
このままでは手合わせを中断して咲夜が美鈴を説教し始めかねない。
「―――美鈴、そろそろ始めようか?」
「―――ええ、そうですね」
僕が構え直し闘気を高めると、美鈴も先程までの陽気さを霧散させて拳を構えた。
うん、良い緊張感だ。心地良い。
美鈴は中国拳法の使い手だと聞いたが、前世含めて中国拳法の使い手と戦った経験はあまり無い為、非常に楽しみだ。
得るものの多い戦いとなりそうだ。それを思うだけで、胸の内に狂おしいほどの喜びと熱が宿るのを僕は感じていた。
しまった。確かに得るものの多い戦いを願っていたが、こういう意味でのものでは無かったんだがなぁ!
「ちょ、霖之助! 美鈴に何てことしてんのよ!?」
「……」
「……」
レミリアの狼狽した声が聞こえるが、あいにく僕にも美鈴にも返事を返す余裕はない。
最初の内は良かったのだ。
美鈴の鋭い撃ち込みを僕が捌き、距離を詰めて関節技や投げ技を掛けようとする僕を美鈴がいなす。
そう言った攻防と読み合いによる、至極真っ当な格闘戦が繰り広げられていた。
正直、僕はこの時非常に楽しかった。
妖怪相手だと相手の力をこちらの技で捌く事ばかりだったため、技と技同士でのぶつかり合いは非常に懐かしく、同時にあまり戦った事の無かった中国拳法との戦いは、僕に新鮮な驚きと喜びを与えてくれた。
とにかくまぁ、海を挟んだ向こう側で培われた技術である為、こちらの術理とはかなり毛色が違い、使い手である美鈴がかなりの実力者であるから非常に苦戦させられた。
無論苦戦するのは大歓迎である以上、僕としてはもっと長く美鈴との手合わせを続けたいと思っていたのだが……如何せん弾幕勝負に比べて絵面が地味である為、ギャラリーの方が先に飽きてしまった。
叢雲や咲夜、妖夢などは結構真剣に見ていてくれたし、煙晶竜は面白そうに眺めていたのだが、レミリアは読み合いばかりで大きな動きが無い僕と美鈴の攻防に痺れを切らし、美鈴に勝負に出る様にと言ってしまったのだ。
これを美鈴は承諾し、一気に踏み込んで来た。命令に逆らえなかったというよりは、美鈴自身このままでは決着が着かないと思っての行動だったようだが。
当然僕はこれを迎撃した。しかし、中国拳法の立ち技の豊富さは非常に厄介で、捌き切れないと判断した僕はタックルで美鈴を押し倒し、無理矢理寝技に持ち込んだのだ。
―――その結果が、今のこの状況である。
「ぐくっ、振りほどけ、ない……」
「無駄だよ。この体勢になった以上、そうそう脱出は出来ない」
「二人共、何でそんな真面目な顔のままで居られるのよ!? ちょっと離れなさい!!」
いや、まだ決着が着いていない以上離れる訳にはいかないし。レミリアの言いたい事も判るけどさ。
今、僕と美鈴がどうなっているかと言うと、僕が美鈴にかけた三角締めが完全に極まっている状態だ。
……お察しの通り、傍から見た絵面は僕が美鈴の首に両足で巻き付き、股間を押し付けている。という体勢となっている。
ああ、やってしまった。前世でもこの技は女性陣から色々言われたのを覚えていたから、極力使わない様にとは思っていたのだが、美鈴をタックルで引き摺り倒した時、一番かけ易かった技が三角締めだったのだ。
まったく、どうしてこうなるんだか。
僕としては、美鈴がまだ何とかしようとしている以上、このまま続けても良かったのだが、美鈴の方は打開策が見つけられなかったようで、レミリアの言葉もあって降参を宣言した。
「……これ以上は粘ってもどうにもならなそうですね。霖之助さん、参りました」
「ああ、了解した」
美鈴が降伏して直ぐに、僕は技を解いた。
技を解かれた美鈴はその場に寝転がり、星空を見上げて満足そうに息を吐いていた。
「ふぅ~……いやぁ、堪能させていただきました! 前々から霖之助さんは凄い物をお持ちだと感じていましたが、それをこの体で感じることが出来て大満足です!」
美鈴、美鈴。僕の徒手格闘の腕を指してそう評価してくれているのは判るが、ちょっと言い方がきわどいよ?
気付いてくれ美鈴。周りの女性陣が君を見る目がどんどん剣呑になっているぞ! 完全に別の意味に受け取られているから!
「へぇー、霖之助さんのを堪能したんだ。へぇぇ?」
「香霖のを、体で感じた、だとぉ?」
能面の様に無表情となった霊夢が周囲に複数の陰陽玉を出現させ、青筋を浮かべた魔理沙が手に持ったミニ八卦炉に魔力を注ぎ込む。
二人の目には殺意しか宿っていない。
「まぁ、霖之助さんのを体で堪能したなんて! ……これは少しお話しないといけませんわね?」
「あら、駄目よ紫。そんな怖い顔をしたら話なんて出来ないわよ? ここは優しく、ゆっっっくりとお話しないとね?」
「はわわわ……!」
紫は扇子で口元を隠しながら笑いつつ、紋章の様な魔法陣を展開し、幽々子もまた同様に口元を扇子で隠しながら、背後に光を放つ広げた扇子の様なものを出現させる。
二人共口では笑っているが、目が全く笑っていなかった。
なお、妖夢は顔を真っ赤にさせながら両手で顔を隠していたが、開いた指の隙間からバッチリこちらを見ていた。
「美鈴ったらそんな、殿方のをた、堪能したなんて……は、はしたないわよ!」
「美鈴、どうやらお説教だけじゃ物足りないようね」
「キュッとしてぇ、キュッとしてぇ……何だったかなぁ?」
「むきゅぅ……」
レミリアは顔を真っ赤にしてどもり、咲夜は屠殺される養豚場の豚でも見る様な目つきで美鈴を睨んでいる。
レミリアはともかく、咲夜の目つきはとても怖い。僕がこんな目で見られたらと思うと背筋が凍りそうだ。
そしてフランは左手に炎の剣レーヴァテインを出現させながら、右手を握ったり閉じたりする動作を繰り返し、パチュリーは不満そうな顔で唸ると、周囲に幾つもの魔法陣を出現させていた。
「あわわわわ! み、みなさんどうしたんですか!?」
「「「「「「「あぁッ!?」」」」」」」
「ひぇっ!?」
周囲の尋常ならざる様子に気付いた美鈴が訊ねるが、帰って来たのは肉食獣のような獰猛な視線と威嚇の声だけであった。
それに驚いた美鈴が、恐怖のあまり涙目で僕に抱き着いて来るが、そのせいで更に視線の圧が増していた。
「あらあら、大変ですね。美鈴さん」
『他人事じゃのう叢雲よ。まぁ汝の場合、競う部分が他の者達と違うからじゃろうが』
『……沈黙を推奨』
これだけ剣呑な空気となっているというのに、叢雲たちは余裕だなぁ。
出来れば僕もそちら側に行きたいが、如何せん当事者なので逃げられない。
さて、どうやって彼女たちを宥めようかと考えていると―――。
「うん? ……美鈴、ちょっとだけ離れて貰ってもいいかい?」
「え? あ、はい」
「ありがとう。 ……覗き見とは相変わらず良い趣味だな、駄烏!」
ヒュンッ、ガシッ!
「あややぁ!?」
ドサァッ!
「あいたたた、いきなり何するんですか!?」
「何をするはこっちのセリフだ、その手に持ったカメラで何を撮るつもりだったんだ? 『文』」
上空に覚えのある視線と気配の感じたので、跳躍して捕まえ引き摺り落した。
視線の主は僕の古馴染みである烏天狗の少女『射命丸文』だった。
「何ってスクープに決まってますよ! タイトルは『紅魔館前にて修羅場発生、渦中の主は半妖のキレた斧』! なんてどうでしょう? これなら次の新聞大会で優勝を狙う事も可能な、あにゃにゃぁ~っ!?」
「よりにもよって定期購読者様である『オレ』を面白おかしく記事にしようとはな。その根性、気に入らん! お前は大天狗の爺の後塵を拝しているのがお似合いだ!」
「ひがへへふ、ひがへへふよ。りんひょふけひゃん!(地が出てる、地が出てますよ。霖之助さん!)」
「喧しい!」
性悪天狗の両頬を摘まんで引っ張り、こねくり回す。
良く伸びるな、餅のようだ。このままこねれば、こいつの性格も丸くなるかもしれん。
更にこね回してやろうでは無いか!
なんてやり取りを僕と文がしていると、周囲から困惑した空気を感じた。
見ると、煙晶竜と紫以外の少女たちが、僕と文を何とも言えない表情で見ている。
しまった。そう言えば、さっきはつい昔の喋り方と一人称に戻ってしまっていたな。これじゃあ自他共に認める、丸くなった今の僕のイメージが台無しだ。
心の中でもっと気を付けないとと思っていると、霊夢が一歩前に出て僕に訊ねて来た。
「えっと、霖之助さん。新聞を買ってたのは知ってたけど、文と仲良いの? さっきは喋り方まで違ってたみたいだけど」
「喋り方は気にしないでくれ。文とはまぁ、古馴染みってだけだよ。話していると偶に今みたいに昔の喋り方が出て来るだけさ」
「偶にじゃなくて、私と会う時はしょっちゅうじゃないですか。天魔様も言ってましたよ、『斧足の奴は自分では変わったと思っとるようだが、中身が昔からまるで変っとらん』って」
「あの爺さんは、全く……」
「『斧足』?」
天狗の頭目である古馴染みの爺さんの姿を思い出していると、文が口にした呼び名に反応して魔理沙が疑問の声を上げた。
「斧足、って香霖の事なのか?」
「ええそうですよ。他にも『半妖のキレた斧』何て呼び名もあります。まぁ、今では古参の天狗たちしか知らない古い呼び名ですけどねぇ」
文が懐かしそうにそう語ると、先ほどまでの剣呑な雰囲気は何処へ消えたのか、少女たちはその話が気になるようで、文を囲んで話の続きを促した。
「その話、もっと詳しく聞きたいわね」
「香霖の昔話か、私も聞きたいぜ!」
「半妖のキレた斧……格好良い……」
「あらあら、長話になるなら折角だからお酒でも飲みながらにしない?」
「それもそうね。咲夜、準備をお願い」
「かしこまりました、お嬢様」
「斧足、ですか。確かに霖之助さんの足は見た目からは想像出来ないほど強く、逞しかったですからね。そう言われるのも納得――」
「――美鈴、あなたへのお仕置きは話を聞いた後しっかりやるから」
「ひぃっ、許して下さい咲夜さん!」
「霖之助の昔話……私も聞きたい!」
「かつての彼の話、興味深いわね」
霊夢、魔理沙、妖夢、幽々子、レミリア、咲夜、美鈴、フラン、パチュリーの順に、僕の昔話に興味を持ちながら、とんとん拍子に腰を据えて話を聞く準備を進めて行く。
紫や叢雲たちはどうしているのかと思えば、どこからか取り出したテーブルの席に着き、既に準備万端の状態で文の話を待っていた。
「煙晶竜様や紫さんも当時の旦那様をご存知なのですよね? ぜひお聞きしたいです」
「そうねぇ。とは言っても、私は霖之助さんの記憶を覗いただけだし、当時から取り憑いてた煙晶竜の方が良く知っているんじゃないかしら?」
『うむ、もちろん憶えておるぞ! しかし、先ずはあの天狗の娘の話を聞こうでは無いか。当時のキースを、周りの者がどんなふうに思っていたのかが良く判ると思うぞ』
『静聴を実行』
全員興味津々かよ。まぁ良いけどさ。
周囲にスキマが開かれ、そこからテーブルと椅子が出現し、続いて酒やつまみが用意される。
紫が用意した物は外の世界の超一流の物で、僕としてもその味には大いに興味がある。
これで酒の肴が僕の過去話で無ければ、素直に楽しむことが出来たんだがなぁ。
文の語る僕の昔話を楽しそうに聞く少女たちを見ながら、僕は自分の昔話を語られる気恥ずかしさを誤魔化すように酒を呷った。
この後めちゃくちゃヤング香霖こと『斧足(おのあし)』の武勇伝が語られた。
所で天狗の頭目である天魔のイメージは、隻狼の『葦名一心』です。
誰か一心様が天狗に生まれ変わって、妖怪の山の天魔様になってる二次創作を書いてくれないかなぁ?