東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
感無量である。
もうすぐ六月だが、今年の春は遅かった為、まだ桜の花を見ることが出来る。
その為……と言う訳では無いが、ここ最近は春の遅れを取り戻そうとするかのように、博麗神社で宴会がしょっちゅう開かれている。
凡そ三日置きという短いスパンで開かれる花見の宴会は、楽しむ以前に体力を削られるばかりなのでは? と、疑問に思うばかりだ。
まったく、そんなに何度も宴会なんて開いて、宴会で振る舞う酒や料理は何処から用意して来るつもりのかと言いたいよ。
……まぁ、用意しているのは僕と紫なのだが。
何せ、今年の冬は五月初めまで続いた。それだけ長く冬が続けば、酒はともかく料理に使う食材が足りなくなるのは自明の理だ。
そんな中で、三日置きに開かれる宴会の食料を用意出来る者など、僕か紫くらいのものであろう。短期間で繰り返される宴会の中、僕と紫は交代で宴会の酒と料理を用意していた。
今日は、僕が当番の宴会である。
「ふぅ……やれやれ、よくもまぁこれだけ騒ぎ続けて体力が持つものだ」
宴会用の酒と料理を霊夢に届け終えた僕は、宴会会場から少し離れた場所で一人酒を呑んでいた。
桜の花びらが舞い散る中、宴会会場となっている博麗神社の境内には、人妖を問わず様々な種族の者達が集まっている。その比率は圧倒的に妖怪の方が多いが。
この辺りが、博麗神社が妖怪神社と揶揄される理由なのだろうが、これはこれで良いと僕は思っている。
人間と妖怪が共に宴会を楽しむという光景は、それなりに長く生きて来た僕の人生の中でも、ここ最近になってから見れるようになった光景だ。
白玉楼で良く演奏会をしているという『プリズムリバー三姉妹』の演奏に耳を傾けながら、僕はふと、先日文が霊夢たちに話した僕の昔話を思い出した。
文が語ったのは、当時僕と文が出会った頃の話だ。
当時の僕は、どこか一つの場所に定住する事も無く、日本のあちこちを転々としていた。
これはあちこちを見て回りたかったからというより、どこへ行っても追い出されたからと言う面が強い。
あの頃は現代の外の世界と違い、妖怪の存在が人々にとって当たり前の存在であり、故にこそ忌み嫌われていた。
白い髪に黄金の瞳を持つ僕の姿は、人々にとっては妖怪の持つ特徴その物で、半分は人間である事等お構いなしに恐れられるか、排斥されるかが関の山だった。
西へ向かえば石を投げられ、東へ向かえば武功を立てようとする武士に追いかけ回される。
そんな生活を続ける中で、僕の心はどんどん擦れて行ったのだと、今なら客観的に自覚出来る。
人に受け入れられなかったのなら、妖怪の側はどうだったのかと聞かれれば、こちらも同様だったと言う他無い。
混ざり者、半端者、忌子……どれも当時妖怪たちから言われた呼び名だ。
半分妖怪であるから人間から排斥された僕は、半分人間であるから妖怪からも排斥された。
いや、排斥されたと言うのは語弊がある。
当時出会った妖怪たちにとって半妖である僕は、食料には向かないが気晴らしに小突くには丁度良い玩具程度の存在であったのだろう。
人目を避けて旅を続け、人目を避けているからこそ妖怪と出会い、特に理由もなく半妖だからと言うだけでその地に住む妖怪たちから甚振られる。
そんな生活を続ける中、僕の中の何かが切れたのを感じ……気付けば僕は出会う先々の妖怪たちに襲い掛かる様になっていた。
いや、出会う先々だけでなく今まで出会い僕を甚振った連中全員の元にも出向いてズタボロにして回った事もあった。
相手の数も大きさも強さも関係なく、僕自身の怒りに任せて視界に入った妖怪たちを襲って回っていた時代があったのだ。
襲う相手は妖怪に留まる事は無かった。
流石に一応手加減はしていたが、行く先々で人間たちに化け物と罵られるたびに、口を開いた人間の腕を圧し折って回った事もある。
そうしている内に、段々と当時のバトルスタイルの様な物が確立されていった。
人間相手には手加減の為に関節技モドキで腕を圧し折り、妖怪相手なら遠慮なく全力で蹴り足を浴びせるという戦い方。
そんな中、ある時出会った一際強力な妖怪(その妖怪が鬼だとは後で知った)に、両断するつもりで全力の回し蹴りを叩きこんで吹き飛ばし気絶させたところ、その妖怪が結構な大物だったらしく、僕の蹴り足をまるで斧の一撃の様だったと語ったことから、『半妖のキレた斧』なんて渾名が定着してしまった。
文との出会いは、その呼び名が定着して来て少ししてからの事である。
当時いつもの様に山の中で見かけた妖怪を蹴り飛ばして、山肌に埋め込んでいたところ、空から降りてきた文が僕の蹴り足が届かない距離を保ちながら、喧しく話しかけて来たのだ。
『あやや、混ざり者の半端者だというのに、実に見事なお手前! あなたが最近噂の『半妖のキレた斧』さんですね! あなたのことは我々天狗の間でもよく話題に上がるんですよ。半妖の分際で鬼を偶然倒した幸運者って! ここで会ったのも何かの縁、是非お話を―――』
『シャァッ!』
『あややぁっ!?』
話の途中でジャンプタックルで叩き落してやった。
今も昔も、天狗と言う連中は自分の安全を確保した上で相手を煽るようなところがある。
当時の文もその例に漏れず、開口一番こちらの神経を逆なでして来たのだ。まぁ、当時はまだ文も経験が浅く、安全確保の仕方が甘かったから、速攻で僕に叩き落されていた訳だが。
叩き落した後、本来なら思いっきり蹴飛ばしていたところだが、当時の僕は、今も前世もそうだが、どうしても女性を殴ったり蹴ったりするのが気に入らず、結局は子供を叱る様に両手の拳で文の頭を挟んでグリグリする事で謝罪の言葉を引き出すに留まった。
その後は何を思ったのか、文は僕の後を着いて回る様になり、それがきっかけで天狗の頭目である天魔の爺さんとも知り合う事になったのだが、それはまた別の話だろう。
「―――そう言えば文の後、『あいつ』とは天魔の爺さんと知り合う前に出会ったんだよな……」
昔の事を思い出している中で、僕はふと当時文が付きまとう様になってから知り合った少女たちの事を思い出した。
「『萃香』も『勇儀』も、地底に引っ込んでからしばらく会って無いが、今頃何やってんだか……」
僕が思い出した二人の少女の名は、『伊吹萃香』と『星熊勇儀』。どちらも鬼の少女である。
鬼と言う種族の妖怪たちは、随分前に地底に移住してから姿を見かけていない。
今頃は何をしているのだろうか? まぁ元気にはしているだろう。病気にも怪我にも無縁の連中だからな。
「しっかし、宴会が繰り返されるようになってから、妙に懐かしい気分になるのはなんでなんだろうな……うん?」
不意に、視界に気になるものが映りこんだのでそちらを注視すると見覚えのある少女が倒れているのが見えた。 だがおかしい、彼女がこの場に居る筈は無いのだが?
何かの間違いかと思い近寄って確認してみるが、近付いて確認して見るとやっぱり彼女だった。どうやら、酔い潰れて眠ってしまっているようだった。
「萃香じゃねぇか。何してんだ、こんなとこで」
そう、酔い潰れて眠っていたのは、先ほど思い出していた鬼の少女、伊吹萃香だった。
頬でも叩いて起こそうかと思い傍らにしゃがむと、嗅ぎ覚えのある甘い香りがする。香りの正体は僕が用意した八塩折之酒だった。
八塩折之酒はゲームアイテムの酒であり、非常に甘く女性から人気のある酒であったが、飲み過ぎると昏倒してしまうというデメリットがある。
萃香が眠っているのはそのせいであろう。であれば、叩いた程度では目覚めないはずだ。
「……とりあえず、連れて帰るか。このまま放置しておく訳にも行かなねぇしな」
回復呪文のリフレッシュをかけるという選択肢も有ったが、気分良さげな寝顔を見るとこのまま寝かせてやっても良いかと言う気分になった。
やれやれと首を振りつつ、僕はこの小さな古馴染みを抱えて博麗神社の階段を下りて行った。
「うーん……あれ? ここどこ?」
「ようやく目覚めたか、萃香」
萃香を香霖堂まで運んだ後、布団に寝かせて目を覚ますのを待っていたのだが、結局こいつは昼頃まで爆睡しやがった。
目が覚めた時に、こいつと知り合いのオレが傍に居なけりゃ騒ぎになるかもと思って待ってたら一睡も出来なかったとか……本当に鬼って連中は厄介事ばかり持ってくるな。
「……あれ? 斧足?」
「そうだよ。今は森近霖之助と名乗っているがな」
「そーなんだー」
萃香はまだ意識が覚醒しきっていないらしく、とろんとした目と間延びした口調で返す。
やがて目元を手で擦ると、段々意識がはっきりして来たらしく、今度こそ焦点のあった目で僕を見返して来た。
「斧足……斧足!? な、何で斧足が居るの!? しかも私布団に入って……いつ寝たのか記憶も無い!! も、もしかして斧足……あんた、私が寝ている間に何か……した?」
「誰がお前みたいなちんちくりんの寝込みを襲うってんだ? 勇儀や華扇の奴ならともかく」
柄でも無いだろうに、生娘の様に顔を真っ赤にして聞いて来た萃香ににべもなくそう返す。
そう言えば、華扇は地底ではなく山に住んでるんだよな。あいつにもしばらく会って無いし、今度顔出すかな?
「ち、ちんちくりん……言うに事を欠いてちんちくりん、だとぉ……!?」
「いや、事実だろ? 鬼が本当のこと言われてキレるのか?」
「本当の事だろうと言って良い事と悪い事があるでしょ! 女の子への配慮ってものが出来ないの!?」
「ハッ、一体何百年の付き合いだと思っている? 今更お前に配慮なんぞするかよ」
「くぬぅぅぅ……他の女の子や紫には優しい癖に、何で私だけ……」
「別に萃香だけじゃなく、文や『幽香』なんかの古馴染み相手には、大体こんな態度だと思うけどね。 ……それにしても、今紫だけ名指しだったね。知り合いだったのかい?」
「ずっと友達だったわよ、あんたには紹介しなかったけど! ていうか喋り方! なんで紫の名前が出た瞬間から昔の喋り方から今の喋り方に戻っているのよ!?」
「おや、そうかい? まったく意識して無かったね」
「こいつ……本気で自覚して無かったの!?」
萃香に指摘されて気付いたが、いつの間にか喋り方だけでなく思考まで昔の物に戻っていたな。
いかんいかん、昔の突っ張った話し方なんてしたら、客が店に寄り付かなくなりそうだ。
丁寧な言葉遣いは客商売の基本。霧雨の親父さんの教えを無駄にする訳にはいかないからね。
「それはそうと萃香。もうすぐお昼だしお腹空いただろう? 何か作るから少し待っていてくれ」
「そりゃぁ助かるけど……喋り方は昔のに戻して。面と向かってその話し方をされると、違和感が凄いわ」
「はいはい、わーったよ。その代わり、大人しく待ってろよ。お前に暴れられたらこの店なんて簡単に崩れちまうからな」
「暴れたりしないわよ! ……はぁ。何でこいつ、他の女の子には優しく出来る癖に、私にだけ優しく無いのかしら」
「だから、古馴染みには大体こんな感じだって言ったろ? 俺が優しく無いって感じるのは、お前ら鬼ががさつだからだよ」
「じゃあ天狗は?」
「小賢しいから」
「幽香は?」
「あいつは……何かもう下手に出たら負けかなって?」
「まぁ判るけど」
幽香はなぁ。普通に客として買い物に来る時は丁寧に対応してるけど、それ以外で会うとどうしても身構えちまうんだよなぁ。
萃香や文と同程度に古くからの知り合いである『風見幽香』は、何と言うか苦手な相手だ。
出会う先々の妖怪たちを誰彼構わずぶっ飛ばしていた僕が言えた事じゃないが、彼女もまた出会った当初は誰彼構わず噛み付く狂犬のような奴だった。
僕と彼女が出会ったばかりの頃は、毎日の様に殺し合いになったものである。
今でこそ彼女も落ち着いているが、その実内に秘めた凶暴性はまるで変っていないと僕は思っている。
店主と客として会っている時はまだ良いが、それ以外で出会った時は決して油断して良い相手ではない。
遭遇した時は、相手が去るまで決して目を逸らしてはいけない。幽香はそう言う手合いだ。
何て事を考えている間に昼食の用意が出来たし、萃香の元に持って行こう。
「おう、待たせたな。出来たぞ」
「あれ、早かったね? もうちょっとかかるかと思ったけど、何作ったの?」
「おむすび。後は漬物と朝飯の味噌汁の残りを温め直して来た」
「すんすん。美味しそうな匂い……具は何?」
「たれで焼いた牛肉。まぁ味は保証するよ」
「朝から豪勢だねぇ! じゃあいっただっきまーす!」
「いや、だから昼だって」
「美味ーい!」
僕の作ったおむすびを実に美味そうに食べる萃香。
具に使ったのは地下ダンジョンで狩った闘牛の肉と自家製の焼き肉ダレだ。
大皿に山盛りで作ったが、鬼の食欲なら丁度良い位だろう。僕の分も含まれている訳だし。
僕もおむすびに手を伸ばしつつ、ほっぺたにご飯粒を付けながらもりもり食べる萃香の顔を見る。
こいつ全然変わってねぇなぁ。と思いつつ、僕は萃香とお互いの近況を話しながら昼食を楽しんだ。
お判りいただけただろうか?
『鬼切』とも読める『おにぎり』を、あえて萃香の前では『おむすび』と呼ぶ転生香霖の判り辛い優しさが。
鬼はがさつと言っていた転生香霖ですが、萃香たちの事はぶっちゃけ嫌っていないし寧ろ好きです。
ヤング時代から、萃香たちは一貫して転生香霖を半妖であるからと言って侮ったりせず、その腕っぷしを認めて対等に接してくれていましたから。
ヤング時代、生まれて初めて半妖のレッテル抜きに、自分を一個人として見てくれたのが文や萃香と言った古馴染み連中だったので、彼女たちの事は正直大好きなのですが、ヤング香霖の要素が強いと、好意が判り辛くなるんですよw
え、ゆうかりんはどうなのかって?
彼女は何と言うか、熊みたいなもんですかねぇ。目を逸らさず、大人しく去ってくれるのを待つって辺りが特に。