東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~ 作:騎士シャムネコ
次回の後篇で終わらせたいけど、これが既にフラグになってそう(震え声)
結局、僕はハスター用にミニサイズの包丁とランプを作ってやる事にした。
思い付きで作った訳だが、思いのほかハスターはこれを喜んでくれた。
聞くと本人も、これを装備しなければならないという使命感の様な物を感じていたそうだ。
ハスターもまた邪神とは言え神である訳だし、信仰されているハスターの姿が、雨合羽を着た蜥蜴の姿をしている今のハスターに近いのだろうか?
「そこの所どう思う? ハスター」
『……良く判りませんが、この姿は多くの人々から愛されている気がします。なにかこう……グッズ展開もされているような気が!』
はて、外の世界ではハスターへの信仰が人気なのだろうか?
折角だから、ハスターのぬいぐるみでも作って売り出すかな? 既にクトゥグアの眷属が宿る『炎の精のランプ』が人里で一般的に使われているし、作ったぬいぐるみにハスターの眷属であるビヤーキーを宿らせれば丁度良いだろう。
ちなみに、ハスターの持つランプには炎の精ではなく僕の使う禁呪である『ヘルズフレイム』が宿っている。
その為、ハスターのランプは真っ黒で少し不気味だ。後、包丁はお馴染みオリハルコン合金製である。
『―――主よ。倉庫内の清掃が終わりました』
ハスターと話していると、店の奥からクトゥグアがふよふよと現れた。
頼んでいた掃除は終わったようだ。クトゥグアの触手は、手の届かない隙間の掃除も簡単にこなせてしまうため非常に助かっている。
クトゥグアが来てから、香霖堂はいつでもピカピカだ。
「ありがとうクトゥグア。じゃあ僕はハスターと一緒に無縁塚まで行って来るから、店番を頼んだよ」
『同行するのがハスターで大丈夫ですか? 私が行っても良いのですが』
「いや、来たばかりのハスターじゃ店番は任せられないからね。これまで店番を任せて来て問題無かったわけだし、クトゥグアが頼りになる事は誰よりも知っているからね。僕が居ない間の香霖堂はクトゥグアに任せるよ」
僕がそう言うと、クトゥグアはしばし明滅し、それからその輝きを少し強めた。
どことなく誇らしそうというか、胸を張っているように思える。
人魂の姿をしたクトゥグアに胸なんて無いのだが。
『そう言う事でしたら承知しました。お任せ下さい、我が主よ』
「ああ、頼むよ。それじゃあ行こう、ハスター」
『あのクトゥグアが褒められて喜んでる……あ、今行きます。マスター!』
カウンターからぴょんっと飛び跳ねたハスターは、そのまま僕の肩にぽふんと着地した。
「それじゃあ行って来る」
『行ってらっしゃいませ、我が主』
『えと、行って来ます?』
行って来ますと言うのに慣れていないのか、ハスターは首を傾げながら疑問形でそう言った。
その姿がどこか愛嬌があったので、僕は思わず笑ってしまった。
つい昨日も雨が降ったばかりだが、無縁塚の大地は相変わらず荒涼としていて乾燥している。
この場所は時間帯に関わらず薄暗く曇っていて、天気が変わる事も無ければ、昼夜で明るさが変わる事もほとんど無い。
寒々しく寂しい場所だが、環境の変化が少ないために外から流れ着いた道具が雨風に晒されて痛むこともあまり無い。
道具が流れ着く場所が偶々道具を拾うのに適したであったのか、それとも適した場所だからこそ道具が流れ着くようになったのか、僕には判らない。
もしかしたら道具が流れ着くようになってからこんな風になったのかもしれないし、はたまた道具が流れ着く場所だから、誰かがこんな環境にしたのかもしれないが、それを知っているのは紫くらいだろう。
今度聞いてみようか? まぁ、それほど興味がある訳では無いから、聞く前に忘れてしまうかもだが。
『マスター、マスター! 本が落ちているみたいです!』
「お、そうか。魔力を感じないから普通の本みたいだな。大きさ的に雑誌みたいだ、出来れば料理本とかだと嬉し……これは!」
ハスターの見つけた雑誌を目にし、その表紙に書かれた内容を把握した途端、僕は駆けだした。
落ちている雑誌の元に駆けよって手に取り、そのままパラパラとページを捲って内容を確認する。
「フフ、フフフフフ」
『マ、マスター? どうしたんですか?』
「フフフ。いやぁ、ハスターは良い物を見つけてくれた。丁度欲しかったんだよ、こういう外来本が」
ハスターが見つけた雑誌、その正体は女性向けのファッション誌だった。
やったぞ。これなら以前から考えていた、霊夢たちにプレゼントする服の参考になる!
しかも、雑誌に書かれていた服の内容は、普通の服とは一風変わったものだった。
『着ぐるみパジャマ特集』
雑誌に載っていたのは、動物やアニメのキャラクターを元にしたデザインのパジャマの特集だった。
パジャマなら普段寝る時に使えるし、デザインも女の子の好きそうな可愛らしいものを選べば喜んでくれるだろう。
ククク、待っていろよみんな。飛び切り素敵なパジャマを作ってやるぞ!
―――カランカラン
「こんにちはぁ。霖之助さん居る……って、どうしたの霖之助さん!?」
「……やぁアリスか、いらっしゃい」
「大分やつれているけど大丈夫なの?」
「ああ、まぁ体は問題無いよ。心は絶賛挫折中だけどね」
「えぇ……」
アリスが困惑気味に項垂れている僕を見て来る。が、僕の方は久しぶりに心が折れてしまいしばらく立ち直れそうになかった。
無縁塚で雑誌を拾った後、急いで香霖堂に帰って来た僕は、早速手持ちの素材で着ぐるみパジャマを作成してみた。
作成したのは、雑誌の表紙にも載っている猫の着ぐるみパジャマである。
金羊毛を中心に、着心地が良い素材を選んで作ったのだが、出来上がった物が……何と言うか酷かった。
実際に作成した物をクトゥグアとハスターに見て貰ったのだが、その時の感想が……
『マスター、これ完全にバーストですよ』
『同意。この姿はバーストと完全に一致しています。我が主よ』
だったのだ。
クトゥグアとハスターによれば、『バースト』と言う猫の頭部を持つ女神とそっくりらしい。
ちなみに僕が思い起こしたのは、エジプト神話の女神『バステト』だった。
なんかこう、気付いたら滅茶苦茶リアルな猫の頭部を持つ着ぐるみパジャマを作っていたのだ。
割と本気で、どうしてこうなった? こんなの着ぐるみパジャマじゃ無いよ! 映画の特殊メイクとかモンスタースーツだよ!!
こんなのを作り上げるとか、僕は着ぐるみパジャマを作る才能が無いのかなぁ。
以上の事を説明すると、アリスは呆れた顔で溜息を付いた。
「はぁ~。珍しく霖之助さんが落ち込んでいるから何があったのかと思えば、そんな事だったの」
「そんな事とは言うがね、アリス。実物を見れば僕の気持ちが判ると思うよ。作っておいてなんだけど、正直あれは酷い。夢に出て来るレベルだよ」
僕がそう返すのを聞いて気を利かせてくれたのか、クトゥグアとハスターが協力してバースト着ぐるみパジャマを持って来てくれた。
うわ、目が合った気がする。
「キャッ!? な、なんてものを見せるのよ!」
「だから言ったじゃないか」
バースト着ぐるみパジャマと目が合ってしまったらしいアリスが、悲鳴を上げて僕に抱き着いて来た。
やっぱり怖いよな、あれ。なんであんなの作っちゃったんだろ、僕。
『……主よ。気付いた事があるのですが』
「ん? どうしたんだ、クトゥグア」
『マスター。このパジャマ、バーストの神性が宿っているみたいですよ』
「何だって?」
もしかして、そっくりに作り過ぎたから神性まで宿ったとか、そういう話か?
それはそれですごい話だが、何か複雑だなぁ。
『いえ、そうではなく。主がパジャマを作っている際、バーストが干渉してこの形になる様に仕向けたのではないかと』
『バーストの神性に加えて、マスターの魔力もかなりの量籠ってますからねぇ。元の素材もかなり高位の物ですし、現世に顕現する為の依代としては十分な性能だと思いますよ?』
「……つまり、自分の依代を作らせるために、僕の着ぐるみパジャマ作成に横槍を入れた、と?」
『おそらくは』
『多分そうですねぇ』
「野郎ぶっ殺してやるぁっ!!!」
「ひゃっ!? 急に耳元で叫ばないでよ!!」
「あ、ごめんアリス」
そう言えば、抱き着いて来たアリスを抱えたままだったな。座ったままだったから、アリスが僕の太ももに腰掛けながら抱き着いて居る。
一旦パジャマを脇に片付けてから降ろそうか。
「クトゥグア、ハスター。とりあえずそのパジャマは片付けてくれ」
『了解』
『判りましたぁ』
「それからアリス、そろそろ降りてくれないか?」
「え? ……あ! ご、ごめんなさい、霖之助さん。その……重く、無かった?」
「いいや。寧ろこのままずっと抱きしめて居たいくらいだったよ。けど、女の子相手にそれは、ね?」
「ず、ずっと!? ……えっと、霖之助さんが嫌じゃ無いなら、私もこのまま「こんにちはー!」ひゃぇ!?」
―――カランカランッ!
勢い良く店のドアが開くのと同時に、溌剌とした元気の良い声が聞こえて来る。
見るとそこには、日傘を差したフランが楽し気に立っていた。
「おや、いらっしゃいフラン。今日は一人かい?」
「うん! お姉さまたちには内緒で来たの」
「そうか。まぁ君ならそうそう危ない目には合わないだろうが、あまり心配をかけるようなことをしてはいけないよ? ランプで手紙を送ってくれれば、僕が迎えに行っても良いんだからね」
「霖之助が迎えに来てくれるのは嬉しいけど、それじゃあつまらないわ。私は自分の目で外を見て回りたいの!」
フランは胸を張ってそう答える。
まぁ気持ちは判る。百聞は一見に如かずと言うし、自分の目で、肌で世界を感じるのは、人生において非常に価値のある事であろう。
実際僕も、文に付き纏われながら日本中を旅して回っていた時期は、嫌な思いも沢山したが、同時に旅をして良かったと思える思い出がいくつもある。
ずっと長い間、地下室に閉じ籠っていたという彼女が、自らの意思で外に興味を持ち、自らの足で見て回ろうとしている事は、非常に素晴らしい事だと僕は感じた。
「―――そうかい。それなら僕はフランの意思を支持するよ。けど、道案内が必要ならいつでも言ってくれて良いよ。こう見えて、一時期王女様の護衛を務めていたこともあるからね」
「王女様の護衛? すごい! 物語の騎士様みたい!」
「どっちかって言うと、騎士たちを鍛えた方かな? 騎士号は持っていないけど、王家剣指南役の位は貰ったから」
「え、霖之助さんって王家剣指南役だったの!?」
「まぁね。と言っても、前世での話だけど」
『王家剣指南役』の称号に反応して、驚きの声を上げるアリスにそう返す。
何だかんだ、知り合いの少女たちには僕が前世の記憶と能力を引き継いでいる事などは、全て話してしまっているな。
普通は内緒にしたりする様な事かもだが、バレても困らないから秘密にする必要性がさっぱり無いんだよなぁ。
「……そう言えば、あなたパチュリーの友達のアリスよね? どうして霖之助の膝の上に座って居るの?」
「え? その、えぇっと……そういうあなたは、確かフランドールよね? こんにちは」
「こんにちは、フランで良いわよ。それで、どうしてアリスは霖之助に抱き着いて居るの?」
「それは……ええっと、えぇっと……」
真っ直ぐアリスの目を見据えて訊ねながら近づいて来るフラン。
それに対して、アリスは目を泳がせながらどう返答すべきか悩んでいるようだ。
別に事実をそのまま言えば良いと思うんだけどね。代わりに僕が説明するか。
「フラン、アリスは僕が作ったパジャマのデザインにびっくりして抱き着いて来たんだよ。そこに君がやって来たから離れるタイミングを失っていたのさ」
「ふーん、パジャマって?」
「これだよ」
僕が目配せすると、クトゥグアとハスターが再びバースト着ぐるみパジャマをフランから良く見えるように広げる。
うわぁ、また目が合った気がするよ。
「わぁ、これがパジャマなの? 何だか悪趣味ね!」
「グフッ! ……ま、まぁ僕もそう思うけどね」
子供のストレートな感想ってぐっさり来るなぁ。
おのれバースト、絶対に制裁してやる。女神だろうが慈悲は無い。
「……良い訳のようだけど、本当はこう言うのを作りたかったんだよ」
バースト着ぐるみパジャマを面白そうに眺めているフランに、僕は着ぐるみパジャマ特集の雑誌を見せた。
「わぁ、可愛い! もっと良く見せて!」
そう言ってフランは、アリスの座っている僕の右足の反対側、つまり僕の左足に座り、体を支えるために僕の背中に手を回しながら雑誌を覗き込んで来た。
「おっと、いきなりだね」
「えへへ、だってこっちの方が楽しいもの! アリスもそう思うでしょ?」
「わ、私はその! 楽しいというか……ドキドキするというか……」
同意を求めるフランの言葉に、しどろもどろにそう答えるアリス。
やれやれ。まぁ、本人たちが嫌じゃ無いならこのままでも良いか。
「フラン、それにアリスも。どうせなら本を見ながら意見をくれないか? きちんとこの本に載っているような可愛らしいものが出来たら、君達にもプレゼントするからさ」
「プレゼントしてくれるの? やったぁ! どんなのが良いかなぁ?」
「わ、私にも? それなら、もう少し真剣に色々見てみたいかなぁ……あ、これ可愛い」
フランは無邪気に喜びながらどんなデザインが良いか見て回り、アリスは途中から、真剣な職人の眼差しでじっくりと雑誌に載っているパジャマのデザインを吟味していた。
この辺りの反応の違いは、アリスが普段から人形たちの服も作っているからだろう。
心強い味方を得つつ、僕は本格的に着ぐるみパジャマを開始した。
『バースト着ぐるみパジャマ』
全ての猫たちの女神である、バースト様神性の宿るありがたい衣。
これを身に付けた、全ての猫科に属する存在を強化する効果があるが、その本質はバーストを現世に顕現させるための依代。
なお、バースト本人(本神? 本猫?)は依代とするつもりはなく、転生香霖に快く召喚して貰えるよう、お手伝いをして好感度を上げようぐらいの気持ちだったが、気合を入れ過ぎて依代と為れるほどの神衣となった上、それが狙いだと勘違いされた。
行動が裏目に出たバースト様は涙目である。
ところで、バースト様の外見はパズドラの『バステト』で良いよね?
バステトで検索して真っ先に出て来たのが『超転生バステト』だから、もうこれで良いや。
『光バステト』のデザイン、嫌いじゃないわ!