東方転霖堂 ~霖之助の前世はサモナーさん!?~   作:騎士シャムネコ

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この作品を投稿し始めてから一か月と少し、気付けばお気に入り登録が千件を突破していました! 目出てー!!

それはそうと、結局後篇に収まり切らなかったぜ。(がくり)


第四十話 「転生香霖と着ぐるみパジャマ(後篇その一)」

 工房に椅子を用意し、アリスやフランを座らせて邪神たちの話を聞いた。

 

 依代である着ぐるみパジャマを元に召喚した四体の邪神『バースト』『チャウグナー・フォーン』『グロス=ゴルカ』『ミゼーア』の話を聞いた結果だが、どうも着ぐるみパジャマが依代となったのは偶然の出来事であったようだ。

 四体の邪神たちはそれぞれ、着ぐるみパジャマのクオリティを上げる手伝い程度のつもりだったそうだが、僕が用意した素材がゴールドシープの毛である金羊毛を初め、神性に対する親和性や依代としての適性が高かったために、あんなことになってしまったらしい。

 

「そりゃあ、あんなトンデモ素材に神格が力を注げば、思いもよらない物が出来上がるわよ」

「そうなの、アリス?」

「珍しい事例だけどね。神様レベルの存在になると、大なり小なり奇跡めいた事を起こす物なのよ。フラン」

「へぇー」

 

 邪神たちの説明には、僕よりもアリスの方が納得の様子を見せていた。

 まぁ僕自身も説明の内容に納得していない訳では無く、ただ四連続で作成を邪魔されたように感じていた為、まだ感情が追い付いていないだけだ。

 情はともかく理では納得出来た訳だし、当人(当神?)たちにも悪気は無かったと判った訳だし、今回の事は不問とする事にしよう。

 

「……話は判った。故意にやった訳では無いと言うのなら、責めはしないよ」

「よ、良かったです! 本当に申し訳なかったです」

 

 そう言って胸を撫で下ろしたのはバーストだった。

 本来は着ぐるみパジャマと同じく猫の頭部を持つらしいが、今の彼女の姿は橙と同じく猫の耳と尻尾を持つ少女のものだ。

 幻想郷にも様々な服装の少女が居るが、彼女ほど露出度の高い服を着た者は見たことが無いな。

 古代エジプトの装身具である様だが、正直目のやり場に困ると言うか、フランが彼女の格好に興味を示しているらしいのがとても困る。

 もしフランが同じ格好をしたいなどと言い出したら、レミリアから文句を言われそうだ。

 

「それで、話を聞くために召喚したが、君達はこれからどうするつもりだい?」

『叶うなら、吾輩たちもクトゥグアやハスターの様にここで雇って欲しいのである!』

 

 僕の質問にそう答えたのはチャウグナー・フォーンだった。

 雇って欲しいとはどういうことかと話を聞くと、どうやら彼ら邪神たちの間で、僕によって現世に召喚されるのが一種の流行と言うか、憧れの的となっているらしい。

 彼ら、クトゥルフ神話に属する邪神たちは、信仰の薄れた時代に誕生した比較的新しい神話の神である為、神話に語られる存在規模に比べて圧倒的に信仰が不足しており、現世に顕現することが出来ていない。

 その為通常、彼らは夢の世界でしか存在出来ないそうなのだが、僕の持つ『召喚術を操る程度の能力』であれば、彼らを現世に呼び出す事が可能であり、実際に召喚されているクトゥグアやハスターは、邪神たちの羨望の対象となっているそうだ。

 

『夢の世界からでも同じ邪神の事ならある程度は現実世界での様子も把握出来るから、現実世界でのびのび暮らすクトゥグアや、それに続いて召喚されたハスターの事がとても羨ましかったのである』

『特にクトゥグアなんか、この幻想郷の人里では終わらない冬の寒さに震える人々に対して、自分の眷属を遣わせて寒さから守ってくれた善神として信仰されているでしょ? 日本では災いを齎す邪神であっても、災いから守ってくれる善神として信仰される事が可能だから、アタシたちもそんな風になりたいのよ!』

 

 チャウグナー・フォーンに続いてそう訴えたのはグロス=ゴルカであった。

 確かに日本の信仰では災いを齎す悪神や妖怪が、守護神として祀られると言うのは良くある話だ。牛頭天王などがその代表例である。

 日本の信仰である神道では、神の持つ善悪の二面性を『荒魂』と『和魂』として受け入れて来た。

 確かに、生粋の邪神であっても、この国でなら本来は持たない善性の側面を獲得する事が可能であろう。

 この邪神たちはそれを願っているようだ。

 

「しかし良いのかい? クトゥグアやハスターの前例があるから今更だが、新しい側面を獲得するのであれば人格面にも大なり小なりの影響があるだろう?」

『問題ありません。と言うより、邪神としての性質しか無い現状の方が問題があると、我々は判断しました。多面性を持ち、善性の側面も持たなければ、信仰の獲得が困難ですから』

 

 僕の疑問に答えたのはミゼーアだった。

 信仰の獲得、それは神々にとって死活問題だ。特に彼らクトゥルフ神話は生まれた時代が現代に近い為、信仰を広めるのが非常に困難であると言える。

 そんな中、クトゥグアが期せずして示した善性の獲得と幻想郷での信仰は、彼らにとって新たな未来の希望その物であるそうだ。

 

『どうかクトゥグアと同じくあなたの従属神として、竜信仰の末席に加えて頂きたい。我々以外の多くの邪神も同じ気持ちですし、我ら邪神を現世に召喚する力を持つあなたの下であれば、誰も文句は言わないでしょう。と言うより、私が言わせません』

 

 背筋をピンと伸ばしてそう宣言するミゼーアの姿を見て、思わず笑ってしまいそうになった。

 それは滑稽だったからなどでは無く、似ていたからだ。僕の一番最初の召喚モンスターである『ヴォルフ』に。

 刺々しい毛並みを持つミゼーアだったが、その姿は紛れも無く狼のものであった為、どうしてもヴォルフの事を思い出してしまう。

 

 参ったな。これじゃあミゼーアたちの希望を叶えたくなってしまうよ。

 ここで突っぱねるのは、ヴォルフの事を思い出して胸が温かくなってしまっている今の僕には無理だった。

 

「……良いだろう。ここで働きたい、クトゥグアの様に白銀竜としての僕の従属神になりたいと言うのなら許可しようじゃあないか」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、もちろん。ただし、その前に一つやって貰う事がある」

『やって貰う事と言うと、何であるか……?』

『アタシたちに出来る事なら、そりゃあ喜んで協力するけど……』

 

 チャウグナー・フォーンとグロス=ゴルカが、無理難題を押し付けられたらと考えてか、不安そうにしているが、別にそう無理な事を要求する訳じゃない。

 元々彼らがやろうとしていた事だしね。

 

「なに、簡単な事だよ。僕は元々着ぐるみパジャマを作ろうとしていた。そして君たちは、それを手伝おうとしていた。なら、改めてきちんとした着ぐるみパジャマを作るのに協力して完成させること。それを持って、君達を受け入れようじゃないか。どうだい?」

「『『『……はい! 喜んでやらせて貰います!!』』』」

 

 邪神たちから、息の揃った力強い返事が返って来る。

 明確な仕事を与えた事で、やる気が出て来たようだな。大いに結構。

 

 こうして僕は、新たに四体の邪神を仲間に加えて着ぐるみパジャマ作りを再開した。

 その結果、今度こそみんなにプレゼントする着ぐるみパジャマが完成し、正式に邪神たちを僕の配下として受け入れる事となった。

 完成した着ぐるみパジャマの出来は、試着してみたアリスとフランから「最高」との評価を貰えたので大満足である。

 

 

 

「やぁ、霊夢に魔理沙。丁度揃っているみたいだね」

「こんにちは。霊夢、魔理沙」

「こんにちはー!」

 

 着ぐるみパジャマを完成させた後、僕はアリスとフランを連れて、早速着ぐるみパジャマをプレゼントしに回っていた。

 一番最初に訪れたのは霊夢と魔理沙の元だ。

 

「あら、霖之助さん。それにアリスとフランまで……珍しい組み合わせね。二人共、素敵なお賽銭箱はあっちよ」

「おっす香霖。って、アリスとフランとは異色の組み合わせだな。宴会でも無いのに、こんな辺鄙な場所までどうしたんだ?」

「辺鄙は余計よ、魔理沙」

「事実だろ? 霊夢」

 

 縁側でお茶を飲んで過ごしていた霊夢と魔理沙が、いつも通り軽くじゃれ合っている。

 まったく、仲が良いんだか悪いんだか。まぁ、親友同士であることには間違い無いか。

 

「来て早々お賽銭を要求するんじゃ無いよ、霊夢。すまないね。アリス、フラン」

「霖之助さんが謝る事じゃないわよ。それより……霖之助さんにはお賽銭を要求しないのね、霊夢」

「霖之助さんは毎朝、ミルクを届けてくれるついでに入れてくれているもの」

「ミルクって、アマルテイアのミルク? 霊夢の所には、霖之助が届けてたの?」

「ああ、そうだよ。元々は紅魔館にも届けていたけど、今は牧場の方が稼働して届ける必要が無くなったからね」

 

 僕が召喚したアマルテイアを貸し出すという形でレミリアが運営している牧場では、現在十頭のアマルテイアを飼育している。

 そのアマルテイアたちから採れる豊穣の乳は、その大半が紅魔館の住人たちで消費され、ごく少量が外に販売されているという状態だが、それでも結構な収入になっているそうだ。

 稽古の時に咲夜から聞いた話によると、レミリアは人間の血を飲まずに豊穣の乳を常飲する事で、少しでも早く豊穣の乳の成長効果を得ようと努力しているようだが……悲しいかな、人間よりもずっと成長の遅い吸血鬼であるレミリアの体には、肌や髪の艶が良くなった以上の効果は出ていないそうだ。

 

「そうなんだぁ。あれってすごいよね! 私ね、咲夜が毎日あのミルクを使ったお菓子を作ってくれるようになってから、ちょっとだけ胸が大きくなったんだよ? 咲夜が近い内にブラジャーが必要になりそうって言ってた!」

「……ちなみに、その話をレミリアは知っているのかい?」

「ううん。咲夜が言わない方が良いって」

「……そうだね。メイドの咲夜は知っておかないと不都合があるから仕方ないにしても、例え姉妹でもあまりそういうことは口にしない方が良いだろう。今更だけど、男の僕の前で言うには、少々はしたない話題だしね」

「えぇ~、霖之助なら別に知っててくれても良いんだけどなぁ」

「それでもだよ。淑女らしく、なんて堅苦しい事は言わないが、節度はきちんと持ちなさい、フラン」

「はぁ~い」

 

 生返事をするフランに溜息を付きたくなったが、それ以上に僕の胸には悲しみの感情が溢れていた。

 悲しい。悲し過ぎるぞ、レミリア。まさか知らず知らずの内に、妹に成長を抜かされているとは。

 と言うか、同じ吸血鬼であるフランの体が短期間で多少なりとも成長したのに、レミリアの体には変化が無いという事は、その将来性は………豊穣の乳が何とかしてくれることを願おう。

 

「……ねぇ、霖之助さん。そのミルクの話、詳しく聞かせて頂けないかしら?」

 

 ガシッ、と力強く腕が掴まれる。

 振り返ると、そこには微笑みながら僕の腕を掴んでいるアリスの姿があった。目は全く笑っておらず、獣の様にギラギラとしていたが。

 

「紅魔館の牧場で飼育されている山羊のミルク、噂程度でしか聞いたことが無かったけど、フランの話を聞く限り効果は本物の様ね。それをどうして霖之助さんが毎日霊夢の元に届けているのかしら? 詳しく聞きたいわ」

「あ、そのミルクなら、私の所にも毎日届けてくれるぜ、香霖は」

「魔理沙……! 何故今火に油を注ぐ様な事を!?」

「……へぇ」

 

 いよいよアリスの目に危険な光が宿り始める。

 いや、割と本気で怖いな。アリスに対して、ここまでの恐怖を感じたのは初めてだ。

 女性は美容関連になると本気になるからなぁ。普段は本気を出さないアリスも、その例に漏れないらしい。

 

「―――判った、説明するよ。欲しいのなら販売もするから、とりあえず落ち着いてくれ」

「ホントに!? 販売してくれるの? 言い値で買うわよ!!」

 

 僕が販売すると言った途端、アリスはパッと手を放し、喜色満面の笑顔を浮かべた。

 霊夢や魔理沙を思わせる現金な行動だ。普段は冷静で物静かなアリスだが、中身は霊夢や魔理沙とそう変わらない見た目相応の少女なのだろうな。

 

 そんな風に思いながら、僕はアリスにレミリアが経営している牧場の山羊たちが、元々は僕が召喚し、貸し出している事や、稽古をつけている霊夢たちの成長を促す為に、毎朝豊穣の乳を届けている事を説明した。

 

「むぅ、何だかズルいわ。 ……私もその稽古に参加したら、毎朝ミルクを届けて貰えるのかしら?」

「おや、アリスも参加するつもりかい? 人が増える分には大歓迎だよ」

「止めとけ止めとけ、アリス。香霖の稽古ってアレだからな? 控えめに言っても鬼畜だからな? 異変でもいつも涼しい顔をしている霊夢が、疲労困憊でぶっ倒れるくらいヤバいからな!?」

「そ、そんなにすごいの?」

「……そうね。霖之助さんってこっちの限界を見切った上で、それより少し上のラインで鍛えて来るから、毎回へとへとになるのよ」

「別に普通じゃないか? 稽古こそ全力でやらなくちゃ、地力を上げるなんて出来ないよ。それに、これでも体を壊さないようにだとか、普段の生活に悪影響が出来ない範囲で調整しているつもりだよ?」

「ええ、おかげさまで異変解決の時も普段の稽古より楽だから余裕を持つことが出来たわ。ありがとうございました!」

「怒鳴ってお礼を言わなくても良いじゃないか……」

 

 加減して、心を削る様な厳しい稽古はしていないつもりだったが、それでも色々と溜まっているものはあったようだ。やはり必要だったな、プレゼント。

 

 猫が威嚇する時の様な目で見て来る霊夢を宥めながら、僕は今日の目的である着ぐるみパジャマの入った包みを霊夢に手渡した。

 

「しゃーっ! って、なによこれ?」

「普段から頑張っている霊夢に、ご褒美のプレゼントだよ。魔理沙の分もあるから、一緒に開けて中を見て見ると良い」

「私の分もあるのか? それなら遠慮なく貰って行くぜ!」

「ま、貰えるものは遠慮なく貰っておくわ」

 

 もう一つの包みを持ちながら言うと、魔理沙は素早くそれを掻っ攫って行った。

 ……引っ手繰る手つきが妙に手馴れていたが、まぁ何も言うまい。

 二人は僕の前で包みを開け、中に入った着ぐるみパジャマを広げて確認した。

 

「なに、これ?」

「アリスやフランたちに協力して貰って作った着ぐるみパジャマと言うものだよ」

「なんか猫っぽい耳と尻尾がついてるんだな?」

「そう言うものだからね」

 

 霊夢と魔理沙にプレゼントしたのはそれぞれ、白猫と黒猫をイメージした着ぐるみパジャマだ。

 お揃いで作ったから、きっと似合う。

 

「サイズは大丈夫だと思うけど、折角だから着て見せてくれなか?」

「それは良いけど……これ、魔理沙のとお揃いなのね」

「お、そうみたいだな。へへ、何か照れるぜ」

 

 お揃いという事で、霊夢は少し恥ずかしそうに、魔理沙は少し照れ臭そうにしている。

 喜んで貰えたようで何よりだ。

 

「ハハ、アリスとフランの分もあるから、折角だからみんなで着替えて来たら「あぁー! やっと見つけたぁ!」―――うん?」

 

 急に聞こえた声に振り向くと、そこには咲夜を引き連れたレミリアの姿があった。

 

「フラン! 一人で黙ってどこに行ってたのよ! 心配したじゃない!」

「げっ、お姉さま……」

「げっ、じゃないわよ! ちょっとそこに座りなさい!」

「うぇえ~、ごめんなさ~い!」

 

 咲夜から受け取った日傘を右手に持ったレミリアは、左手でフランの襟首を掴んでそのまま縁側に上がり込んでしまった。

 フランなら十分逃げられただろうが、姉として妹を叱るレミリアの迫力を前に、逃げるという選択肢さえ思い浮かばなかったようだ。大人しく引き摺られて行っている。

 

「あ、ちょっと! ……もぅ、上がるなら挨拶ぐらいして行きなさいよ」

「ごめんなさい、霊夢。お嬢様、妹様が居なくなってから心配で、朝からあちこち探し回っていたのよ」

「そうだったのかい? それならレミリアのランプに手紙の一つでも送っておくべきだったな。フランはずっとうちの店に居たんだよ」

「あら、霖之助さんの所に居たんですか? どうりで見つからないはずだわ」

 

 咲夜の話によると、レミリアは大分見当違いの場所を探し回っていたらしい。

 付き添いありきとは言え、フランは普段から香霖堂にもちょくちょく来ていたから、もっと他の見つかり難い場所に居るんだと思ったそうだ。完全に深読みのし過ぎであった。

 

「裏目裏目に出たね、レミリアは。まぁ、それはそれとして、だ。実は咲夜とレミリアにもプレゼントがあってね。外来本のファッション雑誌を参考に作った着ぐるみパジャマと言うものなんだが、折角だから二人も試着してみてくれ「すみませーん、霖之助さんはいらっしゃいますかぁー!!」……またか」

 

 上空から聞こえて来た、聞き慣れた声とともに再び言葉を遮られる。

 見上げると、そこには幽々子のペットであるゴールドシープの日輪の上から顔を出す妖夢の姿が見て取れた。

 

 やれやれ、会いたい相手が次々に向こうからやって来るのは、運が良いって事なのかね?




悲報。レミリア、フランに成長性で敗れる。

姉より優れた妹が存在してしまったパターンですなw
まぁ、豊穣の乳を常飲し続ければ、その内差は埋まりますから。(同じ期間常飲し続けたレミリアと、おやつとしてのみ摂取してたフランで差が出た以上、お互いの将来性に大きな開きがあるのは間違いないんだよなぁ)

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