ダンジョンにキャロルが居るのは間違っているのだろうか?   作:ヴィヴィオ

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二人とロキ・ファミリアが酷い目に会うけど、キャロルの記憶を継承しているガリィからすると……仕方ないよね。


第10話

 

 

 

 

 ガリィがロキの眷属と訓練所に移動していく。オレはロキを見詰めていると、奴は苦しそうに何かを喋ろうとしているが、水が邪魔をして喋れないでいる。いや、それだけじゃないな。ロキの姿は水を利用した幻術で誤魔化しているので、他の連中は気付いていない。

 

「ボク達も行こう」

「ああ、さっさと移動するぞ」

 

 全員で移動するが、ロキはオレの服を掴んで必死に何かを伝えようとしてくるが、無視する。

 

 

 訓練所に移動すると、ガリィがティオネと駄犬の二人と対峙する。ティオネだけが完全装備だ。駄犬は装備の大きさが合わないからだろう。

 

「さあ、始めるわよ」

「覚悟しなさい」

「ぜってぇ、勝つ!」

 

 準備は出来たようなので、戦いを開始させよう。

 

「始めろ」

「ガリィ、がんばりま~す☆」

 

 ガリィがこちらに向けて手を振りながら声を出すと、その隙を狙ってティオネが反り返った短剣、ククリナイフのような物を使って斬りかかっていく。

 

「わっ、ひゃぁっ!」

 

 ガリィがしゃがみ込み、ティオネの攻撃を回避する。しかし、即座にもう片方のククリナイフを振り下ろしてくる。それをガリィは後ろに倒れるようにしながら、ククリナイフの柄頭を蹴り上げて軌道をずらし、両手を地面についたガリィはその場で足を広げて回転する。

 

「ちっ」

 

 ティオネがバックステップで下がると、上から駄犬が蹴りを放ってくる。ガリィはその場で身体を横回転させて立ち上がると同時に駄犬の足を掴んで地面に叩き付ける。同時に股間に思いっ切り拳を叩き込んだ。

 

「あ、女になっていたのね。ここ、あんまりダメージがないわね。女になっていてよかったわね」

「てめぇっ!」

 

 ガリィが足で起き上がろうとする駄犬の頭を踏みつけ、上げては踏みつけを繰り返す。

 

「うわぁ……」

「幼いアイズを踏みつけるとは……」

「しかも、足をどけて頭を上げさせた瞬間にまた踏みつけているね」

「外道めっ!」

「アイズたんに何すんねん! あ、喋れた」

「私じゃない」

 

 ティオネがガリィに何かのスキルを使いながら接近していく。ガリィは駄犬を踏みつけながら、ククリナイフの腹を殴って弾いていく。

 

「しかし、あの姿から戦えるとしても魔法使いだと思ったが……まさか格闘タイプだとはな」

「凄いです……ティオネさん達が相手になってないです」

「いや、アレは……」

「鬱陶しい!」

 

 ティオネがククリナイフから手を離すことでガリィに隙を生み出し、両手の拳でガリィの腹を殴りつける。ガリィはそれによって吹き飛ばされ、更に追撃としてティオネが追いついて蹴りを放つ。それを受けたガリィは何度も地面をバウンドしながら木に激突して止まる。

 

「大丈夫か?」

「止めた方がいい?」

「いや、必要ない」

 

 アイズ達が止めるかどうかを聞いてくるが、必要ない事を告げる。ガリィは痛そうにしながら起き上がり、地面に手をつきながら尻もちをついた状態で怯えたような表情をしながらティオネを見詰める。

 ティオネは駄犬が立ち上がるのを待ちながら息を整える。駄犬は起き上がると、身体を確認していく。

 

「ベート、あんた……」

「身体が違うんだよ! レベルも下がってる。スキルとアビリティはかわんねえが、リーチや衰えた力の差はでけぇ……」

「それもそうね。アンタはアタシのサポートをしなさい」

「ちっ、しゃあねえな……でも、これで終わりか?」

 

 オレはガリィを見るが、怯えた表情をしているが、口を動かしながらゆっくりと立ち上がっている。

 

「負けを認めなさい。そうしたらこれ以上痛い目に会わなくていいわよ」

「ガリィの……」

 

 ガリィがぼそぼそと呟くだけで、ティオネやオレ達には聞こえていない。そこにティオネが接近していく。

 

「何、聞こえないわよ? さっさと負けを認めなさいよ。弱い者虐めをしているところなんて団長に見られたくないの」

「い・や・よ。ば~か」

「っ! そう!」

 

 耳を近づけたティオネにオレ達に聞こえるように叫び、ティオネが拳を叩き付ける。

 

「馬鹿野郎!」

「え?」

 

 駄犬がティオネを蹴り飛ばす。無防備に受けたティオネは吹き飛ばされ、先程まで居た場所を地面から生えた出た水の槍が貫く。

 

「残念ね。せっかく油断したところを串刺しにしてやろうと思ったのに」

「水の槍……魔法か」

「助かったわ、ベート」

「油断するな。コイツは……」

「下衆なのね」

「ひっどーい☆ ガリィ、悲しくて泣いちゃいます。え~ん、え~ん」

 

 起き上がり、スカートの裾を叩いてから泣き真似をするガリィ。

 

「やはり魔法使いか。しかし、ティオネ達は後でお仕置きだな」

「詠唱を見逃すのは頂けない」

「あの格闘技術は凄いのお」

 

 ガリィがブツブツと呟いていたのは詠唱と誤認させるためだ。そして、一度詠唱してしまえば派生と言い張るつもりだろう。

 

「魔法を使えたとしても詠唱に時間がかかる。その前に狩るぞ」

「ええ。でも、並行詠唱ができると思った方がいいわ」

「並行詠唱? そんなもの、もう必要ないの」

「なに?」

 

 ガリィが両手を広げて踊りだす。同時に空中から無数の水の槍が降り注ぐ。空気中の水分を錬成し、遥か上空から落とすだけの簡単な技だ。しかし、重力によって加速した水の槍は相応の火力を得ることになる。

 

「あたればそれで終わりよ。精々頑張ってね。ガリィ、応援しているわ」

 

 降り注ぐ槍は地面に着弾するとクレーターを作り出し、水溜りを作りだす。そんな物が馬鹿みたいに降ってくるのだから、二人は必死に回避していく。

 

「さあ、ガリィと一緒に踊りましょう☆」

 

 必死の形相で回避する二人を楽しそうに、本当に楽しそうにみている。

 

「これは凄まじいな……レフィーヤ並みの魔法だ」

「そうだね。まさかここまでの強さがあるとは……」

「フィン、親指はどうだ?」

「さっきから疼きが止まらないよ」

「そうか……それならまだ大丈夫そうやな

「ねえ、ベル君、キャロル君。あの子、すご~く性格悪いね。最初から魔法で戦っていないし」

「そ、それは……」

「アイツは性根が腐っているからな」

 

 二人は必死に避け、余波で吹き飛ばされたり、ダメージを負ったりしながら魔法を発動してから一切動かないガリィに接近し、二人で同時に攻撃を仕掛ける。

 

「無駄な足掻きだな」

「何いうとんねん! 魔法で動けんアイツは二人の攻撃で……」

「それが無駄な足掻きだと言っているんだ」

 

 水の槍で防がれながらも前と後ろに別れる。それから、前後同時に襲撃を行う。槍によって髪の毛や皮膚を削ぎ落されながら接近し、血飛沫と共にガリィの身体をティオネが殴り、ベートが蹴る。二人の手と足を使った攻撃は恐怖を浮かべるガリィの身体に吸い込まれ──

 

「「「「え?」」」」

 

 ──崩れた水によって絡め取られる。そう、ガリィの身体は水になって二人を拘束した。

 

「攻撃が命中したと思った? ざ~んね~ん! それは水面に映るガリィの幻影で~す☆ やっぱり、勝てると思った時に浮かべた希望をばっさりと刈り取るのが最高よねぇ~」

 

 ガリィは近くの壁にあった掲げられているロキ・ファミリアの旗に座りながら、足をぶらぶらさせていた。ガリィの手には紺色に輝く聖杯が握られ、それを揺らして中身を飲んだりしている。

 

「何時の間に……」

「水の槍を盛大に降らせた時だな。着弾する時に発生する水飛沫に隠れて移動したんだろう」

「凄い。これが一流の冒険者の戦い……」

 

 さて、拘束された二人だが、こちらはかなり悲惨だ。

 

「ベル君は見たら駄目!」

「男共の視線を隠せ!」

「くそっ、離せっ! やめっ、ろぉっ!」

「なっ、なにこれっ、やっ、やめっ! おごぉっ!?」

「止めるわけないだろ、馬鹿が」

 

 ガリィは拘束した二人に水でできた触手を生み出し、水で作った十字架に拘束する。更に身体に触手を這わせ、口にも入れていく。二人の服はすでに水の槍によってボロボロなので、どう見てもアレにしかみえない。

 

「ああ、安心してくださ~い。ガリィ、良い子なので二人をとっても気持ち良くして、蕩けさして溶かしてあげるから」

 

 口に入れられた触手が脈動し、二人から想い出を吸いだしていく。駄犬の尻尾がピンと立っているが、それも絡めれられている。

 

「そこまでだ! これ以上は認められない! 二人の負けだ!」

「何を勘違いしているの、お馬鹿さん? ガリィは言ったはずよ。相手が降伏を申し入れ、申し入れられた方が認めた場合とね。もちろん、ガリィは認めないし、この二人も喋れない。だから、このまま延々と苦しみもがいていくの」

「「「っ!?」」」

 

 他のロキ・ファミリアが戦闘準備をしだすと、ガリィがそちらを睨み付けて指を鳴らす。すると水の龍が複数現れ、ガリィの前に陣取る。

 

「キャロル君! 止めてくれ!」

「このままだと戦争になるで! うちかって子供を殺られて黙ってられんぞ!」

「はっ、くだらない。だいたい、てめぇら……私の、私達のマスターを侮辱しておいて無事で済ませられると思うなよ」

「それはベートの身体を作り変えたことで……」

「確かにマスターはそれで許した。でも、コイツはマスターの慈悲で生かしてもらっていたのに、戻せとか言ってきたの。反省しないわる~い子にはお仕置きが必要って、ガリィはちゃんと知ってるの。だから、手足をじわじわと溶かしてダルマさんにしてあげるわ」

「まって! ティオネは関係……」

「は? コイツ、マスターがそこの餓鬼に興味もないし、付き合うことはないっていってんのに絡んできて暴言吐いてるでしょ。それも治らない。だから、こいつも一緒に身の程ってのを教えてやるわ」

 

 ガリィが作り出した水の龍が口から垂らす液体は毒物のようで、地面がじわじわと溶けている。それに訓練所のクレーターは大きくなって池のようになったようだ。水深もかなり深いな。それに気付かなければ、水中に立っているガリィに突撃した瞬間、こいつらは終わる。

 

「きゃ、キャロル君! 流石にやりすぎだよ!」

「か、かわいそうですよ!」

「ふむ」

 

 オレは懐中時計を取り出して時間を確認する。もうそろそろ時間だな。

 

「ガリィ、そいつらの口を解放して負けさせてやれ」

「マスター?」

「お前の遊びに付き合っている時間はない。次の予定が入っているんだ。くだらない事をしていないで行くぞ」

「聖杯に想い出は満たされて、生贄の少女は解放される。仕方ないですねぇ。貴女達、負けを認めるならここで止めてあげる。マスターに感謝なさい。あっ、ガリィとしては負けを認めなくてもいいわよ? 生かせばルール上、何の問題もないのだから、両手両足に加えて両目を潰せばいいですしね~」

「ティオネ、ベート。負けを認めるんだ」

 

 ふと視線を見れば、フィンの指が複数折れている。自分で折ったのかはわからんな。

 

「団長……」

「ここで君達を失うわけにはいかない」

「わかりました。私の負けよ!」

「くそガァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!! オレの、負けだ」

「ふふ、じゃあ、認めてあげます。あ、それと命令できる権利でガリィはアイズ・ヴァレンシュタインの改宗を要求しま~す☆」

「?」

「「「え」」」

「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇえ!」」」」」

 

 オレとガリィ以外の全員が叫び声を上げる。いや、指定された本人もよくわかっていないようだ。

 

「あれ、何を驚いているのよ、ベル。あなたの為に選んであげたんだけど」

「え、え、まさか、それって……」

「クスクス」

「待て! 待って! ボクは認めないぞ! ヴァレンなにがしなど要らないからね!」

「ざんね~ん! ヘスティアに決定権はないの」

「ボクのファミリアなのに!」

「……仕方ないわね。だったら、メイドとしておきましょう。アイズ・ヴァレンシュタインを手に入れるのはガリィが正当な賭けで手に入れた権利だから、問題ないし。勝てていたら、こちらも同じように願いを叶えてあげたし、ガリィはなにも悪くありませ~ん」

「悪いよ! ボクにとっては最悪だ!」

「ベルにとっては最高よ?」

「~~~~!」

「あはははは、いいわよ! その表情と感情! とってもいいの!」

「……キャロル君!」

「言っただろう。性根が腐っていると」

「あ、ロキ・ファミリアの皆さん。渡さないと──色々と楽しみにしてね☆」

 

 どうせろくでもない事だろう。どうでもいいな。今回はガリィの戦力調査がメインだ。戦いを見た限りでは問題はなさそうだが、一度戻ってオーバーホールをして確認した方がいいだろう。まあ、その前に豊穣の女主人だな。

 

「マスター、ガリィがんばりましたよ。褒めてください!」

「頑張ったのか?」

「そうですよ。すっごく、すご~く手加減したんですよ! 水の槍を作ろうとしたら上空に湖が出来ちゃったので、少しずつ使って最後には取り込んで……とっても頑張ったんですよ!」

「……そうか。頑張ったな」

「はい☆」

 

 ガリィがコントロールをミスったら、今頃オラリオが大惨事だったな。リヴァイアサンの力は伊達ではないか。

 

「あ、アレで手加減していたの?」

「凄いです! 尊敬します!」

「そうでしょう、そうでしょう! もっとガリィを褒め称えなさい!」

「はい!」

「べ、ベル君はあんな性根の腐ったようになったら駄目だからね!」

「おい、待てこら。誰が性根の腐ったような存在だって?」

「キャロル君!」

 

 殺気を込められたヘスティアは即座にオレの名前を叫んだ。

 

「いやですよもう、マスターったら……そう作ったのはマスターでしょうに」

「うわ、凄い手のひら返し……」

「あははは」

 

 しかし、ガリィはどういうつもりでアイズ・ヴァレンシュタインを手に入れるんだ? 彼女のデータは既に採取してある。だから実物は必要ない。欲しければそれこそデータから錬成すればいいだけだ。本人とはいえないだろうが、ガリィの話からしたらベルのためらしい。だが、これは言ってしまえば一目惚れだろう? だったら、身体が同じならば問題ないだろう。

 

「マスター、錬金術師としては間違っていないですけど、人としては間違っていますよ?」

「お前がそれを言うのか?」

「だって、ガリィは人形ですから」

「そうだったな。まあ、全てお前に任せる。オレの邪魔さえしなければ構わない」

「りょーかーい! ガリィ、がんばりま~す☆」

 

 面倒な事した始末はガリィ本人にやらせればいい。ガリィを蘇らせ、50階層に転移陣を仕込んだ時点でロキ・ファミリアの役目はほぼ終わっている。もはや、深層に行くのに案内は必要ない。

 

「あ、マスター。キスしましょう」

「は?」

「ちょっと、何言ってんだこいつみたいな目でみないでくださいよぉ。手に入れた想い出をマスターに渡すだけですから」

「ロキからか」

「はい。ミカの強化に使えますよ」

 

 ミカの強化という事は、火だな。ロキが関わっている火と言えばレーヴァテインか。それにガリィの事だから、フェンリルとかの作り方なども奪ってきている可能性がある。これは使えるな。

 

「よくやったガリィ。褒めてやる」

「わ~い♪ ガリィ、とっても嬉しいです!」

 

 予定を変更してミカから作るのもありかもしれないな。待てよ、アイズ・ヴァレンシュタインをファラの素体にするのは有りか。彼女その物を使えば色々と短縮でき──

 

『駄目です』

 

 ──ちっ、エルフナインの幻聴が聞こえてきた。まあ、確かに多少の手間がかかる程度だ。彼女を使う必要はないな。精々、施設を追加で作る程度だ。オレのクローンも用意しないといけないのだから、そこまで手間ではない。

 

『──ガリィの暴走──どうに──し──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




指が途中で折れたのは明確にガリィが敵意を向けたから。ガリィにとって、あくまでも怒っているけれど遊びの範疇。


現在のオートスコアラー
ガリィ


ベートは銀髪犬耳尻尾ロリアイズから戻れるかどうか

  • ツンデレ銀髪犬耳尻尾ロリアイズは正義
  • ベート君が可哀想なので正規の方法で戻す
  • キャロルちゃんの気まぐれで直す

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