ダンジョンにキャロルが居るのは間違っているのだろうか?   作:ヴィヴィオ

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ガリィちゃんとわたしたちを読んでいたら遅くなった。後悔も反省もしていない。

ベート好きな人ごめんなさい。
TS嫌いな人、ごめんなさい。

アンケートでベート君は許されるかどうかが決まります。


第8話

 遠征部隊は50階層で撤退。それがフィンの下した結論だった。流石に第一級冒険者の装備が破壊されては、このままでは進めない。一応、パトロンになっているオレにも相談されたが、フィンに任せた。

 オレとしては既に欲しい物は手に入れているし、50階層の一部に転送用と観測用のマーカーを仕込んでおけばいい。

 そんなわけで皆で帰宅だ。オレはラウルに背負わせて、そこで本を読む。荷物も全てオレが持っているからこそ、可能な方法だ。そんな風に進んでいると、壁から大量のミノタウロスが現れ、そいつらが地上に逃げだした。

 

「キャロル、君は……」

「オレは知らん。このまま帰るから勝手にしろ。荷物と金は合流できなければ後で届けてやる」

「わかった。頼むよ。全員で追え!」

 

 オレは一人になってから、歩いてゆっくりと追っていくと、上層まで逃げだしたようだ。ミノタウロスのくせに頑張るじゃないか。

 

「ぶもぉおおおおぉぉぉぉっ!」

 

 壁から湧いてきたミノタウロスがオレの邪魔をする。しかし、実験するには丁度いい。ミノタウロスを拘束し、芋虫共から手に入れた魔石を使って改造を行う。

 分解し、ミノタウロスにしては弱すぎる存在を原初の存在として再構築する。が、失敗して灰へと消えた。だが、ミノタウロスのデータは手に入れたので、ゴーレムとして再現して訓練相手にするのもいいかもしれない。どちらにせよ、さっさと帰るか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そのまま歩いて上層まで移動していると、フィン達に追いついた。どうやら、掃討は終わったようだが、アイズが気落ちしている。ベートが必死に気を引こうとはしているな。

 

「どうしたんだ?」

「えっとね、アイズが助けた子に逃げられたらしいの。詳しい事はわかんないんだけど」

「そうか。まあ、オレに関わっていないのならどうでもいいな」

「冷たいね~」

「そもそも別ファミリアだぞ」

「それもそっか。でも、私はキャロルと友達になりたいな~」

 

 ティオナがよりついてくるが、無視をしてそのまま進む。

 

「そういえば、団長が明日、豊穣の女主人で打ち上げをするから来てくれたら助かるって」

「わかった。どうせミアの所で食事をするつもりだったからな」

「やったー!」

 

 何が嬉しいのかわからないが、そのまま移動してダンジョンから出る。それからロキ・ファミリアのホームへと寄って、彼等の物資を渡す。オレが購入したものはそのまま保存し、彼等が買った念の為の奴だけだ。

 もちろん、消費しているのはオレが持っていった奴からなので問題ない。物資を置けば次に査定をしてドロップアイテムや魔石を買い取る。ギルドよりも高値に設定し、必要な代金をリヴェリアに支払って終わりだ。

 

「今回の遠征は随分と助かった」

「それはオレもだ。また何かない限りは遠征する時は言ってくれ。スポンサーぐらいにはなってやる」

「了解した。それとテントについてだが……」

「欲しければ大量購入で多少は割り引いてやる」

「わかった。ではこれぐらいで……」

「それなら……」

 

 リヴェリアと交渉し、今回使ったテント類など、便利アイテムを全て売り払う。ロキ・ファミリアの収入はほぼ飛んだが、次から色々と楽だろう。少なくともトイレとシャワーつきは女性陣の強い要望があったから、男性陣は折れた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ヘスティア・ファミリアのホームである大聖堂に戻ったオレを迎え入れたのはここでシスターとして働いている奴だ。顔色を見るが、少し疲れが見える。かなりの人手不足だから仕方がない。

 

「おかえりなさいませ、キャロルさん」

「今戻った。それで、オレが留守中に何かあったか?」

「ヘスティア様が眷属をお一人、お作りになられました」

「ヘスティアが……そうか。肝心のヘスティアはどこだ?」

「今日と明日はショッピングモールで女神フレイヤ主催の神々の宴が広がれるそうで、そちらに準備に出向いております。新入団員の方はダンジョンですね。夕食は豊穣の女主人で取られるそうです」

 

 ヘスティアも新人も居ないのなら、後回しでいいか。

 

「わかった。それなら、明日の夜にでも豊穣の女主人に向かおう。それまでやる事があるから、時間になったら呼んでくれ。それまで誰も通すな」

「わかりました」

「それと余った料理があるからそれを子供達の食事にしてやれ。あと、明日は子供達の食事が終わればお前も一緒に来い。奢ってやる」

「いいのですか?」

「ああ、構わない。子供達を連れて行ってもいいが、流石に迷惑だろうしな」

「そうですね。でも、お世話はどうします?」

「2,3時間の間だけなら大丈夫だろう。一応、子供達には大人しくしていれば明後日、一人二つまでショッピングモールで菓子を買っていいと伝える。これで大人しくなるだろうさ。シスターも少し休め」

「ありがとうございます」

 

 シスターと別れてシャトーの工房へと移動する。そこでリヴァイアサンのドロップアイテムや、今回手に入れた素材を出していく。思い出を収集し、焼却する事で膨大なエネルギーを生み出す錬金術。また、それによって作られた人形のオートスコアラー。

 しかし、普段から運用するエネルギーとしては些か問題がある。出力が高いが、燃費も非常に悪いのだ。そこで目をつけたのが魔石だ。魔石を吸収してエネルギーを蓄えさせる。これ以外にも別の炉心を搭載する事である程度は扱えるようになるだろう。

 さて、問題はどのエネルギー炉を搭載するかだが、それは既に決めている。世界を分解し、万象黙示録を不完全とはいえなしとげたのだ。星の発生と終わりは理解している。だから、それを利用して縮退炉、ブラックホールエンジンを作りだす。もっとも、そのものというわけではないが、吸い込み分解し、再構築するという構造にするので錬金術と相性がいい。

 まず、リヴァイアサンのドロップアイテムを分解し、ミアハの素材を含めて再構築を行ってガリィの肉体を錬成する。炉心に必要な壁なども全てリヴァイアサンで補うし、ヘスティアの素材も投入する。でかすぎるリヴァイアサンのドロップは圧縮して強度を上昇させる。アンフィス・バエナの素材やあの芋虫も投入する。これで馬鹿みたいな強度な肉体が完成する。

 後はオレの記憶からガリィのデータを呼び起こして転写すればいい。聖杯はすでに解析できているので、黄金錬成を行い、生み出す。必要なエネルギーはヘスティア・ファミリアの炉から生まれる物を使えば大丈夫だ。こちらも余ったリヴァイアサンの素材を使う。

 

「よし、開始しよう」

 

 溜め込ませていた炉心のエネルギーと愚か者共から採取した想い出を焼却して、リヴァイアサンの一部と魔石を合わせて錬成する。完成したのは黄金ではなく、紺色に輝く聖杯。

 手に持ち、少し力を流すと、膨大な水が生み出される。その水に触れた物は溶けていく。聖杯に戻すと、中身は綺麗に戻った。溶かされた分はしっかりと吸収されている。使い手の意思でオンオフできるようにしてあるので、問題ないだろう。身体を作成するのにアイズのデータを参考にすることで、より人間らしくありながらも精霊に近付ける。

 

「ソーマでも買って突っ込んでみるか……何か連中が仕掛けてくれたら嬉しいのだがな」

 

 まあ、聖杯は完成した。身体の錬成も始め、鋼糸魔弦を使って組み立てるだけだ。自動で肉体を生成するようにして──

 

「キャロルさん、お時間ですよ」

「わかった」

 

 ──上から連絡が届いたので後は生成を開始させて場所を離れる。何時の間にか日付が変わっていたようだな。

 

「もう少しだ。待っていろ、ガリィ。今度はオレがお前達を助けてやる」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「徹夜していたんですか……」

「まあな……」

「では、まずお風呂に入りましょう」

「面倒なんだが……」

「駄目ですよ。女の子なんですから、綺麗にしないと」

「あ~」

 

 シスターに風呂へと連れていかれ、綺麗に洗われる。交代してオレも洗ってやる。しっかりとお湯で温まってから服を着替えて移動する。今回はオレも彼女も白いワンピースだ。そんな状態で手を引かれながら移動していく。

 

「そういえば、新入団員が入ったのだったか……」

「はい。名前はベル・クラネルさんです」

「ベル・クラネルか……どんな奴だ?」

「髪の毛の色が白くて、目が赤いんです。なんでも英雄を目指しているとか」

「は? もしかして、一人称はボクか?」

「よくわかりましたね」

 

 その言葉から連想できる奴はアイツだが、アイツが生きているはずないだろう。いや、ネフィリムと融合していたのだから、蘇った可能性は……ないな。おそらく別人だろう。

 

「あ、居ました。あの方がベルさんです」

「ん?」

 

 見ると、豊穣の女主人から飛び出し、走り去っていく白髪の後ろ姿が確認できた。店の中からはシルとアイズが追ってでてきたようだ。

 

「どうしたんでしょうか? 気付いてもおかしくないはずですが……もしかして、私は嫌われているんでしょうか?」

「シルに聞いてみればいいだろう。シル」

「あ、キャロルさん」

 

 アイズが中に入ってから、こっそりとシルを裏に呼び出して聞いてみる。

 

「何があった?」

「えっと、それは……」

「先程の奴はオレの所の団員みたいでな……話せ」

「わ、わかりました。実は……」

 

 詳しい内容を聞くと実に不愉快な内容だった。これが別のファミリアならオレは無視したが、オレが団長をしているファミリアとしてなら話は別だ。要は侮辱されて喧嘩を売られたということだからな。これが普通にダンジョンに潜っていて起こったことなら、まあ仕方がないだろう。だが、今回の件はロキ・ファミリアがミノタウロスを上層に逃がした事が原因だ。ミノタウロスが上層に現れるなど普通は想定されていない。それを原因のファミリアが笑い話にしたということだ。

 

「今日の客はロキ・ファミリア以外にも居るか?」

「はい。ロキ・ファミリアのお客様以外にも数組いらっしゃいます」

「そうか。ミアを呼んできてくれ」

「わ、わかりました……」

「シスター、悪いな。予定変更だ」

「いえ、大丈夫ですが……やりすぎないでくださいね?」

「安心しろ。狙うのは駄犬一匹だ。シスターはヘスティアに連絡して探させろ」

「は、はい」

 

 それから少しして、ミアがでてきた。彼女に事情を話して金を支払う事で同意してもらった。また、客に金を支払って別の場所で飲み食いしてもらう。その費用も含めてオレが全て出す。これはファミリアの抗争だから、ミアも納得してくれた。

 

 さて、準備が完了したのでダウルダブラのファウストローブを身に纏い、部屋の中に()()()()()入る。

 

「あ?」

「なんだ?」

「キャロルだ! こっちだよー!」

逃げろ!!

「遅い」

 

 フィンの親指が何故か曲がっているが、全員の拘束を鋼糸魔弦で完了した。歌でブーストしている今の鋼糸魔弦を突破する事など、それこそ奇跡でも起こさない限りは不可能だ。

 

「どういうつもりだてめぇっ!」

「それはこちらの台詞なんだがな。ああ、忠告しておいてやる。無理矢理動こうとしたら手足が取れるぞ。それに貴様等が動く前にオレがロキの首を落とす。これでファルナに頼っているお前達は終わりだ」

「っ!?」

「嘘やないな。で、説明してくれるんやろな、キャロたん」

「キャロたん言うな。なに、貴様等がさっき笑っていたのは会った事はないが、どうやらうちの女神が新しく入れた団員のようでな?」

「「「あ」」」

「売られた喧嘩を買っただけだ」

「それでここまでするん?」

「いや、お前達を拘束したのは邪魔をさせないためだ。オレが今からベートにする事に関して関与しないのであれば、すぐにでも解放する」

「嘘やないね。なら、条件つきで許したるわ」

「言ってみろ」

「まず、殺さないこと」

「いいだろう。オレも殺すつもりはない。というか、ロキならオレに泣いて感謝するだろう」

「マジ?」

「ああ、そうだとも」

「待ってくれ。それは戦力が落ちたりするかい?」

「一時的にするだろうな。だが、取り戻すのは奴次第だ。それどころか、更に強くなれるかもしれんし、解除条件も設定する。要は罰として試練を与えるだけだ」

「ロキ」

「本当みたいや。わいはええと思うで。今回の件はうちらの責任や。せやのによそ様の子供を笑ったんや。罰を与える必要はあるやろ」

「わかった。この件に関しては先に言った事について守られるのなら、ボク達は関与しない」

「了解した」

 

 指を鳴らして駄犬以外の拘束を解除する。駄犬は口もしっかりと塞いでぐるぐる巻きにして吊るしてやる。

 

「ああ、そうだ。ロキ、今からする質問に答えてくれ。それでコイツの罰が変わる」

「ええで。なに?」

「ロキは駄犬とアイズ、どっちが好きだ?」

「もちろんアイズたんやで!」

「では、駄犬が好きなのは?」

「アイズたんやね!」

「ん~~!」

「なるほど。アイズの今の姿と子供の姿ならどちらが好きだ?」

「難しい質問やね。今のアイズたんも可愛いけど、あのころのアイズたんも可愛いからな」

「うむ」

 

 リヴェリアも頷いた。

 

「アイズ、できるのなら妹と姉、どっちが欲しい?」

「……? 妹?」

「この質問って、まさか……」

「喜べ。貴様の罰が決まった」

「んん~~~~~~~~~~~!」

 

 駄犬を地面に降ろして顔面を踏みつけながら、錬成陣を描く。続いて設定通りに奴のファルナを改竄してエネルギーへと変換。奴の身体が分解され、再構築されていく。

 

「うひょぉぉぉぉぉっ!」

 

 ロキが現れた駄犬に声を上げながら飛びついて頬擦りしだす。

 

「や、やめろっ、ろきっ!」

 

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「これは……」

「犬耳銀髪ロリアイズたんや!」

 

 そう、駄犬の特徴をそのままに身体構造をアイズの物に変化させて圧縮した。レベル1に下がっているが、スキルや魔法はそのままだし、精霊の血も入っている。つまり、犬耳と尻尾が生えた幼い銀髪のアイズ・ヴァレンシュタインというわけだ。ちなみに首には鉄の首輪があり、鎖は途中で壊れている。

 

「良かったな、駄犬。アイズが好きなんだろう? 好きなアイズになれたぞ」

「ふざけんなぁああああああああああああああああぁあぁぁぁぁあぁっ!」

 

 他のメンバーが唖然とする中、アイズはふらふらと近寄って耳や尻尾を触り出した。

 

「せ、戦闘能力はどうなっているのかな?」

「レベル1からやり直しだ。だが、スキルはそのままだ。身体能力は多少は下がっているだろうが、素質という面ではかなり上昇している。おそらく、レベル1で駄犬が2の時の強さはあるだろう」

「なるほど……問題は肉体の構造の変化とリーチか」

「キャロル。これは完全に女なのか?」

「ああ、そうだ」

「戻せ! もどせぇえええええええ! それかいっそころせええぇえええええええええぇぇぇっ!」

「い・や・だ・ね! 戻す条件はまず、同レベルまで戻す事。それを達成した時に相手を心の底から愛し、子供を産んでもいいと思った時だ。ああ、もちろん、相手の遺伝子を貰ったら戻る事ができる」

「うわぁ」

「すっごい嫌がらせ……」

「安心しろ。自害もできん。その首輪が再生を促す事で禁止している。首輪には他にも駄犬のレベルが戻るまで、経験値をブーストしてくれる。それとこの腕輪と連動していて、相手の位置や鎖を繋げたりお仕置きしたりもできる機能がついている。これをアイズとロキ、フィン、リヴェリア、ガレスに渡そう。好きに扱うがいい」

「外せるんだよね? 流石に幼い少女に首輪をつけていると、外聞が悪いんだが……」

「外せるが、本人が望むかは知らん。経験値ブーストアイテムだからな」

「やれやれ、頭が痛い……」

 

 ファウストローブを解除し、改めてロキ・ファミリアをみる。

 

「では、オレは逃げたアイツを追う。明日にでも伺わせてもらう」

「わかったよ。本当に解除条件はそれだけ?」

「そうだな。アイズがそいつの女になるというのなら、解除してやっても──「絶対に嫌」──だそうだ。先の条件だけだ。まあ、オレの気がかわるかもしれんがな」

「了解した」

 

 さて、次は新入団員の所に向かうか。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 豊穣の女主人から逃げて、ボクはダンジョンでひたすら戦っていく。悔しくて悔しくて、辛い。強くならないといけない。もっと、もっと強く! 

 

「BMOOOOOOOOOOOOO!!!」

「え?」

 

 奥にある壁が光ったと思ったら、そこから黒いミノタウロスがでてきた。そいつは明らかに禍々しい大きな剣を持っていて、四ツ目がボクを見詰めてニヤリと笑う。

 

「ひっ!?」

 

 急いで振り返り、走ろうとすると小さな女の子が地面にへたり込んで両手をついていた。ダンジョンに出会いを求めたら、本当にあったよおじいちゃん。でも、死のピンチだ。

 

「逃げるよ!」

「あ」

 

 彼女の手を掴んで必死に走る。後ろから黒いミノタウロスが追いかけてくる。相手の方が明らかに速い。

 

「なんで、なんで二日連続でミノタウロスに追いかけられないといけないんだぁ!」

「あ、あの、ボクを捨てていけば、その間にあなたは、た、たすかります!」

「そんな事できないよ!」

 

 通路を曲がり、必死に走る。でも、全然出口に通じないし、他の冒険者にもあわない。同じような道をひたすら走っているだけだ。後ろのミノタウロスはそんなボク達を追ってきている。どうにか逃げているけれど、連れている女の子はもう息も絶え絶えだ。

 

「え? 嘘! なんで!」

 

 道なく、行き止まりに入ってしまった。いや、小さな穴がある。ボクか彼女一人だけは入れるような穴だ。穴の先には間違いなく通路があり、どちらかが囮になっている間に抜けられると思う。

 

「ぼ、ボクが囮になります! どうせ、ボクはもう走れません。ここで死ぬんです。だから、あなただけでも!」

 

 震える彼女はそういいながら、短剣を取り出している。足ががくがくで、とてもじゃないが勝てそうにない。それはボクも同じだ。

 

「……ごめんなさい神様……」

「え? なにを……」

 

 彼女の服を掴んで押し倒すようにして穴に押し込む。

 

ボクが囮になるから、逃げて! 

「で、でも……ボクの足じゃどうせ他のモンスターに襲われて死ぬだけです!」

生きるのを諦めちゃ駄目だ! どうか、他の人を呼んできて! 

 

 短剣を構えて前に出る。ミノタウロスは大きな剣を振りかぶる。その姿がまるで通路全体を覆うかのように巨大な存在に見える。

 

「っ!?」

 

 振り下ろされた大きな剣を避ける。地面が粉砕されて大きな傷が刻まれた。当たれば一撃で死ぬ。怖い。怖くて逃げたい。後ろをみればまだ彼女はここにいて、震えている。

 

「……逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ……ボクは、ボクは……あの人に追いつくんんだぁっ!!

 

 震える身体がなんだ。ボクの後ろには震えて怯えている女の子がいるんだ。守らないといけない。絶対に逃がしてあげるんだ! だから、動け! 英雄に、彼女の英雄になるんだ! 

 

「うぉおおおおおおおおおぉぉぉっ!」

 

 突撃し、横薙ぎに振るわれる大きな剣をスライディングで滑りこみ、短剣を身体を起こしながら足を切りつける。金属音がして、短剣が砕けた。そのまま転がって反対側に立つ。

 

「そのまま逃げて! ボクが囮になるから!」

「っ!?」

「駄目だ! 速く穴に入って!」

 

 彼女はでてきてミノタウロスに近付く。ミノタウロスはボクの方など無視して、彼女の方に近付いて大きな剣を振り下ろす。彼女は避けることもできないだろう。だから、飛び込んで彼女を抱きしめて必死に転がる。

 

「なんで、なんで助けた」

「当たり前だよ。ボクは君を助けるって決めたから……」

「甘いよ……自分の命よりも、見ず知らずの女の子の方が大事、なの……?」

「どっちも大切だよ!」

「そう……なら、死ね」

「え?」

 

 彼女の短剣がボクの腹に突き刺さり、お腹が熱くなる。痛い、痛い、痛い、どうして、なんで! 彼女をみると、彼女は立ち上がって服の埃を払う。そして、ボクをゾッとするような冷たい目で見詰めてくる。身体なんて震えてもいない。でも、でも……

 

「望み通り、ここで死ぬといい」

 

 彼女は踵を返し、穴を通ってそのまま通路の先に出ていった。残されたボクの目の前にはミノタウロスがいて、大きな剣を振りかぶっていた。

 

「……ごめんなさい、神様……でも、一人は助け、られたのかな……?」

『ベル君。ボクは君の帰りを待っているからね! 必ず帰ってくるんだよ!』

「っ!? 駄目だ! 諦めない! 生きるのを諦めてたまるかぁぁぁぁっ!」

 

 腹に刺さっている短剣を引き抜き、がむしゃらに大きな剣にあてると、不思議な音がして大きな剣が折れた。この短剣は無事だった。

 

「こ、これならっ!」

 

 起き上がってミノタウロスに挑む。勝てる。勝って見せる! そう思った瞬間。ミノタウロスの拳がボクのお腹にきまり、吹き飛ばされて壁に激突する。

 

「こんな時、アイズさんが助けにきてくれるのかな……ないかな」

 

 でも、彼女が逃げ切るまでは時間を稼いだと思う。これで、いいよね、おじいちゃん。

 

「ないな」

「え?」

 

 目の前に広がる金色の髪の毛にアイズさんだと思えたけれど、違う。彼女は穴から逃げた子だ。

 

「なんで、なんで逃げてないの! ボクを刺してまで生き残ろうとしたんじゃないの!」

「貴様は阿保だな。なんで逃げないだと? そもそも、何故おかしいと思わん」

「え?」

 

 彼女に迫っていたミノタウロスは、彼女の隣にしゃがみ込む。彼女はミノタウロスに触れると、その身体が光りになって土になっていく。

 

「ま、魔法?」

「そうだ。だいたい、二日連続で上層にミノタウロスが現れるなど、どんな確率だ。明らかに誰かの意思が介入しているだろう」

 

 彼女は何処からともなく、ポーションを取り出して、それをかけてくる。傷口が凄く熱くなってくるけど、治っていくのがわかる。

 

「また、明らかにおかしかったはずだ。戦闘能力もないような子供の外見をした者が、ダンジョンでろくな装備もない状態で一人でいるわけがないだろう。罠を疑え」

「うっ」

「貴様は色々と甘すぎる。まるでアイツみたいだ」

「あ、あの、あなたは?」

「そんなものはダンジョンを出てからでいい。さっさと見捨てると思っていたんだがな……とんだ時間の無駄だった」

「え、えっと」

「ちっ、帰ると言っているんだ。男なら立ってオレをエスコートしろ」

「は、はい!」

 

 彼女が手を壁に触れると、目の前の土壁が崩れて別の通路が現れた。もしかして、ボクが走っていたところって一周するようになっていて、ぐるぐる同じ場所をまわっていただけなのかもしれない。

 

「あの、あなたは……」

「黙れ。オレは疲れているんだ。さっさと帰って寝る。こっちは徹夜明けなんだぞ」

「え~」

 

 理不尽な感じがする。いきなり現れてボクを罠にはめて、あんな事をしたのに。エイナさんに報告したら、これってどうなるんだろ? 

 そのまま眠そうな彼女を案内して外に出る。ダンジョンの前にはシスターさんやエイナさん。それに神様が居た。神様はシスターさんの胸で泣いていた。

 

「ベル君! 良かった、無事だったんだね! 良かった、良かったよ! キャロル君が迎えにいったから、無事だとは思っていたんだけど……」

「キャロル?」

「君と一緒に出てきた子の事だよ」

「え? あ、そうだ! エイナさん、実はミノタウロスに……」

 

 ボクがあった事を話していくと、全員の視線がキャロルと呼ばれた女の子を見詰める。それから、呆れた表情をしながら、エイナさんがボクをみた。

 

「キャロル・マールス・ディーンハイムさん……苦情がきていますが……」

「知らん。これはダンジョンを使った試験だ。それにちゃんと問題ない場所に誘導した。あの程度の相手に挑む気概の無い奴など必要ないから」

「冒険者は冒険したら駄目なんですよ!」

「それは貴様の理論だ。オレのファミリアには関係ない」

「っ~~~! ヘスティア様!」

「まあまあ、アドバイザー君。で、キャロル君。結果は?」

「一人でダンジョンに向かわせるのは許可できん。こいつは騙されて食い物にされるのが目に見えている」

「なるほど、合格というわけだね! やったね、ベル君!」

「ご、合格? 神様、どういうことですか?」

「どうもこうも、君は正式に我がヘスティア・ファミリアに入団できたということだよ! だよね、キャロル君!」

「え? え?」

「ちっ、察しが悪い。オレはキャロル・マールス・ディーンハイム。ヘスティア・ファミリアの団長だ。別にオレの許可など要らないが、オレはオレが認めていない奴に支援するつもりも、手伝うつもりもない。だから、ヘスティアにとってお前が認められたことが、正式に入団した扱いになるんだろう」

「そういうことだよ。キャロル君の支援があるなしじゃ、全然違うからね」

「というか、ヘスティア様は知っていたのですか? キャロルさんがこのようなことをするなんて……」

「知らないよ。でも、ボクが入団を認めた子がすぐに入団の取り消しを頼んできたことが何回もあったから、キャロル君が何かしているんだろうとは思っていたけれどね。ちなみにどんなのだったのかな」

「ミノタウロスのゴーレムをぶつけた」

 

 あれ、ゴーレムだったんだ。凄く怖かったんだけど……

 

「キャロル君!」

「安心しろ。今回なら他にも色々と合格条件は設定しておいた。オレが犯人だとわかれば合格にしたし、もちろんミノタウロスを倒してもいい。他にもあるが、他の連中はオレが一切支援しないし、オレが稼いだ金がファミリアに入る事もないといえばほとんど諦めたな。それ以外はオレの情報を探ったり、陥れようとする連中だった」

「そっか。それならわかったよ。でも、キャロル君の試験を突破する人なんて滅多に出ないと思うよ?」

「別に問題ない。ベルには別の奴をつける。そいつと一緒なら騙される事などないだろう。後で紹介する」

「わかったよ。じゃあ、ベル君。まずは帰って傷を癒そうか」

「その前に説教だ」

「え?」

「お前、ロキ・ファミリアに助けてもらった時と豊穣の女主人から逃げただろう。明日、ロキ・ファミリアにいるアイズと豊穣の女主人のミアに謝りに行くぞ。ヘスティアも来い」

「わかったよ。でも、話はシスターちゃんから聞いたけど、そのベートって奴は……」

「それならオレが仕置きをしておいたから安心しろ」

「そうなんだね。ならいいか」

「ああ」

 

 二人が話している間に心配かけた人達に謝りにいく。それから四人で街を歩いて帰るけれど、こんな小さな子が団長なんて驚いた。それにミノタウロスを作りだす魔法なんてすごい。

 

「あ」

「どうしたんだい?」

「この短剣なんですが……」

「ああ、それか。入団祝いにくれてやる。使うといい」

「いいんですか! ミノタウロスを大きな剣を触れただけで粉砕するなんて、凄かったですよ!」

「キャロル君、これって……」

「哲学兵装・ソードブレイカーだ。剣と定義されたものはなんでも折る事ができる」

「それ、とんでもない武器じゃん! どう考えてもレベル1に与える武器じゃないんだけど……」

「ただの入団祝いだ。いらんのならいいが?」

「神様……」

「緊急事以外には使わないように。それと無くさないようにね。ぶっちゃけ、それだけで億単位する武器だから」

「えええええええええええええ!」

 

 それだけで、ボクは短剣を落としそうになる。慌ててキャッチしたボクは大事に使う事に決める。返そうとしても武器がないし、仕方がない。

 

「ベルさんは騙されやすいみたいですから気をつけてくださいね」

「は、はい」

「ん?」

「何か騒がしいな」

 

 大聖堂で子供達が騒いでいた。ボク達が中に入ると、その子達は水の蛇に咥えられたり、お手玉にされて遊ばれていた。中には泣いている子供達もいる。

 

「なんですかこれ!」

「助けないと!」

「キャロル君お願い!」

「必要ない。居るんだろう。出て来い、ガリィ」

「は~い☆」

 

 水の蛇が場所を移すと、奥にある大聖堂の教壇が見えてくる。そこに座ったメイド服の様な青い服を着た女の子が居るのが見えた。彼女は表が黒色で後ろが青色の不思議な髪の毛をしている。

 

「マスター、こいつらから想い出を吸えばいいですか~?」

「必要ない。そいつらはオレが保護している連中だ。解放してやれ」

「りょーかーい!」

 

 そんな彼女が指を鳴らすと、全ての水の蛇が崩れてただの水となり、彼女の身体の中へと吸い込まれていく。そして、彼女はこちらにてくてくと歩いてきて、ボク達の目の前でスカートを摘まんで挨拶をしてくる。

 

「オートスコアラー。形式番号XMH_020。終末の四騎士(ナイトクォーターズ)、ガリィ・トゥーマーン。マスターのご慈悲により、再びマスターにお仕えできて大変うれしく思います」

「ああ、よくぞ戻ってきた。歓迎しよう」

「ありがとうございます。ガリィ、これからマスターのおそばでがんばりま~す☆」

「で、先のはなんだ?」

「遊んであげてたんですよ~。マスターが庇護する子供達にガリィが、危害を加えることなんてありませんよ~。ソイツラガマスターニ危害ヲ加エナイカギリハ~☆」

「そうか。改めて紹介する。こいつはガリィ。オレに仕えている存在だ」

「よろしくお願いしますね~☆」

「は、はい、よろしくお願いします!」

「ヘスティア、ガリィにファルナを刻んでくれ」

「わかったよ」

「え? 嫌ですよ?」

「ガリィ?」

「ガリィはマスターのものですから、ヘスティアに仕える気はありませ~ん」

 

 クルクルと踊りながら、神様にそんなことをいう彼女。皆が呆れている中、キャロルちゃんが何かを考えている。

 

「そうか。まあ、別にファルナなどいらんか。その方が都合がいいしな」

「でも、ダンジョンに入れないんじゃないかな?」

「それは大丈夫だ。なにせ、ガリィは人ではないからな。武器や道具を持ち込むのにファルナが刻まれているかどうかなど確認せんだろう」

「「「え?」」」

「改めまして。ガリィはガリィ・トゥーマーン。マスターに作られた自動人形で~す☆」

 

 おじいちゃん。助けた女の子が実は団長で、試験だったと思ったら……今度は女の子だと思った子が動く人形だったよ。オラリオって不思議がいっぱいだね! 

 

 

 

 

ベートは銀髪犬耳尻尾ロリアイズから戻れるかどうか

  • ツンデレ銀髪犬耳尻尾ロリアイズは正義
  • ベート君が可哀想なので正規の方法で戻す
  • キャロルちゃんの気まぐれで直す
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