やおよろずっ!   作:かささぎ。

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こっそりと。




1話 始まりは突然だったらしい

 

 

あぁ、体がふわふわする。何も無い空間で浮かんでるような、流されているような感覚に陥る。思考がまとまらないまま、何も無かったはずの周囲の景色が、突然変化し始める。

 

そこは何処にでもあるような学校の教室……を映し出したかと思えば、恐らくその学校の一角にあるであろう兎や鶏、更には孔雀なんている飼育小屋に場面が変わる。そこから運動場へ、多くの人々が忙しそうに歩く街中、人通りの少ない路地裏へ場面が変わっていく。そんな中、全ての場面に登場していた一人の少年がいた。

 

その少年だけでなく、移りゆく場面にはもう一つ共通していた事がある……そう、その少年がおかしいのだ。比喩的な例えではなく、直接的な意味としておかしい。

 

学校の教室では、自分の所持品に対して喋ってるようで、急に謝り始めた。

 

飼育小屋では、そこにいる動物達と踊りだし、運動場では同世代の子と喧嘩をしているのだが、その原因が遊具を過度に汚した事だと言う。

 

街中ではひたすらにごみを拾い歩くというボランティア精神は素晴らしいとも言えるが、途中で電信柱や信号機などの公共物を磨いて綺麗にし始める始末。路地裏では多くの不良を目の前にして、携帯を片手に高笑いを上げていた。

 

中には良い事をしていると言えるものもある……しかし、普通の子供がそこまでするだろうか? いや、大人でさえする人は少ないはず。

そんな罰ゲームを受けているか、新手のイジメを受けているとさえ誤解されそうな行動をする少年を中心に、場面が切り替わっていたのだ。

 

そしてもう一度、場面が切り替わる。

 

周りを見渡すと、なんの変哲のない机に椅子、テレビなどが存在しており、物音一つすらしない。この頃はまだ部屋は綺麗だったなぁとしみじみ思う。そんな事を考えてると、何かが視界の隅で動いた。そちらに視線を移すと、先程の少年がベッドに寝転んでいた。……これで最後、いつも通りの夢か。

 

いつもとは言っても、そんな頻繁に見る夢ではない。これは今から三年ほど前……中学二年生の時に実際に起こった出来事。それを今もなお見るという事は、それ程までに衝撃的で印象的な出来事だったと言えよう……別に先程まで見てた多くの場面が大した事無い出来事かと問われれば、決してそうでは無いのだが。

 

多くの場面の中で今見ている光景が最後であり、特に印象的な出来事と言えるのは、この日を境に少年の人生が変わったと言っても断言出来るからだ。この出来事が一番古い夢であり、これが原因で先程までの夢へと繋がっていくのだ。

 

俺は何故このタイミングで、この行為をしようと思ったのだろうか……いや、そんな事を言っててもしょうがない。それをしたかった、ただそれだけの事だ。

 

そんな事を考えていると、ベッドに寝転んでいた少年が動き出す。あぁ、その先へ行くんじゃない。もし神様とやらが本当に実在したと言うのならば、俺に何故このタイミングでこの行為を促したのだろうか? 小一時間ほど問い詰めたいものだ。

 

まぁ、遅かれ早かれ必ず起こっていた事なのかもしれないが、それでももう少しだけ普通の日常を過ごしていたかった。

 

少年は急ぎ足でその部屋から出て、とある場所へと向かう。その足に迷いは無い、寄り道などせず、先程の部屋から一分もしない内に、目的の場所へ到着していた。軽くノックをした後、返事がない事を確認し、躊躇うことなくドアを開け、入室していった。

 

……そうだな……衝撃的で印象的な出来事だったと先程述べたが、一つ付け加えよう。

 

その出来事は間違いなく、その少年に一生残り続けるトラウマを植え付けたのだ。だってそうだろう?

 

一時的にとは言えその場所、その空間はその少年だけの……俺だけの空間だったんだ。ドアの外から声が聞こえてくるのは普通にあり得るが、まさか室内から声が聞こえてくるとは……ましてや俺以外の誰かがそこに居たなんて思いもしなかったんだ。

 

夢の中の少年が入室した後、ドアが閉められる。そのドアにはその場所の名前が記されたプレートが掛けられていた。

 

 

 

 

ーーーTOILETーーー

 

 

 

 

そう、最後の夢はトイレの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜……」

 

いや〜すっきりした。折角の昼寝タイムを過ごしてたら、突然の便意に催されたのでトイレへと駆け込んでしまった。

 

しかし、大と小をする時はなんとも言い難い気持ち良さ、快感があるよな、うん。小は出した瞬間から思わず、あ゛〜と声が出るあの感覚。大は踏ん張って踏ん張って出し切った後のお腹のすっきりさ、もしくはすぅっと出た時の解放感。これは思わず癖になるな。

 

癖になるとか以前に生理現象なんだけどね、なんてトイレに気持ち良さを感じてると、こんなどうでもいい事をいつも考えてしまう訳だが、俺だけじゃないはずだ。

 

これからもう一眠りするか、ゲームをするか考えつつ、綺麗に三角折りされたトイレットペーパーの先を手に取り、巻き取った時だった。

 

 

『うぅんっ!』

 

「……え?」

 

 

いきなりの事だった為、手を止めてしまう。なんだか妙に艶めかしい女性の変な声がした気がするが…… いやいや、そんな声が聞こえる訳ないか。思わず間抜けな声を出してしまったが、今家に居るのは妹だけ。両親と一華ねぇは仕事のはずだ。

 

まさか妹の……と一瞬頭によぎったが、そんな訳ねぇか、まだ寝ぼけてんなぁと気にせずに止まっていた手を動かし、大をした後にするであろう体の掃除をした時だった。

 

 

 

 

 

『はぁぁあああん! この物凄く臭いけどこの癖になる匂いさいっっっこうです! この鼻に付く匂いの元となる排泄物を私の力で除去していると考えれば尚のこと!

 

また優しく且つ拭き取る程度には強い悟くんの手に包み込まれるこの感覚、これもまた気持ちいいです! あぁ、私は悟くんの、人のお役に立てているのですね!

 

そして私に擦りつけられるこの汚らわしい物に感じるこの不快感! 何をするのですか! 私をこんなに……こんなに汚して、興奮しているのですね!

 

あぁぁ!! 私の〇〇○が悟の×××によって汚されてしまうです! けど堪らない、堪らないの! 私、達してしまいますですぅ!』

 

 

体を拭いた直後、そんな淫らで艶めかしく、そして余りにも卑猥な言葉がトイレ内に響き渡る。突然の出来事、不意を打たれたタイミングすぎてギョッとしてしまい、手に持っていた使用済みトイレットペーパーがトイレの中へ落ちる。

 

思わず声のした方へ顔を向ける。向けてしまった。するとそこには

 

 

『はぁ……はぁ…… これこそまさに生きてるって、感じられる瞬間。悟くんは後一回分、私を巻き取って使用するはずです。さぁ! つづき……を……しま』

 

 

そんな事を言い放って、恍惚な表情を浮かべた少女が、手洗いをする吐水口の所に上半身だけ起こしてこちらに手を伸ばしていた。何を言ってるか分からない? 俺も分からない。

 

この一瞬、しかし俺にはとてつもなく長い時間に感じられた。その少女も俺が見ている事に気付いたのか、恍惚な表情からきょとんと呆けた表情へ、そして思いっきり驚いた様子で声を掛けてきた。

 

 

『も、も、ももももしかして、私の事が見えているですか!?』

 

 

勿論、見えているよ。けど、明らかに信じられない。だってそうだろ?

トイレの手洗い吐水口の所にいる少女、これは言葉の意味通り、人の姿をしているが普通の人と明らかに大きさが違う。おおよそ10cm程度の身長でしかない。しかも髪の毛の色が薄いピンクの様な色をしていて、服も薄いピンク色を基本にした着物を付けている。

 

うん……取り敢えず俺は目の前の光景から目を逸らして、もう一度体の掃除をした。トイレットペーパーを巻き取った時、拭き取った時に、『んんっ!』『あぁ、そこはだめっ!』 なんて声が聞こえてきたが完全に無視をして、水を流した。

 

 

『悟くんのいけずぅですぅ! 私が流されてしまっても、第二第三の私がすぐ現れるです! また、貴方の肛○を拭き取る為に!』

 

 

そんなしつこい雑魚敵と思わせつつ、よく考えなくても変態的なセリフを吐きながら、先程まで見えていた少女は、徐々に姿が薄くなっていき……消えた。

 

しばらくの間、俺は立ち尽くしてしまっていた。なんだ、なんだったんだあれは。……まぁ考えてても仕方がない。余りにも寝ぼけすぎていたんだろう。

 

あんな小さな少女……って変だな、普通の人が聞いたら何言ってんだってなるだろうけど、そのままの意味で女の子がいて、頭がおかしいというか……ちょっとえ、えろい事言ってて、しかも俺の名前を知ってるなんて……

 

いや〜まだ、俺って夢見てんのかね。取り敢えず自分の部屋に 『ちょっと待つです』 ……へっ?

 

 

『私は言ったですよ? 直ぐに第二第三の私が現れると…… それに悟くん、トイレットペーパーを使用した後は、いつもみたいに次の人が使いやすい様に三角折りして下さいです。

ちゃんと丁寧に優しく……きゃっ』

 

 

振り向いた先には、先ほどの女の子がトイレットペーパーホルダーの上で恥ずかしそうに頰を染め、手で押さえている。

 

俺はもう何が何だか分からず、ただただ呆然としていた。そんな俺を全く気にせず、その小さな、人として小さ過ぎる女の子は話を続けた。

 

 

『あ、すいませんです。ついつい私嬉しくなってしまって…… まさか、こんな日が来るなんて考えもしなかったです。では自己紹介を……

 

私はなんとですね、トイレットペーパーの神様なのです、いぇい! 悟くんが生まれてから……いいえ、生まれる前の貴方のご両親の代から、ずっと御心家の皆さんのお尻をお拭き続けていましたです! 悟くんだけが突然私を見える様になった事にはびっくりしましたが、これからもよろしくお願いしますですっ!』

 

 

そう言って少女はニッコリと微笑みを浮かべ俺を見つめており、俺は一瞬固まった後、絶叫を上げながら自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

いつ見てもこの夢は酷過ぎる。この自称トイレットペーパーの神様を名乗る、明らかに小さ過ぎる女の子と出会って……というか見える様になってから、俺にとっての安息の場所が消え去った。

 

何故ならば……自称神様がトイレットペーパーだけじゃなかったからだ。しかも何故だか知らないが俺にしか見えていないようで、もう大変なんてものじゃない。勿論、新種の病気かと思ったが、そこから奇妙というか……色々と不思議な事が起きていたし、なんとも言い難い。

 

この時から俺は間違いなく荒んでいった……少なくとも心は。頭がおかしくなりそうだった。よく鬱にならなかったなとも思う。けれど、いつまでも現実から……俺にとっての現実から逃げていては何も始まらない。

 

それに自称神様達は、なんだかんだいい奴らで面白い奴らだった。憎もうにも憎めず、鬱陶しそうに無視を続けると、視界の端で勝手に落ち込み、むしろそれが鬱陶しく感じるし。

 

こちらが助けられた事も何度もある。俺だけじゃどうしようもなかった事を、解決してくれた事もある。それらは、一般人じゃ到底理解できないことだ。簡単にそれをやってのける彼・彼女らを、俺の妄想だと馬鹿にする事は出来なくなった。

 

こいつら(神様)を認め、この存在を前提とした行動をするということは、周りから浮いてしまう事に他ならない……まぁ、やりようはあったんだろうけど……

 

最初こそ抵抗はあったけど、今ではすっかりこの環境に慣れてしまった自分がいる。慣れって怖いよなぁ。

 

 

……おっと、目覚ましの音が聞こえる……気がする。多分もうそろそろ起きる頃合いなのだろう。トイレでの夢はたまに見るが、それでもこんなにはっきりとした形を見るなんて……

 

まぁ起きたら夢の内容なんておぼろげにしか思い出せないんだけどな。しかし……一目見てとても可憐で綺麗な女の子が、人としては小さすぎ、言動が逸脱し過ぎていて、おまけに俺の尻をずっと拭いてきたなんて言ってきたらパニクるわ絶対。

 

……ってうるせぇな、あいつら! もう起きるよ! はぁ、高校生には辛過ぎる生活だ。寧ろ枯れてすらいるかもしれない。

そんな事を考えつつ、途端に意識が遠のいていく。話す機会があれば他の奴らの事も紹介して行こう。取り敢えず……起きたら……とい……れだ……な。

 

 






後々タグとかジャンルとか加えたり変えるかもしれない。
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