やおよろずっ!   作:かささぎ。

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ちょっと早めに。


2話 二度寝を出来ないって辛くない?

 

 

 

冬の寒さを超え、暖かな風が吹きつつもまだ少し肌寒さが残る今日この頃。()()()()()()カーテンからは、朝の日射しが部屋に注ぎ込まれ、瞼を閉じていたのに確かな眩しさとほのかな熱を感じていた。

 

 

『おはよぉぉぉおおお!!! おきてぇ!!』

 

 

今年度より高校二年生になり、ぼちぼち進路の事を考えていかなければならない時期となった。が、少なくとも今はこの惰眠を貪りつつ、ギリギリまでこの温もりを味わっていたかった。

 

しかし、甲高いベルの音に加えたこの甲高い女性のソプラノボイス。しかも問題は目覚ましの音を止める事が出来ても、この声は止められない。ベルの音をすぐ消し、声がした女性の方へ手を伸ばすが、全く感触が無い。そうだった、触れられねぇから消せねぇや。結局耐える事が出来ずに起きようとするが……

 

 

『お目覚めのようですね、ご主人様』

 

 

と、ベッドの上で毛布に包まれている俺のすぐ横で、落ち着いた女性の声が聞こえる。 その女性はゆっくりと俺の頭を撫でていた……またこいつは……こちらからは触れられない事を良いことに、好き勝手やりやがって。

 

 

『彼女の声は頭に響きますからね。ご主人様も今日から新学期のようですし、諦めて起きる事をお勧めします』

 

「……だから入ってこないでくれっていつも言っているだろ」

 

『私達の仲ではありませんか。それにご主人様自らこのベッドで寝ているのですよ? これは私の権利です』

 

『うぉぉおおおお! おきろぉぉおお!!』

 

「あぁもううるせぇー! 起きるから黙れ!」

 

 

いつまで経っても朝からこのうるささには敵わず起きる。季節はまだ春の始まり、布団の温もりは一瞬にして消え去ってしまい、もう一度被り直したい欲に駆られる。

 

そしてベッドの方を見ると、藍色と白を基調とした服装にロングスカートとこれこそ正当派なメイドとも言える姿に、綺麗に輝く長い銀色の髪をした女性と、金髪の小さい女の子が目覚まし時計のすぐ横に立っていた……金髪の子は小さい女の子と言ったが、身長自体目覚まし時計と並ぶ程しかない。

 

 

『お! やっと起きたね、悟』

 

『少し残念ですけど、さぁ学校の準備をしましょう。妹様も待っております』

 

「……はぁ……時計ちゃんはもう少し手加減しろ、ベッドは心臓に悪いから入ってくるんじゃねーよ」

 

『ご主人様は最初の頃ならいざ知らず、最近は慣れておいでですよね? ……最も、本当にやめて欲しいのならば、素直に朝起きた直後だと下半身にテント張っていて恥ずかしいからって言えばよろしいかと』

 

「おいばかやめろ!」

 

『悟! 私から生き甲斐であるお前を起こす仕事を奪うのかっ!』

 

「涙目で訴えてくるな、加減をしてくれと言っているだけだろ!」

 

『朝から騒がしいねぇ〜低血圧な私には辛いのに、みんなうるさいから寝るに寝れないじゃんかー』

 

 

目覚まし時計とベッドに一言物申していると、新たな声が響く。ベッドの奴、自分が女性の姿をしているからって、男子をおちょくりやがって……

 

それに次から次へと……低血圧とかお前ってそもそも血流れてんのかよ。そう思いながら、新たな声のした方へ向き直り手を伸ばす。

 

 

『お、おいこら! 勝手に私の制服を取るんじゃない!』

 

「ハンガー……お前のじゃねぇよ。それ着ないと学校に行けないんだが」

 

『きょ、拒否するよ! これだから休み明けは嫌なんだよ〜 もっと悟に包まれていたいんだから!』

 

 

制服を取ろうにも、ハンガーに張り付いてるような感覚がして取る事が出来ない、いい加減にしてくれ……早起きした意味が無くなるから。

不本意だが、この手を使うしかないか……

 

 

「……どうせ休み中は洗濯してクリーニングかけてたんだし、俺の匂いは薄まってたはずだろ? ほら、今日から着るんだし」

 

『く、確かに……卑怯だよ……あぁ……』

 

そう言って、制服が取れるようになり、ハンガーから取り出すと、パーカー姿の黒髪ツインテールの女の子が出てきた……ハンガーにぶら下がっており、名残惜しそうな顔をしていたが。

 

普通は自らの口で 「俺の匂いまた付くだろ?」 みたいな事なんて言いたくないんだが、けどそれで以前痛い目に合ってるからなぁ……

 

 

「さて、そんじゃ行ってくる」

 

『それではご主人様』

 

 

いってらっしゃーい!!

 

部屋いっぱいに響き渡る声が余りにもうるさい。先程の三人……柱? に加えて大勢の自称神様達から挨拶を受ける。本当いつも元気すぎると溜息を吐きながら、廊下へ出てリビングへ向かう。

 

 

『ホント朝っぱらからうるさくて敵わないわ。貴方もそう思わない?』

 

『……私は悟様の荷物入れですので…… しかし他の者達も、自分の仕事を全うしていると考えれば仕方なき事かと』

 

『堅っ苦しいわね』

 

 

一つは若い女性の声、もう一つは渋い男性の声が聞こえてきた。気付けば、俺の肩に女の子が座っていた。髪は肩にかかるくらいの抑えめの茶髪、服装はなぜか俺の高校の女子の制服。

その子が話し掛けている相手は、俺が手に持っている鞄だ。こちらは姿を現していない。

 

 

『今日から新学期ねぇ……この子ももっと友達出来ると良いのだけれど』

 

「……別にいらねぇし、寂しくねぇし」

 

『……はぁ、何も聞いてないわよ。全く、そういうとこよ。素直じゃないし、人にはツンケンした態度取っちゃうし、ツンデレなの? 挙句には堪えきれずに変なこと始めちゃって頭おかしいと思われちゃうし』

 

「前者はまだしも……ってツンデレ言うな! そもそもその頭おかしいと思われてる原因の一部が君にあるんだけどなぁ!」

 

『悟様、もう少しお声を小さく。また妹様に聞こえてしまいますぞ』

 

「すまん、ヒートアップしてしまった。サンキュー、マイバッグ」

 

『あー本当つまんないわねぇ。 妹さんに冷たい目で見られてるアンタ見るの、私好きなんだけど』

 

「お前は俺を殺す気か? 家の居場所的に」

 

『もう半分死んでるようなものじゃない』

 

 

確かに、と納得しかけてしまったが、それもこいつら自称神のせいなんだけど!

とりあえず気の休まる暇が全く無い事を一人嘆きながら、学校へ行くとしよう。

 

 

『あ、そう言えば悟。アンタの友達から連絡来てたわよ。いつもの場所で待ってるって。本当、何であんないい子が悟みたいな頭おかしい子と仲が良いのかしらね』

 

 

そういう事は早く言えっての! 俺はすぐさま支度をしてダッシュした。

 

 

 

 

 

 

朝食を取る際に妹から真顔で 「おにぃ、本当独り言やめてよ? 今年度から私も同じ学校だし、兄弟と思われたくない」 と言われ、密かに心へ大ダメージを受けながらも、学校へ行く。

 

しかし一年も通えば、色々な奴らと知り合うものだ。

 

 

『やぁ、悟くん。今日から学校頑張ってなぁ……あ、そろそろ青になるよ』

 

『ちょっと! 私の体を踏まないでよ! 折角の美肌が汚れるわ!』

 

『……俺は黒いからな。ふふ、汚れても問題ない。ただ、ガムやタバコ……その他もろもろゴミを捨てる奴は許さねえ』

 

『ゴミって言うな! お、俺たちだって好きで捨てられてるわけじゃねぇ!』

 

 

上から信号機に横断歩道の白線に道路。挙句には捨てられてるコンビニの袋等を含めたゴミ達だ……あれぇ? 何かおかしいなぁ……ってごめんて、謝るからそんな目見るな。しかも急いでるのに……

 

 

と思いつつ、しょうがないので道路を歩きつつゴミを拾って行く。……いやだってこいつらめッちゃ泣いてるんだもん。めんどくさくないのかって? もう慣れた。

 

 

『こ、これが我々の言葉を分かってくれる伝説の……っ!』

 

『私達もついに新たな物の礎となれるのね!』

 

『風に吹かれて、人に踏まれ、歩く人々に無視をされ、挙句人の目に入らない場所へ飛ばされる運命と思っていたのに……あぁ、救世主、悟様!』

 

 

え、何? 俺っていつのまにか伝説になってたの? てか様って付けるのやめて!

 

 

『悟くんはゴミと認識されてしまった仲間を拾ったり、数々のボランティアをやってくれてるからねぇ。巷ではかなりの有名人よ』

 

『俺たちだって好きでゴミになってるんじゃないやい! ちゃんとした役割を持って生まれてきてるのに……』

 

 

……そっとしておこう。横断歩道を渡りきった後、向かいの信号機が伝説と呼ばれる理由を教えてくれたが、身から出た錆だったか……

 

ちなみに、この信号機は互いが好きで、愛し合っているらしい。しかし本体である信号機そのものからあまり離れられず、触れる事さえ出来ない悲恋の運命である。

……うん、俺に相談されても困る。

 

話は戻って、伝説だとか誰にも人には伝わらないんだろうけど、別に気にしてないし。しかし、しょうがないだろう? 偽善者だの、いい人ぶろうなんて思ってるわけじゃないけれど、こいつらの言葉が分かっちまうから、出来る事はしてやりたいんだよ。

 

……と言いつつ、実際は最初の頃に色々あってなぁ。当時のことを思い出すと身震いが止まらない。

 

そりゃボランティア……って聞こえはいいけどそんなの疲れるし、めんどくさいし、遊ぶ時間減るしやだと思ってた。思ってたが……はぁ、ため息しか出ない。

 

 

『あら、他の子達の為にも身を粉にして働く事は良いことよ』

 

『そうです、誇って下さい悟様』

 

 

肩に乗っている女の子と鞄から褒められた。鞄はいいがこいつは……

 

 

『あら、不服かしら? 残念ねぇ、折角貴方の相棒がこうやって褒めてあげてるのに。 私だって滅多に来ない誰かからの連絡が来たらすぐ教えてあげたり、どうしてもと言う時は時計と一緒に起こしてあげたり、他にもいろんな事を貴方の為にしてるのに……悲しいわ…… こんなにも尽くしてるのにそんな目で見てくるなんて……しくしく』

 

「めんどくせぇ、嘘泣きすんな! はいはい感謝してるよ!」

 

『感謝と敬意と恩義が足りない』

 

「……ってめぇ……」

 

『あら? ほら、さっさと歩きなさいな。学校に遅刻するわよ?』

 

 

 

肩に乗ってる彼女は涼しげな顔をして前を指差す。俺は携帯を取り出し時間を確認し直し、確かにゆっくり歩きすぎたと反省した……というより、先程のゴミ拾いが原因の大部分をしめるが。

 

 

『勝手に触らないでくれる?』

 

「辛辣過ぎるだろ! 今日は一段と激しくねぇか!?」

 

 

時間が空けばすぐ弄ってくる……というかもはや言葉の暴力と化しているのはフォンちゃんこと俺のスマホだ。スマホと呼んでたら「ださいっ!」 と一蹴され、電源を勝手に切るだの誰かに電話掛けるだの、酷い目にあった……こいつらの名前問題もあったな、あの時は大惨事だった。

 

 

「お? 遅いじゃねぇか。またいつものボランティアか? つーかここまでくるとボランティアってより趣味=ゴミ拾いだよな」

 

 

っとー、それよりも目の前に現れたこいつの話だな。

 

苦笑を交えつつ此方に声を掛けてきたのは、くそイケメン野郎の深草 佑(ふかくさ ゆう)。小学校の頃からの長い付き合いで、俺から離れなかった唯一の奴だ。目は大きく、鼻が高い。高身長でスポーツ万能な上に勉強も出来る。そして笑顔はかっこよく、苦笑しながらやれやれしょうがない奴だな……みたいな雰囲気を出してくるとは……なんだよこいつ、主人公かよ。

 

中学の時、ある日を境に明らかに頭がおかしくなった男子の側にずっと居るんだが、その男子に取っては本当の事でも、普通の人にとっては妄想としか捉えることのできない言動を正面から受けていた。なのにも関わらず、変わらずに接していたり、むしろ普通なら面倒くさいボランティアとかにも一緒に参加している、性格すらイケメンだ。

 

俺だったら頭がおかしい男子居たら距離を取るな……俺の事ながら。けれどそんな俺といた事によって問題も確かにあった。俺なんかが一緒にいたらこいつにも迷惑がかかっちまうと思ったが……

 

 

「何暗い顔してんの? なんかあったか?」

 

「……いや、何も」

 

「絶対何かあったろー? ほんとそのぶっきらぼうなとこ直さねぇと、また一人の時間増えちまうぞ? 」

 

「まぁいいじゃねぇか。一人でも寂しくねぇし」

 

「本当、素直じゃねぇんだから……」

 

 

……大概の奴らは俺のしでかした事から、そのイメージを持ったままだから話辛そうだし。俺自身も一時期は佑以外と会話することすらなぁ……いつのまにか話す事が苦痛に……な?

 

『そうよねぇ、もっと言ってあげなさいな』

 

「っ……はぁ……」

 

「また溜息……新学期早々暗いなぁ。まぁ気分入れ替えてさっさと行こうぜ」

 

「そうだな、今日は楽だし」

 

 

……本当、俺には勿体ないいい奴だよこいつは。

 

昨日の番組見たか? など他愛も無い話を繰り広げながら学校へ共に行く。時にはフォンちゃんが茶々入れてきやがるが、流石に反応する訳にはいくまい……まぁ今までやらかしてるから学んだ、と言った方がいいか。

 

なんだかんだこいつと一緒に居る時が一番気が楽だ。学校では人気な奴だから一緒に絡む事こそ少ないが……こいつから俺のところへ来るのはやめてほしい。人が集まってくることによって、近くにいる俺に多くの奇異な視線を感じるからだ。

 

さぁ、まずはクラス分けだ。こいつが居るのと居ないとでは、クラスでの扱いが明らかに違うからな。一年時?……別のクラスで、関わっちゃダメな奴扱いでしたがなにか? ……めげる……まぁ一人ではなかったけども。

 

そんなこんなで、人がいっぱい居る所まではなんの捻りもない会話をしながら、笑っていた親友を横目に登校していくのであった。

 

 

 

 

 

「悟、クラスの紙張り出されてるぞ〜」

 

「見たらわかるって」

 

 

佑と共に学校へ到着し、新しいクラスの紙が張り出されている場所へ向かう。さてさて、新しいクラスは……

 

 

「うぉぉおおおお! なんだこのクラス!」

 

「絶対楽しいだろっ」

 

「やったぁぁぁ! 深草君と一緒だっ!」

 

「岸城さんと……これは」

 

 

他の生徒の騒ぎ声が聞こえてくる。うるさすぎて周りの奴らが…… 『やりました掲示板さん!』 『あぁ、こんなに俺たちを見てくれて子供達が喜んでくれてるなんて……』 あぁ……うん、良かったね。

 

取り敢えず聞こえてくる生徒と人外の声を流しつつ、自分のクラスを確認すると……

 

 

「おぉ、佑と一緒だ」

 

 

よっしゃぁぁぁぁぁ!!!

 

 

『良かったわね、これで腫れ物扱いじゃなくなって』

 

「あぁ! よろしくな悟。それに他の奴らも面白そうだぞ」

 

 

本物の神よ! ありがとう! ……フォンちゃんの声を無視しつつ、佑と話し合う。無視した事によって、頬を膨らませてるフォンちゃんだが、勘弁してくれ。ここいっぱい人がいるんだよ。

 

 

しかし、他の奴らも? どういう事だ、と思いクラスの名前を眺めると…… あぁ、確かにこりゃ騒ぐか。

 

まずはこの人、岸城 聖良(きしじょう せいら)。イギリスからの帰国子女に加えて、確かハーフ? クォーター? どっちか忘れたけどそうだったはず。女性の髪型には明るくないが、綺麗な金髪をアップにしている女生徒。お淑やかでお嬢様……かと思いきや、正義感溢れる行動と毅然とした立ち振る舞いで、かなりの人気を誇っている。

慕う生徒はもちろん多く、時期生徒会長候補と声を上げる生徒もいる。あと美人……話した事ねぇけど。

 

次に親友こと深草 佑。まぁ、俺と付き合っている時点でどんだけ気のいい奴かは言った通り。あとイケメン、説明不要。

 

そんで、喧嘩っ早い上にめちゃくちゃ強いと噂されている女生徒、柊 まひろ。名前こそ可愛いが、その外見からは想像し難い鋭い目つきに、似合わない言葉遣いなんだけど……すぐに素が出るのが特徴。黒髪を後ろで束ねていて、見た目は目以外可愛く、一年の最初の頃こそ人気だったが、まぁ今は俺とは違う意味で基本的に一人でいるらしい。……こいつとはちょっとした縁がある。ちなみに、噂以上に喧嘩は強い、まじで。

 

最後に、樫原 扇(かたぎはら おうぎ)。身長190はある筋骨隆々としたその体に、ヤがつきそうな人達の様な強面な人相。お前まじで日本人かよ、とまで噂されてる大男だ。柊 まひろとどっちが強いのか、対面した時には戦争が起きるのではないかとさえ言われている。言われているのだが……扇と俺は一年の頃同じクラスで、こいつとは話したことある。互いに多くは話さないが、だからこそいい。佑以外で一緒にて楽……まぁ佑とこいつしか普段からよく話す奴いねぇけど(例外は除く)。ちなみに喧嘩はした事すらないほどの優しい奴。

 

こんな四人がいれば、慣れはしても飽きる事はまずないだろう。てか佑は人気でしょうがないけど、扇が居てくれてほんと助かった。これで一人じゃない……一緒にいて互いの相乗効果によりヤバさが際立つかもしれないが。

 

 

『誰に説明してんのよ。それに何でもっとやばい奴が含まれてないのよ』

 

「悟、それはツッコミ待ちか? もっと目立ってる有名人いるじゃん」

 

 

え、君達仲良いね。佑もフォンちゃんの言葉聞こえてないのに、すかさず突っ込んで来るなんて……そこには触れないでほしい。

 

 

御心 悟(みこころ さとる)。中学からの奇行と合わせて、高校でマシにはなったものの未だ健在。例えばクラスで授業中、先生に怒られた事の言い訳で筆箱が開かないとか意味不発言。その後、思いっきり『おやっさん! 勘弁してください! 』 と謝罪したと思ったら、筆箱が勝手に開くという手品を披露した……とかね。他にも飼育小屋ダンス事件とか色々。

何に驚いたかいきなり奇声を上げるとか、一人でいる時に、ブツブツ何か呟いたりしてるめちゃくちゃ変人の頭やばい奴。けど手品だけは上手いからそこは評価されてるという」

 

 

……筆箱事件、あったなぁ。ちょっと買い換えるか迷った時に無意識に呟いたらあれだよ。しかも、その後は手品と勘違いされるし大変だった、結局怒られたし。飼育小屋事件? 嫌な事件だったね。奇声をあげるとかおま、いきなり理科室の人体模型から話しかけられたり、合唱練習の時、中庭の草や花がノリノリで歌い出したらどうするよ。びびるだろ? 人体模型いい奴だし、草花の歌はめっちゃうめぇし。

 

 

「……さっさと行こうぜ」

 

「ごめんって悟! 悪かったって!」

 

 

俺の話になると、面倒くさいと言うか、気落ちするというか、諦めてる。まぁ現状に不満なんて……いや一つだけ不満はあるな、しかし今話すべき事じゃない。と言うわけで、話は終わりにしてクラスに向かう。

 

 

「…… ま、手品うんぬんは置いといて、それだけじゃないんだけどな、評価されてんの」

 

「……因みにどんな?」

 

「聞こえてんのかよ。まぁそれはぼちぼちな」

 

「あぁ……嫌な予感しかしない」

 

『……残念ね、諦めなさい』

 

『顔を上げてください、悟様』

 

 

後ろで苦笑をしているであろう佑と顔を背けているフォンちゃんと鞄の言葉で、まぁいっかと気分を入れ替えて再びクラスへと足を進めた。

 

 

 

 

 

長ったらしい校長の話と共に始業式が終わり、このHRが終われば帰れると言うところでなんと先生からビッグニュースがもたらされた。

 

 

「それとな、実は今日から転校生がこのクラスへ入る事となっている。男子は喜べ、可愛いぞー。女子は仲良くしてやってくれ、ちょっと世間には疎いらしいからな」

 

「よっしゃぁぁあああ、女の子とか!」

 

 

男子の野太い声と、それを白い目で見つめる女子達。しかし、こんな時期に転校生とな?

 

 

「……喜べとは言ったが、怖がらせるなよ?」

 

 

先生の一言と共に、男子は静まり返る。新子千代(あたらし ちよ)先生、今年の担任である。腰下まである黒髪にすらっとした体型で一部の男子生徒から人気……一部? ハハッ、絶壁だからしょうが

 

 

「……御心、次は無い」

 

 

突如として、体へナイフを突き付けられているような錯覚に陥る。

こっわっ! 何でわかったの? とまぁ、ちょっと男勝りなところがあるが、生徒に親身になってくれると言う、評判のいい先生だ……ちなみに噂では、女子からもかなりの人気を獲得しているらしい……

 

俺? 多分だけど普段からヤベー奴扱いされてるから警戒してるんじゃね? ほら、今ので男子諸君が転校生を守らなきゃとか言ってるじゃん……別に興味は無いよ? ほんとだよ?

 

 

『アンタ、噂ばっかりね』

 

 

うっせ、話す奴が少ないからしょうがねぇだろ。

 

「千代ちゃーん、早く紹介してよぉ〜」

 

「柊……名前でちゃん付けはやめろと」

 

「いいじゃんいいじゃん、みんなも呼んでるし」

 

 

柊……ほんとその鋭い目つきのせいで、その猫っかぶり全く似合ってねぇからやめとけ……ほら、男子ちょっとビクって震わせてる奴いるじゃねぇか。何したんだよ。

 

 

「全く……あぁ、それと紹介した後、早速席替えだ。その方が盛り上がるだろ?」

 

 

その一言で、静まっていたクラスがもう一度盛り上がりを見せる。やったぜ、クラスの中央とか色々な意味で嫌だったから助かる。これで窓際辺りに行ければ楽勝だぜ。ん? クラスのイケイケな奴らが集まる定番な場所? 俺が居たらこっちこねぇよ。

 

 

『何悲しい事を自信満々に言ってんのよアンタは……それより』

 

 

肩に乗り続けているフォンちゃんから、鋭い攻撃ならぬ、口撃を受けショックを受けつつ、フォンちゃんが付け加えて一言言った。

 

 

『なんか……凄いのがそこにいる気がする』

 

「凄いの?」

 

『えぇ、何となくだけれど……』

 

 

小声で会話しつつ、よく分からないことを言うフォンちゃんに、疑問を抱きつつ、考える。凄いのって……転校生の事だよな、多分。なんだ?

 

 

「そんじゃー呼ぶから、お前達静かにしろ〜……よし、じゃあいいぞ、入ってこい」

 

 

新子先生がそう言うと、ゆっくりとドアが開く。そして、一人の女生徒が姿勢正しく入ってきた。

 

 

「……なるほど……」

 

 

確かにすげぇ。いやまて、男子には目に毒だろ。腰下くらいまである黒髪ポニーテール。身長はそれ程高くなく、女子生徒の中でも真ん中より下くらいか?……問題はそこじゃない。豊満な胸に、引き締まった腰のラインからの中々に安産型なお尻。……クラスに入ってきた時に、横から少し見えたうなじ、ポイント高いですね。本人は姿勢は正しくても、もの凄く緊張しているのがわかる。結論、エロい。

 

 

『サーッ!!』

 

 

ゴッッッ!!!

 

 

転校生に見惚れていると、掛け声と同時に頭の横で何かが動いた。その瞬間、思いっきり後頭部に衝撃が走り、そのまま額が机に直撃する。転校生が入ってきた事により、静まっていたクラスメイト達の視線が全て俺の方へ向く。

 

 

『……鼻の下が伸びてた。変態、ド変態、見かけたばかりの女の子に欲情するゴミね。そう言うの女の子は敏感なんだからやめなさい。ほんっとうに最悪……なんでこんなのが相棒だなんて』

 

 

そう、フォンちゃんが鮮やかな回し蹴りをぶちかまして来やがった。

……すみません、確かに見惚れてたかもしれません。しかしこんな仕打ちします? めちゃくちゃ後頭部とおでこ痛いんですが。 周りからの視線も痛いんですが。

 

 

「……また御心お前か…… 気にしなくていいぞ、その男子がおかしいのはいつも通りだ。自己紹介をしてくれ」

 

 

周囲の生徒達は怯えるようにこちらを向き、気を取り直して新子先生が転校生に話を振っていた。

 

……転校生を見ると、目を見開いて何かに驚いているようだった。先程感じられた緊張感は、そこにはなかった。

 

 

「どうした?」

 

「い、いえ! なんでもありません!」

 

 

転校生はハッと気を取り直し、改めて自己紹介を始めた。

 

 

「えぇっと……霧島 萩乃(きりしま はぎの)です。修行の一環として、鹿児島から引っ越してきました。あぁ! 修行というのは、家の事で……その……よろしくお願いします」

 

 

……うん、取り敢えず凄い所から来たんだな。あまり人前で話す事が得意ではなさそうというか、慣れてなさそう。

 

しかし、前半のはっきりとした口調と、後半のおどおどとした挨拶、そして生真面目そうで、優しい雰囲気を感じた男子達は明らかにテンションが上がっているのが見える……絶対それ見た目も影響しているよね?

 

 

「……まぁいいか、質問は後で自由にな。そんじゃ席替えをこのまま始める。霧島の近くになった奴はよろしく頼むぞ」

 

 

生徒達の興奮は冷め止まぬまま、席替えの準備へ入る。仮の席に座っている霧島さんの近くにいる奴らは、席替えよりも今がチャンスとばかりに彼女へ話しかけているが……慣れてないのか、緊張しているのか、上手く話せてなさそうだ……と思いたい。何故なら彼女は、周囲の話を聞いてるようで、隙あらば俺の方を見ているような気がしたからだ。

 

 

『あの子……いや、まさかね』

 

 

そんな不穏な事、呟かないでくださいよ、フォンさんや。

 

 

 

 

 

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