現代の魔法使いが通う学園、破軍学園。
そこには問題児が二人いて―――?

『すいません、持ち主チェンジで』
「すいません、武器チェンジで」

俺の木刀、なんか喋るんですけど。

銀魂と落第騎士の短編クロスオーバーです。
長文ですが温かい目で見てください。

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クロスが書きたかったんだ。
そして書いたんだ。
見直すんだ。

どうしてこうなった?

いつ消されるかわからないので早めに見る事を薦めます。


糖分夜叉との英雄譚

 伐刀者(ブレイザー)

 

 己の魂を武器に変えて戦う現代の魔法使いが存在するこの世界。

 その養成学校である破軍学園という学舎があり、そしてそこには二人の問題児がいた。

 

 

 ……はーい、俺だよ。俺。

 

 俺はそんな二人の内の一人である、二年一組の河下 玄明(かわしも げんめい) だ。

 

 少しだけ自己紹介しよう。

 

 外国から来る生徒もいるこの学園、名前でわかると思うが俺はバリバリの日本生まれの日本育ちだ。

 

 黒髪で黒目なので、特に紛らわしいこともない。

 ただ少し名前が古い感じがしてあまり好きじゃない。なので周囲からは俺を『ゲン』と呼んでくれたらいいなと思っている(願望)。

 

 

 もう一人は後で紹介するとして。

 まぁ、俺の話を聞いてくれない?

 

 

 

 

 ──―新学期も始まり、和気あいあいとする教室。

 その隅で、一人の男の声が聞こえる。

 

『ったく……皆ウキウキして浮き足立ちやがって、初デートかっての』

 

 その声は気だるそうに、談話するクラスメイトにそう言った。

 

『言っておくけどあれだかんな?初デートで待たされて待ったぁ?うぅん、今来たとこだよ~──―とか、あれ楽しいの最初だけだからね?二回目以降は時間通りに来ないとただのサボリだからねこれ。むしろ早く来ないとか喧嘩の火種になりかねないから』

「「「……」」」

 

 クラスメイト達は流石に無視できなかったのか。

 全員の微妙な視線が、俺の側にある『ソレ』に移った。

 

『え、なにこの空気?俺が悪いの?知らないよ、このウキウキをテイクアウトしてノリで男女付き合った結果「あっ、やっぱりあんまり可愛くないなコイツ」ってなって、でも今後の学園生活がギクシャクするものあれだからってもう大して好きでもないのに中途半端に別れられないカップルが出来ても』

「…………」

 

 なんかこう、上から目線で初々しい気分を台無しになることを悪怯れる事もなくツラツラと話す。

 

 ──―ちなみにソレと付き合いの長い俺だからわかるが、これは経験からの忠告ではなくただの嫉妬である。ジェラシーなのである。

 

 単に和気あいあいとして、これからの新しい学園生活に期待を寄せている生徒達の出鼻を挫こうとしているのだ。

 

 一言でまとめてクズい『ソレ』は、更に言葉を紡いだ。

 

『まぁな、要するに何が言いてぇかというだな──―ギャーギャーギャーギャー喧しいんだよ!発情期ですかこの野郎ォ!!』

「──―いや喧しいし恥ずかしいのお前ェ!それ言いたかっただけだろ!?」

 

 俺は我慢できなくて、机の横に立て掛けた(………………)ソレに叫んでしまった。

 

 ──―『誰』にではなく『ソレ』に。

 己の魂を武器にする抜刀者の、唯一無二の得物にだ。

 

 抜刀者の『固有霊装(デバイス)』とよばれる武器。

 

 それは、その人の研鑽をも示す。

 それは、その人の生き方も表す。

 

 ──―そんな()の得物に、である。

 

 

 あぁ、そうだよ。

 みんな、聞いてくれないか?

 

 

 

 

 俺の木刀、なんか喋るんだけど。

 

 

 

 

 

 

 ──―俺の得物『銀時(ぎんとき)』との出会いは、子供時代に遡る。

 とはいっても、特に深い過去ではない。

 

 

『──―オメーが俺の所有者(マスター)か?』

「違わないけどなんか違う!?」

 

 

 顕現したら霊装がこれだったというだけの話だ。

 

 

 伐刀者の魂を具現化した装備が固有霊装だ、武器の形は剣だったり鎧だったり多様だが、俺の場合は刀だったというわけだ。

 

 話している内に俺はコイツを『銀時兄さん』略して『銀兄(ぎんにぃ)』と名付けたわけなのだが。

 

 ──―でもなんで木()

 

 小学生のお土産じゃないんだからさ?いや、確かにいつでも心は少年だけどさ?でもこれは別じゃん?

 

 武器としてどうなんだこれ。どちらかというと鈍器みたいな感じだけど、なんやかんや頑丈だしコレ。

 

 ……まぁ。木刀な点は、百歩くらい譲っていいとするよ。

 

 ──―で、なんで喋るのコイツ?

 

 ただの頑丈な木刀なら、まだ何とか出来たかもしれない。精神的に。

 しかし喋る上に性格がこんなんだ、黙っていろと言って黙るものじゃない。

 

 なんか、消そうとしても消えないしね銀兄さん。

 普通の固有霊装は任意で手元に呼んだり消したりできるのだが、俺のは何故か出来ない。

 

 むしろ常に銀兄が側にいたから、学園にくる今の今まで自由に出し入れできないのが普通だと思ってたからね?出しっぱなしだと思っていたからね?出しっぱなしってなんかエロくない?(唐突)。

 

 ならば家に置いておけばと思うかもしれないが、ある距離を越えると何故か磁石のように返ってくる。

 

 というわけで、俺は基本腰に挿すか近くに立て掛けるようにしている。出来るなら今すぐにでも黙らせたいのに。

 

 昔にも一悶着あったが、今は基本クズくて煩い話し相手くらいの位置関係に落ち着いていた。慣れって怖い。

 

 

 ──―そして時計は進み、現在に戻る。

 

 俺と銀兄は食堂にいた。

 

「ねえ」

『ん~?』

 

 食堂で飯を待つ時間潰しに返ってきた気怠そうな声に、俺は青筋を浮かべる。

 

「…………予想はしてたけど、今日も昼まで誰も話し掛けてこなかったんだけど?勇気だして話し掛けてもガン無視されるんだけど?」

 

『それは…………あれだろ?オメーが臭いんだろ』

「あのカレーの鍋に突っ込んでやろうか?」

 

 ガシリ、とやり投げのような持ち方をしながら俺はそう脅した。その先にはグツグツと煮込まれた食堂のカレー鍋がある。

 

 あ、ラーメンにしたけどカレーも良いな。

 なんて事を思っていると、木刀は騒ぎ始めた。

 

『おい間違ってもあんなコクのある鍋に入れるんじゃねぇよ?臭いがついたらとねぇぞ?せめて突っ込むならワ◯メ酒に──―』

「うるせぇよ!あと息をするように下ネタやめろ!」

 

 純粋な生徒がいて下のネタの意味がわからずに「何それ?」なんて聞いたら中々に気まずいことになる。

 子供の頃にそういうネタだと知らずに親に聞いてしまった的な気まずさをこの歳で体感してしまうのだ。それは避けねば。

 

 勿論、入れはしないけどさ。

 迷惑だしカレーに入れた後で手入れすんの俺だもの。

 

 まあ、最悪我慢できなくなったら怪談ラジオでも流して黙らせるんだけど。俺も得意じゃないから最終兵器ねこれ。

 

 そうこうしている間に、料理が来た。

 ラーメンの乗った盆を受け取り、席に座る。

 勿論、近くには誰もいない。混雑する時間のはずなのにおかしいものだ。

 

 それもこれも全て銀兄のせいだ。

 

 基本銀兄には何してもダメージはゼロなのが恨めしい、そして寂しい。シンプルに寂しい。

 

 俺は机に突っ伏した。

 

「──―うぅ、どうすんだよ?あんだけ黙っててくれって言ったのに!?俺の平和な新学園生活を返せッ」

『オイオイんなこと気にすんなよ、デビューしようとして雑誌を読んで真似て似合わないのに髪短くしたやつ、あとボッチだと諭されないために休み時間基本机に突っ伏すやつ。後無言キャラで本を読んでいるやつ……ほら、何事も無くて平和だろ?』

「いやそれ今までの俺!誰かさんのせいで滑りまくって一人に慣れそうになってた俺!軽くショックで一年のときに不登校になりかけたわ!!アァァこのままだと孤独死するゥ!こんな木刀と共に死んでいくなんてイヤだ!」

『安心しろよ、死んだら死神になってソウル◯サエティで新たな人生が始まるから。卍解出来るよう修行しとけよ?俺も見ててやるから』

「いや現状を変える努力しようぜ!?アンタが一緒だと卍解でも挽回できねぇからつーか死後まで付いてくる気マンマンかよこの木刀!!」

 

「──―アハハ。相変わらず仲良いね二人とも」

 

 食堂でギャアギャア叫んでいると、声が聞こえた。

 

「『!』」

 

 俺と銀兄が振り返る(疑問)と、そこには見慣れた顔が。

 黒髪でしゅっとした体型、人当たりの良さそうな制服姿の男子生徒。

 その好青年を見て、俺は思わず彼の名前を呼んだ。

 

「おい黒鉄(くろがね)、聞いてくれよ!この銀兄(バカ)がまた俺の学園ライフの邪魔をするんだ!」

「銀さん。ゲン君が可哀想だから控えてくださいね?」

『うるせぇ黒坊、このチェリーが悪い。どーせ邪魔しなかったらしなかったで女の話一つないんだからな』

「──―なぁ黒鉄、これを地面に刺して数年経てば枝でも生えて何かの実がなるかな?桜の木になるかな?」

「いや、ゲン君の固有霊装だしやめた方がいいんじゃないかな……?」

 

 黒鉄は俺と銀兄のやりとりに再び苦笑する。

 

 この学園のもう一人の問題児、黒鉄 一輝(くろがね いっき)

 

 顔が整ってるのは少し気にくわないがとてもいい奴だ、俺の数少ない話し相手と言ってもいい。

 あまり触れないようにはしているが、訳有って一年の時に留年している、学年だけで言うなら今は後輩だ。

 

 その訳というやつも俺の木刀とは比べ物にならない障害、権力とか家柄とか大人の事情を挟んだどす黒いものだ。

 問題児扱いされて孤立しているのも、本人のせいというよりその背景のせいなのだが。

 

 やはり人間、群れの方につきたがるというか。

 周りからの評価は決して高くない。

 

 それに所詮俺には応援することしかできない、ならば普通に友人として接しようと、俺は決めていたのだ。

 

 惨めだが紛れもない事実でもあった。

 

『かぁー、つくづく思うがこんな主人公気質なやつもいたもんだぜ』

「おい本気で折るぞこの野郎」

 

 すると、やはり不粋に首を突っ込む男がいた。

 首ないくせに、流石に腹立つぞそれ。

 

「ま、まぁまぁゲン君。落ち着いて、僕は気にしてないから」

「けどよ──―ん?」

 

 俺をなだめる黒鉄の背後から、麺類であろうお盆をもった生徒がこちらにくる。

 

「──―ねぇイッキ、置いてかないでよっ!」

 

 女子生徒だ。

 見覚えがないので新入生か転校生だと思われる。

 

「『っ』」

 

 俺達は息を飲んだ。

 誰だあの赤髪の女子生徒。可愛いかよ(確信)

 いちいち揺れる胸でかいなオイ(ゲス顔)

 

『おっぱいでけェなオイ』

「それな──―おい黙ってろ銀兄、枯れていた俺の青春来るかもしれないんだから」

 

 そう言いながらも、俺の視線は彼女からはずさない。

 

 え?可愛いマジで可愛い。誰この子。

 こういう子と付き合いたいよな、顔も整ってるしプロポーション抜群だし。

 

 銀兄もお気に召したようだしな、素行がよくない女子生徒に『オメーに足りねぇのは胸の器量とボリュームだな』とかいって何故か俺にビンタが来たのは悪い思い出である。

 

 思い出に浸っていると、黒鉄はにこりと笑った。

 

「ごめんステラ、久し振りに友達がいたから先に行っちゃって」

「友達……って?イッキの友達!?友達いたの!?」

「酷くないかな?」

 

「『ッ』」

 

 ──―俺たちは戦慄した。

 

「銀兄……今の聞いたか?」

『おう、既に名前を越してアダ名で呼ばれてやがる……!!冬を通り越して氷河期来てやがるぜ!』

「本当に二人とも仲良さそうだな──―待って、氷河期とかそれ俺の青春の話?いつ明けんの?」

 

 四季どころじゃねぇじゃん、明ける頃には老衰するよ?

 

「つーか、こんな生徒いたっけ?」

「ステラは一年生だよ」

「……はい?にしてはずいぶん黒鉄と仲良くないか?」

 

 すると、大分間を置いて黒鉄に視線を反らされた。

 

「…………色々あったんだよ」

 

「銀兄」

『おう』

「これあれじゃない?なんらかの手違いかなんかで男女のクセに部屋とかも一緒とか隣なパターンじゃないこれ──―知らないけど」

『しかもその前に少年マンガあるあるの決闘とかして認めあったんじゃね──―アプリに移行したから最近のは知らねぇけど』

「拗ねるなよ銀兄、終わる終わる詐欺からちゃんと完結したんだからいいだろ?」

『え?マジで?お前の発言も大丈夫?つーかこの発言も大丈夫!?』

 

 割りと大丈夫じゃないかもしれない。

 

「『──―つか、マジに主人公じゃねぇかッ!!』」

「……ねぇイッキ、何この失礼な奴と木刀」

「あー、僕の友人の河下君とその霊装の『銀さん』だよステラ。ちょっと……?変わってるけどね」

 

「イッキの、友達ねぇ…………え?腹話術とかじゃなくて霊装が喋ってるの!?」

 

 ステラさんは驚いて丸くした目で俺達を見る。

 特に銀兄を、やはり人語を話す霊装は相当珍しいらしい。

 

 …………つーか逆に今まで俺が腹話術で自分の得物と会話しているような奴だと思われてたの?それも中々ヤバくね?

 

「おうよ、いつもイッキ君がお世話になっております。河下玄明彼女募集中ですよろしく」

『あ、どうも。銀時です、ねぇ実は俺チョコで出来てるんで咥えてみない?』

「燃やすぞ鈍ら」

 

 ま、二人の仲が良いのはいいことだ。

 彼氏彼女うんぬんは知らないけど、黒鉄に親しい人が増えたのは喜ばないとな!

 

「ステラ・ヴァーミリオンよ。イッキの下僕なんだから」

 

「『──―は?』」

「ちょ!?ステラ!?」

 

 親しくなかったわ。

 色々段階すっ飛ばして大気圏越えてたわ。

 

『全然少年誌じゃねぇな、どっちかっつーと大人の絵本じゃねぇか』

「黒鉄…………いつの間にそんな異世界転生的の主人公的な展開に」

「いや、それは違──―聞いてくれないかな!?お願いだから!!」

 

 必死の黒鉄の弁明により、一応誤解は解けた。

 どうやら、変なプライドがある色々早とちりしたりするステラさんに問題があるらしい。

 

 でも、案外恋人関係というのは間違いでもなさそうな気がするんだけど。

 

 ここは友人としてアドバイスしてやるべきだな。

 してやるほど経験ねぇけどな、ハッハッハ…………ハァ(悲しみ)

 

「まぁ黒鉄、男女関係はうまくやれよ?後悔してもしらねぇぜ?」

「う、うん。ありがとう」

『桐原のガキンチョに騙されかけた奴が良く言うぜ』

「…………」

 

 ──まさかの、自分の得物に痛いところを突かれた。

 

 ステラさんが覗き込むように銀兄を見る。

 

「そうなの?」

『おうよ。黒鉄と仲良くしていたら、桐原のツレの女にハニートラップかまされて、ひょいひょいと付いていこうとしたりしてな』

 

 ステラさんの一気にこちらを見る目の温度が下がった。

 

「最低……」

「──―待って、なんなら銀兄は媚売って桐原に取り入ろうとしてたよね?ちゃっかり責任俺に全部押し付けようとしてるよね?」

『しかも、コイツシンプルに頭が悪すぎて困るんだよね。ノートも暗号レベルにグチャグチャだし。授業に参加できなくてノート見せてもらってた黒鉄も苦労してやがるぜ』

「ち、ちげぇし…………!?書く時間よりも頭の中で復習する時間に当ててるだけし?そういうタイプなだけだし?」

『赤点ギリギリのお前がよく言うぜ、脳ミソ総出で思春期だろ。頭は常に春がやってきてるくせに』

「頭も目も口もないお前に言われたくねぇけど!?いつも思うけどどこから見て聞いて考えて喋ってんだよ!?」

 

 どれだけ言っても、ステラさんの軽蔑の視線は変わらない。

 

「なにそれ。バカで女に弱いとか、イッキの風上にも置けないわね」

 

『だよなぁ~?ホント、こんなのが持ち主とか俺可哀想じゃね?』

「──―ねぇ、銀兄って仮にも俺の霊装だよね?俺の魂の結晶だよね?何で持ち主の魂削りにきてんの?風上に置かれてないのに風当たり強くね?ライフゴリゴリ持ってかれてんだけど」

 

 ちゃっかり美人には自分の得点を稼ぎに行く、ゲスい己の得物にシンプルに怒りよりも悲しみが勝っているのだが。

 

 しかも、桐原の件は(何かのせいで)恋愛に疎く純情な俺に恋のアドバイスまでしてきて俺をその気にさせたり、テストだって手元から消えないのをいいことにブツブツと邪魔ばかりされている事を隠してやがる。

 

 ──―あれ、俺コイツ一回へし折っても許されない?

 

 どうせ霊装って再生するんでしょ?何か精神的にダメージくるって聞いたことあるけど構うものか。

 

 俺は俺の精神を弱らせていいからコイツ(俺の精神)をへし折りたいんだけど──―あれ?なんだこの状況。

 

「ちくしょう!黒鉄ェ!お前ならわかってくれるよな!?」

 

 俺は助けを求めるように黒鉄を見る。

 すると、気まずそうに苦笑して頬を掻いて、言った。

 

「うん。ノートありがとう、無いよりは断然マシだったよ?」

 

「どォじでだよォォォォ!!!(映画カ○ジ風)」

『──―黒坊、それ慰めてないから。なんならその言いがたが一番キツイから』

「ご!ごめんよゲン君!」

「えぇい触るな主人公め!!そのまま優しくして俺をやがて出来るハーレムの一行にしてヒロインの親愛度を教える無駄に人脈が広い友達ポジショ──―俺の人脈毛穴も広くないじゃんかチクショォォォ!!」

「うん勝手に盛り上がって盛り下がらないでくれるかな!?」

『ダァーハッハッハ!!バカだコイツ!自爆してやんの!』

 

 俺の相棒は、俺が凹んでいる姿を見て大爆笑していた。

 

 いや、ホントなんなの?

 

「もうやだ……もういい、リスカしよ……」

『──―え、待って。お前の霊装である俺にも万が一があるしそれは困るんだけど。リスカじゃなくてマリカしない?ほら、一緒にやってやっから』

「銀兄手ェ無いじゃん……ボッチのマリカとか余計に虚しくなるだけじゃぁん…………」

『バッカお前、アドバイスくらいならしてやるって。桃姫って実は亀の王に気があるって、アイツ実は配管工に飽きてるんだよ。じゃなきゃあんなに拐われ──―』

「いやそれ何のアドバイス?赤い配管工に謝れ」

 

 せめて青甲羅がタイミング次第ではキノコの加速で回避できる位のアドバイスくれよ。

 

 俺たちのやりとりを遠巻きに見て、黒鉄は苦笑いを浮かべていた。

 

「本当、あの二人といると退屈しないなぁ……あれ?ステラなにその顔?」

「ハーレムって…………?いやぁ、そう言えば妹さんから大分スキンシップを受けてるなぁって?その時のイッキ、満更でも無さそうだったわよねぇ?」

「え、いや。嘘でしょ?目のハイライトが無いよステラ?ステラ、さん…………あっ、ァァァァァァ!!!」

 

『河下玄明君、二年の河下玄明君。理事長がお呼びです、理事長室へ──―』

 

 絶叫と共に放送が、全校に響いた。

 

 

 

 

 

「失礼します」

「あぁ、入れ」

 

 俺がドアを開けると、部屋の奥には一人の黒髪の女性がコーヒーを片手に立っていた。

 

「──―神宮寺理事長、用件ってなんですか?」

 

 彼女は神宮寺 黒乃。この学園の理事長である。

 同時に、俺に色々便宜してもらっている恩人でもある。

 ちなみに彼女も抜刀者であり、相当な実力者で有名だったらしい。

 

「掛けたまえ、飲み物はコーヒーでいいかな?」

「砂糖マシマシでお願いします……それで何の用ですか?」

 

 彼女と対面するようにソファに座ると、彼女は凛とした声で言った。

 

「いつも通りさ、君や君の腰にあるソレの様子の報告だ。最近また上が煩くてな」

「…………あぁ」

『ったく、人気者ってのは辛いねェ』

 

 ──―常時人語を話せる固有霊装と、その抜刀者。

 世界的にも例を見ない俺達の存在はかなり稀少で、本来なら学園など通える立場ではないらしい。

 

 しかし、理事長達が「年相応の教育や団体における協調性、及び自分に置かれた特殊性を学ぶには学園に通うのが最も効率がよい」といういかにもな名目(……)で俺は学園に通うことが許可されているのだ。

 

 

 まぁ実際、子供の頃からメディアなりお偉いさんなり色々と凄かったけど。その話はまたいつかしよう。

 

 今は定期的に体や銀兄の状態を報告する形で済んでいるのだ。今は大々的は報道されることはなくなり鳴りを潜めたが、いまだに銀兄の存在には色んな説が出ている。

 

 コーヒーを啜っていると、理事長が言った。

 

「そういえば、最近では銀時という名前からもしや過去の人物の霊魂が何らかの原因で河下の霊装に憑いたのではという可能性も出ている」

「?」

『?』

 

「……つまり、銀時というのは実在した人物だということだ。彼が死亡した後にその魂がなんらかの影響で河下の木刀として顕在したのではという話だ」

 

「銀兄が、ですか?」

『成程な…………それなら俺が話せるのも納得がいくと?』

「あくまでも考察の一つだがな。しかし銀時、肝心の君には記憶がないんだろう?」

『そだな…………いや、記憶はあるぜ?あるんだが、なんつーか、ど忘れみてーに咄嗟に出てくるっつーか』

 

 その発言に理事長はフムと、鼻をならした。

 

「そうか。まぁ、あまり期待はしてないさ…………この説も数あるなかの一つだ…………そういえばこれは河下の絵が元になって提唱されたな?」

『絵?そりゃなんの話だ』

 

 理事長に言われて、俺は思い出す。

 

「あぁ、銀兄がもし人間だったらどんな感じなのかなーって絵を描いたんだよ。暇潰しでだけど」

「それを一応参考として上に挙げたんだ。それが思ったより好評だったらしいぞ?」

「アハハ…………」

 

 ソレを聞いて俺は苦笑する。

 絵は少し自信があったが色んな人に見られていると思うと恥ずかしいものがある、暇潰しのつもりだったのだが。

 

「ちなみに、これがお前の描いたものを参考にしたプロのデザインだ」

 

 そういって理事長は一枚の紙を見せてくれた。

 そこにいたのは、身長は百八十はあるだろう長身の男だった。

 

 白が基調の着物を着ており、首と顎が繋がっているかのように太く、瞳は生気もやる気も無く、おでこには鼻くそみたいなホクロのある白髪オカッパヘアーの男性だった。

 

 なんというか、一言で表現するとナマズみたい。

 

『いや誰だコイツゥ!?少なくともこんなブスじゃねぇよ!?』

「そうか?これも思ったより好評だぞ?アニメ化も考えられている──―メディア化する場合、私はこれを『チン時』と名付けたがな」

『アニメ化!?しかも名付け親アンタァ!?』

 

 今までにないほど銀兄が叫んでいる。

 

「そうです先生!いい加減にしてくださいよなんですかこの絵。俺が描いたのとは違いますよ!」

『そうだそうだ!もっと言ってやれ!』

「俺の想像ではもっと目が死んでるんですから!」

『──―いやそっちィィィィ!!?』

 

「……そうなのか?」

「えぇ、それはもう目だけザキを掛けられたばりに死んでますよ。あくまで予想ですけど」

『そこじゃねぇだろ!?いやそこもだけど名前ェ!?』

「由来か?チン○のチンにチンポコのポコだ」

『それただのチン○!由来聞いてる訳じゃねぇんだよ!?つーか《時》がどこにもねぇけど!?◯にも隠されてないんだけど!?』

「そうか。あと違うぞ河下、目は二つだからザラキだ」

「ハッ!」

 

『いやクッッソどーでもいいんだけどッ!?すいません!誰かこのバカ達にザラキ掛けてくださいッッ!!』

 

 

 

 

 

 

「──―まぁ、理由は承知していると思うが二人とも狙われている身だ。気を付けろよ?」

 

 一悶着あったものの、

 その言葉を最後に俺達は理事長室を後にした。

 

『認めねぇ、んなもン認めねぇぞ俺ぁ……』

「まだ言ってるのかよ銀兄?そんなに不満か?漫画とかでたまにみる、キャラ付けの為に描いたのに編集者によっていつの間にか消されたゴーグルみたいなものだろ」

『全然違うわ。つーかバイク走るときは掛けてる…………ん?』

 

 時計は、既に昼休みが終わりそうな時刻を指していた。

 俺が教室に戻ろうとすると、声をかけられる。

 

「やぁ、河下くんじゃないか」

「…………桐原」

 

 爽やかスマイルでこちらに歩み寄ってきたのは、俺と同じクラスの桐原だった。

 いつもは女子を侍らせているが、今日は一人らしい。

 

「なんだ?なんの用だよ。珍しく一人じゃないか」

 

 フラれたか?ざまぁみやがれ。

 すると桐原は肩をすくめ、しかしニタリと嗤う。

 

「なんだとは酷いな?君を紹介してほしいって女子生徒がいたから話に来たのに」

「なんでも申し付けてくださいセク原様」

「いやセク原じゃなくて桐原だから」

 

 その瞬間。

 俺は奴の前で片膝をついていた。

 

 すると、腰に挿していた銀兄が嘆息を漏らす。

 

『おいおい。オメーはまた繰り返すつもりか?ったく学ばないねぇ』

「銀時だったかな?君にも用があるらしくてね。一応、君にピッタリな鞘も用意してあるらしいよ?」

『なんでも申し付けてくださいセクハラの人』

「セクハラの人って言っちゃったよ。桐原だからね?」

 

 彼は整った顔を歪めながらそう言った。

 

 ちなみに、彼の武器は弓だ。

 霊装により自分を透明にして遠くから矢を放つのが戦闘スタイル。

 正攻法かと言われたら微妙だが、武器が武器であるし、非常に強力な霊装といえるだろう。

 

 ちなみに桐原が勝てないと思ったら一切戦わない、その引きの良さもあってか『狩人』なんてアダ名が付いていたりする。

 

 ──―そして女にモテる、羨ましい。

 

「時間がないから手短に話すけど……相手は新入生のアリス・リリアントだ。外国からのお嬢様に見初められるなんて、すこし嫉妬するよ」

「お、おぉ……!!」

 

「場所は体育館裏、時間は放課後の十六時。じゃあ、僕は伝えたからね」

 

 そういってヒラヒラと手を振って消えていく桐原を見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労様です」

 

 ──―桐原が一人と一振りと分かれて教室に戻る途中、後ろから女の声でそう言われた。

 

 後ろから、通った道から。

 

「っ…………えっと、おかしいな。気配なんてしなかっけど?」

「貴方程度に勘づかれるなら死んだ方がマシです」

 

 額から一筋の脂汗が伝うのがわかる。

 桐原は、乾いた笑みを浮かべて振り返り、その女子生徒を見た。

 

 端整な顔に女性にしては短く切り揃えられた金色の髪。

 可愛いというよりは綺麗な顔立ちだ、毅然とした雰囲気が漂っている。

 

「…………」

 

 そんな彼女の後ろには、彼女と同じ髪と瞳の色の男子生徒が、まるで護衛のように一歩後ろで無言で立っている。

 

(二人もいたのか?おいおい、ふざけるな…………この僕が気付かなかったんだぜ?)

 

 仮にも『狩人』の二つ名を持つ桐原。

 弓使いに限らず背中を取られるのは致命的だが、特に警戒心が強い自負がある桐原が二人の人間の存在を気取れなかったのは本人が戦慄するには十分だった。

 

 しかし、女を前にした男としての教示か。

 なけなしの強気を振り絞り、動揺していないように振る舞う。

 

「そうかい。それで?これで良かったのかな?アリスちゃん?」

「怖気がするので次名前を呼んだら社会的に殺しますよ?」

「ひっ……そ、そりゃ恐ろしいね──―で、彼をどうするんだい?」

「答えて得がありますか?」

「…………」

 

 生意気だな、なんて思う余裕はない。

 とてもじゃないが、反抗できる雰囲気ではない。

 もはや桐原の仮面は剥がれかかっていた。

 

 少し前に、桐原は河下に屈辱的な思いさせられた。

 まぁそれも、桐原が不粋な事に手を出したせいなのだが。

 

 それを知ってか知らずか、目の前にいるアリスという生徒はこの二人が話を持ちかけてきて、復讐がてらその話には乗ったのだが。

 

 桐原は安請け合いしたことを軽く後悔していた。

 目の前にいる二人は、生徒の枠を優に越えていると。

 

 そして自分に気取られる事なく背後をとった時点で、自分に勝ち目などないとも。

 

「ご、ごめん。忘れてくれる?」

「……物分かりがよくて現金な人は嫌いではありませんよ。後は余計なことさえ話さなければ尚。では」

 

 既に興味はないと、吐き捨てるようにそう言って立ち去ろうとする。

 

「あー、ちょっと待って」

「?なんですか?これ以上邪魔するなら──―」

 

「い、いや。ひとーつ善意で忠告しておくけど」

「?」

 

 せめてもの反抗か。

 桐原はなけなしの笑みと共に、口を開いた。

 

「──―思った以上に出来るからね?アイツ等」

 

 

 

 

 

 知ってた。

 

 冬を越えると春が来るのと同じくらい知ってた。

 

 しかし、まだ俺には春は早いらしい。

 言われた場所に行くと、既に細剣の固有霊装を展開している女生徒がいた。

 

 敵意丸出しである。泣いていい?

 

「あれー……おかしいな。俺のファンがいるって聞いたんだけど」

『いや、俺のファンだろ』

「いや俺のね」

『いや俺だから』

「俺」

『いやいや俺の──―』

「お二人のファンですよ?それは間違いありません」

 

 そう言うと、背後に俺と同じ位の背丈の男子生徒が現れた。彼は片手剣に小型の丸い盾(バックラー)を両手に構えている。

 

 見るからに、逃がすつもりはないらしい。

 

「…………家族同伴とか聞いてないんですけど」

「軽口を言う余裕があるのか、それとも余程の阿呆か。まさか状況がわからないわけでは無いでしょう?」

 

 罠だった、それもけっこうベタな罠でした。

 ひょっとしたらとか考えたけどやっぱなかったわ。

 

 ──―あぁ、知ってたさ。

 そもそも新入生が、問題児の俺を何も無しに好きになるとかおかしいと思ったさ。

 でもさ?仕方ないじゃん?俺だって男だよ?

 

 俺の事を気になる女子がいるとか言われたら、そりゃあ気にもなりますよワトソン君。

 

 俺が絶望していると、彼女は口を開いた。

 

「貴方の霊装は貴方が思っている以上に価値があります」

「……」

「何故霊装が話すのか、何故意思の疎通が可能なのか。そもそも意思が何故あるのか──―持ち主の貴方を含めて、拘束してでも調べたいという輩が多いのですよ?それは世界単位で」

『そうかい、迷惑な限りだ』

「私の国に来てもらいます。返事は聞いてませんが──―抵抗せず降参するなら早い方がよろしいかと。私も、後ろにいる彼も、国に保護されている一生徒が対応できる強さではありません」

 

 俺は、少し戸惑いながらもなんとなく理解した。

 

「……おおむね、崩れかけの国とか家の再起とかか。随分と愛国心が強いんだな?言っておくけどこれでも人間だぜ?俺もお前さんも、そんな力があるとは思えないね」

「過小評価しすぎです。人は未知を求めな無知を恐れる生き物、貴方の価値は計り知れない」

 

 そう言って、彼女と後ろの男は得物を構える。

 

「私の家のために、犠牲になってもらいます」

「…………」

 

 ──うわぁ、やるしかなさそうじゃんこの空気。

 

「にしても、犠牲ねぇ……おおむね体の解剖とか?無理やり引き剥がされるんじゃないかな俺達」

『分けれるもんなら分けて欲しいもんだけどな』

「ホントだよ、痛くない方法でね」

 

 俺も銀兄を握り、構える。

 

「『だがまぁ、やめときなよ』」

 

 生徒ではなく、一人の剣士として。

 

「アンタらなんかじゃあこの愚痴製造鈍らの相手は三日で泣き言を言うね」

『この頑固糞餓鬼の手綱を握れるのは俺だけだね』

「…………」

『…………』

 

「『──―あ?やんのかこら』」

 

「いいのかなぁ?持ち主がなければロクに動けもしない癖に?頑丈なだけが取り柄なくせに!?手綱とか頑固糞餓鬼とかそーんな事言っちゃってさぁ!?」

『そっちこそ!俺がいなけりゃあほーんの少し強いだけのガキンチョが!?一人じゃあロクに女子とも話せないチェリー君が!?愚痴製造鈍らとかいっちゃっていいのかなぁ!?どーせだったらク○ウドみたいな奴が持ち主の方が俺もやる気出たんだけどなぁ!?』

「ハァァァ!?ワックスガッチガチなあの髪型がいんですかー!?俺だって格好いい武器の方が良かったわ!何だよ木刀って!?小学生のお土産じゃないんだからさぁ!?どんなに格好良さそうな技名付けようとしても名前負けするよ!だって木刀だもの!」

『俺だってカメハメ波とか気円斬とか叫んでみたかったわ!』

「いやそこはせめてF○で絞れよ一つも剣出てこねぇじゃん!」

 

 気持ちはわからないでもないけど。

 状況が状況だし、俺達の喧騒も流石に埒が明かないので、折衷案を出すことにした。

 

「いや、もうわかったよ…………一回休戦しよ?なんか悲しくなってきた。ケリの付け方どうする?」

『しりとり勝負は飽きたからなぁ、カラオケでいんじゃね?」

「えぇ。でも銀兄、千の風ばっかり歌うじゃん?しかも序盤から号泣して何言ってるのかわからないし」

『なんか思い入れがあんだよ。多分、これで悪者退治か除霊かなんかしてたわ、知らんけど──―坊主っ!』

 

 刹那。

 

 後ろからの横凪ぎ、前方からの細剣の突きがほぼ同時に放たれた。

 

 咄嗟に俺は体勢を低くして横凪ぎをかわし、剣の腹で前の突きを受ける。

 鍔迫り合いのような状態になりながら、少し驚いたようすで彼女は言った。

 

「っ初見で、あの状態からこれを受け切るんですか。成程、言うだけはありますね」

「つーか……完全に殺す気だったよね?連れていくってなに、ひょっとして国違い?黄泉の国だった?」

『刺激的なネーちゃん達だなオイ、確かに言うだけの腕はあるみてーだが』

 

「ハァ!!」

 

 更に、彼女の追撃が襲う。

 突きを中心とした猛攻、俺はそれを木刀で受け流す。

 

『初撃もそうだが大して連携が取れてねぇな?兄妹かと思ったが、大して付き合いが長いわけじゃねぇのか』

「っ…………誰が兄妹ですか」

 

 舌打ちした彼女は、男と並ぶようにして俺と距離を取る。先程よりも警戒心を強めて。

 

「しかし強いのは事実。これは少し、手を焼きますかね」

 

 アリスが苦虫を噛み潰したような顔をすると。

 

「いや、そんな事はない」

「?それは、どういう」

 

 初めて男は口を開き、そして得物で突いた。

 

 

「──―っえ?」

 

 その剣先は、アリスの横腹に深く刺さる。

 

「『っ』」

 

 崩れるように倒れたアリスに、俺は目を丸くした。

 アリスの制服に赤い液が染みていく。

 

 倒れた彼女を見下しながら、男は口を開いた。

 

 

「お前が終われば、万事解決だ」

 

「…………どういうことだ?」

『おいおい、読者も俺達もついてけねぇよ』

 

 倒れこんだアリスは苦悶の顔で、男を見る。

 

「どう、して?」

「喋れるのか?意外に我慢強いな」

 

 驚いたようすもなく飄々としている男。

 

「何で、だって。貴方は……」

「確かにお前は雇い主だ、正確にはお前の親がな」

「っ……なら」

「確かに良いとこの貴族だったが、金の切れ目が縁の切れ目という言葉を知っているか?そろそろ底をつきかけているんだろ?」

「そんな、こと」

「あるね。経験上金の匂いがしない。没落貴族にしては懐はもっていたし感謝してるがな、いくら娘の為とはいえこんな辺鄙な地に向かわせてくれた」

 

「っ!」

「だがそれだけだ──―傭兵は金で動くが情では動かないのさ」

 

「あぁ、それに弟の行方がわからないのだろう?」

「っ」

「みすみす学園に逃げてきたのはいいが、弟の安否が気になり気が気でなかった、そうだろう?」

 

「そして、俺が知っている──―と言ったらどうする?」

「!?」

「これは俺のルートで手に入れた情報だがな。本当ならこれで揺らして更に金を巻き上げようと思ったが、無い袖は振れないだろう?しかし親にこの姿と弟の情報を売れば、他所から借りてでも俺に投資するだろうな?」

「っく…………外道がぁ!!」

「最初から正しい道を歩いている自覚なんかない。それに弱者は選べないんだよ」

 

 アリスの顔が、怒りと困惑が混じり複雑な表情になる。

 対して彼はそれを愉快とばかりに笑い、こちらに向く。

 

「さて、ここから先はお前達には関係のない話さ…………さて、アンタらは自由だ。堅実に考えて流石にお前らを拉致監禁するには手を焼きそうだから必要ない。まぁこのことをバラすというなら?勿論只では済まさないがな」

 

 脅すように高圧的に言ってくる。

 確かに関係ない、それに状況はあまり把握できてはいないが、俺が狙われるという心配は既にもうないだろう。

 

「そうかい……なら、自由にするさ」

 

 俺はそう言って制服を脱ぎ軽く畳み、片膝を折って彼女の傷口に押さえるように圧した。

 

「ぇ?」

「押さえれるか?言ってる意味はわかるだろ?」

 

 かなり雑だが、圧迫止血は出来る。

 小さく頷いた彼女に、俺は立ち上がる。

 

「おいおい、血で汚れるぞ?」

「構わないさ。こんなもんクリーニングでもすればいい…………だが、どうしようもない頑固汚れがあるみたいだ。クリーニングじゃ到底落とせそうもない」

「──あ?」

「安心しろよ、アンタは外道じゃねぇ──私利私欲に溺れた愚図なら。比べ物にならないほど汚れている奴等を今まで見てきたからな」

 

 俺は、自らの得物を見る。

 

「なぁ、銀兄」

『どした』

 

「……いいよな?」

『ハッ。決まってんだろ、オメーは俺の持ち主だろうが。勝手にしやがれ』

 

 その返事に、俺は口元が緩むのを感じた。

 意見が一致したのだろう。

 

 ──素直じゃないな、俺も銀兄も。

 

「何、を?」

 

 アリスが、庇うように彼女の前に立った俺にそう言う。

 

「…………何のつもりだ?」

「ん?洗濯ついでに帰るんだよ」

 

 真面目な顔で、言葉を紡ぐ。

 

「俺も、コイツの弟も。帰るべき場所へ」

 

「っ」

「正気か?」

『土産もなく帰るわけにもいかないんでね…………それに、ここでいなくなってオメーに通報されでもしたら、例え証拠があっても学園の問題児であるコイツも少なからず疑われる──そこまで計算してたんだろ?』

「へぇ、バカだが阿呆ではないみたいだな」

 

 男はヒュウと口笛を吹いた。

 アリスは目を丸くして、男は目を細めた。

 

「むり、よ」

「え?」

「一人でなんて勝てるわけないわ……ましてや貴方にはメリットなんてない、やる意味がないもの」

「だとよ?余計なお世話じゃないか?」

 

 絶望したような顔、諦めたような顔。

 ケラケラとそれを嘲る顔。

 

 面倒くさいな、俺は空いた手で頭を掻いた。

 

「いいんじゃねぇの?やる意味がないことをやるバカがいても」

 

「っ」

「それに、得られるものはないけど。ここで見過ごしたら失うものがあるからな」

 

 大きく、深呼吸する。

 

「事情も知らん、詳しい訳もわからん──―だが、助けたいと思っちまったんだから助けるさ」

 

 俺は木刀を、握り直す。

 

「それにな。俺にも兄弟がいるんだぜ?やけに性格悪い兄貴がいる」

「……?」

 

「ソイツは滅茶苦茶クズくて、やる気もなくて、女にモテるためだったら弟を切り捨てようとするとんでもない野郎なんだけどさ」

 

「──ソイツ。絶対に折れない芯を持ってるんだ。まぁ基本がクズだから俺がついてないと駄目だけどな」

 

『俺にも、バカな弟がいてな』

 

『情けなくて下心丸出しでな?口を開けば兄貴の愚痴ばかりいってやがる』

 

『だが。困ってる奴がいるならお節介上等、その問題をぶん取って解決しようとする大バカな愚弟、付き合えるのは俺くらいしかいねぇってもんさ』

 

 まぁ、要するに何が言いたいかというと、だ。

 

 

「『──―一人じゃねぇよ。バーカ』」

 

 

 俺は木刀を前方に構えた。

 喧嘩して鍛えた、武術も流儀もない俺達だけの構え。

 

「はぁ……本物のバカか」

「バカで結構。だがこんなバカがちらほらいんのがこの国さ」

『おうとも。数は少なくなったが、確かにこの国にいる…………とんでもない大バカ野郎がな。ソイツは(さむらい)っつーんだ、よく覚えておきな』

 

 俺は大きく得物を振りかぶった。

 

「っ」

「──―ようこそ、侍の国へ」

『歓迎するぜ、存分に楽しみな』

 

 防ごうと前に出した盾越しの衝撃に、男は目を張る。

 

(重い……学生の領域を遥かに越えている!)

 

「だが、俺の敵ではない!!」

 

 そう言って受けきり、片手剣を振るう。

 下がって避けたものの、俺は内心で舌打ちをした。

 

「そこの女みたく温室ではない傭兵時代を越えてきた、本物の死合を何度もな。お前程度の輩は腐るほど見てるんだよ!」

 

 そう言って、大きな踏み込みと共に何度も剣を振るう。

 横に、後ろに、時折盾で殴ってくるのは木刀で受け流す。

 防戦一方だ、少し不味い。

 

「これヤバイな、かませかと思ったら想像以上に強いじゃないか!」

『坊主!柄のボタンを押せ!』

「は!?」

 

 えっ、そんなもの──―あるわ!なんか突起ある!知らなかった!何で今まで知らなかったんだ俺!

 

 まさかこれが抜刀者の必殺技と噂に聞いた『抜刀絶技』か!?どちらにせよやるしかねえ!

 

「ちゃえりゃぁぁぁぁ!!!」

 

 俺は叫びながら振り抜き様にボタンを押した。

 

 

 ピュ…………!

 

 

 

 

 ──―なんか、黒い液体が剣先から出た。

 

 

 

「…………ナニコレ?」

『醤油が出る。濃厚醤油だ』

「濃厚醤油だ、じゃねぇよ!?何で醤油だァァァ!?」

『目に当てて眩ませろ!』

 

「いや、尚更なんで醤油!?他にあったよね!?」

『抜刀絶技 ──―()直に生きろ、()されないことはするな。略して』

「『しょうゆ』じゃねぇか!?つーかなげぇ!」

『んならもう一個あるだろ!それを押せ!』

「まだあるの!?あるわ!こうなりゃヤケだ!うぉぉぉぉ!!!」

 

 ドビュッ…………

 

「…………ねぇ、汚い音と一緒になんかモザイク掛かってるんだけど。文章だから伝わらないけどモザイクなんだけどなにこれ?」

『お好み焼き』

「いやゲロだろ!なに?食べたの!?この醤油でなんか作ったの!?」

『うっせーな、仕方ねぇだろ酔ってたんだから──―あー、帰ったらエロ本全部燃やそう』

「なんか賢者モードになってる!?どーゆーことなのそーいう事なの!?つーかエロ本全部俺の!!つーかマジでこれ何に使うんだよ!?あぁぁ攻撃が──―」

 

 そうこうしている間にも男の剣が、振られ…………。

 

「っ!?」

「『え?』」

 

 踏み込んだ先に、ゲロの溜まりがあった。

 そしてつるんっ、という擬音でも付きそうな程に綺麗に滑り。

 

 ズガァァン!!

 

 そしてそのまま木に突っ込み、動かなくなった。

 

 

「『…………』」

 

 

 

 

 

『──―このように、足を滑らせることも可能だ』

「ツッコミ切れるかァァァ!!!」

 

 

 俺の声が、響いた。

 

 

 

 

 

 その後。

 俺と、医務室に行ったアリスが理事長室に呼ばれた。

 まぁ用件は言うまでもないだろう。

 

 我らが理事長、神宮寺さんは無言で此方を見ているが。

 俺と銀兄は、すごく気になっていることがあった。

 

 俺と銀兄は理事長に背中を向け、俺達にしか聞こえない音量で話す。

 

「ねぇ銀兄」

『ん?』

 

 チラリ。

 

「…………先生の頭、なんかついてね?」

『草っぽいのついてるな、若干土埃っぽいものもある』

 

 俺と銀兄は、チラチラと理事長の頭に視線がいっていた。

 

『……つーかあれ、完全に草だよね?まさか近くでスタンバってた?出番窺ってた?』

「アリスさんが大事なく助かったからいいけどさ──―ってかどうすんだよ銀兄?凄い言いずらいんだけど?ツッコムべきなのあれ?」

 

『──―知らねぇよ、早くツッコンでやれよ。ツッコンでオチ作って草生やしてやれよ』

「既に頭に生えてるよ?俺今結構笑いこらえてるからね?あんなに偉そうに理事長語ってんのに草が頭にあるのは中々に面白いからね」

 

『いや、わかるけど。言ってやれよ「ひょっとして出番来るまで茂みでスタンバってましたか?」って』

「いや、無理だって。滅茶苦茶気まずいじゃん、ツッコミ入れてボコボコにされるのがオチじゃん。銀兄が責任とってよ」

 

『いやそれこそ無理だろ。やっぱりこういうときは持ち主が責任を取らないと?』

「ここぞとばかりに道具アピールやめてくんない?大した使えないくせに?鞘もないくせに」

 

『鞘関係ないねぇだろ、これはあれだし?俺のエクスカリバーに収まる程の鞘がないだけだし?俺のエクスカリバー嘗めんじゃねぇよ…………あ『なめる』っつってもそういう意味じゃないからね?勘違いしないでよね?』

「やかましいわひのきのぼう」

 

『誰がひのきのぼうだコラァ!?ひのきの棒なめんじゃねぇよ!序盤では鍋の蓋とセットで必要なんだよ!あ!なめるっていうのはそういうのじゃなくて──―』

「いや銀兄それさっきやったから。いやつーか声でけぇよ!理事長に聞かれたらどうすんだ!!」

『オメーもデケーよそして今の俺もな!!』

 

「オイ、全部聞こえてるぞ」

「『すいませんしたァァ!!』」

 

 俺と銀兄は土下座をした。

 いや銀兄は地面に横になってるだけだけど。

 

「……さて、どうするつもりだ河下?」

「えっ?どうするって、何をです?この空気ですか?」

「それもある」

「あるんかい」

 

 コホン、と咳払いをする。

 

「彼女の処置だ──―彼女は君を浚うおうとしたことを既に医務室で自白している。それが本当なら学園内といえど、もっと大きな機関が必要になるぞ」

「……はぁ」

 

 少しあきれて、横にいる彼女を見る。

 

 変な所で正直だなコイツ。

 いや元々の性格なのかな?脅していたあの男がいたからキャラ作ってたとか?

 

 ──―あれ、俺あの男の名前知らなくね?

 ま、いっか。

 

「浚う?何の話だかサッパリ。俺は告白されるかもと思って彼処にいったら、不粋な奴に邪魔されて喧嘩しました…………それだけですよ?」

「へ?」

「ほぅ」

 

 その言葉に、理事長は目を細めて薄く笑い、アリスは目を剥いた。

 

「では誘拐未遂は無かったと?」

「えぇ、誘拐なんて知りませんよ俺は」

「なら私が咎めるのは喧嘩の事だけだな。まぁ吹っ掛けたであろう本人は未だに気を失っているから事情は後で聞こう。河下、次からは公式の場で決闘するようにしてくれ」

「いやーすいません。気を付けます」

「ちょ、ちょっと待ってください!?」

 

 俺がそう言うと、アリスが訳がわからないという顔をした。

 

「…………いいんですか!?貴方も!理事長も!?」

「なにがだ?私は何も知らないからな、その場で聞いた事しかわからん。誘拐といっても河下はこの通りだしたな」

 

 いや絶対スタンバってたでしょこの人、絶対全部知ってるでしょ。言わないけど。

 

「あ、貴方は!?それでいいの?」

「なにが?」

「だって、私は──―」

「なぁ、アリスさんよ」

 

 彼女は罪を清算しないと気がすまないのだろうか?

 それも良いかもしれないが、今回はダメだ。

 

「お前がいなくなったら弟どうすんだよ?」

「っ」

『そーゆーこった。それ以上は言うだけ野暮だぜガキンちょ?』

「──―っ!」

 

 すると、涙ぐんだアリスは理事長室から飛び出すように消えていった。

 

「…………あり、がとう」

 

 最後に、そう言い残して。

 

 

 

「あぁ~暇だ~」

 俺は寮のベッドでダラダラしていた。

 

 今日は平日の日中だが別にサボりではない。

 

 例の喧嘩が原因で絶賛謹慎中なだけである。

 

 ……というかあれなんだね。ちゃっかり処罰あるのね。

 なんか何もなさそうに終わる雰囲気だと思ってた。

 

 俺が謹慎してるこの間にも我らが黒鉄君はステラさんとちゃんとした恋仲になったり、有りもしない悪いイメージを払拭することができたらしい。

 

 黒鉄は俺とは違って誤解の面も多いからなぁ。嬉しい反面、少し寂しかったりする。口には出さないけど。

 

 部屋にこもってゲームも飽きたのでこうして横になっている。こうしてやるなと言われると行きたくなかった学園も魅力的に感じる。

 

 無職ってこんな心境なのかな。

 

「っと」

 なんて思っていると電話がなる。

 

『ご苦労だな?河下』

「…………あっ、はい」

 

 出ると、理事長の声が聞こえた。

 一瞬背中の辺りが氷を押し付けられたように冷たくなったように感じた。

 

『牢に閉じ込められた気分はどうだ?』

「桃姫もこんな気持ちなのかなって思いました」

 

 電話越しに鼻で笑われた。

 

『さて、良いニュースの報告と一緒に釘を刺しておこうと思ってな。まぁ今回は軽い謹慎で目を瞑ったがこれからははしゃぎすぎないようにしろ。バカも程々にしておくことだ、私にも出来ない事があるからな』

「…………はぁ」

 

『まぁ、私は君達みたいな生き方をする奴は難儀だろうが嫌いじゃない。贔屓に取られない程度に応援しているぞ』

「あの、すいません」

『なんだ?藪から棒に』

 

「俺理事長と電話番号どころかメアドすら交換した記憶ないんですけど」

 

『…………』

「…………」

 

『河下、兎は寂しいと死ぬものだ』

「理由になってな──―アンタ世帯持ちだよね?それにどっちかと言ったら兎というよりもサーベルタイ『何かあれば私を呼べ、ではな』……切りやがった」

 

『終わったか?』

「まぁ……そーいややけに大人しかったな銀兄?」

『同じ鈎括弧(かぎかっこ)だと誰しゃべってるか読者が分かりにくいだろうが』

「いや何の心配!?」

 

『にしても、本題入らないで切ったぞあの理事長?良いニュースって何だ?』

「あぁ、そう言えばそんな事言ってたな……確かに一体──」

 

 部屋のチャイムが鳴った。

 先に言っておくと俺は一人部屋である。普通ならば二人なのだが俺の立場が立場なそうなので特例だ。感覚的には銀兄で二人的な。

 

 つまりルームメイトではない。しかも今は授業中の時間帯だ、わざわざ誰が来るというのだろうか。

 

 変なタイミングだが黒鉄がプリントを私に来たのだろうか、それとも理事長だろうか?

 

「はいはい!どちらさんですか?」

 頭にクエスチョンマークを浮かべながら、銀兄を片手にドアノブに手を掛ける。

 

『「!」』

 

 ドアを開けた先にいた二人の人物を見て、俺は口元が緩むのを感じた。



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