神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

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#12 農業の村ミニシア

 マッドプラントの件から数日が経った。

 あの日から晴れて一端(いっぱし)の冒険者としてのデビューを果たした俺達は、様々な依頼をこなしていた。

 

 ある日は二人でリザードマンを討伐したり。

 またある日は、他の冒険者達と協力してダンジョンに挑んだりと、冒険者として充実した毎日を送っていた。

 

 オルグの言っていた調査隊の件もどうやら人員が揃ったらしく、陣頭(じんとう)指揮を執る者を選抜した後に出発するとの事だ。

 

 そして今日も今日とて依頼を受けに来たわけなのだが───

 

「え? 依頼を代わって欲しい?」

 

 いつもの様に俺達二人が掲示板で依頼を選んでいると、そこへ一人の冒険者がやって来た。

 

 赤い短髪に黄金色の三白眼(さんぱくがん)が特徴的な彼は、以前ダンジョンに挑んだ際に共に戦った冒険者の一人。

 

 名前をベック=ヘレネスと言い、その一件以降仲良くしている友人だ。

 

「頼むよ、実はパーティー組んでたラッカルの奴が体調崩しちまってよ……。俺一人でやるにはちょいと難しいんだよ」

 

 因みにラッカルとは彼のパーティーメンバー。

 ラッカル=イーベンの事であり、彼もまたダンジョン攻略の際に共に戦った冒険者の一人である。

 

 どうやらその彼が風邪をひいてしまったらしく、どうしても依頼を遂行できなくなってしまったらしい。

 

「それで、どんな依頼なんですか?」

 

 エストがベックにそう尋ねると、彼は肩から提げたバックを空けて一枚の紙を取り出すとこれなんだけど……と申し訳なさげに手渡してきた。

 

 留めていた糸を解いて広げてみるとそこには、『ミニシア村への輸送依頼』と記されている。

 

「ミニシア村って言うと……確か、この街から西に行った所にある小さい村の事だよな」

 

 所謂(いわゆる)農村と呼ばれる地域で、とても長閑(のどか)な場所である。

 

「そうそう、俺達が前にダンジョン潜った時に寄った村だよ。……すまねぇけど、ここは一つ頼まれてくれねぇか? ほら、戦友の(よしみ)ってやつでさ」

 

 この通りだ! とまるで仏を拝むかの様に手を合わせるベック。

 ……仕方ない。

 

「分かった、引き受けてやるよその依頼。……エストもそれで良いか?」

 

 こくこくと頷き、肯定の意思を見せるエスト。

 どうやら既に受ける気満々だったらしい。

 

 この借りは必ず返すぜ! とサムズアップすると、彼は、ギルドを去っていった。

 そんな彼の背中を見送って、俺達は早速依頼書に目を通すことにした。

 

「郵送するって事は、馬車が必要ですよね。……この街だと、どこで借りられるんでしょうか?」

 

 前回ダンジョンに向かった際にはギルドが既に馬車を手配してくれていたが、今回は自分たちで借りて村へと向かわなければいけないらしい。

 

「それはまた後で職員の人に聞いてみよう。それより運ぶ物に関してだけど……」

 

 物品に関してはギルドが既に預かっているので、受付に行けば渡して貰えるようだ。

 取り敢えず物品を受け取ろうと思い、受付へ依頼書を提示すると、一枚の手紙を手渡された。

 

「この街で店を構えていらっしゃる食品店の方が野菜類の発注書を届けて頂きたいと、依頼を持ち込んでくださいました。……こちらがその発注書で、農家の方によろしく頼む。との事です」

 

 職員からの説明を聞き終え、手紙を受け取った俺達は馬車を借りるべく、手紙と一緒に貰ったマップで馬車貸しをしている店へと向かう。

 

「そう言えば、エストは馬車の操縦できるのか?」

 

 あの時はベックが馬車を操縦していたので良かったが、今回は俺たち二人だけ。

 勿論俺は操縦など出来る訳が無いので、彼女が出来なければ御者(ぎょしゃ)を雇わなければならない。

 

「安心してください! 小さい頃から父に習っていたのでバッチリですよ!」

 

 ふふんと自慢げに胸を張るエスト。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ。エスト」

 

 任せてください! と今度はサムズアップを返してきた。

 相当自信があるらしいし、これなら大丈夫そうだ。

 

 

──────────

 

 

 馬車のレンタル代は案外良心的だった。

 何でも、この街の冒険者達にとって馬車を使う機会がとても多いらしく、価格を安く設定しても十分利益が出る程には儲かっているらしい。

 

俺達の応対をしてくれた店員の口調がやけに親しげだった事が少し気になったが、依頼を遂行するには馬車を借りなければならない。

 

 俺達は銅貨六枚で簡素な馬車を借りると、早速ミニシア村へと向かった。

 

 西の門から街を出て、かれこれ十数分。

 御者台に座って馬車を操縦するエストの姿を横目に、俺は雄大な草原を眺めながら感傷(かんしょう)に浸っていた。

 

(何て言うか、本当に異世界なんだよなぁ此処。流石にちょっと慣れてきたけど、こういう風景見ると改めて感じさせられるな)

 

 草原の向こうには頂上に雲がかかった大きな山々が連なっている。

 見た感じ富士山と同じか、それ以上の高さがあるかもしれない。

 

 時折(ときおり)吹いてくるそよ風が髪を揺らして、心地が良い。

 

 思わず眠りそうになっては、目を覚まし、また眠くなり───

 

(───ッ!? 何かの気配がする!)

 

 急に現れた謎の気配に驚いて眠気が吹き飛んだ。

 数は大体五つから六つ程、一箇所に(まと)まっている事を考えるとコボルトかゴブリンだろう。

 

 まだ距離がある内に、準備をしておこう。

 

「エスト。操縦中悪いんだけど、右前方に魔物の気配がする。何時でも戦闘に入れるように準備しておいてくれ」

 

「わ、分かりました……!」

 

 そして、道を進む事数分。

 気配の正体はコボルトだった。

 

 と、馬車の音に気がついたのかそのうちの一匹が尻尾を立てて警戒しているのが見える。

 

「仕方無い。此処で一旦馬車を停めて、先ずアイツらを倒すとしようか」

 

「了解です!」

 

 俺は荷台から飛び降りると、エストが馬車を停止させるまでの間、コボルト達の意識を逸らす為に群れの中心へ魔法を放つ。

 

 あくまで陽動(ようどう)だ。

 威力は無くてもいい。

 

「───こっちだ! “トーチ”!!」

 

 小さな火の玉を放ち、群れの中の一匹に命中させる。

 キャイン、という悲鳴と共に群れが一斉に俺へと狙いを定めて襲いかかって来た。

 

(折角だし、新しい魔法も試してみるか……!)

 

 草原を駆けながら、左手を天に(かざ)して魔方陣を形成する。

 そこへ光の魔力を流し込むと、あの時と同様に跳躍。

 

 完成した方陣を上空から振りかざす───! 

 

「──断罪(だんざい)の光よ降り注げ! “ライトニング・ボウ”!!」

 

 瞬間、光の矢が展開した方陣から射出されて俺を追っていたコボルト達に降り注ぐ。

 上空からの攻撃に対応出来なかった彼等は次々と串刺しになっていき、その命の火を吹き消されていく仲間の姿に動揺して判断力を失っていく。

 

 だがそれでも二匹だけ殺しきる事が出来なかった。

 が、手負いの彼らを待つのは死のみである。

 

 何故なら───

 

「──突き穿(うが)緋色(ひいろ)の槍よ! “フレイム・ジャベリン”!!」

 

 斜め後方。

 彼らの死角から飛来した二筋(ふたすじ)緋槍(ひそう)が襲う。

 

 結果、目の前に降り立った仲間の仇へと攻撃することも出来ないままに灼熱の槍に穿たれる結果となった。

 

「流石先生だな。まさに正確無比(せいかくむひ)な狙いだったし」

 

「ヒロトさんこそ、新しく覚えた魔法もしっかり制御できてましたよ。何よりあの“トーチ”の使い方には目を見張りましたね。流石、私の生徒です!」

 

 どうやらエストは本当に先生と呼ばれるのが気に入ったらしく、最近は否定もせずに俺の事を『生徒』と呼ぶ様になった。

 

 俺に先生と呼ばれると彼女の顔は決まって輝き出すものだから俺も面白くて、気分が乗るとついつい呼んでしまうのだ。

 

「よし。魔物も倒せた事だし、ミニシア村へ向かおうか」

 

 ひとしきりふざけたので、此処からは真面目に行こう。

 俺はエストを促すと、もう一度目的地への進路を執った。

 

 

──────────

 

 

 ミニシア村は先程軽く説明した通り農業が盛んな村だ。

 ここで育つ野菜達は栄養豊富で色味も良く、昔から王侯(おうこう)貴族の御用達(ごようたし)の食材として重宝(ちょうほう)されているらしい。

 

 村の門を潜ると直ぐに畑が広がる農業地帯が見えてくる。

 その中心に作られた土の道を馬車で進んでいくと、建物が立ち並ぶ地域へと到着した。

 

「馬車はこの村の馬車貸しの方が預かってくださいましたし、早速届け先の方を探しちゃいましょうか」

 

「そうだな。えっと……今此処が村の中心だから……」

 

 馬車を預け、ギルドで受け取ったマップを頼りに届け先の家を探す。

 村と言うだけあってそこまで大きい訳では無いし、リドルトのように路地が入り組んでいる事も無い。

 

 少し歩くと直ぐに目的地へと到着する事が出来た。

 

(随分と大きな建物だな。届け先の人は地主さんか何かなんだろうか?)

 

 そんなことを考えながら、コンコンとドアをノックすると中から(ひげ)を蓄えた小太りの中年男性が姿を現した。

 

「誰だね、チミ達は?」

 

「リドルトから依頼を受けてやって来ました、霧島大翔という者です」

 

「エスト=シルヴィアです」

 

 頭を下げて挨拶をすると、その男性は俺達が何故此処に来たのかに気づいたらしい。

 

「そうかそうか、チミ達あの店のオーナーに頼まれて来てくれたんだねぇ。さ、上がってくれたまえ、なにか飲み物を出そう」

 

 本当なら遠慮すべきかもしれないが、丁度喉が渇いていたところだ。

 ここは素直にお言葉に甘えておこう。

 

「私はジェフ=マーゴリー。気軽にジェフと呼んでくれたまえ。わざわざ遠くまですまないねぇ」

 

「いえいえ、俺達はこれが仕事ですから。……こちらこそお飲み物を頂いてしまって申し訳ないです」

 

 いやいや、いいんだよ。と笑うとジェフさんは、戸棚からクッキーまで出して俺達に食べさせてくれた。

 ここまで親切にされると(かえ)って申し訳なくなってしまうのは日本人の(さが)だろうか? 

 

 依頼されていた発注書を渡すと、彼は壁掛け電話のような物を手に取って誰かと話し始めた。

 エストによるとあれも魔道具の類らしい。

 

「よし、直ぐに物品を準備するからそれが終わるまでは(くつろ)いでもらって構わないよ。君達も疲れているだろうしねぇ」

 

 それだけ言い残すと、ジェフさんは広間を出ていってしまった。

 ……確かにここに来るまでの間、戦闘も挟んだことだし疲れているのは本当だ。

 

 今座っているソファの居心地もとても良い。

 エストに関しては実に幸せそうな表情でリラックスしている。

 

 俺も、彼女と同じようにリラックスさせてもらおう。

 

(……そう言えば、帰りも馬車を使うんだよな。発注書に記載されてた物品もかなりの量があったし、また魔物に遭遇するかもしれないよなぁ)

 

 そうなればまた戦闘しなければいけない訳だが、万が一届ける為の物品に傷がついてもいけない。

 

 そう思い、隣で寝そうになっているエストに質問してみる。

 

「なあエスト。なんかこう、テレポートみたいな魔法はないのか?」

 

 うーん、とゆっくりとした返事が返ってきて。

 数拍置いた後に、答えが返ってきた。

 

「一応ある事にはありますけど〜。聖属性と風属性の複合魔法ですし〜、全体でもかなり高位に位置する魔法なので〜。難しいかと思いますよ〜」

 

 えらく口調がゆっくりになっているのが気になるが、どうやらテレポート自体は存在するらしい。

 ……なら試してみる価値はありそうだ。

 

 あの神様から受け取った力を信じよう。

 

「詠唱がどんなやつか分かる? 試してみようと思うんだけど……」

 

「え〜っとですねぇ。『聖なる風よ、我を()の地へ運び給え』ですよ。昔、本で読んだので覚えてます〜」

 

「ありがとう、エスト。……よし」

 

 本当に試すんですか〜? と彼女が聞いてくるが、今は集中した方が良さそうだ。

 難しい魔法という事は、それだけ意識の集中を必要とするだろう。

 

(魔法を使うにはイメージする事が大事だ。……リリーブの食堂をイメージしてみるか……)

 

 頭の中でいつも食事を摂っているあの食堂を思い浮かべる。

 明確なイメージを形作り、その場所へ行きたいの願う。

 

「やってみるか……。──聖なる風よ、我を彼の地へ運び給え。“テレポート”……!」

 

 するとどうだろう、詠唱を終えた瞬間に俺の体がキラキラと輝き出した。

 

 そして目の前の空間が徐々に(ゆが)んでいき───

 

「……お、成功したのか」

 

 思わず目を瞑ってしまったが、目を開けてみるとどうやらテレポートは成功したらしい。

 思い描いた通りに、リリーブの食堂へとテレポートする事が出来た。

 

「お、帰ってたのかよヒロト。金髪の嬢ちゃんは一緒じゃねぇのか?」

 

 厨房から出てきたエプロン姿のアルバーさんが、不思議そうな顔をしてこっちへやって来る。

 

「ちょっと試してみたんです。……さてと、もう一度やってみよう」

 

 なんの話をしてんだ? と疑問顔になった彼だったが、次の瞬間には驚きの表情へと変わる事になった。

 

「──聖なる風よ、我を彼の地へ運び給え。“テレポート”……!」

 

 またも体が光に包まれて、景色が歪む。

 

「うおっ、消えた!?」

 

 そしてまた目を開ければ先程まで居たジェフさんの家の広間。

 ソファで寛いでいたエストがぽかんと口を開けて俺の帰還を出迎えてくれた。

 

「で、出来ちゃったんですか……?」

 

「うん、出来ちゃったよ。これで帰りは楽々だな」

 

 どうやらこのテレポートは個人では無く空間そのものに作用するらしい。

 その証拠に、食堂の床に落ちていた塩の小瓶が一緒に飛んできている。

 

 魔力の消費は大きくなるかもしれないが、馬車と積荷ごとリドルトへ持ち帰ることも可能だろう。

 

 未だに空いた口が塞がらない様子のエストに少し笑いかけると、改めて俺が持っている力はとんでもないんだなと実感するのだった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
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