神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
「──聖なる風よ、我を
新しく覚えた“テレポート”を早速活用して、ジェフさん達に別れを告げた俺とエストはミニシア村を後にした。
やはり転移の対象に指定するものが多ければ多い程魔力の消費は激しくなるらしいが、俺のキャパシティならまだまだ余裕がある。
行きは一時間程かかった道のりも、テレポートを使う事で一瞬になった。
一応街中に突然転移して騒ぎにならないよう、街の門から少し離れた場所を指定したが。
「よし、帰って来れたな」
「本当に一瞬なんですね……」
テレポートする事はこれが初めてなのか、不思議な感覚に
そして同時に、俺に対して
「でも、まさか詠唱を教えただけで成功させちゃうなんて思いもしませんでしたよ……もう、尊敬を通り越して呆れちゃいますね」
「あはは……まあ、便利な手段が手に入ってラッキーって事で良いんじゃないか?」
その後、街の門を潜るまでの間にエストが知っている“テレポート”に関する情報を教えてもらった。
まず第一に、テレポート出来る場所は発動者自身が行った事のある場所に限られるらしい。
なんでも、この魔法の本来の用途が『遠出した先から自分の拠点へと帰る為』である為、自分が行った所で
つまり先程のリリーブ
そして次に、消費する魔力は発動者が居る場所からの距離と転移させようとしている物の量によって変動する。
これに関しては、俺も先程体感済みだ。
そして最後は、この魔法の効果範囲は
だからこそ先程の転移で馬車やエストを一緒に運ぶことが出来たのだが……。
「“テレポート”を発動させる時にですね、別に自分を対象に含まずとも周りにいる人や物だけに効果を
要するに俺とエストが同時に転移せずとも、勝手に俺が場所を指定して彼女に対して発動させる事で彼女だけを転移させる事も出来るという事だ。
これは移動手段以外としての方法も十二分に開拓出来そうだ。
「あ、そろそろ到着しますね。ちゃっちゃとギルドに届けちゃいましょうか」
門を守る
──────────
「……はい! 確かに依頼の達成を確認しました。それではこちらが報酬になります。次の依頼も頑張って下さいね」
受付で手続きを済ませた俺たちは、少し体を休めようとロビーにある備え付けのテーブルスペースで寛いでいた。
というのも、エストが俺の体を心配してくれたからというのが大きな理由だが。
彼女曰く、魔力を沢山使った後は休息を摂る! というのが一般常識なんだとか。
未だに魔力の扱い
一応、先生な訳だし。
「後でラッカルさんの所へお見舞いに行きましょうか、ヒロトさん」
購買スペースで購入したフルーツジュースをこくこくと喉を鳴らして飲むエスト。
俺は珈琲を注文して、ゆっくりと味わっていた。
「依頼達成の報告もあるしな。まあ、適当な
そんな他愛もない事を話しながら
「ギルドマスターを……! オルグさんを呼んでくれ!」
いきなり大きな音を立ててギルドの扉が開いたかと思いきや、数人の冒険者達が
その
職員が
(一体何事だ?)
俺とエストは顔を見合わせると、少し様子を見てみようと視線で会話する。
そこへ慌てた様子で走ってきたミラさんと、その後ろから小走りでやって来たオルグの姿が。
どうやら傷を負っている者も居たらしく、ミラさんが集まってきた職員たちに指示を飛ばして医務室へと運び込んでいった。
そしてその冒険者たちの内の一人。
ギルドマスターを呼んでくれと
そんな彼の肩をがしりと掴み、強い意志のある
「フロウラの森に……魔物の集団が突然現れて……どいつもこいつも、見た事の無いやつだった……!!」
ギルド内がざわめきだす。
彼の話によれば、本来あの森では見かけない種類の魔物達が現れて、それらの襲撃から逃げ延びて此処へ辿り着いたらしい。
よく見れば、彼の
「……話は後で落ち着いてから聞こう。まずは治療が最優先だ……」
彼の眼を真っ直ぐに見つめながら話を聞いていたオルグは自らの肩を貸すと、その冒険者を医務室へと運び込み、その場に留まっていた冒険者達に一言。
腹の底からの低い声で告げた。
「……フロウラの森には今後調査が終了するまでの間、近づく事を禁止する。これは、ギルドマスターである俺の権限を持って命じた事だ。それを
そして自らの部屋へと
近くにいた職員になにやら耳打ちすると、その場を離れていった。
「……エスト。これってやっぱり……」
「というより、確実に私達の件と同じ事象が原因でしょうね……」
先日のマッドプラント件然り、今回の魔物の襲撃然り。
どうやら今までには無い事が立て続けに起きているようだ。
と、俺達の元に先程オルグに耳打ちされていた職員がやって来て───
「マスターが何かお話したい事があるそうです。先日のお通しした部屋へと来ていただけますか?」
俺とエストはまたも目を見合わせると、オルグが待っているであろうあの円卓の部屋へと向かった。
──────────
「
円卓の部屋には彼と、
鉄仮面を被っている為にその顔は
「……それで、俺達は何でここへ呼ばれたんです?」
俺達を連れてきてくれた職員の一人に促され、俺とエストは対面の席へと腰かける。
卓上には既に二つの書類が用意されていた。
一つは先日も見た調査隊に関するもの。
そしてもう一つはある魔物についての情報が記された手配書のようなものだった。
と、二枚目の書類を手にしたエストがいきなりああっ! と大きな声を上げる。
「ヒロトさん、ヒロトさん! コレって……」
エストが書類の中央を指で示しているので、何事かと俺も手元の書類に目を通し……
(
俺とエストが二人でその書類について話していると、突然オルグの隣に控えていた騎士がゴホンと咳払いをした。
どうやら話をさせろという事らしい。
「いきなり本題を述べさせてもらうとだな。……君等を、今回派遣する調査隊に編入したいと考えているという
「俺達を調査隊に……?」
おかしいな。
派遣する調査隊には青以上の等級を持つ冒険者が選抜される
まだ赤等級の俺達をそれに編成しようとするとはどういう
そんな事を考えていると、俺の疑問を
「お言葉ですがギルドマスター。私達はまだ調査隊に編成されるほどの実力を持っていません。何故このような事を?」
いつもの彼女とは違う、
「オルグ殿は
「……その通りだ。私は、君等のその能力を今回の調査に活かして欲しいと考えている」
理由はこうだ、とオルグは続ける。
「まずキリシマ氏。君はミニシアの村から帰還する際に“テレポート”を使用したそうだな」
「……!? な、何でそれを……?」
あの時転移したのは門から数百メートル程離れた場所。
それに、あの場所は門の方向から見ると小高い丘のようになっているため視認する事は出来なかった筈だ。
それらを考慮した上でのあの場所への転移だったが、一体誰が見ていたのだろうか。
「この街の門には
話を聞けばそのホークという男。
その名も、《固有技能 鷹の目》
そのままのネーミングだが、その性能はかなり高い。
開けた土地であれば一キロ先の小石の数をも数えることが出来る、鷹の部族特有の技能だ。
更に《熱源感知》という一般技能を併用すれば、障害物があったとしても生き物であれば視認が出来る。
どうやら転移した時に、その鷹の目に引っ掛かったらしい。
「聞けば“テレポート”は自分以外を対象に設定し、転移させる事が出来るという。君のその技能があれば、負傷した者を直ぐに此処へ送り返す事も可能では無いのか?」
「まあ、不可能ではないでしょうけど……。要するに、俺は人命救助要員という訳ですね」
すまないがそういう事になる、と申し訳なさそうに
次にエストの方へ向き直る。
「次にシルヴィア氏。君の魔法の
「そ、それを何処で……?」
どうやらエストも見られていたらしい。
……というか、確かにあの時エストは俺やコボルト達からかなり離れた位置に馬車を停めていた筈。
更に、幾ら手負いの魔物とはいえかなりの速度で俺に迫っていたのを覚えている。
それを
「そもそも今回の依頼は私が直々に手配した物だ。ベックという者に頼んで色々と工作をしてもらい、バレないようにしたが」
「……! なるほど、それなら納得がいくよ……」
彼の話を
まず初めに俺達と仲の良いベックとラッカルを呼び出して、今回の作戦の旨を伝えて協力を要請する。
相応の報酬も用意するというオルグの話に乗ったベックとラッカルの二人が作戦を考えたらしい。
俺達二人が毎日このギルドへ顔を出す事は分かっていたので、ベックが朝早くからギルドで待機していたらしい。
そしてラッカルはというと、ベックにアイツは風邪をひいていると嘘をつかせる事で注意を
そしてベックが依頼を受けさせる事に成功したとギルドから支給された通信用の魔道具に連絡が入ると同時に、馬車貸しの店員に成りすまして応対をしていたのだと言う。
あの時の店員の口調がやけに親しげだったのは、それがラッカルだったからであり、知り合いに敬語を使うのがむず
そして馬車を見送ると同時にもう一人の協力者。オルグの隣に控えている騎士──名前をザウロ=リングレナルという──が、目的地へと向かう俺達を密かに付けていたそうだ。
彼はリドルトの街やミニシアの村などを持ち、大陸の中心に位置する大国。
『アルカゼニア公国』の王都『アイギシュタ』が抱える公国騎士団の中でも
現在はその腕を買われて
何でも彼等には昔から深い親交があったらしい。
(けど、あの人が跡を付けてたなんて気が付かなかったな。……そもそも、馬車も借りずにどうやって俺達を……?)
エストも同じような疑問を抱いたのか、首を
その疑問に答えるかのように仮面の騎士、ザウロが口を開いた。
「私にはとある固有技能がある。それを使って貴殿等を付けていたのだ」
そして鉄仮面を外すと静かに
現れた顔は茶色い長髪をオールバックにし、目元のシワ深さや額の傷が彼の
と、その時だった。
「……!? き、消えた……!?」
突然なんの前触れも無く、ザウロの姿が消えたのだ。
魔力の反応はなかったし、詠唱も聞こえなかった。
何処だ、と二人で暫く辺りを見回していると不意に背後から声が聞こえてくる。
「どこを見ている」
「おわっ!?」
「ひゃうっ!?」
声がする方へと振り返ると、ゼロ距離でザウロが
そんな俺達の様子を満足そうに見て、彼はゆっくりと歩きながらオルグの元へと戻っていった。
「どうだ? これが私の固有技能、《
《固有技能 存在希釈》。
自らの存在を
一般技能に《
つまり、存在と言う概念そのものを希釈する為、いくら相手の目の前で動こうが、どれだけ大きな音を立てようが気付かれないという潜伏系統の技能ではトップクラスの性能を誇る。
そして、その技能の効果は自分の意思で任意の物に付与することが可能である為───
「……その《存在希釈》 を使って、自分の乗っている馬車そのものの存在概念を希釈した訳ですか……」
「そういう事だ」
考えてみればとんでもない能力だ。
だが
その旨をオルグに伝え、十分な戦闘データを取る事は出来たと判断し、帰還した彼だったのだが……。
「キリシマ殿、まさか貴殿があの短時間で“テレポート”を習得していたとは思わなかった。……だから、私はオルグにその情報を伝える事が出来なかったのだ」
感心したようで、どこか悔しげにザウロはそう言った。
実際突然出現した生体反応に彼も腰を抜かしたのだそうだ。
……悪い事をしてしまったな、ホークという監視員には。
「……さて、話を本題へと戻すが……。君等にはどうしてもこの調査隊に加わって欲しい。無茶な事を頼んでいる事は重々承知だが、君等の存在が事を大きく左右すると私は考えている」
ふと、先日去り際に彼が俺達に掛けた言葉を思い出す。
『まあ、何だ。……君達が無事で何よりだった』
ぶっきらぼうな様だが、彼はギルドマスターとしてこの街の冒険者達を大切に思っていた。
そんな心を持つ彼が、先程駆け込んで来た冒険者達を見た時に何を思ったのかは想像に
俺は隣に座るエストに目を向ける。
……
強い意思の宿る眼が、何よりもそれを
「分かりました。……俺達も、その調査隊に合流します。いえ、させて下さい」
深々と頭を下げた俺達。
数拍置いて、オルグの口が開かれる。
「礼を言おう、
そう言うと、オルグは
そして、この時を
冒険者ギルド、リドルト支部において
『フロウラ連合調査隊』が。
街とそこへ住まう人々を守る為に───。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想や、アドバイス等頂けるとありがたいです。