神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

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#14 四人の冒険者たち

 ───宿の食堂の一角にて。

 

 他の冒険者や旅人達が会話を楽しみながら食事をしている中で、頭を抱える者たちが二名。

 

「どうしましょうか……」

 

「そうだなぁ……」

 

 数刻(すうこく)程何かを考えて、溜息を吐く。

 俺とエストはオルグからの頼みを受け、特例で調査隊へと編入される事になったのだが……。

 

 その後、彼とその傍にいた騎士ザウロから受けた説明を思い返しては、これからどうしようかと頭を悩ませていたのだった。

 

 

──────────

 

 

 オルグの真剣な思いに打たれ、フロウラの森へと向かう調査隊へ参加することを決めた俺達は、詳しい説明を受ける事になった。

 

「では先ず今回編成する人数についてだが……。我々ギルド上層部が選抜した冒険者二十名と、ザウロが手配してくれた公国騎士が六名の、計二十六名での調査になる」

 

 そしてその内訳を詳しく説明すると、大部分の戦闘を担う戦闘要員が冒険者十二名と騎士四名。

 回復や強化などを行う支援要員が冒険者四名に騎士が二名。

 そして最後に食料や予備の武器等を運搬する雑用係のような者に残りの四名の冒険者が充てられている。

 

 エストは魔法を行使して戦う戦闘員として。

 俺は名目(めいもく)(じょう)戦闘員としての編入だが、いざという時に“テレポート”を行使する支援役も務める事になる。

 

 そして当日行動を共にする騎士の中にはザウロも含まれているらしく、彼が調査隊の陣頭(じんとう)指揮を執るそうだ。

 

「作戦期間は三日を予定しているが、必要に応じて変更も考えている。……今回の調査の本題はこの森に白獣(はくじゅう)が住み着いたかどうか、だ。仮に遭遇しても、直ぐに戦闘を開始するなとは皆に伝えている」

 

 そこまで説明をすると、あとは任せたとオルグはザウロに目配(めくば)せをする。

 どうやらここからは彼の管轄(かんかつ)らしい。

 

「万が一白獣との戦闘に発展してしまった場合についてだが……。そこで重要になってくるのが君の能力だ、キリシマ殿」

 

「俺の能力……ですか?」

 

「そうだ。君の“テレポート”と私の固有技能を合わせて使用し、確実に撤退を遂行する」

 

 白獣は名の通り獣系統の魔物だ。

 その中でも犬型のカテゴリーに分類される白獣は、他の種族とは比較にならない鋭い嗅覚(きゅうかく)を有しており相手の気配に敏感(びんかん)だという。

 

 つまり(いく)ら隠密な行動を取るとはいっても、白獣に発見される可能性はゼロではないのだ。

 当初オルグはザウロの持つ《存在(そんざい)希釈(きしゃく)》を活用し、少数精鋭での調査を予定していた。

 

 だが、少人数では万が一戦闘状態に突入した場合に戦力不足になる事が懸念されていたのだ。

 

 何せ向かうのは森の深部。

 敵の数も強さも段違いに上がっている。

 

 なら遭遇しなければいい話だ、という者も居たが《存在希釈》を維持する為には研ぎ澄まされた集中力を保ち続ける必要がある。

 ずっと発動させているままにしておけば、みるみる内に精神力が削がれてしまい、肝心な時に発動させられなくなるという事態が容易に予想出来た。

 

「そんな時に現れたのが貴殿(きでん)だ、キリシマ殿」

 

 “テレポート”を使える者。

 つまり、俺の存在が作戦を大きく変えたというのだ。

 

《存在希釈》だけでは、匂いを完全に消す事は出来ないため白獣に発見される可能性があったが、俺が居る事で安全に撤退出来る可能性が大幅に上昇した。

 

 それに、彼等は俺の魔力のキャパシティを把握(はあく)していないので知らないようだが、あの時の“テレポート”は馬車と多くの荷物を転移させても魔力が少し減っただけで、まだまだ余裕があった。

 

 つまり、ある程度固まった位置に集まっていれば、一気に全員を転送する事も可能だということだ。

 

「何度も言うが、今回の作戦はあくまで調査が目的だ。奴の存在が明らかになった暁には、王直々に騎士団を派遣されるご意向だ」

 

 なら安心だ、と息を吐く俺とエスト。

 そんな俺達を見るオルグとザウロの表情は少し(けわ)しいものだった。

 

「調査の開始は五日後の早朝だ。それ(まで)に必要な装備等を揃えておいてほしい。……それと」

 

 

──────────

 

 

(期限までにもっと強くなれ……か)

 

 確かにオルグやザウロは、俺とエストの能力を高いと評価していたが、それはあくまで一般の魔物を相手にした場合のみだ。

 

 今回退治するのは、国から正式に指名手配を受けている賞金首のモンスター。

 一国の騎士団を動かす程の相手に立ち向かうのだから、能力をまだまだ向上させる必要があるというのは最もだろう。

 

 そう、最もなのだが……。

 

「たった五日で深部の魔物と渡り合えるようになるって、結構無茶な話ですよね……」

 

 エストは勿論、神様から力を授かっている俺であってもそんな短い期間で強くなるのは不可能に近いだろう。

 

 となれば残された手段は一つのみ。

 至極(しごく)単純(たんじゅん)な事だが、強くなる為にはこれが一番早いだろう。

 

「ひたすら新しい魔法を覚えまくって、手数を増やすしかないな。エストもまだ覚えてない魔法とかあるのか?」

 

「そうですねぇ……まだ、水属性の魔法や火属性の魔法で覚えていないものもありますし……」

 

 俺もエストも、まだまだ成長の余地(よち)はある。

 その後も話し合った結果、明日から早速開始することになった。

 

 

──────────

 

 

 翌日、朝早くにギルドの前へ到着した俺達は、とある人物に遭遇した。

 今回の調査隊に俺達を編入させた、影の功労(こうろう)者達である。

 

「お、ヒロトにエストじゃねぇか!」

 

 ベックとラッカルが入口で大手(おおて)を振っているのが見える。

 イラッときた俺は彼の元まで行くと、引きつった笑顔を見せて。

 

「元気そうで何よりだなぁ! おい、てめぇら一発殴らせろ!!」

 

 殴りかかった──が、落ち着いてください! と、俺の腕をエストがホールド。

 まあまあと(なだ)めるようにラッカルに肩をポンポンとされ、更にイラッとした。

 

「いや、ホントその事に関しちゃ悪かったな。でも、オルグさんにはいつも世話んなってるし、断る訳にもいかなくてよ……」

 

 ベックがすまねぇ! と頭を下げて、ラッカルも同様に俺達へと謝罪した。

 と、そんなベックの手に一枚の紙が握られているのに気が付く。

 

 俺は肩に置かれたラッカルの手を素早く払い除けると、一気に後ろへ飛び退いて臨戦態勢──どちらかと言えば逃げる為の──をとる。

 

 何事ですか!? とエストが飛び退いた俺を怪訝(けげん)そうな目で見るも、自分もその存在に気がついたらしい。

 

 ジリジリと後ずさりながら、腰のワンドに手を掛けている。

 

「な、何だよ! そんなに警戒しなくても良いだろ!?」

 

 焦るベック。

 そんな彼を見て、どうやらラッカルは気が付いたらしい。

 

「ベック。その紙のせいだと思うよ」

 

「えぇ? ……あ、これか」

 

 ベックは自分の手に握られた紙を(ふところ)に仕舞い込むと、ちょっと着いてきてくれねぇか? と俺達を促す。

 

 一瞬なんのつもりだろうか、と顔を見合わせた俺達だったが、今回の彼等にそんなつもりは無いらしい。

 

 素直にそれに従うと、ギルドの中へと入った。

 

「……それで、今日はどうしたんだよ。こんな朝早くに」

 

 ギルドの一角に備え付けられたスペースに俺達は腰掛けると、俺はそんな疑問を投げかける。

 

 ベックとラッカルも俺達同様、赤等級の冒険者である訳だが、普段彼らは昼過ぎから仕事を開始するのが日課になっていたはず。

 

 それがどう言う訳か、こんな朝早くにギルドに来ている。

 俺が警戒した理由にはこれも含まれていた。

 

「ヒロト達にはまだ言ってなかったけど、実は僕達も調査隊に参加する事になったんだ」

 

 まあ荷物持ちだけどな、と説明するラッカルの隣から皮肉(ひにく)めいたように呟くベック。

 

 どうやら荷物の運搬をする冒険者は、元々赤等級の冒険者から選抜する予定だったらしい。

 俺達二人が選抜される少し前に、オルグから編入の届けを受け取っていたようだ。

 

「それで、ここからが本題なんだけどね。調査隊に参加した以上、深部の魔物とある程度は戦えるようにならなきゃいけないでしょ?」

 

「仮に荷物持ちだとしても、もしかしたら戦闘に参加しなきゃならねぇ場合もあるってオルグさんは言ってたんだ」

 

 確かに、そんな状況もあるかもしれない。

 そう考えてみると、荷物持ちに業者ではなく冒険者を選抜したオルグの判断はそれを考慮しての事だったのかもしれない。

 

「この間ミラさんに聞いたけど、深部の魔物は僕達赤等級が何人か束になって勝てるかどうかのレベルだって言ってた。ならせめて、戦ってくれる青以上の人達の援護ぐらいはしたくってさ」

 

 ラッカルの説明に補足を入れておくと、深部の魔物は青等級の冒険者が二人がかりで(ようや)く倒せるレベルだ。

 

 しかし例え赤等級であっても、そこへ援護の手が入れば戦況は少しぐらい良くなるかもしれない。

 彼等の考えていた事は、実に先を見て判断された事だった。

 

(要するに、此処へ来た目的は同じって訳か)

 

「でだ。どうせならお前達も一緒にどうかな、って思ってあそこで待ってたって訳よ」

 

「それってベックさん達と一緒に依頼を受ける……って事ですか?」

 

 その通りだよ、とラッカルが続ける。

 

「何時もの僕達が受ける依頼じゃなくて、一つ上のランクに挑むんだ。二人じゃダメでも、四人ならきっと勝てる筈だしね」

 

「お前らも大体目的は同じなんじゃねぇの?」

 

 そう言うと、ベックは差し出してくる。

 

(こっちとしてはデメリットは無いし、一ランク上の魔物と戦えるなら、断る理由は無いよな)

 

 森の深部の魔物は強力だ。

 そんな奴らと一戦交える可能性があるのなら、此処でその強さを体感しておくべきかもしれない。

 

 俺はベックが差し出した手を握り、

 

「よし、じゃあ一緒に行くか。エストもそれで良いか?」

 

「勿論です!」

 

「決まりだな! となりゃ、早速出発するぞ!」

 

「そうだね、ベック」

 

 おおー! とまだ人の少ないロビーに、四人の冒険者達の声が響き渡った。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
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