神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

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#15 疾駆の少女

「よし、到着だな。……一旦休憩するか」

 

 馬車を駆ること三十分。

 俺達四人は今回の依頼を達成すべく、街から東に離れた遺跡群。

『イスタル古代遺跡群』へ、足を踏み入れていた。

 

 約数千年前の遺跡だとされている此処は、各国の考古学者達が総出で調査をした所、この国だけでなく大陸全土に広がる超巨大都市であったことが既に明らかになっている。

 

 この遺跡もその痕跡(こんせき)の一つなのだがある魔物が住み着いて以来、凶暴な魔物達の住処へと姿を変え、遺跡を調査する人間も立ち入ることが難しくなってしまったのだとか。

 

 ただ、この遺跡にある物はそこまで貴重なものでは無いらしく、ゆっくり時間をかけて魔物達の数を減らしていけばいいとの判断に至ったようだ。

 

「──で、その住み着いた魔物っていうのが」

 

「ストーンゴーレム。精霊達の残滓(ざんし)が創り出した岩塊の精霊の紛い物だね」

 

 ラッカル曰く、そもそもゴーレムと呼ばれる魔物達は一様に無機物が意志を持って動き出した物の事を言うらしく。

 

 岩や鉄、魔石に大木など様々な種類が存在するのだが、ゴーレム達を形成するのはその無機物と精霊達が寿命を終えた後、その場に残るとされる『精霊の残滓』が溶け込む事で起こる現象なのだとか。

 

「要するによ、アイツらは精霊の死骸で動かされてるって訳だ」

 

「言い方は悪いけど……まあ、ベックの言う通りだよ」

 

 だが、幾ら精霊の力が働くといっても所詮紛い物の無機物だ。

 元々意思を持たない彼等は自我をほとんどの場合持ち合わせていない。

 

 だから、目に入る物を壊し続ける。

 

(それで遺跡の調査員は入れなかったのか)

 

 俺の思い浮かべるゴーレム像は、温厚で物静かで。

 人との共存を図るような優しい魔物だと思っていたのだが。

 

 実際の世界では随分と違うらしい。

 

「でも、精霊術士さん達は疑似ゴーレムを創り出したり出来ますし、全てが敵対しているかといえばそうじゃないですね」

 

「へぇ、ゴーレムって創れるのか」

 

 ゴーレムの事も気になるし、今度その精霊術士さんとやらを探してみるか。

 

「っと、長居し過ぎたな。そろそろ向かおうぜ」

 

 ベックが腰に括りつけたガントレットを装着し、ガツンと拳を打ち合わせる。

 それを合図に俺達も立ち上がった。

 

「目指すは遺跡中心部。ストーンゴーレムだ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

 

──────────

 

 

 ヒロト達一行がストーンゴーレムを討伐するため、遺跡中心部へと進み始めたその頃。

 その(くだん)の中心部では、一人の少女があるものに追われていた。

 

 頭の後ろで無造作に結われた銀髪を揺らし、強い光を点した黄金色の目で前を捉えている。

 

(早く、早く逃げないと……!!)

 

 背後から地に響く程の轟音が迫ってくる。

 少女はその小さな体躯(たいく)を活かして入り組んだ瓦礫の中を逃げていく。

 

 しばらく逃げていると、迫る音は徐々に遠くなっていく。

 

(逃げ切れたか……?)

 

 だが、油断したのが良くなかった。

 

 瓦礫の隙間を抜けた瞬間。

 

「ガルルッ!!」

 

「──ッ! コボルトまでッ!!」

 

 少女の右から二体のコボルトが飛び出してきた。

 それをすんでの所で躱した彼女は腰に携えた双剣を引き抜き、地を蹴った勢いそのままに回転。

 

 その腹を切り裂き、絶命させた。

 

(急げっ!!)

 

 凄まじい速度で駆けていく少女。

 中心部の出口が見え、安堵(あんど)したのだろうか。

 ふぅ、と息を漏らし───

 

(──なっ!?)

 

 突如背後から吹き荒れた突風に大きく吹き飛ばされ、地面に体を叩きつけられた。

 痛みに顔を(しか)めながらも何とか立ち上がろうとする彼女だったが、その足が思うように動かない。

 

 更には──

 

「……うっ……!!」

 

 突然体に走った激痛に、完全に体から力が抜け落ちてしまう。

 ボタボタという嫌な音に、思わず(つむ)った目を開けると。

 

(……血……)

 

 立ち上がろうとした時に、折れていた(あばら)の骨が肉に突き刺さったらしい。

 彼女は吐血していた。

 

 前方からはズシリと重い足音が近付いてくる。

 

(ああ、もう終わっちゃうんだな。あたしの人生……)

 

 薄れゆく意識の中で、彼女は死を覚悟した。

 

「────ッ!!!!」

 

 遺跡に響き渡るゴーレムの咆哮(ほうこう)を聞きながら。

 

 

──────────

 

 

 ──その数刻前。

 

「おい、何か今すげえ音しなかったか!?」

 

 中心部へ向かう途中。

 突如目指す方向から聞こえてきた大きな音に、俺達はその足を止めていた。

 

「もしかして、ゴーレムが暴れているんでしょうか?」

 

「だとしたら奇襲は難しいな。……正面突破しかないか」

 

 ラッカルが高所へと向かうぐらいの時間は稼げるだろうか。

 と、その当のラッカルが前方を見ながら驚きの声を上げた。

 

「み、皆! 女の子がっ!!」

 

 前方を指さして俺達に訴えるラッカル。

 どうやら視覚支援の魔法を使って前を伺っていたらしく、それを使っている時に何かを捉えたらしい。

 

「何、女の子がどうしたんだ?」

 

「襲われてるんだっ!! 急がないとっ!!」

 

 

──────────

 

 

「ラッカル!! 敵の位置を教えろっ!!」

 

「前方数十メートル! ヒロトから見て少し東だ!」

 

 中心部へと続く道を全力疾走。

 ラッカルが使用した速度強化魔法、“ギア・アクセル”をフル活用し、凄まじい速度で襲われているという少女の元へと向かう。

 

 それと同時に自分の後方へ魔方陣を展開、術式と方陣を高速構築する。

 狙うは今まさに拳を振り下ろさんとするゴーレムの腕。

 

 その狙いに気が付いたのかエストも方陣を展開し、ベックは俺たちが走るひとつ後ろでガントレットに何かを唱え始めた。

 

(くそっ、間に合うかっ!?)

 

 前の世界にいた頃には想像だに出来ないほどの速度で駆けているが、それでもゴーレムが振り下ろす腕の速度には追い付けない。

 

 と、先程から背後でガントレットに何かを吹き込んでいたベックが速度を上げて俺の背後へピタリと付いた。

 

「ヒロトっ! 俺が合図したらそのままの体勢でジャンプしろっ!」

 

「ッ! 分かったっ!」

 

 そしてベックは俺の背後に付いたまま、両手をグッと前へ突き出す。

 

「今だっ!」

 

「───どわっ!!」

 

 合図とともに跳躍、宙に浮いた俺の両足にベックの両拳が触れる。

 

「ぶっ飛べ───!!」

 

 一気に振り抜かれた両拳。

 その勢いのまま、俺の体は風を切りながらゴーレムの元へと飛んでいく。

 

(狙いは一点集中。 俺の持てる最大級の威力で奴の腕を吹き飛ばす───!!)

 

 背後に展開した方陣を、突き出した両手に移動させ駆動。

 酷く軋むような音を立てながらも、方陣に宿る光はその強さを増していく。

 

「“(いなな)け、神罰の雷よ! その威を以て突き穿て──ライトニング・ディヴァイン!! ”」

 

 放たれた極太の雷。

 方陣によって生み出された回転を帯び、目で追う事がやっとの速度で敵へと飛来する。

 

 聖属性()()()魔法“ライトニング・ディヴァイン”

 最上級、という冠詞が付く通り、人類が発明した聖属性の最高位に位置する魔法。

 

 その威力は並の要塞ならば容易(たやす)く貫き、古代の賢者が大海を割った際に使用したとの逸話もある、まさに“神罰”の一撃だ。

 

 俺はこの魔法を、ギルドの古文書をこっそり読んだ時に見つけて以来、密かに練習を重ねていた。

 .勿論、そこらで放ってしまっては大騒ぎになるので、詠唱と魔力のコントロールのみで練習を行っていたが。

 

「────ッ!?」

 

 突然目の前に現れた死の一撃。

 ゴーレムは本来覚えるはずのない恐怖を感じたのか、即座にその場から離れようとしたが──

 

 ゴウッという音と共に、その雷がゴーレムのに直撃し、岩石で構成されたその体は僅かな抵抗すら許されること無く穿たれた。

 

 それと同時に、辺り一面が思わず目を瞑ってしまうほどの光と体が浮くほどの豪風に襲われ、宙に浮いていた俺は勿論の事、その遥か後方を走っていた三人も大きく吹き飛ばされる。

 

「がっ───!」

 

 地に足の付かない状態で、俺は前方から飛んできた物体と衝突して──

 

 吹き荒れる風に巻き込まれたまま、中心部から大きく離れた大きな岩壁に激突した。

 

(やばい......意識が......)

 

 

──────────

 

 

「......痛てて......だ、大丈夫か? 2人とも......」

 

 幸い大きな怪我は無いのか、ゆらりとベックが立ち上がる。

 それに少し遅れて、エストとラッカルも立ち上がった。

 

「ぐっ......ヒ、ヒロトは、何処に......?」

 

 ラッカルは腕を骨折したのか、だらんとなった右腕を支えながら辺りを見回す。

 

「ラッカルさん! あまり動いちゃダメですよ! 私達で探しますから、休んでてください!」

 

「ご、ごめん。そう......させてもらうよ......」

 

 ラッカルを気遣うエストも体に擦り傷や切り傷を作っているが、そこまで重傷ではない。

 と、そんな彼らの耳に小さく声が聞こえた。

 

「......い......しっか......!」

 

 途切れ途切れだが、その声の主が酷く焦っているということは容易に理解出来る。

 

「向こうからです! ベックさん、行きましょう!」

 

「おうっ!」

 

 まだ少し痛む体に鞭を打ち、声のする方へと駆けて行く二人。

 そして到着すると──

 

「おいっ! しっかりしろよ! おいっ......!」

 

 先程ゴーレムに襲われていた少女が、その双眸(そうぼう)に涙を浮かべながら何かを揺さぶっていた。

 そして揺さぶられているのは、右腕が真逆に折れ曲がり、口から大量に吐血した大翔だった。

 

「─ッ!? ヒロトさん! しっかりしてくださいっ、ヒロトさんっ!!」

 

「お、落ち着けエスト! ......すまねぇ、少し離れててくれ」

 

 動揺するエストを宥め、揺さぶっている少女にそう言うと、ベックは大翔の首元に指を添えて脈を取る。

 

「......まだ脈はあるみてぇだ。 けど、ここから街へは時間が相当時間が掛かっちまう......!」

 

 幸い命はまだある。

 しかし、危険な状態である事に変わりは無かった。

 

 と、その時だった。

 

「......ぐっ......!」

 

 突然大翔の体がドクンと脈動したかと思えば、意識を取り戻した彼が左手を使って起き上がり始めたのだ。

 

「ひ、ヒロト......? お前、大丈夫なのかよ......!?」

 

 目の前で起きている信じられない光景に、ベックは言葉を失う。

 本来なら死にかけの状態のはずの彼が、動きは鈍いもののまた動き始めたからだ。

 

 

──────────

 

 

(痛って......やばいな、右腕の感覚がないぞ......)

 

 未だぼんやりとした視界で目の前にしゃがみこむ誰かの姿を捉え、少しづつ体を起こす。

 

 どうやら俺は生きているらしい。

 ......とても無事と言える状況ではないが。

 

「ヒロトさん......っ!」

 

 声が聞こえる。

 少しづつ回復してきた視界の端に、今にも泣き崩れそうなエストの顔が見えた。

 

「ごめん。無茶したみたいだな......」

 

「無茶なんてもんじゃねぇよ! お前も俺達も、そこの女の子も、全員死ぬとこだったんだぞっ!!」

 

 怒ったベックの声が、耳に響いて思わず顔を顰める。

 

「ああ、ごめん......。そうだ、ラッカルはどうしたんだ......?」

 

「アイツは腕の骨折っちまったよ。お前程じゃねぇから安心しろ」

 

「それ、安心しても良いのかよ......」

 

 傍から見れば、この状況でそんなに無駄口を叩けたものでは無いのだが、俺が生きていたということで余程安心したらしい。

 

 ベックは俺を見て困ったように少し笑い、エストは先程から泣きじゃくっている。

 

「......っと、まずはこの腕を治さないとな......」

 

「お前、回復魔法も使えるのか?」

 

「一応な。でも、まだ完全じゃないから応急処置程度にしかならないだろうけど......」

 

 魔力は既に全快している。

 あれだけの大魔術を行使したのだから、暫くは魔力が欠乏した状態になるのかとも思ったのだが、魔力回復の速度も凄まじく早いらしい。

 

(うわぁ......こいつは酷いな......)

 

 俺は少し顔を顰めながらも無事な左腕をぐにゃりと折れ曲がった右腕にかざすと、静かに詠唱を始めた。

 

「癒しの光よ、傷を癒したまえ──“ヒール”......!」

 

 光が負傷した箇所を包み込む。

 

 そして、その光が引く頃には右腕の感覚が戻り、折れ曲がっていた腕は元の形へ戻っていた。

 

 戻っていた、のだが.

 

「痛てててててっ! やばい、中途半端に治したからめちゃくちゃ痛てぇ......!!」

 

 骨折自体は回復していない上に、鈍くなっていた右腕の感覚が回復した事で、先程まで感じていなかった腕の痛みが急に俺を襲う。

 

「もう一回......! “ヒール”!」

 

 もう一度淡い光が右腕を包み込み、何とか痛みは和らいだ。

 

「......っと、ラッカルも治してやらないと......」

 

 ラッカルも先程の俺と同じく痛みに苦しんでいるであろう。

 そして起き上がったところで気が付いた。

 エストとベックの他に、俺の目の前で状況を呑み込めないまま座り込んでいる少女が居ることを。

 

「えっと......君、名前は?」

 

「......イリア。 イリア・ミテラストだ」

 

 イリアと名乗った少女は少し俯きながら、続ける。

 

「何で......何でアタシを助けたんだ? 何の関係もないのに、そんな大怪我までして......」

 

「何でって、言われてもな......あの時は必死だったし、思い出せないな」

 

「思い出せないって──」

 

「でも」

 

 俺の言葉に言い返そうとしたイリアの発言を遮る。

 

「目の前で殺されそうになってる人を見て、助けない理由がないだろ?」

 

「......!」

 

 驚いたような表情で固まる少女。

 少し俯いて、もう一度顔を上げると。

 

「......助けてくれて、ありがとうございました」

 

 耳を赤くしながら、ボソリと呟いた。

 

 そんな彼女の様子を見て俺達は顔を見合わせる。

 皆の顔は、一様に“助けられてよかった”という安堵と達成感に満ちていた。

 

「よし。 取り敢えず街へ戻ろうか。 イリアも一緒に来るか?」

 

「えっ......良いのか?」

 

「見た感じ、一人きりみたいだし.結構、怪我してるでしょ?」

 

 長い時間、ゴーレムに追われていたのだろう。

 装備している胸当てや篭手は傷だらけな上に所々ヒビが入っているし、彼女自身も頬や腕などに切り傷や痣が見受けられる。

 

 この場で“ヒール”を使うのも手だが、緊急を要さないのなら教会のプリーストに見てもらった方が良いだろう。

 

「そ、それじゃ......そうさせてもらおうかな」

 

「よし、じゃあ行こうか。 ゴーレムを倒した以上、ここに長居することも無いだろうし」

 

 2人もそれに同意し、俺達は遺跡を離れようとして──

 

「......ねぇ。 僕のこと忘れてない?」

 

「「「あっ」」」

 

 街へ帰る途中、拗ねてしまったラッカルの機嫌を直すのは、ゴーレムを倒すよりもずっと大変だった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
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