神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

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#17 神の御業“リザレクション”

「ステータスを限界以上に引きあげる?」

 

 それは俺がまだこの異世界へと転移を果たす前の事。

 俺は神様から提示された条件の中にあった、『全ステータスの限界突破』について彼に聞いていた。

 

「そう。 お前のステータスは決して低い訳では無いが、それでは魔物の蔓延(はびこ)る世界を生き残るには(いささ)か不安であろう。 そこで、ワシからのサービスとしてお前のステータスを強化してやろうと思ってな」

 

 それも限界以上に。

 要するに、そのサービスを受けることで俺は異世界に降り立った瞬間から“俺TUEEEE”が可能になる。

 

 よく読んでいたラノベに登場する、最強の主人公と同じ能力を得られるという訳だ。

 

「それに、ステータスが高ければ様々な恩恵があるぞ?」

 

「それって例えばどんな?」

 

「代表的なものを挙げると、魔力だな。 魔力量が多ければ、それだけ適合する魔法の数も増える」

 

 神様曰く、人の持つ魔方に対する適性は当人が持つ魔力量に関連するらしい。

 つまり、魔力が低ければそこそこの魔法しか使えず、魔力が高ければ高等な魔法も使えるということ。

 

 それも、俺の場合は限界以上にまで魔力量を増やしてくれるということなので、これから行く異世界に存在する魔法全てを網羅(もうら)することも可能だと言う。

 

「なるほど。 それは確かに魅力的ですね」

 

 何より、異世界といえば魔法だ。

 それを種類の際限なく全て扱えるというのだから、最高のサービスだろう。

 

(全ての魔法が使える......これは、大きな強みになりそうだ)

 

 

──────────

 

 

「これが、“リザレクション”が記された魔導書です。 ......本来なら門外(もんがい)不出(ふしゅつ)なのですが、今回は貴方の勇気に免じてお貸し致します」

 

 マカトさんが持ってきてくれたのは、重厚な皮の表紙の本。

 パッと見かなり古ぼけており、ボロボロのようにも見えるのだが、開いてみると中の情報が記された紙はとても綺麗な状態で残されていた。

 

 それだけ、協会の人間が大事に保管してきたのだろうと、容易に理解できる。

 

(前半は“リザレクション”の起源が記されているのか。 ......お、あったぞ)

 

 パラパラとページをめくっていくと、ちょうど真ん中あたりに“神の御業 リザレクション”と大きく記されたページがあり、そこに詠唱文が長々と記されていた。

 

「随分と長い文だな......“ライトニング・ディヴァイン”でも三節詠唱だったのに」

 

「“リザレクション”を発動させるには、ここに記された六節の詠唱を文言違わず完璧に詠唱することが最低条件です。 ......最も、詠唱が出来るだけでは何にもならないのですが」

 

 マカトさん曰く、この協会に従事するプリーストや神父は皆、この“リザレクション”の習得を目指しているというのだが、誰一人として発動に至った者は居ないらしい。

 

 それどころか、この詠唱を完璧に暗唱出来る者も少ないのだとか。

 

「これは、本腰入れていかないとな......」

 

 紙に記された詠唱文を、頭の中で読み上げていく。

 

輪廻(りんね)円環(えんかん)、生から死へ、創世から滅亡へ、今ここに全ては逆転する、数多(あまた)を統べる創世の神よ、今ここに彼の御業を顕現(けんげん)させたまえ──)

 

 どうやらこの魔法は、何らかの事象や生物が辿る輪廻を逆転させる現象を起こすようだ。

 

 つまり、治療が難しい病に苦しんでいるリリィという少女が辿っている“死”への直進を逆転させる事で、病そのものを消し去る事が出来る......という解釈でいいのだろうか。

 

 もしそうなら、まさに“神の御業”と呼ばれるに相応しい魔法だ。

 

「......どうですか、ヒロトさん。 詠唱は出来そうなんですか?」

 

 先程から黙ったままの俺を心配しているのか、エストが声を掛けてくれた。

 

「ああ。 発動させる為の詠唱は頭に叩き込んだ。 ......あとは、“リザレクション”が正常に作動するかどうかだな」

 

 あの神様の言葉を信じるのなら、必ずこの魔法は成功する。

 ......いや、成功させなくてはならない。

 

「イリア、今からそのリリィって子がいる村まで案内してくれるか?」

 

 俺は椅子から立ち上がると、ベットに座り込んだままのイリアに声を掛ける。

 

「わ、分かった」

 

「馬車は教会所有の物をお使い下さい。 ......どうか貴方に創世神サハト様の御加護がありますことを......」

 

 マカトさんは首から提げたレリーフネックレスを両手で強く握り、祈る様に頭を下げた。

 

「ええ。 ......必ず、救ってきます」

 

 それだけ言い残すと、俺達は教会をあとにした。

 

 

──────────

 

 

「リリィ!」

 

 バタンと大きな音を立てて、勢いよくイリアが扉を開いた。

 馬車を駆り、俺達はイリアの友人が居る遺跡南東の村へ到着した。

 

 村の名は“プアブ村”。

 話に聞いていた通り、村はかなり困窮(こんきゅう)しているようだった。

 

 畑はあるが、耕す者が居らず。

 店はあるものの、そこには売る品物が存在しない。

 立ち並ぶ家々も壁にヒビが入り、屋根が一部無い物も存在する。

 

 そして何より、人々の痩せこけた顔がその惨状(さんじょう)を物語っていた。

 

「......い、りあ? 来て、くれたんだ......」

 

 そして村の最奥に位置する小さな小屋。

 イリアの案内でそこへと到着した俺達は、リリィの両親の許諾を得て彼女が眠っている部屋へと通された。

 

「これは......」

 

 エストが床に横たわるリリィの姿を見て、思わず言葉を失う。

 それは俺も同じだった。

 

 村の人々よりも更に痩せこけた顔からは色が抜け落ちており、目はほとんど開いていない。

 体は(ほとん)どの肉が落ちたのか、骨の形がくっきりと浮かび上がっている。

 

 しかし、苦しいはずの彼女がイリアの声を聞いた瞬間に少しだけ笑顔になったのは幸いだった。

 

「リリィ、もう少しの辛抱だからな! 今、この人がお前のこと直してくれるからさ!」

 

「......なお......るの? ほんとに......?」

 

 苦しげに声を絞り出すリリィ。

 声を発する度に、喉からヒューヒューと音が鳴るのが見ているだけでこちらまで苦しくなってしまう。

 

 俺はそんな彼女の側へ座り込むと、“リザレクション”に必要な魔力を練り上げながら、彼女に話しかける。

 

「初めまして、リリィ。 ......今から、君の病気を治すけど、一つだけ約束して欲しい」

 

「やく......そく......?」

 

「うん。 イリアは、君の病気を治すために沢山頑張ったんだ。 ......だから、君の病気が治って元気になったら、沢山褒めてあげて欲しい」

 

 その言葉を聞いてまた少し笑ったリリィはゆっくりと頷いて、自分の隣に座るイリアの手を握る。

 

「エスト。 これから“リザレクション”を行使する。 ......もし、俺が魔力のコントロールを誤りそうになったら、すぐに止めてくれ」

 

 仮に“リザレクション”の発動に成功したとして、そこから魔力のコントロールが上手くいかなければ元も子も無い。

 

 そんな俺の言葉にエストはこくりと頷くと、いつでもサポートができるように俺の背後へと回った。

 

(魔力の練り上げは十分。 ......さあ、始めるか──!)

 

 魔力をゆっくりと放出させる。

 そして、一言も違わないように慎重に詠唱を開始する。

 

「“輪廻の円環、生から死へ、創世から滅亡へ、今ここに全ては逆転する、数多を統べる創世の神よ、今ここに彼の御業を顕現させたまえ──! “リザレクション”──!!!」

 

 瞬間、横たわるリリィを淡い光が包み、その頭上に幾重(いくえ)もの魔法陣が発現する。

 それらは噛み合った歯車の様にそれぞれが同調して回転を始め、リリィを包む光はその強さを増していく。

 

 俺は“リザレクション”を発動させた事による大幅な魔力消費に一瞬揺らぎながらも、方陣の回転が狂わないように意識を魔法に収斂(しゅうれん)させる。

 

 と、煌々と輝く光の中でリリィの手を握っていたイリアが声を上げた。

 

「......リリィの手が温かくなっていく......!」

 

 先程まで酷く冷えていた彼女の体には正常な速度で血が巡り始め、徐々に彼女の体温を回復させていく。

 

「......くっ......あと、少し......!!」

 

 継続的に魔方陣へと大量の魔力を注ぎ込んでいるからか、少しづつ腕が痺れ始める。

 それでも、ここで止めてなるものかと俺は意識を研ぎ澄ませる。

 

 そして、部屋を一際強い光が覆った──

 

 

──────────

 

 

 ......いつまでそうしていただろうか。

 

 気が付くと、俺は天井を見上げていた。

 そして、後頭部には何やら柔らかい感触がある。

 

「......おはようございます、ヒロトさん」

 

 ハッキリとしてきた視界にまず映ったのは俺の顔を見て安堵しているエストの顔だった。

 ......ということはつまり。

 

「ご、ごめんっ! 膝枕なんてさせちゃって......」

 

 どうやら俺は“リザレクション”を発動させた反動で大量の魔力を失い、眠ってしまったらしい。

 今はもう完全に回復しているが、窓の外の日が落ちかけているのを見るにかなり長い間眠っていたらしい。

 

 と、そこへ一人の少女がやって来た。

 

「ヒロトお兄ちゃんっ! 助けてくれて、ありがとうっ!」

 

「......もしかして、リリィ? 良かった、元気になったんだね」

 

 俺の目の前で元気に笑っているのは、先程まで病床で今にも死にそうになっていたリリィだった。

 まだ頬に()けたあとは残っているものの、肌には健康的な赤みが戻り、殆ど開いていなかった両目もパッチリとしている。

 

 あまりに酷い姿だった彼女だったが、元気になるとイリアとおなじ銀髪に蒼色の瞳が良く似合う可愛らしい少女だ。

 

「......そういえばイリアは? さっきから姿が見えないけど......」

 

「イリアは私が治ったって、パパとママと一緒に村の皆に伝えに行ったよ!」

 

「とっても喜んでましたよ、皆さん」

 

「あはは......そっかぁ......」

 

 リリィに対して発動させた“リザレクション”は成功した。

 ......その事実を知って、俺はまた安堵(あんど)のあまり体から力が抜ける。

 

 それを隣に居たエストが支えてくれた。

 

(神様、ありがとう。 アンタがくれたこの力のおかげで、一つの命を救うことが出来たよ)

 

 この言葉を聞いているのかは分からないが、何処かで俺を見ているであろう彼に、心の中で礼を告げた。

 

 

──────────

 

 

「帰っちゃうの? ヒロトお兄ちゃん......」

 

「うん。 これから、冒険者のお仕事をしなくちゃいけないからね」

 

 名残惜しそうに俺の服の裾を掴んでいるリリィの頭を撫でてやると、気持ち良さそうににへらと笑う。

 

「本当に、ありがとうございました。 なんとお礼をしていいことか......」

 

「いえいえ、一日家に泊めていただいただけで結構ですよ。 ......それよりも、彼女を救う事が出来て本当に良かった」

 

 実は昨晩、今日はもう遅いからお礼も兼ねてうちに泊まられてはどうか、とリリィの両親が俺とエストを家に泊めてくれたのだ。

 

 その際に村の人々からもリリィを救ってくれたお礼がしたいと何度も言われたのだが、この村から何か頂いていくというのは少し気が進まない。

 

 と、そこへプアブ村の村長──アビヌ=ダルソムという名前だそう──が一つの細長い箱を持ってやって来た。

 

「キリシマ殿。 これを村の小さき命を救ってくれた貴方へ対する礼として、どうか受け取って頂けないだろうか」

 

 そう言って、その箱を俺の方へと差し出してきた。

 箱を包む布はかなりボロボロだが、箱自体はとても綺麗な状態だ。

 

 木製だと言うのに、腐っていないということはかなり高価なものだということだろう。

 

「そんな高価そうなもの、受け取る訳には......」

 

 遠慮して、受け取りを拒否しようとしたのだが、アビヌさんは引き下がらない。

 

「これはとある男が『一宿(いっしゅく)一飯(いっぱん)の礼に』とこの村へ置いていった魔法剣なのですが、我々が持っていても宝の持ち腐れというもの。 どうか、貴方の冒険に役立てて頂きたいのです」

 

 そして、とうとう俺はその言葉に押し負けて、箱を受け取ってしまった。

 ズシリと確かな重みのあるその箱の中には、剣の重みだけではなくて彼らの感謝の気持ちも詰まっている様だった。

 

「ヒロトさん、そろそろ行きましょうか。 マカトさんにこの馬車を返さないとですし」

 

 そして、馬車へと乗り込もうとする俺達の名前を背後から大きな声で呼ぶ者が居た。

 

「ヒロトー! エストー!」

 

「ヒロトさん、イリアちゃんが走ってきましたよ! おーい!」

 

 エストが大きく手を振る方へ目をやると、こちらへ駆け寄ってくるエストの姿が見えた。

 俺は馬車へ()けた足を下ろすと、駆けてきたイリアの元へと向かう。

 

 ハアハアと息をを切らしながらも、すぐにそれを整えて俺たちの方へと向き直ったイリア。

 何かを言おうとして、少しくぐもって。

 

「......本当に、ありがとう。 二人に出会わなかったら、あたしもリリィも死んじゃうところだった」

 

「いいや。 ......リリィを救ったことに関しては、俺達だけの功績じゃないよ」

 

「え......?」

 

 キョトンとするイリアを見て、顔を見合わせながら俺とエストは少し笑うと、俺は彼女の肩に手を置いて

 

「最初にリリィを救おうとしたのは、君だ。 イリア」

 

「イリアちゃんが行動を起こさなかったら、私達も知らないままでしたからね」

 

「で、でも、あたしは......」

 

 困惑するイリア。

 だが、そんな彼女の手を一人の小さな手が握りこんだ。

 

「イリアも、助けてくれてありがとうっ!」

 

「......!」

 

 村の人々が暖かい目で見守る早朝の広場で。

 

「......うんっ!」

 

 二人の小さな少女が満面の笑みを浮かべて居た。

 

 

──────────

 

 

「......なぁ、リリィ」

 

「どーしたの、イリア」

 

 ヒロト達が村を去ったあと。

 イリアとリリィの二人は、村にある小さな櫓の上で遠く広がる草原を眺めていた。

 

「また、あの二人に会えるかなぁ」

 

 何処か寂しそうな目で、イリアはぽつりと呟く。

 そんな彼女を優しげな目で見つめながら、リリィは小さく言った。

 

「きっと会えるよ。 きっと──」




ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想や、アドバイス等頂けるとありがたいです。

次回から第一章完結編へと向かい始めます。

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