神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

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#18 生き残る為の作戦

 イリアとリリィの一件の翌日。

 

 マカトさん協力の元、俺が“リザレクション”を使えたという事実は(しばら)く公表を遅らせて貰う事になった。

 

 何より、街が混乱すると考えたからだ。

 それに、未だ街は“白獣(はくじゅう)”接近の脅威に脅かされている。

 

 そこへ駆け出しの冒険者が国家魔術師しか使えないと言われている蘇生の秘術(リザレクション)を使える、という素っ頓狂な話が飛び込んできたのでは、さらに街の人々の混乱を招いてしまう。

 

 なので、この事実を知っているのはプアブ村の人々と教会上層部。

 そして、俺とエストのみだ。

 

「けれど、本当に“リザレクション”を使えちゃうなんて......尊敬を通り越してつくづく呆れちゃいますよ、ヒロトさんには」

 

 俺の魔法の先生であるエストは先程から俺の部屋に来るなり備え付けの椅子に座って拗ね気味だ。

 

 プアブ村からリドルトへと帰還した後、マカトさんにプアブ村での出来事を話して、危うく教会中が大騒ぎになるところだった夜。

 

 宿に帰った後で、食事をしている時にエストが拗ね出したのだ。

 足をパタパタさせては、「もう私が教える事なんてないんですよーだ」とブー垂れている。

 

 その都度俺も弁解していたのだが、こうも長く続いてしまうとそろそろ面倒になってきた。

 

 と、そこへ部屋のドアをドンドンとノックする音が。

 俺が扉を開けると、そこには冒険者ギルドの受付嬢であるミラさんの姿があった。

 

「どうされたんですか? わざわざ俺達の宿まで来られて......」

 

「お二人を呼びに来たんですよ。 マスターから至急調査隊のメンバーを招集してくれ、と命令が下りましたので」

 

 その話を聞いて、さすがに拗ねている場合ではないと理解したのか、椅子から降りて俺の後ろへとやって来るエスト。

 

「エストさんも居られたんですね。 それでは、これから一緒に来ていただけますか?」

 

 

──────────

 

 

 ミラさんに連れられてギルドへ到着すると、そこには既に沢山の冒険者たちが集められていた。

 その数は二十名程だろうか。

 

 どうやら彼らも、俺達と同じく“フロウラ連合調査隊”のメンバーとして招集された冒険者らしい。

 

 と、その中に見知った顔を見つけた。

 

「よう。ベック、ラッカル」

 

「お、ヒロト達も到着してたんだな」

 

「久しぶり、二人とも」

 

「お久しぶりですっ」

 

 数日ぶりの再会となった二人は防具を新調したらしく、ラッカルに関しては前まで使っていた質素な弓から小さい魔石のような物があしらわれた物に変えていた。

 

「この間のゴーレム討伐の報酬が思いの外美味かったからな。 色々と揃えてきたって訳だ」

 

「ヒロト達も何か新しい装備買ったりしたの?」

 

 俺達はといえば、貰った報酬はそのまま銀行に預けていた。

 というのも、ここ暫くは色々とゴタゴタが続いたのでそんな暇がなかったからだ。

 

 まあ、壊れてしまった防具などは新調したが、前と変わった点は特に無い。

 この間プアブ村で貰った魔法剣も、まだ扱いになれていないので使っていない。

 

「けど、いきなり集めるなんて何かあったのか?」

 

「さあな。 俺達もギルドの職員に取り敢えず来てくれって言われたから来ただけでよ。 詳しい事はなんも知らされてねぇんだ」

 

「ふーん。 そっか」

 

 と、そんなことを話していた時だった。

 

 クイクイっと俺の服の裾をエストが引っ張る。

 何事かと思って耳を傾けると

 

「オルグさんがいらっしゃいましたよっ」

 

 と前を指さしている。

 その方向へと目をやって見ると、普段とは違う恐らく正装だと思われる服装に身を包んだオルグが集められた冒険者達の前に立っていた。

 

 彼は一つ咳払いをすると、ゆっくりと話し始めた。

 

「......今日皆に集まって貰ったのは他でもない。 先日告知した調査隊の件についてだ」

 

 それだけ言って、オルグは隣に控えているギルド職員達に指示を出す。

 俺達は職員から手渡された書類を受け取ると、各々それに目を通し始めた。

 

「諸君等に伝えるのが遅くなって済まなかった。 公国騎士団の到着が少し遅れてな。 ......それでは、今回の作戦の概要を伝えよう」

 

 いつもの仏頂面(ぶっちょうづら)を微塵もゆがめる事なく淡々と話を続けるオルグ。

 

 と、そんな様子を見ていたベックがぽつりと呟く。

 

「あの人があんなに喋るなんて、珍しいこともあんだな」

 

「それだけ、本気だって事じゃないのか?」

 

 普段寡黙な彼からは想像もできない姿だが、彼はこの街の冒険者たちの長。

 今回の問題について人一倍悩んだことだろう。

 

 彼自身が直轄の指揮を下すのはとても珍しいことらしいが、今回は自分が前に出て冒険者たちを支えたいと感じたのかもしれない。

 

「まず、作戦期間は五日間を目処にしている。 場合によっては期間の延長も考えているが、今の時点では一週間だと思っておいてくれ」

 

 また、五日間凌げるだけの食力などの物品は全てギルドが調達してくれるそうだ。

 なので、個人での物品購入の必要は武器等以外必要ない。

 

「出征は今日から三日後。 その間に、各々装備を固めておいて欲しい。 仮に白獣と対峙することが無かったとしても、向かうのは森の最深部。 強力な魔物との戦闘も視野に入れておく必要がある」

 

 隣に控えるミラさんが、書類の五ページ目を見るように促す。

 

 そこには、フロウラの森最深部に生息する魔物の名前や特徴。 討伐方法や注意点等が事細かに記されている。

 

 その中には、先日俺たちが討伐した“マッドプラント”の名も記されている。

 

「うぅ......また、追いかけられちゃうんでしょうか......」

 

 先日の出来事が若干のトラウマになっているエストが、その名前を見つけて嫌そうな顔をする。

 

「大丈夫。 今回はこの街の腕利き冒険者たちが一緒なんだ。 追いかけられるなんてことはないだろ」

 

「そうでしょうかぁ......」

 

 そこまで怖かったのか、あの時。

 ......でも、彼女の魔法の才は公国騎士が認める程だ。

 いざとなれば、彼女の魔法がきっと戦力になるはず。

 

 そんな感じで少し褒めていると機嫌を治したのか、ちょっと得意げな表情をしながら書類に目を通し始めた。

 

(もしかして、エストはチョロいのか?)

 

 真剣にオルグの話を聞いている彼女の横顔を見ながら、そんな疑念を胸に抱いた。

 

「最後に。 今回の作戦の最終目標はあくまで“白獣”がフロウラの森に住み着いているのかどうかを調査することだ。 仮に奴の姿を発見しても、戦闘を仕掛けるようなマネは決してするな。 奴が居たという情報さえ手に入れば、公国騎士団が討伐の為に動いてくれる」

 

 調査対象である“白獣”は国から多額の賞金が掛けられているだけあって、その強さは他の魔物と一線を画すものだ。

 

 その鋭い爪から繰り出される斬撃は、一振で鋼鉄製の鎧をも引き裂く程の恐ろしい威力を誇る。

 それに何より、“白獣”は名に“獣”の字がつくだけあって非常に鋭敏な嗅覚を所持している。

 

 その為、消臭ポーションを使った状態でも近づきすぎればその僅かな匂いから相手の場所を特定して襲いかかってくる。

 

 それだけ危険な魔物相手に、騎士団ほど統制の取れていない冒険者達が束になっても太刀打ち出来る訳が無い。

 

「余計なことをすれば確実に命を落とす。 ......各々、この言葉を胸に刻み込んでおいてくれ」

 

 オルグが威厳のある低い声でそう告げると、集められた冒険者たちは一様にゴクリと唾を飲みこんだ。

 

(いざという時は俺の“テレポート”で逃がす事も出来るけど......この書類に記されている情報を見る限り、万が一“白獣”と戦闘になったら連発出来るほどの隙は無さそうだな......)

 

 それに一度に大勢を転移させるとなると、転移させる対象が俺の視野に収まっている必要がある。

 

 そうでなければ“テレポート”の対象に指定することが出来ず、街へと転移させる事が出来ないからだ。

 

(これは色々と対策を考えておく必要がありそうだな......)

 

 

──────────

 

 

「と、言う訳で。 三日後の出征に備えて色々と対策やら準備やらをしたいんだ」

 

「それで俺たちを呼んだのか? ......まあ、対策は必要だと思ってたけどよ」

 

 宿屋リリーブ内の食堂の一角。

 俺とエストは、ギルドでの説明が終わったあとに近くにいたベックとラッカルに声をかけ、作戦会議を行うことにした。

 

 ここで今の俺達の遠征における立場を明らかにすると、純粋な戦闘要員はエスト一人のみ。

 ベックとラッカルは物資を運ぶ為の人員で、俺は一応戦闘要員として参加するが、いざと言う時に“テレポート”で負傷者達を街へと送り返す役割も担っている。

 

 また、今回の遠征では冒険者二十名と騎士六名の計二十六人を予定していたが、公国からさらに追加で四名の騎士が派遣される事が決定し、計三十名での作戦になる。

 

 そこに例外で加わった俺達を含めて三十四名。

 最終的な内訳としては、戦闘要員が十八名、支援要員が六名、運搬要員が六名だ。

 

「確か、今回の遠征に参加するのは青以上の冒険者がほとんどでしたよね? 私達は、例外で編入されましたけど......」

 

「それに僕とベックは戦闘要員じゃ無いからね。 実質的に、赤等級で戦闘要員なのはヒロトとエストだけじゃないかな」

 

 青以上のの冒険者の実力がどれ程の物なのかは分からないが、遠征の主力として選抜されているのだから深部の魔物と戦える程の強さは有しているのだろう。

 

 ......俺の中での青等級のイメージは路地裏で絡まれたあの馬鹿共(チンピラ)なのだが、皆がそうではないという事を祈りたい。

 

「それに、今回の作戦は公国騎士団からも参加者がいるんだろ? アイツら選りすぐりのエリートばっかだから相当強いはずだぜ?」

 

「まあ、な。 ......でも、万が一に備えて準備しとくのは大事だと思うぞ?」

 

 正直な話、赤等級の俺達にはそこまで期待は寄せられていないだろう。

 精々、深部の魔物での戦闘で援護を行う程度しか。

 

 ......まあ、幾ら俺のステータスが強化されているとはいえ、魔力のコントロールがまだ完璧ではない俺では活躍する事は難しいだろうし。

 

 “テレポート”を使えると言うだけでスカウトされたようなものだから、あまり気負う必要は無いのかもしれないが。

 

「取り敢えず、今俺達に必要なのは作戦中にどう生き残るかってことじゃねぇのか? 死んじまう可能性だって無いわけじゃねぇしよ」

 

「......あまり考えたくない話ですけど、ベックさんの言う通りですね......」

 

 死ぬと言う言葉に少し顔を青くするエスト。

 ......確かに、深部の魔物とは戦えるのだろうが、オルグが言っていたように“白獣”と戦闘になってしまってはその可能性もゼロではない。

 

 むしろ、俺達に至っては高いまである。

 

「ここは無理に戦う為の作戦を立てるより、確実に身を守る術を考えた方が良さそうだね」

 

 ラッカルがコップに入った氷をカラカラと転がしながら言う。

 成程、それは一理あるかもしれない。

 

「となれば基本は逃げだな。 勝てないと踏んだなら逃げてしまうのもありかもしれない」

 

「でも、それだと私達は助かりますけど他の冒険者の方々に負担がかかるんじゃないですか?」

 

 そんな卑怯な事は......と嫌そうな表情をするエスト。

 そんな彼女に「そうじゃなくって」と弁明すると、俺は机の上に置いてある角砂糖が入ったビンを手に取る。

 

 それを机の上に幾つか取り出して並べると、俺はそれらを動かしながら説明を始めた。

 

「ここでの“逃げ”ってのは、戦闘から退却して逃げ帰ることじゃない。 というか、深部に潜ったら逃げた所で他の魔物に襲われるのがオチだ」

 

「なら、どういう意味なんだよ」

 

 俺は取り出した角砂糖の中から一つ選ぶと、それを動かす。

 

「“逃げ”の意味は、なるべく魔物と正面切って戦わないって事だ」

 

「......でも、それじゃ結局他の冒険者の負担が大きくなるんじゃ......?」

 

「そう。 この作戦はそこが肝なんだ」

 

 そう言いながら机の上の角砂糖を右へ左へと動かす俺を不思議そうに見つめる三人。

 そんな三人の視線を感じて、ずっと指で動かしていた角砂糖の動きを止めた。

 

「さて、こっちで向かい合ってるこの砂糖を魔物と戦闘中の冒険者だと仮定しよう。 それで、その後方に置いてあるのが俺達だ」

 

 そして、その後方に置いた四つの角砂糖をそれぞれ向かい合わせた物から一定の距離を置いた位置に移動させる。

 

「さっき俺は“逃げ”の意味が魔物と正面切って戦わない事だって言ったけど、それは要するに“誰とも戦っていない魔物”を狙うんじゃなくて、“冒険者や騎士と戦闘中の魔物”を狙うって事なんだ」

 

 そう言って、移動させた砂糖を向かい合う砂糖の一つに向かって指で弾いて当てる。

 その衝撃で、当てられた方の砂糖が机の上から転がり落ちていった。

 

「......ヒロトさん。 アルバーさんに叱られますよ?」

 

「......後でしっかり謝るよ。 で、作戦の説明の続きだけど」

 

 気を取り直そうと軽く咳払いを挟み、俺は説明を再開する。

 

「何で他の冒険者と戦っている魔物を狙うかってことなんだけど、それは単純に俺達の実力が他の冒険者達よりも劣るからなんだ」

 

「それは僕達も理解してるよ。 けど、それなら最初から二対一で掛かった方が良いんじゃないの?」

 

「いや、最初から二対一なら魔物は二人を相手にしているという認識を持った状態で対抗してくる。 要するに、準備が出来ている状態になるって事だ」

 

 その上、今まで共に戦ったことも無い冒険者と即席のタッグを組んだところで連携が取れるはずもない。

 (かえ)って戦力がダウンするなんてことにもなりかねないだろう。

 

「今言った作戦は所謂(いわゆる)“奇襲”みたいなものなんだ。 他の冒険者と対峙(たいじ)してる魔物は、目の前の相手に全神経を向けている。 つまり、他の冒険者には気を向けられない状態になる」

 

 目の前の事に集中すると、周りが見えなくなるのは人も魔物も同じ事。

 つまり、それを利用するという事だ。

 

「そんな時に、完全に意識の外にある場所から攻撃をされれば大きなダメージを与える事が出来るはずだ」

 

「けどよ。 それじゃ倒しきれねぇんじゃねえのか? それに、他の冒険者と戦ってるってことは動き回ってる訳だし、当たらねぇなんてこともあるだろ」

 

「別に、確実に仕留められなくてもいいし、外れてもこの作戦の場合は問題ない」

 

 この作戦の狙いは別の所にある。

 

「重要なのは、意識外からの攻撃によって魔物に隙が生じる事なんだよ。 そうすれば、元々戦ってた冒険者達にとっても大きなチャンスになる」

 

「確かに、隙さえあれば急所を狙うことも出来ますね......!」

 

「倒せたらラッキー、倒せなくてもチャンスになる......」

 

 俺は机の上に転がした角砂糖を小瓶に仕舞いながらも、さらに話を続ける。

 

「これなら、俺達は直接的に魔物との戦闘をしなくて済むし、戦闘要員じゃない二人にも援護の芽が産まれるだろ?」

 

 ラッカルは言わずもがな、ガントレット使いのベックにも“衝槌(しょうつい)”という中距離攻撃の為の技能がある。

 

 この作戦に(のっと)って、これらの技で冒険者達を援護すれば戦力が劣る俺達でも十分に役に立つことが出来る。

 

「よしっ、それだ! その作戦で行こうぜ!」

 

「うん、僕も賛成だよ。 ......ヒロト、結構頭がキレるんだね」

 

実の所、前の世界でよく読んでいた漫画で得た知識なのだが......。

彼らに言っても分からなさそうなので言わないでおこう。

 

「そりゃどうも。 ......とはいえ、ある程度は連携が取れるようにしといた方がいいだろうし、明日辺りにでも近くの草原まで行ってみるか」

 

「はいっ! 良かったぁ......私達もお役に立てそうで......」

 

 それから各々の意見を追加して、最終的にはこんな感じになった。

 

 ・深部の魔物は、他の冒険者と戦っている個体から優先して攻撃する。

 ・倒すことが出来れば次へ、出来なければ一旦退いて別の個体を狙う。

 ・騎士が相手をしている魔物に関してはスルー。

(却って邪魔になる可能性があるため。 ただし、援護が必要だと判断した場合は加勢する)

 ・極力、フリーになっている魔物には近づかない事。

 

 この四ヶ条を以て、俺達の()()()()()()()()()”になった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想や、アドバイス等頂けるとありがたいです。

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