神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
「という訳でですね。 私も武器を新調したいなと思いまして」
二日間に渡るベック達との練習を終えて、宿へと向かう道の途中。
エストがふとそんな事を言った。
「武器って、今エストが使ってるのはナイフとワンドだっけ? どっちを新調するの?」
「ワンドの方を新しくしようと思うんです。 ほら、あのお店って紫鉱製の武器置いてたじゃないですか」
そう言いながら、エストは腰に携えたワンドを手に取る。
今彼女が使っているのは特にこれといって装飾は無い、かなり簡素なタイプのものだ。
「これも
「まあ確かに、触媒の質が良いとそれだけ使う魔法の威力とか精度が上がるもんな」
魔法使い職の冒険者たちにとって、ワンド等の触媒と呼ばれる物は非常に重要な役割を持っている。
通常、触媒と呼ばれる物にはその核である部分に“魔晶石”と呼ばれる魔力結晶が必要で、極論を言えばその鉱石だけでも触媒としての能力は十分にある。
しかし、魔晶石の特性としてその内部に存在する魔力を全て使い切ってしまうと砕けて無くなってしまうというものがある。
それを防ぐ為に、魔力源としてではなく、触媒としての能力を持たせたのがワンド等の武器だ。
「それにですねヒロトさん。 紫鉱製ともなれば値段こそ張りますけれど、触媒の性能を格段に上げてくれるので、魔法の性能を更に引き上げてくれるんですっ!」
「お、おう。 分かったから取り敢えず落ち着こう、な? ほら、周りの人も見てるから......」
道のど真ん中で、ブンブンと両手を振りながら俺に紫鉱製ワンドの素晴らしさを伝えてくれるのは良いが、いい加減周りの暖かい視線が気になって仕方がない。
「ほらっ、続きは店で聞くから取り敢えず行こうって、な?」
「ああっ、まだ説明したいことが山ほど......っ」
どうやらエストは魔法の事となると、とても饒舌になるらしい。
......よーく覚えておこう。
──────────
「おっ、いらっしゃい! 今日はどんな武器をお求めだい?」
リカント武具店に到着すると、元気な様子でバルトさんが出迎えてくれた。
と、そこであることに気がついた。
「店の武器、ほとんど売り切れちゃってますね......」
「ははは、すまないね。 何でも、明後日から遠征に行くって冒険者達が武器を新調しに次々来るもんだから、儲けは出たが他の冒険者達には少し気の毒ってもんだな」
俺たちと同じで、遠征に行く冒険者達は皆武器を新調したらしい。
......まあ、深部の強力な魔物を相手にするのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
「で、アンタらはどんな武器をお求めなんだ? 店のもんはほとんど残っちゃいないが、言ってくれれば奥の方で探してくるぞ」
「あ、あの。 紫鉱製のワンドって、まだあるんでしょうか......?」
おずおずと言った様子でエストがバルトさんに声を掛ける。
......ここ最近のエストは色んな冒険者達に出会ったことで多少人見知りも改善されてきたのだが、まだまだ完全ではないらしい。
そんなエストの頼みを聞いて、「ちょっと待ってな」とバルトさんは店の奥へと消えていった。
折角だし、俺も残っている武器を少し見ていこう。
今からというのは難しいかもしれないが、ラッカルが使っているような弓を使ってみるのも格好良さそうだ。
......いや、ここは敢えて武器を捨ててベックみたいな
頭の中でブツブツ考えながら武器を物色していると、そこへ一本のワンドを持ったバルトさんが戻って来た。
「いやぁ、運がいいなお嬢ちゃん。 店の奥に一本だけ残ってやがったよ」
「本当ですかっ? 良かったぁ......」
エストはアンドに胸をなで下ろすと、バルトさんからそのワンドを受け取る。
全体が黒で統一されたそれは、やはりチカチカと紫色の光が散りばめられている。
エストはこれに決めたのか、懐から財布を取り出す。
「あの、これ幾らですか?」
「このワンドだと、大体金貨五枚が相場だな」
金貨五枚。
この間のメイスよりも一枚安いが、それでも高額な事には変わりない。
だが俺達もかなり多くの依頼をこなしてきたので、それなりに貯蓄は増えている。
先日受けた“ストーンゴーレム”討伐の依頼に関しては、報酬が金貨二枚だった。
何でも、あの遺跡からゴーレムが消える事で遺跡内に群生している“アスルの花”の採取の難易度が格段に下がるらしい。
それを考慮しての高額報酬。
恐らくベック達はその報酬で装備を一新したのだろう。
「......よしっ、金貨はきっかり五枚受け取ったぞ。 ほら、これはお嬢ちゃんの武器だ」
「ありがとうございますっ! ......って、あれ? あの、この袋は......?」
エストが受け取ったのは紫鉱製のワンドと小さな麻袋。
中には何がゴツゴツした物が入っている。
「そいつはちょっと特殊な魔晶石でな、ワンドのコアの根元に小さな
言われてエストが持つワンドの根元を見てみる。
......なるほど、確かに小さな窪みがある。
「貸してみな」とバルトさんがエストの持つ麻袋を手に取ると、卓の上にその中身を取り出す。
中に入っていたのは、カラフルな小石だ。
と、それを見たエストが「えっ」と声を上げる。
......俺からすればただ色の着いた小石なのだが、エストにはそれが何なのか分かったらしい。
「こ、これ、
四元素魔晶石。
名の通り、“火”、“水”、“風”、“地”の四元素の魔力が集まって出来た魔晶石だ。
それらをワンドなどの触媒に使用する事で、対応する属性の性能が格段に上昇するという結晶。
しかし、四元素魔晶石はかなり希少な鉱物で、尚且つ使い捨てのブーストアイテムのようなもの。
それ故に一介の冒険者達が使用する機会はほとんど無いのだが......。
「お嬢ちゃん達も遠征に行くんだろ? なら、こんなチンケな武具店でそれを
「......あのっ、ありがとうございますっ!」
エストが深々と頭を下げる。
それを見て少し笑ったバルトさんは、俺達が武具店を去ろうと扉を開けようとした時に一言。
「頑張ってこいよ、冒険者!」
と大きな声で背中を押してくれた。
──────────
「良かったな、エスト」
「はいっ! ......今度、バルトさんにはお礼をしなくちゃいけませんね〜」
アルバーさん手製のピリ辛トカゲ肉のステーキを食べている俺の前で、先程からエストはキラキラと光る小さな魔晶石を眺めている。
時折コロコロと転がしては、ふふっと上機嫌そうに微笑んでいる。
そんな彼女の楽しそうな顔を見ていると、ただでさえ美味い飯が更に美味くなるというものだ。
......というか、異世界に来てから何の違和感もなくここまで食事をしてきたが、こっちの世界ではトカゲやカエル、果てには魔物の肉も食すらしい。
カエルハンバーグを最初に食べた時に、エストに何の肉だと聞いて「カエルですよっ」とあの
カエル肉に関しては先日屋台で食べたコッケ鶏の串焼きにも引けを取らない美味さだ。
「......ふぅ。 ご馳走様でしたっと」
そうこうしている内にトカゲ肉のステーキを食べ終えた俺は、未だにニヤニヤとしているエストに少し苦笑いすると、食器を返すために返却口まで向かう。
アルバーさんはまだ厨房で料理を作っているのか、奥の方からタレのいい匂いと肉の焼ける音が聞こえてくる。
と、後ろにエストがちょこちょこと着いてきているのに気が付いた。
「あの、ヒロトさん」
「ん、どうしたんだ?」
「手を、出していただけますか?」
言われるがまま、彼女の前に手を差し出すと底へ彼女が自分の手を差し出して重ねる。
と、俺の掌に何か小さな物が落とされたのが分かった。
エストが手を引くと、そこにあったのは先程バルトさんから貰った“土”と“風”の四元素魔晶石だった。
「......良いのか? “土”はともかく、“風”の魔法は使えるんだし、持っておいた方が──」
「要らないものを押し付けたみたいでゴメンなさい。 でも、“テレポート”は光の他に風の魔力も使用するので、持っているだけでもきっと効果が上がるはずですよ」
「......そっか。 ありがとな、エスト」
彼女の言う通り、この二つは貰っておいた方が良さそうだ。
最近街の本屋で魔道書を幾つか買って読みふけっていたこともあって、風や土属性の魔法も幾分か習得している。
と言っても、まだ実戦で使ったことの無い物もあるので、それらの成功率や精度を上げておくためにもやれる事はやった方がいい。
俺はエストから受け取った二つの魔晶石を懐のポケットにしまうと
「さて、明日はいよいよ遠征だ。 早めに寝てしっかり体力を回復しておこう」
「はいっ! 明日からも頑張りましょう!」
──────────
その夜。
俺は風呂上がりにエストへお休みの挨拶をした後、部屋のバルコニーから外の景色を眺めていた。
少々肌寒い今夜の風は、風呂に入って眠気が増していた俺の頭をスッキリとさせてくれる。
(“白獣”......相当強いって話だったけど)
部屋を振り返ると、壁に二本の剣が立て掛けられている。
俺が初めて購入した鋼鉄製の
(......俺には、神様から貰った力がある。 まだ、完全にそれを使いこなせてる訳じゃないけど......)
バルコニーを閉め、ベットへと入ると眠る為に目を閉じる。
......そして、決意した。
(もし“白獣”と戦闘になったら、ベックやラッカル、エストだけは先に逃がそう。......何があっても、あの三人だけは──)
やがて眠気が俺の
ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想や、アドバイス等頂けるとありがたいです。